特別企画

“動きモノ”2強ミラーレスカメラで自転車競技の撮影に挑戦

α9とOM-D E-M1 Mark IIはどこまで迫れたのか

これまでスポーツ撮影の世界では、一眼レフカメラのハイエンド機でなければ選手の速い動きを確実に捉えることは難しいとされてきた。事実、多くのスポーツカメラマンがキヤノンEOS-1D X Mark IIやニコンD5などを使用している。

しかし近年はミラーレスカメラのなかにも、高速連写や高速AFでの撮影を可能とするモデルが登場している。

そこで今回はミラーレスカメラのなかでも、これらの性能に秀でているとされるソニーα9とオリンパスOM-D E-M1 Mark IIの動体撮影に関する実力をチェック。9月8日〜9月10日の3日間に開催された、日本最大級の国際自転車ロードレース「ツール・ド・北海道2017」の撮影に実戦投入してみた。

一眼レフカメラの優位性

そもそも一眼レフカメラはなぜ動きモノに強いとされるのか。まず、一眼レフカメラのAFの仕組みを解説しよう。

一眼レフカメラのAFは位相差センサー方式を採用している。レンズを通して捉えた被写体像は、ファインダーへ送る光とは別にAF専用センサーへ導かれ、さらにそれをAF専用のレンズを通してふたつに分けて位相差センサーへと送られる。位相差センサーでは2つの像のずれの大きさを取得、それをもとに被写体までの距離とレンズを動かす量を判断し、レンズのフォーカスを合わせる。

これをC-AFモードでは短い間隔で連続して測距すると共に、被写体との距離の変化量から、動く方向と速度を予想計算することで、フォーカスを追随させている。

これらの予測値やレンズ駆動ための情報は長年の経験から導き出されるものも多く、その点からも一眼レフカメラは動きモノの撮影において優位性が高いのだ。

一方、ミラーレスカメラの場合、ミラーボックスが存在しないことから、一眼レフカメラのようにAF専用のセンサーを搭載することが難しい。そのため、撮像素子に結像した像のコントラストをもとに、フォーカスのずれを検知するコントラスト検出式AF方式をとっている。

このコントラスト検出式AF方式では、像のコントラストがいちばん高くなるようにピント位置を探るため、瞬時にフォーカス位置を判断できる位相差検出方式AFよりも時間がかかる。

また被写体までの距離情報を得ることが難しいことからも、C-AFであっても、位相差検出方式AFほど動体の追従精度を上げることができない。

以上の仕組みから、コントラスト検出式AFを採用するミラーレスカメラより、位相差検出方式AFを採用する一眼レフカメラが優位となるのだ。(一眼レフカメラでもライブビュー撮影時のAFはコントラスト検出式AF方式を採用している機種が多い)。

ところがここ数年で、ミラーレスカメラでもイメージセンサーの中に位相差検出式AFセンサーとなる画素を埋め込んだ機種が登場した。それにより、一眼レフカメラ優位の状況が変わりつつある。

今回の撮影で使用したソニーα9とオリンパスOM-D E-M1 Mark IIも、イメージセンサーのなかに位相差検出式AF用のセンサーを持つミラーレスカメラだ。

α9

希望小売価格:オープン(52万1,000円前後)
発売日:2017年5月26日

対“動きモノ”性能

約2,420万画素の35mmフルサイズ積層型CMOSセンサーを搭載。位相差検出方式AFとコントラスト検出式AF方式を併用するファストハイブリッドAFを採用することで、AF測距速度と動体追随性能を飛躍的に向上している。

AF測距点(位相差検出方式)は総計693点。画面の約93%という広範囲をカバー。高密度に配置されているのもミラーレスカメラならではといえる。

AFの検出輝度範囲は-3EV〜20EV (ISO100相当、F2.0レンズ使用)と低照度でのAF撮影も可能。

メカシャッターも搭載されているが、主に電子シャッターでの撮影を念頭において設計されている。それによって電子シャッターでの撮影時では、最高で秒間約20コマのAF/AE追随連続撮影が可能だ。

ISO感度はメカシャッター時ISO100〜51200(拡張ISO50〜204800)、電子シャッター時ISO100〜25600(拡張ISO50〜25600)。

撮影時の主な設定

フォーカスモード:AF-C
フォーカスエリア:拡張フレキシブルスポット:M
AF-C時の優先設定:バランス重視
AF被写体追従感度:3(標準)
連続撮影:Hi
シャッター方式:電子シャッター
露出モード:シャッタースピード優先AE
ISO感度:AUTO

撮影画像

ツール・ド・北海道初日の第1ステージ。スタート地点のゲートから飛び出し、いまから3日間をかけるロングステージが始まる。

α9 / FE 100-400mm F4.5-5.6 GM OSS / 294mm / シャッタースピード優先AE(F5.6・1/1,000秒・-0.7EV) / ISO250

第1ステージ終盤。KOM(King Of Mountain)と呼ばれる山岳賞地点へ一気に駆け上る選手たち。すでにここまでに140kmほどを駆け抜けてきている。

α9 / FE 100-400mm F4.5-5.6 GM OSS / 400mm / シャッタースピード優先AE(F5.6・1/1,000秒・±0EV) / ISO 800

第1ステージのフィニッシュラインに向け、力を振り絞りペダルを漕ぐ選手。その時速50kmほどにもなる姿を、AFフレームに捉えAF-Cで連写。選手でフレームがいっぱいになり走り抜けるまでの約2秒間41コマ撮影の間、AFはしっかりと追従してくれた。

α9 / FE 100-400mm F4.5-5.6 GM OSS / 400mm / シャッタースピード優先AE(F5.6・1/1,000秒・±0EV) / ISO 250

第2ステージ北斗市運動公園をスタートして間もなく、函館湾沿いの海岸線コースを走る選手たちの車列を400mmで迎え撃つ。

チーム戦でもあるロードレースでは互いのポジションを見極めながらレースを進める。

α9 / FE 100-400mm F4.5-5.6 GM OSS / 400mm / シャッタースピード優先AE(F5.6・1/800秒・±0EV) / ISO 160

第2ステージスタートからおよそ100km付近の渡島半島南西部の海岸線。細かなアップダウンが続くコース。

被写体は大きな下りカーブを描いたのちに上り坂へ入り、そのまま手前に向かってくる立体的な動きをするが、拡張フレキシブルスポットは先頭の選手を離さず捉え続けてくれた。

α9 / FE 100-400mm F4.5-5.6 GM OSS / 400mm / シャッタースピード優先AE(F5.6・1/1,000秒・±0EV) / ISO 250

最終日となる第3ステージ。晴天のなか青い海を背景に海岸線を走り抜ける選手。

レンズの手ブレ補正モードを縦ブレのみ補正のモード2にセットし、選手たちの車列を流し撮り。自転車のホイールを見てもローリングシャッター歪みは認められない。

α9 / FE 100-400mm F4.5-5.6 GM OSS / 200mm / シャッタースピード優先AE(F4.5・1/500秒・-0.3EV) / ISO 100

インプレッション

α9はこれまでより高速な読み出しが可能なイメージセンサーを搭載しており、電子シャッターの弱点であるローリング歪みを低減。AF/AE追随での約20コマ/秒の高速連写をはじめ、ブラックアウトフリーでの連続撮影、完全無音・無振動のレリーズなど、電子シャッターならではのメリットを躊躇なく受けられる。これまでにこのようなカメラは存在していなかったのだから、まさにエポックメイキングな存在であるといえるだろう。

一方気になった点を挙げると、まずEVF画像のコントラストが高めであること。さらにときおり像のエッジがギラつくことがあった。これらは撮影画像には直接影響はしないが、α9のEVFはファインダーを覗いていて心地よいといえるレベルにはまだないということだ。この点に関しては一眼レフカメラの光学ファインダーの心地よさには遠く及ばない。

またスリープ状態からのEVF表示の復帰に時間がかかる点なども、スポーツ撮影を念頭に置いたカメラとしては改善の余地がある。

ただし、こうした点が改善されれば、現在の動きモノ撮影における一眼レフカメラの牙城さえも、一気に崩しにかかる可能性をもったカメラだといえる。

OM-D E-M1 Mark II

希望小売価格:オープン(22万4,000円前後)
発売日:2016年12月22日

対“動きモノ”性能

約2,037万画素の4/3型Live MOSセンサーを搭載。感度はISO200〜25600(拡張ISO64〜25600)。

位相差検出方式AFとコントラスト検出式AF方式を併用するハイスピードイメージャAFを採用することで、AF測距速度と動体追随性能が前モデルOM-D E-M1よりも大きく引き上げられ、また測距精度にも優れたミラーレスカメラして登場した。

AF測距点数は画面の縦75%、横80%の広範囲をカバーする121点で構成されており、すべての測距点がクロス式の像面位相差センサーとなっている。これにより縦線・横線どちらのタイプの被写体にも強く高い捕捉性能を持つ。

またプロキャプチャーモードと呼ばれる、カメラのシャッターボタンを半押しした時点から映像を記録し始め、シャッターボタンを全押しするまでの画像を最大14コマ保存できる機能も搭載されており、これを活用することで、カメラマンの反応で生じるシャッタータイミングのロスを解消できる。

メカシャッターと電子シャッターの両方を利用可能。通常の単写、連写H、連写L、ライブバルブ、ライブタイム、ライブコンポジットはメカシャッターに、静音単写、静音連写H、静音連写L、プロキャプチャーモードH、プロキャプチャーモードLは電子シャッターになる。また低振動単写、低振動連写Lは1/320秒以下で電子先幕シャッターとなる。

このうち電子シャッターの静音連写LとAF-Cの組み合わせであれば、最大で秒間18コマのAF/AE追随撮影が可能だ。

撮影設定

フォーカスモード:AF-C
フォーカスエリア:5点グループターゲット
AF-C追従感度:+1
ドライブモード:静音連写L(電子シャッター)
露出モード:シャッター優先モード
ISO感度;AUTO

撮影画像

第1ステージ終盤。峠への坂をダンシングとも形容される立ち漕ぎで力強く駆け上がる選手を、600mm相当の超望遠レンズで大きく捉えた。ぐいぐいと近づく選手をE-M1 Mark IIはがっしりと掴みAFを合わせ続けてくれる。

袖口の日の丸マークは過去に全日本チャンピオンになった選手の証。

OM-D E-M1 Mark II / M.ZUIKO DIGITAL ED 300mm F4.0 IS PRO / 300mm(600mm相当) / シャッター優先(F4.0・1/1,000秒・+1.0EV) / ISO 800

第1ステージのフィニッシュラインへと全体重をペダルに乗せスパートを掛ける。

AFターゲットを選手の顔に合わせて選手と自転車の全体がフレーム内に収まる距離から連写を始め、選手がフレームいっぱいになるまで20コマを撮影したうちのひとコマ。AFターゲットが顔から外れアウトフォーカスになるまでAFは追従し続けた。

OM-D E-M1 Mark II / M.ZUIKO DIGITAL ED 300mm F4.0 IS PRO / 300mm(600mm相当) / シャッター優先(F4.5・1/1,000秒・-0.7EV) / ISO 200

第2ステージ前半。海岸沿いのコースを向かい風をうけながら走る先頭集団。ロードレースでは常に風の抵抗との戦いが付き纏うため、選手同士で交代しながら先頭を走るのもロードレースならでは走り方。ここでも先頭の選手が右ひじを張り後方の選手に交代するように促している。

600mm相当の超望遠レンズで引き寄せることでこのような選手達の表情までも読み取ることができた。

OM-D E-M1 Mark II / M.ZUIKO DIGITAL ED 300mm F4.0 IS PRO / 300mm(600mm相当) / シャッター優先(F4.5・1/1,000秒・+0.3EV) / ISO 250

第2ステージ中盤。スタートからおよそ2時間30分が経ち100km地点を通過する集団。そのなかで前を走る選手の影に入り風をうまく受け流すのもロードレース選手の基本テクニックだ。

複数の選手が9点に拡張したAFターゲットに飛び込んできたが、E-M1 Mark IIは迷うことなくセンターに狙った黄色ジャージの選手を捉え続けた。

OM-D E-M1 Mark II / M.ZUIKO DIGITAL ED 40-150mm F4.0-5.6 R / 150mm(300mm相当) / シャッター優先(F2.8・1/3,200秒・+0.7EV) / ISO 500

第2ステージのフィニッシュラインに向けて最後の力を振り絞り競り合う先頭集団。ここまで180km以上を走り続けてきたにも関わらず、ゴールスプリントでは時速70kmにも迫るスピードで飛び込んでくる。

カメラマンは安全な位置から選手達を待ち受けるが、直前まで誰が優勝するかもわからないことも珍しくなく、カメラの性能をフルに引き出して撮影することが求められる一瞬だ。

OM-D E-M1 Mark II / M.ZUIKO DIGITAL ED 300mm F4.0 IS PRO / 300mm(600mm相当) / シャッター優先(F5.0・1/1,250秒・+0.7EV) / ISO 400

第2ステージ。力を出しきりゴールした直後の選手。180km以上のコースをおよそ4時間30分ノンストップで走り続ける過酷さは想像を超えるものだ。

ロング撮影から至近距離での撮影に瞬時に切り替えてもAFは暴れることもなく、すっと被写体へフォーカスしてくれる。

OM-D E-M1 Mark II / M.ZUIKO DIGITAL ED 300mm F4.0 IS PRO / 300mm(600mm相当) / シャッター優先(F5.0・1/1,250秒・+1.3EV) / ISO 400

インプレッション

OM-D E-M1 Mark IIはα9と同様にミラーボックスのないミラーレスカメラだ。そのため電子シャッターを効果的に使用することで、最大で秒間18コマのAF/AE追随撮影を可能としている。それまでなかば常識的に、ミラーレスは動きモノの撮影には使えないと語られていたが、E-M1 Mark IIが発売されたことにより、その常識が覆されることとなった。

今回の撮影でも多くのシーンが選手が目の前を通過する一瞬のチャンスにかける必要のあるものであったが、E-M1 Mark IIでは撮り手の望む瞬間をしっかりと捉えることができた。

E-M1 Mark IIの優れた点としては、覗いていて違和感の少ないEVFも挙げられる。コントラストも必要以上に高くなく、それでいて画像はクリアだ。フォーカスが合った箇所とボケた箇所のつながりも自然で強調しすぎたエッジとなることもなく、目の疲れも最小限で済む。露出補正を行った際の画面の明るさの反応も早くストレスが少ない。

またEVFの表示フレームレートを120fpsの高速表示に設定することもできるので、動きの速い被写体でも表示遅れを感じることなくEVFで追いかけることができる。さすがに光学ファインダーと同等とまではいかないが、EVFならではのメリットの多くを受けることができるだろう。

むろん改善して欲しい点はある。ほとんどのシーンでしっかりとAFが追随してくれたが、選手と自転車が強い逆光となったわずかなシーンで、AFターゲットが被写体を捉えているにも関わらず、AFが追随しきれないことがあった。

また選手が木陰などに入ったときなどに、オートホワイトバランスが色かぶりを補正しきれず、緑被りしたシーンもある。

とはいえ、これまでに使用してきた一眼レフカメラでも同様の反応が起きたこともあるので、ミラーレスカメラでもここまでの完成度の高いカメラとなっているのは素直に評価に値するといえる。

まとめ:ハイエンド一眼レフカメラに匹敵する実力を見た

これまではハイエンドクラスの一眼レフカメラでなければ困難であったロードレースの選手達を、プロカメラマンの仕事レベルのクオリティで撮影できた。これによりα9とOM-D E-M1 Mark IIは、撮影自体の能力としてはすでにハイエンドクラスの一眼レフカメラに匹敵していると断言できる。

またレース取材中に自動車で選手達を追いかけながら撮影を行うカメラマンや、選手の集団に随伴するオートバイの後席という極めてスペースの限られた場所からの撮影を行うカメラマンにとっては、ミラーレス化によるカメラの小型軽量化は大きな恩恵となるだろう。これまでは高い性能のカメラは大きく重いことが常識であったが、今後ミラーレスカメラがプロカメラマンの現場でも普及していくことで、この常識は間違いなく塗り替えられていくに違いない。今回の取材は数年前であれば考えもしなかった、そんなことさえ予感させられる結果となった。

取材協力:公益財団法人ツール・ド・北海道協会

礒村浩一

女性ポートレートから風景、建築、舞台、製品広告など幅広く撮影。全国で作品展を開催するとともに撮影に関するセミナーの講師を担当。デジタルカメラの解説や撮影テクニックに関する執筆多数。近著「被写体別マイクロフォーサーズレンズ完全ガイド」(玄光社)、「一眼カメラの選び方がわかる本 2017」(晋遊舎)など。カメラグランプリ外部選考委員。