オールドデジカメの凱旋:キヤノンPowerShot Pro1(2004年)

〜「Lレンズ」を搭載したプレミアムコンパクト
Reported by 吉森信哉

キヤノンPowerShot Pro1。2004年3月発売。発売当時の販売価格は13万円弱

 写真学校での講師の仕事を終えて、帰宅する途中に立ち寄った都内某中古カメラ店。そこで見つけてゲットしたのは「キヤノンPowerShot Pro1」。2004年3月に発売された、当時のPowerShotシリーズ、というよりキヤノンのコンパクトデジタルカメラ全体におけるフラッグシップモデルである。

 まあ、キヤノンにはPowerShot Gシリーズという高機能&高性能の路線があるから、流れとしてはGシリーズの方が正統的なフラッグシップかもしれない。でも2004年の発売当時、瞬間風速的にはPowerShot Pro1がフラッグシップモデルだったのは間違いない。発売時の店頭価格も13万円弱と、かなり高価だったからねぇ〜。ちなみに、前回ちょっとだけ触れた「PowerShot G6」は、PowerSho Pro1の約半年後に発売されたモデルで、発売時の店頭価格は8万円台だった。

 今回ゲットしたブツは1万8,900円。実は1万円台のPowerShot Pro1は、たまに中古店の店頭で見かけるけど、その多くは外観がスレてたりぶつけてヘコんでたり、レンズ先端部のリングが欠品だったり、本体以外はバッテリーとチャージャーしか付属してなかったりと、かなりキビシイ状態のブツが多いんだよねぇ。その点、今回のブツはかなり良好。外観はかなりキレイだし、付属品もUSB接続の「インターフェースケーブルIFC-400PCU」以外は全部が揃ってる(もちろん、元箱も付属)。キヤノン純正の64MBのCFとか、ちょっとレアかも(笑)。

 なお、外観はかなりキレイなのだが、レンズ部をチェックすると、内部にはゴミがちらほら見られ、前から2群目あたりのレンズ表面にわずかなクモリが見られる。まあ、気になるクモリに関しては、かなり特殊や光線状態で発見できる程度だけどね。

 さて、PowerShot Pro1の機能や特徴を簡単に紹介してみよう 前述のとおり、このモデルはPowerShotのフラッグシップモデルとして誕生した。

 搭載される28-200mm相当の光学7倍ズームは、コンパクトデジカメとしては唯一無二の「Lレンズ仕様」である。Lレンズといえば、キヤノンの一眼レフカメラEOS用交換レンズではお馴染みですナ。しかも、このPro1用のLレンズには、UDレンズや非球面レンズのほか、デジタルカメラ用として世界で初めて「蛍石」が採用されている……とまあ、実にゴージャスなレンズ仕様が、このカメラの大きなウリであった。また、手ブレ補正機能(IS)は搭載されていないが、開放F値はF2.4-3.5と、光学7倍ズームとしては明るいのも魅力的だ。

Gシリーズとは違う“ワンランク上の存在感”を感じるんだよなぁスタイルは基本的に一眼レフカメラっぽいけど、あまり大きくないボクの手にすっぽりと収まる様子が可愛らしいネェ〜
レンズにはLレンズの証である赤い鉢巻と「ULTRASONIC」の文字&ロゴが小振りなレンズキャップにも「ULTRASONIC」の文字。しかも、中央の「Canon」のロゴは、プリントではなく凝った細工だし
28mm時200mm時
2型のバリアングル液晶モニターを搭載

 撮像素子には、有効約800万画素の2/3型CCDを採用。そして、キヤノンが誇る高性能映像エンジン「DIGIC」を搭載する。

 液晶モニターは2型約23.5万ドットのTFTカラーモニター。バリアングルタイプなので、さまざまなカメラポジションやアングルで快適に撮影することができる。また、0.44型約23.5万ドットのEVF(電子ビューファインダー)も搭載している。

 当然、露出モードはP、Tv、Av、Mのフルモードだし、RAWモードでの撮影も可能。ただし、現在の高性能モデルのようなJPEG同時記録(RAW+JPEG)には対応していない。

 発売当時にカメラ雑誌の新製品レビューを担当させてもらったけど、その時の第一印象は「小さいクセに一丁前だなぁ〜」というもの。そう、全体的に小さめだけど、スタイルは一眼レフカメラっぽい。しかも、手にすると意外と重みがあって、レンズ鏡筒には高性能Lレンズの証である「赤鉢巻」が巻かれている。

 そのレビューでは、神代植物公園や深大寺しか撮影に行けなかったけど、撮影しながら「これ1台で旅に出るのもオツかもネ」な〜んてコトも思っちゃったりなんかして……。駅弁を買って、とあるローカル線の列車に乗り込む。まず、駅弁を食べる前にバリアングル機能を生かして記念にパチリ。そんでもって、駅弁を食べながら、流れる車窓風景をMモード、MF、連写で撮りまくる……ああ、妄想モード全開だ(笑)。

 広角から望遠まで幅広くカバーする光学7倍ズーム、Lレンズの描写性能、バリアングル液晶モニターを活用した斬新なポジションやアングルでの撮影……と、けっこう「ワクワク要素」があるPowerShot Pro1。だけど当時、使っていて気になる点もいくつか出てきた。

 まず、ズームレンズの操作性。このカメラのズーム操作は、レバーやボタンではなくレンズ鏡筒のズームリングで行なう。この操作フィーリングが微妙なのヨ。前述のとおり、レンズ鏡筒には高性能Lレンズの証である赤鉢巻が巻かれているが、そのすぐ横には「ULTRASONIC」の文字とロゴがある。EOS用の交換レンズ「EFレンズ」ではお馴染みの、超音波モーター(USM)仕様なのである。ただし、EFレンズではUSMをAF駆動に使用しているが、PowerShot Pro1ではズーム駆動用モーターとして使用している。「USMの採用により、高速でスムーズなズーミングが可能」というのがメーカーの見解なんだけど、ボク個人としては「普通の手動リングの方が良かったんじゃない?」と感じたものだ。いや、このUSM、そんなに高速じゃないし! しかも、スタートやストップのタイミングに微妙なタイムラグがあるんだよなぁ。

使用する充電式リチウムイオン電池は、ちょい古めのEOS用としてもお馴染みの「BP-511A」など。記録メディアはCF(TypeⅡにも対応)

 あと気になるのは、動作レスポンスがあまりよくない点かな。起動や終了、それにシャッタータイムラグやデータ書き込み時間などはそんなに気にならないんだけど(もちろん、古めのモデルという点を考慮した上で)、再生時の前後のコマ送りのトロさには、ちょっと閉口しちゃう。この点は、当時のレビューでも一番不満な点として感じていた。

 でもまあ、全体的な操作自体は悪くないと思う。十字キーの上下に割り振られた露出補正やホワイトバランスの設定はやりやすいし(呼び出しやすいだけでなく、レリーズ後も続けて操作できる)、モードダイヤルややグリップ部の電子ダイヤルも使いやすいし。

 また、ハイエンドモデルに相応しい高機能ぶりにも感心する。AF枠の移動、AEB撮影、MF時のフォーカスブラケット、ストロボ調光補正、ストロボ発光タイミング切換(先幕/後幕)、インターバル撮影、カスタム登録(C1、C2)、RAW記録などなど。これらの機能は、現在でも高機能なモデルを中心に搭載されているからね。

 画質に関しても、画素数があまり多くない点と(実際は800万画素でも十分だと思う)、高感度時のノイズが目立つ点以外は、現在の高機能・高画質モデルと比較しても遜色はない。まあ、画面周辺部だと色収差のような細かいアラも見られるが、像自体はとてもシャープで安定しているし、DIGICによる絵作り(特に色再現)も素晴らしい。いや、マジで感心するよ、2004年発売のカメラとは思えないくらい!

設定できる感度はISO50〜400。こういうところに世代の古さが感じられるねぇRAWモードで撮影できるのはイイけど、JPEG同時記録(RAW+JPEG)じゃないのは残念だなぁ……
撮影メニューで「NDフィルター」を選ぶと、光量が通常の1/8(3絞り分)に減らせる。スローシャッターで撮影したい場合などに重宝する、Gシリーズでもお馴染みの機能スーパーマクロは通常のマクロモードより接近してアップで撮れるようになるが、記録画素数はM1(およそ400万画素)以下に限定される。RAW設定時は自動的にM1になり、解除すると元の設定に戻る

 PowerShot Proシリーズは、3代目の本機を最後に発売されていない(初代は1998年発売のPowerShot Pro90、2モデル目は2001年発売のPowerShot Pro90 IS)。前回のサイバーショットDSC-R1のときにも触れたけど、2005年には各社からボディ価格が10万円を切るデジタル一眼レフカメラが次々と発売されて、それまで一眼レフカメラの代役を務めてきた高性能で高価なコンパクトデジタルカメラは、その存在価値が希薄になったことも関係しているのだろう。

 でも、レンズ込みのデジタル一眼レフカメラよりもコンパクトかつ軽量で、作動音が小さくて静粛な場面でも気兼ねなく使える。そうした「一眼レフとは違う良さ」を備えた、高性能・高級コンパクトデジタルカメラって、まだまだ魅力的な存在だと思うけどねぇ。

 そんな想いのあるボクは、PowerShot Pro1をベースに復活した「最新Pro」を勝手に空想して楽しんでいる。ボディ素材にはマグネシウム合金を使用。搭載レンズは新設計の「24-200mm F2-2.8 L IS USM」で、PowerShot Pro1よりも鏡筒が太く大きくなるが、PowerShot G12やPowerShot S95と同じくハイブリッドISを搭載。さらに、超解像技術により最大400mm相当での撮影が可能で、フル画素のまま解像感の高い描写を得ることができる。また、ズーム全域での最短撮影距離の短縮化が図られ、広角端24mmではレンズ先端から約1cm、望遠端200mmでもレンズ先端から約15cmまで接近可能。PowerShot Pro1で大きな泣き所になっていたレスポンス問題は「最新DIGIC」をDualで搭載することで劇的に改善……とかね。ああ、またもや妄想モード全開だ(笑)。


実写サンプル

  • 作例のサムネイルをクリックすると、リサイズなし・補正なしの撮影画像をダウンロード後、800×600ピクセル前後の縮小画像を表示します。その後、クリックした箇所をピクセル等倍で表示します。

・画角

広角端(28mm相当) / PowerShot Pro1 / 約3.4MB / 3,264×2,448 / 1/500秒 / F4 / 0.0EV / ISO50 / WB:オート / 7.2mm望遠端(200mm相当) / PowerShot Pro1 / 約2.4MB / 3,264×2,448 / 1/400秒 / F4 / -0.3EV / ISO50 / WB:オート / 50.8mm

・感度

 いまとなっては古さを感じるのが高感度時のノイズの多さ。でも、無理なノイズ処理をしてないぶん、被写体の細部描写はまずまず。ノイズの粒も割と揃ってる感じだし。でもまあ、ISO200くらいで留めておくのが無難かな。

ISO50 / PowerShot Pro1 / 約3.0MB / 3,264×2,448 / 1/80秒 / F3.5 / -0.3EV / WB:オート / 50.8mmISO100 / PowerShot Pro1 / 約3.5MB / 3,264×2,448 / 1/125秒 / F3.5 / -0.3EV / WB:オート / 50.8mm
ISO200 / PowerShot Pro1 / 約4.4MB / 3,264×2,448 / 1/250秒 / F3.5 / -0.3EV / WB:太陽光 / 50.8mmISO400 / PowerShot Pro1 / 約5.4MB / 3,264×2,448 / 1/500秒 / F3.5 / -0.3EV / WB:太陽光 / 50.8mm

 ISO200と最高感度ISO400で撮影。このサンプル高感度ノイズもあまり気にならないかも。
ISO200 / PowerShot Pro1 / 約4.0MB / 3,264×2,448 / 1/40秒 / F2.4 / 0.0EV / WB:オート / 7.2mmISO400 / PowerShot Pro1 / 約4.9MB / 3,264×2,448 / 1/100秒 / F2.4 / 0.0EV / WB:オート / 7.2mm

・スーパーマクロ

 当然、スーパーマクロで望遠側にズーム(42〜90mmで撮影可能)したカットがいちばんクローズアップできる。通常のマクロモードだと、50mmあたりの画角がアップ度が高いと思うヨ(使用説明書だと63mmのアップ度が高そうだけど)。

マクロ(28mm相当) / PowerShot Pro1 / 約2.7MB / 3,264×2,448 / 1/125秒 / F3.5 / 0.0EV / ISO50 / WB:オート / 7.2mmマクロ(50mm相当) / PowerShot Pro1 / 約2.5MB / 3,264×2,448 / 1/125秒 / F4 / 0.0EV / ISO50 / WB:オート / 13mm
スーパーマクロ(90mm相当) / PowerShot Pro1 / 約1.1MB / 2272x1704 / 1/160秒 / F4 / 0.0EV / ISO50 / WB:オート / 22.8mm

・NDフィルター

 NDフィルターをオンにすると、光量が通常の8分の1になる。スローシャッターにしたい時などに便利。

NDフィルター:オフ / PowerShot Pro1 / 約4.6MB / 3,264×2,448 / 1/6秒 / F8 / -0.3EV / ISO50 / WB:オート / 8.9mmNDフィルター:オン / PowerShot Pro1 / 約4.2MB / 3,264×2,448 / 1.0秒 / F8 / -0.3EV / ISO50 / WB:オート / 8.9mm

・フルマニュアル操作

 走るバスの車内から、夕方の光と影に魅力を感じて撮影。マニュアル露出+MF+連写で、バシバシ撮りまくった中の1枚である。プログラムオートのみのコンパクトデジタルカメラだと機能的に難しいだろうし、レンズ交換式デジタルカメラだと周囲の人が気になってバシバシ撮りまくれなかった。

PowerShot Pro1 / 約2.0MB / 3,264×2,448 / 1/1,000秒 / F2.8 / 0.0EV / ISO50 / WB:太陽光 / 7.2mm

・RAW現像

 JPEGで撮影した状態でもそう悪くない仕上がりだけど、ちょっとインパクトに欠ける感じがする。そこで、RAWデータを「SILKYPIX Developer Studio Pro5」を使って仕上げる。HDR機能を少し効かせてみたり、色収差補正をおこなったりと、いろいろチャレンジしてみた。

JPEGで撮影 / PowerShot Pro1 / 約6.2MB / 3,264×2,448 / 1/125秒 / F4 / 0.0EV / ISO50 / WB:オート / 7.2mmRAWを現像 / PowerShot Pro1 / 約7.3MB / 3,264×2,448 / 秒 / F4 / 0.0EV / ISO50 / WB:オート / 7.2mm

・作例
PowerShot Pro1 / 約2.5MB / 3,264×2,448 / 1/400秒 / F4.5 / -0.3EV / ISO50 / WB:オート / 7.2mmPowerShot Pro1 / 約3.5MB / 3,264×2,448 / 1/250秒 / F3.5 / -0.3EV / ISO50 / WB:オート / 50.8mm
PowerShot Pro1 / 約4.0MB / 3,264×2,448 / 1/80秒 / F4 / 0.0EV / ISO50 / WB:オート / 7.2mmPowerShot Pro1 / 約3.5MB / 3,264×2,448 / 1.0秒 / F6.3 / 0.0EV / ISO50 / WB:オート / 15.4mm / NDフィルター:オン
PowerShot Pro1 / 約2.8MB / 3,264×2,448 / 1/80秒 / F2.8 / -0.7EV / ISO50 / WB:太陽光 / 10.1mmPowerShot Pro1 / 約3.0MB / 3,264×2,448 / 1/160秒 / F3.5 / 0.0EV / ISO50 / WB:オート / 50.8mm




吉森信哉
(よしもりしんや)1962年広島県庄原市出身。東京写真専門学校を卒業後、フリー。1990年からカメラ誌を中心に撮影&執筆を開始。得意ジャンルは花や旅。1970年代はカラーネガ、1980年代はモノクロ、1990年代はリバーサル、そして2000年代はデジタル。…と、ほぼ10年周期で記録媒体が変化。でも、これから先はデジタル一直線!? 自他とも認める“無類のコンデジ好き”

2011/7/27 00:00