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EXILIM 10周年記念 特別対談(前編)“ウェアラブルカメラ”誕生から“HIGH SPEED”まで


 いまやカシオのデジカメブランドとして、すっかり定着した感のある「EXILIM」(エクシリム)。そのEXILIMの第1号機といえば、2002年6月発売の「EXILIM EX-S1」だ。パンフォーカスのみという割り切った機能をステンレス製の薄いボディに搭載。「常時身につけるカメラ」という流れを作り、大ヒットしたのが思い出される。

2002年に発売された初代EXILIM、EX-S1。民生用デジタルカメラの元祖といわれるカシオQV-10の誕生から7年のことだった

 そのEXILIMの名は変遷を経て、最新モデルの「EXILIM EX-ZR1000」まで受け継がれている。最初のEXILIMから10年、EXILIMはどう進化し、これからどこへ行くのか。

 


EXILIM誕生から10年を記念した「EXILIM EX-ZR1000 BSA」。12月上旬に発売。店頭予想価格は5万円前後の見込み

 EXILIMの10周年を記念し、本誌ではデジカメ事業に初期から携わってきたQV事業部長の中山仁氏(カシオ計算機株式会社 執行役員)との対談企画を実施した。お相手はデジカメ業界の黎明期から批評に携わる、写真家の山田久美夫氏だ(以下、敬称略)。


写真家 山田久美夫氏 カシオ計算機株式会社 執行役員 QV事業部長 中山仁氏

対談は歴史的なカシオ製品が展示されているヒストリカルルーム(カシオ本社内)で行なわれた。写真はQVシリーズおよびEXILIMシリーズの代表機種たち。右上は、国立科学博物館が定めた2012年度「重要科学技術史資料」の登録証だ


 


とにかく斬新だったEX-S1のコンセプト

司会(本誌):EXILIM 10周年、おめでとうございます。第1弾のEX-S1ですが、発表時にはかなり尖ったモデルという印象でした。

山田:強烈なインパクトがありましたね。その頃の新製品といえば、機能を足していって、てんこもりになっていく状態でした。そこに一石を投じたのがEX-S1でした。

中山:2000年から2002年にかけては、銀塩からデジタルに本格的に移行する時期でした。デジタルカメラが、ほぼ銀塩コンパクトカメラのような性能と大きさになってきた頃です。このままでは単に銀塩がデジタルになっただけになるのでは? という危機感がありましたね。

中山:デジタルの良さを活かした形状とは何なのか、フィルムがいらないことによる薄型化、さらには「ウェアラブルカードカメラ」という新しいコンセプトはどうだろうか…そうしてできたのがEX-S1です。デジタルでしかできない新しい用途を訴求しようというところが狙いでした。「薄くてウェアラブル」といえば、今では携帯電話やスマホのカメラで当たり前になってますけど(笑)。


薄さとスタイリングが特徴的なEX-S1

山田:確かに、各社とも当時はフィルムを撮像素子に置き換えただけ、という方向になっていました。

中山:そのときカシオのQVだけは、色んな機能を詰め込んでいたんです。画素数もあまり追いかけていませんでした。例えばQV-770はレンズ回転式で、3秒ですが初の動画機能を搭載しています。そういうチャレンジをしていたことが、市場の流れを客観視できた理由だと思います。「1回その路線から離れて考えてみよう」としてできたのが、EX-S1でした。

山田:スマートフォンとデジタルカメラの関係も、今そういう状態になりつつあるのかもしれません。1回原点に戻った方がいいのかと。QV-10がデジタルカメラの一つの原点だとすると、EX-S1はデジタルの良さを研ぎすましたもうひとつのデジタルカメラの原点だと思います。

中山:そうですね。当時当たり前だったズームレンズではないところもそうですし、常に身に付けてさっと出して撮るという、当時のデジタルカメラや銀塩カメラではできなかったことをやりました。レスポンスへのこだわりもそうでしたね。

中山:そういえば、SDカードへの切替もこの機種からでした。それまではCFです。当社も含め、メディア規格の行く末にはまだ迷いがあった頃でした。でもEX-S1の薄さを実現するため、いちはやくSDを採用しました。今思えばこの判断は正しかったと思います。

山田:EX-S1の良さはもうひとつあって、それはスタイリッシュなデザインや質感の高さだと思います。機械を愛でる喜び、所有しているうれしさを表現したくなるモデルでした。

中山:なるほど。確かに持ったときの質感を含めて、そういった面には強くこだわりましたね。ステンレスの外装がそのひとつですね。


EX-Z3が今のデジカメを形作った

山田:それまでのQVシリーズとの関係でいえば、EX-S1があったから、そのあと割りと吹っ切れて、EXILIMがシリーズ化できたのかという印象はあります。

中山:そうですね。過去のQVの歴史は捨て去って、これが第2のスタートとなりました。その中でも特にEX-Z3(2003年3月発売)の存在が大きいです。薄型ボディ、ズームレンズ、大型液晶というという要素が盛り込まれ、いまのデジタルカメラの原型といえるモデルです。国内では5カ月連続販売1位でした。ここでEXILIMというブランドが浸透したと思います。


2型とはいえ、当時としては思い切った大型液晶モニターが話題になったEX-Z3。同じレンズを搭載したライバル機は1.6型だった

司会:実はカシオって、色々と新しいことをやってますよね。

山田:時折、「この機能はどこから始まったのか」と、デジタルカメラの機能のルーツを探すことがあります。すると、ほとんどカシオにいきつく(笑)。

中山:そうかもしれませんね。動画もそうですし、大型液晶もそうです。(EX-Z3を手にとって)このスタイルって、今見てもそんなに古さを感じませんね。



山田:ええ、いまのコンパクトデジタルカメラの原点はEX-Z3といって、過言ではないでしょう。このカメラが出てなければいまどうなっているのだろうと、逆に興味を覚えます。QV-10(1995年3月発売)もそうでしたし、常にエポックメイキングな挑戦をしてきたのがカシオの魅力ですね。

 

中山:常に時代に先駆けることは意識してました。そのときに理解してもらえないことはありましたが…

山田:中山さんのカメラって、出た瞬間はわかりにくいんですよ。発表会で「これからこういう風になる」という話がでても、ほとんどの人は「本当かな」と思う。先端を走る人はほとんど嘘つきと紙一重(笑)。でも確かにそのあとそういう風になっている。それは時代が立証していますね。

中山:タイミングも重要ですね。ターニングポイントがあってちょっと踊り場に来ている。そのときに新しいコンセプトを打ち出すのが大切ですね。

山田:停滞しているときに突破口を作ってくれる、それがカシオの役目かもしれません(笑)。そのときそのときで「こうだったらな」と感じることをやってくれる。

中山:液晶も多くは1.8型だったんですね。それが小型化のため、各社1.6型が主流になってきた。EX-Z3で思い切って2型にしたのは、市場としてインパクトが強かったようです。

中山:電池寿命のスペックも当時はないがしろにされがちでした。表記も「VGAなら100枚撮れます」とかマチマチ。それを統一しようと、CIPAの電池寿命の計測規格ができたのはこの頃です。それとあわせるように、EX-Z40(2004年3月発売)を出しています。CIPA準拠の電池寿命測定法で約360枚でした。


EX-Z40。EXILIM=長電池寿命のイメージは、この機種から本格化した

初の1,000万画素機「EX-Z1000」のインパクト

中山:最初に1,000万画素を実現したのもEXILIMです。EX-Z1000(2006年5月発売)がそうです。

山田:これは賛否両論ありましたよね。そこまで画素数はいらないのではという意見も多かったです。ただ、このタイミングで1,000万画素というのは、「ここで買い替えてもいいかな」と思わせる時期でもありました。


民生用初の1,000万画素記録を実現したEX-Z1000。質感の高いボディも話題となった

中山:「絶対に世界初の1,000万画素にしよう」と頑張ってたのを思い出します。かつて我々は、業界と逆行して画素数競争をナンセンスなものとして幾分否定していました。市場が画素数の増加を否定する雰囲気になってきたとき、ドンと1,000万画素を出したという(笑)。マーケットが伸びているときは、色んな挑戦ができました。

山田:伸びてるときって、実はメーカーは守りに入ってしまう。それなのにカシオは攻めに入る(笑)。この頃、カメラメーカーはデジタル一眼レフカメラに軸足を移し始めたころでしたね。

中山:そう、EX-Z1000のキャッチフレーズが、「1,000万画素あれば一眼レフ並」という意味合いでした。画素数だけ比較すると一眼レフより多かった(笑)


EX-F1はミラーレスへの進化の一面か

山田:次はEX-F1(2008年3月)ですね。HIGH SPEED EXILIMの第1弾。最初にこれがでたときは「カシオどうしちゃったの?」という感想でした。中身はいわれてみるとカシオらしいのですが、見た目がすごい。


まだ珍しかった高速CMOSセンサーを上手く活用したEX-F1。60コマ/秒の連写もすごかったが、ハイスピードムービーを一般レベルの機器で実現した意義は大きい

中山:そうですね。実はこの間にEX-P505などEXILIM PRO系の製品がいくつかあり、「薄くする」以外の挑戦もしていました。そのため「EXILIM=薄い」と決めつける必要はないという雰囲気にはなってましたね。ただ、ハイスピードだけは絶対将来、カメラの基本になるものだと考えてまして、いち早くやりたい想いはありました。

中山:その第1弾をどういうかたちにするのがいいのか色々議論した結果、ハイアマチュアやプロのスポーツカメラマンが使っても納得いくかたちが良いかなと考え、あえてコンパクト系のスタイリングではないものを採用したんです。

山田:これは名機ですよね。

中山:いまだに業務用途で使われている方はいます。


山田:これの順当な後継機がでないのが残念です。ミラーレスの理想型といってもいい。ミラーレスは今変な方向に行ってて、例えばレンズ交換する人が少ないのにレンズ交換式になっているとか、ミラーがないのに高速性能を活かしきれてない。そういうのことを考えると、ミラーレスの行き着く先のひとつは、実はここなのかなと思います。

中山:私もミラーレスには懐疑的ですが、その原点として求めるべきものがEX-F1なのかもしれません。まずレンズ交換する必要って、そもそもどれくらいあるのでしょう。もちろん、一眼レフは別ですよ。プロカメラマンには特殊な撮影領域も出てきます。でも一般の人がレンズ交換をする必然性はあるの? という疑問はあります。それとハイスピードを活かすとなると、確かにミラーレスが一番適しているはずですね。

山田:一眼レフで撮れないものが撮れるという点では、EX-F1はすごく独特な世界を持っていると思います。今でも存在意義はあるのかなという気はします。

司会:本当に後継機はないんですか?

中山:今現在はありません。その当時、EX-F1が搭載していた1/1.7型の高速CMOSが終息し、1/2.3型に移行してしまいましたから。業務用途からは「交換レンズ型にして欲しい」という要望があったのですが、それも我々の方向性と違う気がしたのです。

中山:それもあり、一般の人がHIGH SPEEDを気軽に使える方向に落としていく方針をとりました。それがEX-FH20(2008年9月発売)だったり、EX-FC100(2009年2月発売)以降の小型ボディ路線ですね。CARDからZOOMまで、全部一気にHIGH SPEEDのラインナップを作っていたんです。それが早すぎたのか中途半端だったのか色んな反省がありますけど、このときの戦略としては「一気に下までHIGH SPEEDを」というものでした。

中山:コンパクトの価格が下がってきたこともあり、こちらとしては、超高速連写と超スローモーション動画の良さが響く人には響くと考えていました。ただ、一般ユーザーではその用途がなかなか自分の身近にはなくて、連写やハイスピードムービの付加価値で高く売るというのは、当時としては早すぎたという反省があります。その反省を活かし、今では「ハイスピード技術を使って簡単にきれいな写真が撮れる」という方向を前面に押し出しています。加えて「サクサク撮れる」という、ストレスフリーの部分を訴えています。

山田:「製品」という面で見れば機能やスペックでもいいのですが、「商品」になるとわかりやすさが重要になりますね。そのわかりやすさを伝えきれなかった部分はあったように思います。色んなメーカーがそうなのですが、初物はだいたいそういう運命(笑)。そういう面では不幸なカメラだったのかも知れません。


中山:確かにアピールのポイントを間違った面はありますね。連写した中から良い写真を選ぶ機能など、「良い写真が簡単に撮れる」というキャラクターについても説明できたはずですが、それよりも「高速連写」「秒30コマ」など、一般の人からすると「そんな使い方はいらない」という面を強調し過ぎていたきらいがあったかもしれません。

司会:わかりやすい数字を前面に出すだけというのは、我々メディアにも責任がありますね。当時はそういう時代だったとはいえ。数字のわかりやすさに頼ってしまった部分はあります。

中山:そうですね。みんなが良い写真をとるための機能のはずだったのですが、そのためになぜ秒30コマが必要なのかという点が、一般の人にはわかりにくかったのかもしれません。

山田:その時代時代で求められるものとずれてしまうと、カメラとしてはいいんだけど、不幸な末路になってしまう例は他社にもありました。でもこのカメラは、ギリギリセーフだったのではと思います。というのも、デジタル一眼レフカメラが出始めた頃の製品で、「デジタル一眼レフの不便さ」がわかり始めた頃に登場したから。デジタル一眼レフにできないことができるという点が、良く表現できたカメラだと思います。


ラインナップの充実とEXILIMブランドの定着

中山:そのあとの小型化したHIGH SPEED系ラインナップですが、基本性能が二の次になってしまったという反省はあります。画像処理エンジンがまだ本格的なものではなかったのも理由ですね。

山田:EX-F1の良さを知っている人なら、EX-FC100のすごさはわかったと思う。でもそのバックボーンをわからない人は、いまでもたくさんいると思います。


EX-F1の高速性能を薄型コンパクト機に落とし込んだEX-FC100

中山:確かにズーム倍率や感度など、HIGH SPEED以外の基本スペックが比較される状態になってしまいました。それは半分覚悟していて、こういったかたちにした瞬間、一般的なコンパクトの中に埋もれてしまう。価格も引っ張られる。そこは非常に難しいところですね。

山田:全体の流れとしては、この10年一つ一つを見ると、きっちりやってきたなという印象はあります。ただ受け入れられたモデルとそうでないモデルの差がありますね。あとはHIGH SPEEDと普通のEXILIMを分けたところが、逆にわかりにくくなったような気がします。

司会:Vシリーズなど、試行錯誤されてた時期がありますよね。


EX-V7。EXILIMでは珍しい屈曲光学系のレンズを採用。この頃からEXILIMエンジンがアピールされ始めた

中山:そうですね。ジャンルを広げるという意味では色々考えました。防水のEX-G1(2010年1月発売)もやりましたし……「EXILIM=カシオのデジカメの総合ブランド」と位置づけたので、ひとことでEXILIMって何? といわれると、「カシオのデジカメ」となってしまったんですね。その中でメインはやはりHIGH SPEED。特徴のないコンパクトはどんどん安くなり、だんだんなくなっていく運命にあるわけですから、高機能・高価格のものをすべてHIGH SPEEDで網羅していくというのが、これから残っていく姿ではないかと思います。


G-SHOCKのイメージを取り入れたEX-G1。今のところEXILIMで唯一の防水・対衝撃モデルだ

山田:EX-H20G(2010年11月発売)というGPSで非常にいいモデルを出されてますよね。あれは今後どうするんですか?


GPSとモーションセンサーを組み合わせたハイブリッドGPS機能を搭載。当時の他社のGPS機能搭載デジカメでは得られない、良好な使い勝手が評価されたが…

中山:どうしましょうかね(笑)

山田:花火上げるのは上手いんだけど、その次が続かない(笑)

中山:そうなんですよ…

山田:第1弾はわかりにくい面もあるので本命ではない。第2弾、第3弾と続くと本物ですね。そうすると特徴も普通の人にわかってくる。わかりやすいかたちで進化させることができれば、いい意味でブランドになり得たモデルがいくつかあったのにと思いますね。

中山:それぞれが決して失敗作ではなく、早すぎたり、まだ浸透し得なかったりという実感はあります。それを進化させていけば、悪いジャンル展開ではなかった気もするんですけど…いくつも手を打てる程の余裕がなく(笑)、一番いいと思ったHIGH SPEEDに突き進んでいったのが現状ですね。

山田:あとWi-Fi系が気になります。

中山:これも色々考えていますので(笑)

後編に続く)

協力:カシオ計算機株式会社






デジカメWatch編集部

2012/11/12 00:00