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EXILIM 10周年記念 特別対談(後編)新モデルEX-ZR1000に見る「EXILIMのいまと未来」

Reported by デジカメWatch編集部

 前編では、EXILIMの歴史を辿りながら、その時々の名機について語り合ったQV事業部長の中山仁氏(カシオ計算機株式会社 執行役員)と、写真家の山田久美夫氏(以下、敬称略)。

 後編での話題は、EXILIMの現在と未来について及んだ。


写真家の山田久美夫氏 QV事業部長の中山仁氏(カシオ計算機株式会社 執行役員)

“ウェアラブルカメラ”はスマートフォンになった?

司会:2007年頃にはEXILIMケータイがありましたよね。

中山:あれが出たときは、ほぼEX-S1のようなウェアラブルカメラの役割は終わるのかなと思いました。(デジタルカメラに近い)色んな機能が追加されるのを見て、これもデジタルイメージングの流れのひとつだなと感じてました。

山田:そうですよね。


写真のEXILIMケータイは2009年1月発売のもの。有効809万画素のCMOSセンサー、28mm相当の単焦点レンズ、EXILIMエンジン for Mobileなどを搭載していた

中田:それがいまやスマホになった。今後、デジタルカメラとスマホの関係はすごく重要なポイントだと思います。Wi-FiやAndroid OSがデジタルカメラにどう融合していくのか、非常に興味あるところではあります。

山田:4Gや3Gを搭載したデジタルカメラというのは可能性がありますが、ただデジタルカメラとスマホをくっつけただけではだめなんですね。

中山:そうそう、1+1が2ではなく、3や4にならないといけない。2になるどころか電池寿命など、うまくやらないとマイナス面もでるかもしれません。


ミラーレスはコンパクトデジカメ化する?

山田:カシオの弱みを挙げると、「見る」という部分がいま一息だったりします。撮る側はHIGH SPEEDだったりで頑張っているんだけど、それを見る・楽しむという面が弱い。

中山:はい。EX-Z3のころは液晶にこだわって大きくしたり、クレードルを用意してフォトビューワーとして楽しんでいただく提案はあったのですが、どこかの段階から撮る方にシフトしてしまったところはあります。アルバムやストレージを含め、周辺機器も用意しようとしてみたのですが、なかなか上手くいかなかったですね。

山田:QVのときは最初はそういう路線がちゃんと見えていました。周辺まで考えているんだなと。だんだん普通のカメラメーカーになっていきました。

中山:そうかもしれませんね。

司会:確かにEXILIMというブランドは定着してきましたが、HIGH SPEEDが一巡したこともあり、他との違いも薄れてきたような気もします。

山田:おそらくこれからのデジタルカメラは、実用品としての役割を終えるでしょう。でも実用品じゃなくても受け入れられている商品ジャンルってあるじゃないですか。例えばカシオならG-SHOCKとか。ブランドとしてちゃんと残っています。そういう文化がカシオには色濃くあります。EXILIMにそういう血が入ってくると、「カシオってひと味違うよね」という色が出せるのではないでしょうか。外から見るとそういう風に見えるんですよね。

中山:そうしたものが何かあれば、ブランドというものは活きるわけですね。

山田:コンパクトデジタルカメラって極端なこというと、いまやなくても構わない存在です。なくてもいいんだけど、それを買うことによってすごい満足感が得られるとか、持っていることで例えばステータスを表現できるような…クルマもそうじゃないですか。そういう世界に入らないと、価格競争に巻き込まれてしぼんでいくのではと思います。そんな中、いわゆる“高級コンパクト”というのは、ひとつの方向性なのではないでしょうか。

中山:ええ。一眼レフカメラがミラーレスになっていき、ミラーレスの価格が下がってくる。その一方でスマホに光学ズームレンズ付きモデルなどが出てくると、いまのコンパクトデジタルカメラの存在意義は薄れますね。そうすると高級コンパクトが有利とはいわれていますが…

中山:気になるのは、ミラーレスが第2のコンパクトデジタルカメラになるかもしれないことです。しばらくは業界挙げてミラーレスで盛り上げ、交換レンズでの利益を追求するのも悪くないでしょう。でも、ちょっとユーザー不在な面も感じられます。一般ユーザーからすると、必ずしもレンズ交換を求めているわけではない。広角から望遠までをカバーするレンズ一体型で、一眼レフカメラに近い画質・性能を持てばいいのではと思います。そのひとつの例が、いわゆる高級コンパクトなのではないでしょうか。ただ、高級コンパクトの高機能・高性能さをアピールすると、ミラーレス内の競争とごっちゃになって引っ張られてしまう。なので(高級コンパクトについては)蓄えてて出さない、そんな状況です。あえてEX-ZR1000のようなモデル、下からのステップアップしてきた機種にとどめておくという考えです。


デジタルならではの進化とは

山田:ミラーレスの良さって、ファインダーで見たままの物がちゃんと撮れる、これだと思うんですよ。色、露出、ボケも含めてそのまま撮れる。一眼レフカメラで不便だったものを解決してくれ、撮ってて楽しいもの。これが本来ミラーレスの良さではと思います。でも今のミラーレスが行っている方向はそうではない。一眼レフカメラの置き換えになっていますよね。これだとある程度一眼レフカメラのスキルを持ったユーザーしか楽しめないのではと思います。「背景がぼかせます」といっても、プログラムAEで撮るとそうはいかない。

山田:カメラって、ユーザーに頼り過ぎですよね。普通の人が見栄えのする写真を撮るには、まだユーザー側に勉強が必要でしょう。ユーザーがある程度技量を持っているという前提があるわけです。そこをもう一歩進めると変わるのではないでしょうか。例えばオートフレーミング。EX-TR100の超広角レンズ(21mm相当)で何かを撮ると、カメラが「これがいいのでは」と被写体をトリミングしてくれる。この程度ならもうできますよね。


EXILIM EX-TR100。カシオらしい個性的なモデルだったが、東日本大震災の影響で発売が延期されるなど不遇な運命をたどった。ただしその後、自分撮りがブームとなった中華圏で大ヒット。最新モデルのEX-ZR1000にもそのエッセンスは受け継がれている

中山:ええ。全部カメラが自動的にやってくれるのが理想ですね。構えたら自動的に超広角で撮影、高画素で記録し、しかも目の前で起きた全部を高速連写で抑えてくれる。そこから一番いいと思われるものをカメラが切り出す…それが理想ですね。構図を決めてズームしてシャッターを押すという行為があれば、そこに手ブレが起きたりいろんな弊害が起きる可能性があります。今までのカメラの撮り方の常識が変わっていない。

山田:でもそこで、ひとつだけお願いがあります(笑)。カメラがベストな1枚を選んでくれるのではなく、そのとき3枚ぐらい提示して欲しいんです。その中から自分が1枚を選ぶ方式。お仕着せのオートって、誰かが決めたものに従うだけですが、最後に自分が選ぶ余地があれば、自分が選択したという満足感が得られると思うのです。

中山:なるほど、何でもカメラがやってくれると、ありがたみがないわけですね。

山田:多分コンパクトデジタルカメラでこれから求められるのは、撮影ノウハウが入った製品でしょう。例えば女性を撮ると、まずはそれらしいフレーミングにしてくれて、次に連写で撮ったものから表情を選ぶ。肌色もブラケティングで選べる。あるいはAmazonじゃないけど「このシーンを撮った人はこんなフィルターを使っています」といった推奨があったり…

中山:「あなたは以前これを選びました」とか(笑)自分の好みやクセが反映されたり、使えば使うほどカスタマイズされていく…それがデジタルの良さですね。「勉強して覚えろ!」ではなく、自動的に覚えてくれる、これは重要なキーワードかもしれません。

山田:ええ。「買ってきたものを使う」ではなく、「自分のカメラになる」という感覚ですね。細かいところまで配慮してくれるというのは、日本人的だと思います。日本の製品はそこを意識していくのはどうでしょう。日本人でしか作れない製品になると思います。コンパクトデジタルカメラは台湾でも中国でも作れますが、日本人が作ると違うというところを目指して欲しいです。

中山:ちゃんとわかっている人が撮る写真は、どのカメラを使ったとしても、ほぼ同じレベルまで来てますよね。反対にカメラに詳しくない人でもシャッターを押すだけで、思った以上の写真が撮れる……その体験が続くと写真を撮るのが楽しくなる。これが本来のデジタル製品ですね。銀塩時代からのカメラマニアがメカ感を楽しむ世界とは違う世界かもしれませんが、そこを求めないと、銀塩がデジタルになっただけで終わる気がします。



山田:一眼レフカメラユーザーって、どこか失敗を楽しむところがあるじゃないですか。苦労したいというか、ちょっとマゾヒスティックな性格がありますよね。本来は何の気なしに1枚撮って、「上手く撮れたな、面白いな」と感じ、「ではもっと撮ってみよう」と進んでいくのが普通の人ですね。失敗して「今度は何とかしてやろう」とうれしがる人より多いはずです。

中山:EXILIMの「プレミアムオート」はまさそういう機能です。その場のシーンを判別して、連写合成でノイズを減らすなど、適した処理を行ないます。このモードにしておけば、思ったものが撮れます。さらにそこから感動を与えるような何か、そこがあればと思いますね。「そこまで考えてくれているんだ」とか、思いもよらない体験ですかね。機能をたくさんつめこんで、その中から「どれか使ってください」いうのではない、そういう「高性能カメラ」はあるような気がします。

山田:優秀な演奏者がたくさんいても、指揮者がよくないと良い音楽にならないのと同じで、デジタルカメラの開発でも指揮者は大切ですね。そこがわからないメーカーも結構ある(笑)

中山:カシオはデジタルカメラから始めたので、いままでカメラをもっていませんでした。何でも新しいチャレンジができたし、していかないと存在意義を問われます。常に新しい世代のデジタルカメラを作っていこうと考えています。それはもしかしたらコンパクトデジタルカメラという概念からは慣れていくかもしれませんが、そういう製品を出していかないとカシオではないなと思います。


高級コンパクトをあえて追わない「EX-ZR1000」

司会:EX-ZR1000は、最新モデルにしてEXILIMのフラッグシップという位置付けですね。さきほどお話がありましたが、高級コンパクトとは違う性格の製品なのでしょうか。

中山:大きなセンサーやF値の明るいレンズを搭載した、世の中一般的にいわれている高級コンパクトとは違いますね。10倍以上の光学ズームという基本のスペックを大事にしながら、写真を良く知っている人にも楽しめるし、知らない人でもきれいに撮れる。という意味で、EX-ZR300の上のランクに位置します。


EXILIM最新モデルのEX-ZR1000。自分撮りが可能なチルト液晶モニター、レンズ根元のファンクションリング、完全新規のUIなど、EXILIMの集大成ともいえる製品。実勢価格は5万円前後

山田:このカメラがEXILIMのひとつの分岐点になるかなと感じました。UIが全面的に変わっていて、カメラユーザーの視点に寄った操作性になっています。それを見て、いい意味で一回吹っ切れたのでは、と思ったのですよ。カメラユーザーはどういう発想で、どういう操作体系で写真を撮るのかという考えを、具現化できたのではないでしょうか。で、この次にどこに行くの? というのが楽しみだったりします。

中山:おっしゃる通り、レンズ鏡筒根元のファンクションリングをはじめ、一眼レフカメラユーザーが好む操作性を持たせました。

中山:もうひとつの特徴は自分撮りですね。液晶モニターが180度開いたり、EX-TR100にもあったモーションシャッターが使えます。手をかざすだけでシャッターが落ちるので、家族で記念撮影するときなどに便利です。こうしたファミリーで楽しもうという要素もありますし、自動でシーンを認識するプレミアムオートPROもあるので、安心してきれいな写真を撮れるという性格も持っています。カシオにとって新しいチャレンジをしている部分はいくつかありますが、EXILIMが求め続けてきた機能面での進化、そのひとつの方向性の一歩として見ていただけたらと思います。このEX-ZR1000をもとに、上位モデルにいくのか、エッセンスを取り出した下位モデルに行くのかは、まさにこれからの話になります。


180度前方に開くことで、自分撮りが容易 自分撮り用のスタンドも装備。縦位置で自立する

EXILIM伝統のUIを一新。ファンクションリングを中心にした実戦的な操作性となった 本体色はブラック、レッド、ホワイトの3色

山田:集大成的な雰囲気はありますよね。

中山:そうですね。「これぞZR」「最強のZR」を作りました。

山田:ただし、いま支持を得ている高級コンパクトって、上から降りてきた高級コンパクトなんですよ。でもEX-ZR1000は、「下から上がってきた高級コンパクト」ともいえます。そこを理解してもらえるか…というのが一番の懸念材料ですね。

中山:ええ、そこはポイントですね。さっき申した通り、今後ミラーレスのような製品が乱立して値崩れを起こすような事態になったとき、あえて(大きめのセンサーなど)高性能に振らない方が良いのかと思ったんですよね。もちろん本当の高性能コンパクト、例えばフルサイズのセンサーを搭載したモデルなどは、ミラーレスがどうなろうと買う人はいるでしょう。

山田:ミラーレスはこれから増える高級機がどう評価されるかですね。ミラーレスはエントリーから始まったので、ミラーレスのポテンシャルはまだ発揮できてないんですよ。今後、高性能機を使った人が「ミラーレスってこういう良さがあるんだ」と発見してくれれば、独立した世界が広がる可能性はあります。

山田:一眼レフって、本来は場面に合わせて最良の組み合わせで使うべきもので、レースカー的な性格なんですよ。その思想でエントリークラスまで作ってしまったのでおかしくなった。これからはそのエントリークラスの部分が、ミラーレスの高級機か何かがカバーしてくれる可能性はあります。

山田:ミラーレスのエントリークラスが欲しい人には、おそらくより便利でバランスのとれたコンパクトカメラがあるはずです。欧州はレンズ一体型の高倍率ズーム機のシェアが高いじゃないですか。あの方が正しいと思うんですよね。自分でも良く使っているのですが、軽いし小さいし超望遠でも撮れる。画質も一般的な用途では問題ない。被写界深度が深いからピント合わせも楽です。1/2.3型センサーを搭載した高倍率ズーム機の方が、実は多目的カメラといって良いのだと思います。EVFの役割も含めると、まだまだこのタイプのカメラは色んな可能性を持っているかなという気はしているんですよ。

山田:EX-ZR1000って、多分国によって評価が大きく変わりそうですね。説明すれば理解してもらえるカメラですが…国内市場だと、外観に「普通のコンパクトデジタルカメラとちょっと違うんだぜ」という部分があると良かったかもしれません(笑)


EXILIM 10周年を記念した限定EX-ZR1000も12月上旬に発売。本体色がツートンになっている他、本革ジャケットケースとネックストラップが付属する。店頭予想価格は通常モデルと同等と見られる

「1インチセンサーを搭載したEX-F1を」(山田)

山田:「INGの楽しさ」というのを最近考えます。今のカメラは、撮る前も楽しいし、撮ったあとの結果もいい。でもいま一番抜けているのは、撮っている最中の楽しさではないでしょうか。今ミラーレスを欲しがっている人が必要としているのはそこだと思うんですよ。例えば、AFが働いているということ自体も楽しく感じさせる。フレーミングすることも楽しい。そういうリアルタムの楽しさがないと、使うのが義務的になったり使わなくなったりする。INGの楽しさが、このカメラの中にどれくらいあるのか楽しみですね。

司会:その「INGの楽しさ」とは、以前からある「操作する楽しさ」とは違うものですか?

山田:銀塩からの「操作する楽しみ」に近いように見えますが、昔からの「失敗しないため」のマゾヒスティックな楽しさと違い、今のINGの楽しさは「作り上げていく楽しさ」だと思うのです。設定を変えると絵が変わるのがわかったり、自分が思い描いているものに近づく楽しみ。

司会:そういう意味では、アートショットの効果がリアルタイムで見れるようになってますね。

中山:そうですね。今までは撮ったあとに適用するものでしたが、EX-ZR1000では撮影時にスルーの状態で見れます。設定を変えれば効果が変わったのもわかりますし。アートショットはデジタルカメラの一つの良さだと思っていて、スマートフォンより高いクオリティのエフェクトを目指しています。しかもそれが動画として撮れるようにもなっています。もっとアピールした方が良いかもしれませんね(笑)

山田:効果を見ながら撮影できるって、絶対楽しいですよ。女性が化粧をしていく感覚に近いかもしれない(笑)。変化していくプロセスが自分でもわかるので、そのプロセスに時間を使ってもいいかなと。



司会:カシオお得意の「サクサク撮れる」というのも、INGの楽しさに入りますよね。

山田:そうですね。次々撮るというのは、自分の中で「こうしたい」と良いものに昇華していく行為なので、撮っている最中の楽しさにつながるでしょう。ただ、カシオのカメラは撮影後の自動再生がないので、あれが満足感のなさにつながる人もいます。

中山:そこは痛し痒しですね。あれがないので「サクサク撮れる」という部分はあります。メニューから自動再生をONにできますが、デフォルトではOFFですね。

山田:撮影画面の横にフィルムロールみたいなのが縦に並んでいて、撮影するとピント位置の拡大表示がそこにパッと写るといいかも(笑)全部再生するのではなく、目を開いているのか、つぶっているのかだけでも確認できると、満足できるのではと思います。

中山:ああ、確かにそうかもしれません。サクサク撮れる快感と撮れたかどうかわかる満足感が両立しますね。

山田:あとは1インチセンサーを搭載したEX-F1の再来を見てみたいですね。画質や高速性で1インチのバランスは良いと思います。そういう上位機種があると、レンズ交換式にあえて参入しないEXILIMの説得力が増すのではないでしょうか。

協力:カシオ計算機株式会社






デジカメWatch編集部

2012/11/19 14:20