特別企画
マイクロフォーサーズの大口径中望遠レンズを一気撮り
(後編)実写&インプレッション
Reported by 北村智史(2015/9/2 07:00)
前回に引きつづき、マイクロフォーサーズ用単焦点中望遠レンズの実写レポートをお送りする。使用したのはオリンパスOM-D E-M5 Mark IIで、「高感度ノイズ低減」は「OFF」にしている(初期設定は「標準」)。
パナソニックLEICA DG NOCTICRON 42.5mm/F1.2 ASPH./POWER O.I.S.
AFが使えるマイクロフォーサーズ用レンズでもっとも明るいのがこのレンズ。MF専用のNOKTONシリーズと違って、フォーカス、絞り、手ブレ補正機構を駆動するアクチュエーターを内蔵しているからだろう、鏡胴はNOKTON 42.5mm F0.95よりも若干太め。おかげで、ECG-2付きのE-M5 Mark IIでは、ホールド時に少々指が窮屈なのは要注意点だ。
パナソニックGHシリーズやオリンパスE-M1のようなグリップがしっかりしたカメラならホールド性もバランスもそれほど悪くないだろうが、グリップの突出が少ないカメラの場合は重量バランスが気になりやすい。特にパナソニックLUMIX DMC-GM1Sのようなコンパクトなカメラの場合、三脚の雲台面に鏡胴がぶつかって取り付けられないケースもあるはずなので、こちらも注意して欲しい(この点は、NOKTON 42.5mm F0.95も同じだ)。
NOKTON 42.5mm F0.95と違って、絞り開放でもそこそこの解像感がある。絞った状態と撮り比べればアマさは目につくが、絞り開放の画像だけ見ている分にはあまり気にならないと思う。周辺光量の低下も大きくはない。クセのないあつかいやすい特性だ。
手ブレ補正の効果は室内でテストしたが、1/20秒以上ならほぼ100%の確率でブレを抑えられる。1/10秒になると一気に5割強まで落ちるが、まあ悪い数字ではないと思う(いずれも、1/80秒から1/10秒まで各50コマずつ撮った画像をピクセル等倍で見て、ブレていないと判定できるコマの率)。
絞りによって描写が大幅に変わるNOKTON 42.5mm F0.95に比べれば、格段にあつかいやすいのが今どきのレンズらしさといえる。マイクロフォーサーズとはいえ、絞り開放付近の被写界深度は非常に浅いため、ピント合わせにだけは気を使わなくてはならないが、大口径レンズならではのボケ描写を味わえるのが見どころだ。
作品集
民家の軒下の朽ちかけた椅子。前ボケが少しエッジの硬いボケ方をするのがところどころに出ている。まあ、それほど目立ってはいないので、あまり気にしなくていいとは思う。
撮影距離がそれなりに長い場合、コンパクトタイプの標準ズームだと背景がはっきりしすぎてごちゃごちゃした画面になりやすいのを、絞りを開けてぼかせてしまう。このへんも明るい単焦点レンズの強みだ。
あまり絞ってはいないが、そこはやはり今どきの中望遠レンズらしく、ピントが合った部分はきっちりとシャープ。ハンドルの右側のエッジに赤っぽくなってるのはフリンジじゃなくて映り込みだと思う。
手ブレ補正オフ時のブレない率(ピクセル等倍で見てブレていないと判定できる率)は、1/80秒で3割弱、1/40秒だと2割弱なのが、オンにすると1/20秒でも9割以上。効き目はなかなかいい。
絞り開放なので少しはアマくなっているはずだが、1枚だけ見ている分には悪くないシャープさだと思う。周辺光量落ちもそれほど目立たない。こういうクセのなさは今どきのレンズのいいところだ。
マイクロフォーサーズはベース感度がISO200のカメラが多いので、昼間だと1/8,000秒でも絞りを開けきれない。F1.2の描写をめいっぱい楽しみたいなら、電子シャッターは欠かせない。
パナソニックLUMIX G 42.5mm/F1.7 ASPH./POWER O.I.S.
オリンパスM.ZUIKO DIGITAL 45mm F1.8ほどではないが、軽量コンパクトで価格も手ごろ。手ブレ補正機構を内蔵しているのはパナソニック機(GXシリーズ以外)のユーザーには見逃せない。しかも、0.31mまで寄れるので、絞りを開けられる簡易マクロとしての価値もある。
E-M5 Mark IIには小さすぎるぐらいに感じられるが、DMC-GM1Sのような小型モデルにはジャストサイズだし、パナソニックのGFシリーズやオリンパスPEN/PEN Liteシリーズにもマッチするだろう。NOKTON 42.5mm F0.95やDG NOCTICRON 42.5mm F1.2より1段ないしそれ以上暗いわけだが、F1.7よりも明るいF値が欲しいシーンがこれからの自分の人生の中でどれだけあるだろうか、と胸に手を当ててよぉく考えれば、まあF1.7で十分だよね、と納得する人も多いのではないだろうか。
開放F値を欲張っていない分、絞り開放からキレのよい描写が楽しめる。F2.8あたりまで絞ったほうが、シャープさはさらに増すが、絞り開放との差はあまりない。絞りを変えても描写が変わらず、ただシンプルに被写界深度を変えられる。そういう使いよさを好む人にはずっと受け入れやすいだろう。
DG NOCTICRON 42.5mm F1.2と同様、レンズに手ブレ補正機構を内蔵しており、オリンパスのボディでは、どちら側の手ブレ補正機構を利用するかを選択できる(今回は、レンズ側を使って撮影した)。テスト結果もDG NOCTICRON 42.5mm F1.2とほぼ同じで、1/20秒以上では90~100%の高確率だが、1/10秒になると5割強というスコアになる。どうしてこういうふうになるのかは分からないが、効果としては良好だと思う。
写りのおもしろさよりも、クセのなさ、あつかいやすさを重視する人にはおすすめできるレンズだし、0.31mまで寄れる使い勝手のよさは見逃せない。
2015年9月4日追記:同レンズの手ブレ補正について「テスト結果もNOKTON 42.5mm F0.95とほぼ同じで、」と記載していましたが、「DG NOCTICRON 42.5mm F1.2とほぼ同じで、」の誤りだったため、該当部分を修正しました。
作品集
NOKTONやDG NOCTICRONと違って口径を抑えている分、絞り開放でもしっかりシャープ。まさに、今どきの単焦点レンズという感じだが、後ボケがほんの少しだけど硬い印象なのが気になる点だ。
個人的には、F2.8前後の絞りのシャープさとボケのバランスが好みなので、F1.2という数字にはロマンを感じつつも、これなら300g近く軽くなるんだよなぁ、と思ってしまうのだ。
最短撮影距離の0.31mでの撮影。NOKTONほどではないが、そこそこに寄りは利く。遠景に比べると少しアマめの描写になるが、マクロレンズのようにキレすぎないクローズアップを楽しみたい向きにはちょうどいい。
商店街のイベントの飾り付けを通りすがりにぱちり。スナップ系の撮影が多いなら、軽快でハンドリングのいいLUMIX G 42.5mm F1.7はかなりいいチョイスだと思う。
寄っている分、少し絞り気味にした。周辺部まできっちりシャープなのが気持ちいい。コントラストもよく、表面のざらっとした感じや凹凸の表現も悪くない。
ガラス越しなので解像は少し落ちているはずだし、露出もオーバー気味にしているから分かりづらいが、ピントが合った部分は気持ちよくキレる。
オリンパスM.ZUIKO DIGITAL 45mm F1.8
4本中もっとも小型軽量で、かつもっとも価格も安い。マウント部がもっとも太く、鏡胴は細いデザインで、E-M5 Mark IIにはボリューム的に物足りなく感じられる一方、マウント部が出っ張ったデザインのDMC-GM1Sとのマッチングももうひとつな印象だ。個人的には、PEN/PEN Liteシリーズのほうが相性はいいと思う。
レンズ性能を低下させる有害光をカットするのに欠かせないフードが別売(しかも、税別4,000円もする)なのが好きではない点だが、それを買い足してもお手ごろ価格なのは素晴らしい。ただし、LUMIX G 42.5mm F1.7の実売価格が税込3万6,000円弱まで下がってきているので、ちょっと微妙な気分になりつつある。
レンズの性格はLUMIX G 42.5mm F1.7に似ていて、絞り開放でも十分なシャープさが得られる。その分、絞りで描写を変える楽しさはないが、開けても絞っても画質がばらつかないところがいい点だ。もうちょっと寄れないのが若干物足りないが(といっても、LUMIX G 42.5mm F1.7が登場するまでは最短撮影距離0.5mでも不満はなかったのだ)、絞り開放でも周辺光量がほとんど落ちないのと、ボケのきれいさはセールスポイントとしてあげられる。
手ブレ補正は内蔵していないので、GXシリーズ以外のパナソニック機のユーザーには手を出しづらいかもしれない。E-M5 Mark IIのボディ内手ブレ補正との組み合わせでは、1/10秒でも80%ほどの成功率を記録した。NOKTON 42.5mm F0.95よりも成績がいいのは、こちらのほうが軽くてホールドが楽だからではないかと思う。
LUMIX G 42.5mm F1.7と同じく、クセがなくて使い勝手がいいレンズで、軽快さと写りのよさの両方が欲しい人にはぴったりのチョイス。大きなコストをかけずに高画質が楽しめるのがマイクロフォーサーズの持ち味のひとつだと考えれば、実にマイクロフォーサーズらしいレンズといいたい1本だ。
作品集
閉店したカフェの看板。よく見ると、「BAGLE」と書き損じたのを塗りつぶして書き直してあった。かりかりのシャープというのではなく、ほどよくディテールが出ている感じが好ましい。
最短撮影距離で絞り開放。ピクセル等倍だと、ピント位置の手前側のボケ方がちょっとうるさく見えるが、汚いボケにはなっていない。オーバー気味の露出だからというのもあるが、周辺光量落ちは目立たない。
絞りF4からF8あたりまでの範囲は四隅までぴっちりシャープなので、風景などにもいい。シャープさ、ボケのきれいさから考えれば、信じられないぐらいにお買い得なレンズだと思う。
LUMIX G 42.5mm F1.7と同じく、F2.8付近が使いやすい絞り値。ピントが合っている部分のシャープさと、単焦点レンズならではのボケの大きさの両方が楽しめる。
前ボケからピント位置を経て後ボケへと変わっていくボケの自然さがこのレンズの持ち味。キャッチコピーは「ママのためのファミリーポートレートレンズ」だが、軽く見てはいけない実力派なのだ。
最短撮影距離が0.5m止まりなのが、LUMIX G 42.5mm F1.7に比べるとちょっと物足りないところだが、ボケの素直さではこちらのほうが若干いいように思う。寄れるほうが楽しいですけどね。
フォクトレンダーNOKTON 42.5mm F0.95
4本中唯一のMFレンズで、電子接点を持たないため、Exif情報に絞り値やレンズ名などの情報は記録されない。ボディ側の手ブレ補正の焦点距離設定は「40mm」に設定して試用した。
サイズとしてはパナソニックのライカDG NOCTICRON 42.5mm F1.2より小さいが、重さは571gと4本中もっとも重い。E-M5 Mark IIには金属製外付けグリップECG-2を装着している関係で、ホールドは問題ないが、ミラーレスらしからぬ重さになってしまうのはちょっとおもしろくない。まして、軽快さが売りのGMシリーズとの組み合わせは、見た目からして推奨はできない。
撮影はやっぱり面倒が多い。まず、こちらがAFの便利さに慣れきってしまっているせいもあるが、ありとあらゆるシチュエーションで手動でピント合わせをしないといけないという手間は、けして小さくはない。絞り値をいちいちメモっておかないといけないのもストレスである。これだけAFが便利に、かつ高精度になっているにもかかわらず、あえてこんなに面倒くさいレンズを選ぶなどは、マニアかマゾかのどちらかだと考えていい。
ただ、写りは楽しい。絞り開放でのふわふわ感は、普通のレンズでは見られないし、少し絞ったときの今どきのレンズと変わりないキレのよさも見ごたえがあるし、その中間の、ほどほどのアマさを加減しながらポートレートとかを撮るのも楽しいに違いない。
レンズ側には手ブレ補正機構はないが、オリンパスのカメラやパナソニックGXシリーズならボディ側に手ブレ補正機構があるので不便はない。ちなみに、E-M5 Mark IIとの相性はいいようで、1/10秒でもピクセル等倍で見てもブレていないと判断できる率は6割ほどと高かった。
MFでのピント合わせが苦にならず、Exif情報に絞り値が記録されなくても平気で、最近のレンズの優等生度合いを退屈だと感じるようなら狙ってみていいと思う。
作品集
ピントが合っている部分は紗がかかったようにソフトな光に包まれて、そこからアウトフォーカスのとろっとしたボケにつながっていくようすがこの手の大口径レンズならではの描写。
F4まで絞ると、ピクセル等倍で見てもびくともしないシャープさに変わる。見た目はオールドレンズのようだが、性能まで旧式というわけではないのがすごいところである。
屋外に置かれていたパイプ椅子に絞り開放で寄ってみた。これで軸上色収差が多かったりすると、気持ち悪いことになってしまうが、そのへんはしっかり補正されているようだ。
二線ボケ傾向のあるレンズだと、ボケた文字のエッジがきつく浮き出てしまうが、ざわざわする一歩手前ぐらいで踏みとどまってくれている感じ。くたびれた木の質感もいい。
これぐらいの明るさのレンズともなると、F2.8は絞り込んだといえるレベル。金属の硬さ、冷たさがくっきり出せる。しかし、がきがきした硬さにならない優しさも備えているように思う。
書き忘れていたが、これだけの明るさのレンズだと、昼間は1/8,000秒でも足りなくなることが多い。なので、電子シャッターを搭載したカメラとの組み合わせがおすすめだ。
まとめ
で、最終的に、どれがいちばんいいのか、と聞かれると、やっぱり返事に困る。NOKTON 42.5mm F0.95の絞り開放のふわとろ感はたまらないものがあるが、それはもちろん、あの面倒くささが苦にならない人ならおすすめできるという話で、ものぐさなワタシとしては、写りに魅力は感じるものの、常用したいレンズではない、といったところである。ただ、絞り開放からF2.8あたりで少しユルめのポートレートを撮るのは楽しいだろうなぁ、と思ったりもする。
同じ大口径のDG NOCTICRON 42.5mm F1.2は、ぐっとすっきりした写りが持ち味だ。絞り開放でのキレすぎないシャープさをうまく使いこなせれば、上質なポートレートが狙えるだろう。マイクロフォーサーズ用としては、かなりの大きさと重さのあるレンズだが、F1.2の中望遠レンズと考えれば十分に小型軽量だ。あとはまあ、お値段の高さが問題ではあるが、買えば幸せになれる1本であるのは間違いない。
口径の小さなLUMIX G 42.5mm F1.7とM.ZUIKO DIGITAL 45mm F1.8の2本は、小型軽量低価格かつシャープでぼかせるのが身上。レンズ側に手ブレ補正機構を持っていることが必要なら、あるいは、寄れるレンズが好きな人にはLUMIX G 42.5mm F1.7がおすすめだ。見た目が安っぽくないのも見逃せないポイントだと思う。
一方のM.ZUIKO DIGITAL 45mm F1.8は、スペック的にはLUMIX G 42.5mm F1.7に負けているし、外装のプラスティックっぽさがもうちょっと残念な部分ではあるが、丸ボケのきれいさ、周辺光量の豊かさではこちらを推したい。そのあたりにこだわるかどうかが決め手になりそうだ。