聞いてみました☆女性フォトグラファーのキモチ by 若子jet

山本まりこさんインタビュー「旅をしながら作品を撮る、その想いが叶い始めています」

女子カメ Watchで連載していた「聞いてみました☆女性フォトグラファーのキモチ」。アミタマリさん藤井春日さんに続き、最終回は山本まりこさんに話しをうかがいました。人気の「エアリーフォト」の秘密を聞いちゃいましょう!(編集部)

山本まりこさん
理工学部建築学科卒。設計事務所勤務を経て、2000年フリーランスフォトグラファーに。旅の風景や建築インテリア、人物写真を得意とする。また、エッセイの執筆や写真講師なども行い、雑誌、TV、広告など幅広い分野で活躍中。『エアリーフォトの撮り方レシピ』(玄光社)など著書多数。http://marikoyamamoto.com

こんにちは。

写真家の若子jetです。このコーナーでは、「今会いたい」キャッチーな、注目の女性写真家に視点を向け、密着取材をしていきます。

今回は、“エアリー”と呼ばれる、ふんわりとやさしい世界感が人気の写真家、山本まりこさんの登場です。

まりこさんは、数々の写真イベントなどでお会いするうちに、仲よくなった写真家のうちの1人です。

彼女は、一般の方になじみやすい形で写真の楽しみ方を伝えるのがとても上手。

彼女の作品はもちろんのこと、いろいろな企画などのプロデュース能力の高さを含め、表現者として秀でた存在だと一目置いています。

メディア露出の多いまりこさんですが、今回はほかのメディアでは見ることのできない素顔に迫りました。

インタビュー=若子jet 撮影=若子jet(一部を除く) 編集・構成=吉田真緒

会社を辞めて旅に出て、路上で作品を売っていた

若子jet:どのようにキャリアを積んできたのでしょうか?

まりこ:私、写真家になる前は建築会社で働いていて、朝から晩まで図面を書いていました。でも、大好きな旅をしながら写真を撮って生きていきたいと思って、あるとき会社を辞めて、カメラを持って旅に出ました。

旅から戻ってくると、旅先で撮った作品を路上などで売っていました。今振り返ると、笑ってしまうくらい下手な写真。それだけでは全然稼げなかったので、学生時代の先輩の設計会社でアルバイトをしながら生活していました。

そのほかに、かつて勤めていた会社から、よく物件撮影を頼まれていました。そこから仕事がどんどん広がっていって、いつしか商業カメラマンとして忙しく働くようになりました。

朝早くから夜遅くまで撮影をして、その日のうちに撮影したデータのレタッチを終わらせて、次の日にはまた新しい撮影に向かうという生活を7〜8年していましたね。ハードな日々で、よく倒れなかったな、と思います。

旅の写真以外にも建築、料理、人物など、さまざまな被写体の撮影をこなす。

若子jet:ひとくちに写真家と言っても、人によってステップアップの道が違いますね。

まりこ:私は体感型でしたね。誰かに教わるのではなく、実践で覚えていく方が性格に合っていました。

2010年に初めての著書を出したくらいから、写真を作品として評価してもらえるようになって、ここ5年くらいは、私の感性で撮ってほしいというお仕事が増えました。コラムの執筆や、撮影レッスンなどもするようになりました。

若子jet:いくつもの種類の仕事をかけもちしていて、とてもやりがいのある毎日を過ごしていますね。

まりこ:毎日違う仕事をすることが楽しいんですよ。ずっと同じだと飽きちゃう。

人を好きになることが原動力

若子jet:最近はどんなお仕事をされているんですか?

まりこ:地方を盛り上げる活動に力を入れています。きっかけは、私がプライベートで三重県の熊野古道を歩き始めたことでした。その様子をTwitterやFacebookで発信していたら、フォロワーのみんなが応援してくれて、通過する町の人に私のことを知らせてくれたんです。

そしたら、町の人たちが役場をあげて歓迎してくれて。いろんな名所を案内してくれるので、私もそれをSNSで発信していたら、さらに反響が大きくなっていって・・・「一緒に地域を盛り上げよう」と、トークショーや旅フォトツアーを開催するなど、面白い展開になっています。中日新聞の一面にも載りました。

©山本まりこ
まりこさんが2014年11月から歩き始めた熊野古道伊勢路は、伊勢神宮から熊野速玉大社までの約170キロの道のり。仕事の合間に訪れ3、4日歩いて東京に戻ることを繰り返し、2016年3月に歩き終える予定。道中撮りためた写真は、旅が終わったら発表するという。
©山本まりこ
熊野古道伊勢路に沿うように走っているJR紀勢本線伊勢柏崎駅の歩道橋から。走っているのは電車ではなくディーゼル列車。
©山本まりこ
伊勢神宮内宮に流れる五十鈴川にて。熊野古道伊勢路を歩き始める直前、決意と共に撮影した1枚。
©山本まりこ
伊勢路で最も美しいと言われている熊野古道馬越峠。雨にぬれ、霧に包まれる古道も美しい。

もうひとつ、最近は埼玉県の春日部市から、写真レッスンのツアーをしてほしいと依頼されました。私の写真展のトークショーに来てくれた役所の方が、便せん3枚くらいのお手紙をくれたんです。すごく心のこもった温かい手紙だったので、がんばって応えたいと思いました。

春日部市でのツアーのロケハンにて。まりこさんに手紙を書いた職員曰く「春日部市の住人に、自分たちが住んでいるまちを好きになってほしくて、まりこさんにお願いしました」とのこと。住人にとっては見慣れたまちの風景も、まりこさんと撮影することで、新たな魅力が発見される。
ご当地名物「春日部やきそば」のゆるキャラ「とろ★りん」と、「春日部やきそば」をいただくまりこさん。写真を撮った後はすかさずSNSで発信。すると、「かわいい!」「おもしろい」などのコメントが。リアルタイムでフォロワーとコミュニケーションをとりながら撮影をするスタイルも、まりこさんならでは。
※撮影ツアー詳細

若子jet:休日は何をしているんですか?

まりこ:休みの日も、だいたい写真を撮りに出かけています。あとは、映画を観たり、料理をしたり、時間があれば旅に出たりかなぁ。

若子jet:野菜ソムリエの資格も取得されていると聞きましたが。

まりこ:なんで資格を取ったのかというと、実はこれも地域でがんばっている人を応援したかったから。地域にはそれぞれ特産品がありますよね。それと写真をつなげて何かできないかと思ったんです。

先日、熊野古道を歩いている最中に出会った奥伊勢の方が、大量のみかんをもてあましていると話していたので、「それなら、みかんカレーを作ったらいかがですか」と提案しました。私、カレーが大好きなんです。試しにオリジナルレシピを考えて、次回お会いするときに伝えてみようと思っています。

レシピのアイデアを形にするために、自身のアトリエで試作を繰り返す。
みかんの輪切りと絞り汁をたっぷり入れた、まりこさんの力作「みかんカレー」。ほどよい酸味と甘みが食欲をそそる逸品です。

若子jet:まりこさんはすべてがポジティブシンキング。それが写真にも出ているから、見ている人が幸せになれる。さらに地域の活性化にもつながっている。

まりこ:私がその土地を好きになるのは、人と話したり、触れあったとき。どんなにきれいな景色を見ても、おいしいご飯を食べても、それよりも深く好きになるのが“人”なんです。その人を応援したいという気持ちが、原動力になっています。

いつも笑顔ではつらつとしているまりこさんの周りには、自然と人が集まる。

ここ3年くらいは、自分のペースで作品を撮りながら仕事をさせてもらっているので、すごくいい状態。ずっと心にあった、「旅をしながら作品を撮って生きていきたい」という願いが、今やっと叶い始めているところです。

撮影&取材を終えて……(若子jet)

一般の方にもなじみやすく、人気者の山本まりこさんは、とってもフレンドリーなお人柄です。

取材を終え、写真のお仕事とは、いくつもの種類があるのだと改めて感じた。

みんなで作り上げていく活動はとてもやりがいのあるものだと思います。

また、撮影も大事だが、撮った写真をその後どのように伝えていったらいいのかも大事。そもそも、なぜ写真を撮っているのか……。

そんなことまで掘り下げて考えさせられる、印象的な取材だった気がする。

今後も、山本まりこさんに注目したい。

さて3回にわたって短期連載を担当しましたが、いかがでしたでしょうか。この連載は、今回で終了となります。

私も皆様を見習って、制作にしっかり生かしていきたいと思います。また別の機会にみなさまとお会いできるのを楽しみにしています。

どうもありがとうございました!

若子jet

人物撮影を中心に、コマーシャル撮影などをする一方、写真家としても展覧会での作品発表多数。やさしく、かわいく、綺麗な世界観を得意とする。
http://wakakojet.com
Twitter:@wakakojet