【新製品レビュー】キヤノンEOS Kiss X4
EOS Kissシリーズの最新モデルで、有効画素数が上位モデルのEOS 7Dと同じ1,800万画素になった。動画機能が強化されたほか、常用感度範囲の拡張、液晶モニターのワイド化、露出補正範囲の拡大などがはかられている。
大手量販店の店頭価格は、ボディ単体で8万9,800円。レンズキットは2種類あって、従来どおりのEF-S 18-55mm F3.5-5.6 IS付きが9万9,800円、新設のEF-S 18-135mm F3.5-5.6 IS付きが12万9,800円。EF-S 18-55mm F3.5-5.6 ISとEF-S 55-250mm F4-5.6 ISの2本がセットされたダブルズームキットが12万9,800円となっている。
■液晶モニターが3:2の104万ドットに
基本的なデザインは、前モデルのEOS Kiss X3からあまり変わっていないが、ペンタ部の丸みの付け方などのデザイン処理はEOS 7Dを意識しているように思える。背面のボタン類も丸形がほとんどだったのが、それぞれに形の違うボタンに変更されているのも新しい点。また、モードダイヤルの滑り止めの刻み目のパターンが変わり、上面の色もシルバーからブラックになった。
3型のクリアビュー液晶モニターを登載しているのは前モデルと同じだが、画面比率は4:3から3:2に変更。解像度は104万ドット。横が720ドット(720×480ドット×3で1,036,800になる)になったということだろう。4:3比率の画面に3:2比率の画像を表示(640×427ドット程度。約82万ドットになる)するのに比べてぐっと高精細になっているわけだ。
反面、ライブビューや再生時などに、絞り値やシャッター速度の情報が画像上に重なって表示されるようになった。画面外に情報を表示する前モデルの方式のほうが画像を見る邪魔にならなくてよかったというのはある(一長一短だが)。
撮像素子は有効1,800万画素のCMOSセンサー。上位のEOS 7Dとは別のものだ(総画素数が本機は1,870万画素、EOS 7Dは1,900万画素)。画素ピッチは約4.3μmで、これは1,200万画素のフォーサーズ機とほぼ同じ数字だ。ローパスフィルターの超音波振動によるゴミ取り機能を備えている。
電源は新型のリチウムイオン電池バッテリーパックLP-E8で、容量は1,120mAh。これまでのEOS Kissシリーズのものとは互換性がない。CIPA基準の撮影可能コマ数は、ファインダー撮影時で440コマ、ライブビュー時で180コマとなっている。このクラスとしてはちょっと少なめの数字だが、大量撮影する人やライブビューを多用する人でなければ特に問題はないだろう(念のために予備電池は買っておいたほうがいいと思うけど)。なお、別売のバッテリーグリップBG-E8装着時は2本のLP-E8を装填できる(単3形アルカリ乾電池×6本でも動かせる)。
記録メディアはSDXC/SDHC/SDメモリーカード(Class 6以上が推奨)。Eye-Fi製品にも対応している。ファイルサイズは作例撮影時の平均値でRAWが22.9MB、JPEGのラージ・ファインで5.2MB(公称値はRAWが24.5MB、JPEGラージ・ファインで6.4MB)。sRAWとかmRAWの設定はないうえに、RAW+JPEG同時記録はラージ・ファインのみ。4GBのカードで130コマちょっとしか撮れないのだから、RAW派にはかなりヘビーなカメラといえる(カードもそうだけど、HDDやメモリーも増設したほうがいいかも)。
十字キーまわりの操作部。ボタンの形状が大きく変わっている。「クイック設定画面」の呼び出しが「SET」ボタンから独立した | 背面左手側上部のボタン。レイアウトは前モデルと同じだが、やはり形状が変更されている |
上面右手側の操作部。レイアウトに変化はないが、モードダイヤルやその周辺のデザイン処理が変わっている | 撮像素子は22.3×14.9mmサイズのCMOSセンサー。有効画素数は1,800万画素にアップ。画像処理は「DIGIC 4」だ |
電源は新型のバッテリーパックLP-E8。容量は前モデルのものより40mAhアップで、撮影可能コマ数は400コマから440コマに増えた | 別売のBG-E8にはLP-E8が2本まで装填可能。単3形アルカリ乾電池×6本用のカートリッジも付属している |
BG-E8の背面側のボタン類。AFフレーム(測距点)選択、AEロック、露出補正(マニュアル露出時の絞り)操作も可能だ | 記録メディアは前作同様にSD系。より大容量のSDXC規格にも対応したのが新しい点。Class 6以上のものが推奨されている |
ファインダーはペンタダハミラー式で、視野率95%、倍率0.87倍(35mmフィルムカメラ換算で0.54倍相当)、アイポイント19mmというスペックは前モデルと同じ。裸眼だと問題はないが、メガネ使用だと視野外表示や画面上隅がケラレてしまう。このあたりも含めて前モデルと同様といえる。
AFは前モデルと同じく中央クロスの9点測距。連写スピードは3.4コマ/秒から3.7コマ/秒にアップしているが、画素数が増えたこともあって、連写可能なコマ数が大幅に減少したのは不満な点。手持ちのサンディスクのExtreme III SDHCカードで試してみたところ、JPEGラージ・ファインでは無限連写できそうな感じだったが(公称値は34コマ)、RAWでは公称値どおり6コマ、RAW+JPEG同時記録だと運がよくても4コマ止まり。かなりきびしい数字といわざるをえない。
ファインダーのスペックは前モデルと同じ。のぞいた感じでは、ピントの山の見え具合も前モデルと同じのようだ | グリップの背面側にはAFフレーム(測距点切り替え)ボタン、AEロックボタンがあり、その下にスピーカーが内蔵されている |
AFは従来どおり、ヒシ形配置の9点測距。中央1点はF5.6対応クロスセンサー+F2.8対応ラインセンサーという構成だ |
■30pフルHD記録など、動画機能を強化
前モデルでは「イージーダイレクトボタン」(本機では「イージープリントボタン」に改称されている)と兼用になっていたのが、「ライブビュー撮影/動画撮影」ボタンとして独立。ファインダー接眼部右脇という一等地に移動した。これを押すと、静止画モードではライブビューに移行、動画モードでは撮影開始となる。
ライブビュー時と動画モード時はコントラスト検出方式のライブAFとなる。AFスピードは、前モデルと比較してみないと厳密なことはいえないが、速くなった感じはしない。
シャッターボタン半押しでAFが作動するようになったのが新しい点。前モデルはファインダー撮影時とライブビュー撮影時でAFの作動方法が違っていたのを統一したということだろうが、ここは一長一短。一度半押しして構図とかを見て、とやっているうちにシャッターボタンから指を離してしまうと、またピントを合わせなおすことになる。AFが速くないだけにストレスを感じてしまう。個人的には、前モデルと同じライブビュー時だけ親指AF方式も選べるようにしておいて欲しかったと思う。
モードダイヤルを「動画」に合わせるとライブビューに切り替わり、動画撮影のスタンバイ状態となる。「ライブビュー/動画撮影」ボタンを押すと動画撮影スタートとなる。スタンバイ時や動画撮影中でもシャッターボタンを全押しすると静止画撮影が可能だ。ただし、動画撮影中の場合は1秒ほどフリーズ画面が記録される。
ファインダー接眼部右に「ライブビュー/動画撮影」ボタンが新設(というか独立)。ワンプッシュでライブビューに移行できる | ライブビュー時もシャッターボタン半押しでAFが作動するようになった。また、液晶モニターの画面いっぱいに映像が表示される |
ヒストグラム(動画時は表示できない)は透けないタイプなので、画面が見づらくなる。露出補正などはきちんと反映される | ライブビューの拡大表示状態の画面。倍率は5倍と10倍。液晶モニターの解像度が高いので、MFでのピント合わせはやりやすい |
解像度は1,920×1,080ピクセル(フルHD)のままだが、フレームレート(1秒あたりのコマ数。多いほどデータ量が増える代わりに、動きが滑らかになる。前モデルは20fpsのみだった)が、本機では30p(29.97fps)、25p(25.0fps)、24p(23.976fps)から選択できるようになった。また、1,280×720ピクセル(HD)と640×480ピクセル(SD)時は60p(59.94fps)、50p(50.0fps)となり、30fpsはなくなった(25pと50pは「PAL」用なので、「ビデオ出力方式」を「NTSC」にした状態では選択できない)。
新しく、撮像素子の中央部のみを使って撮影する「クロップ動画」も加わった。640×480ピクセルのSD解像度のみになるが(フレームレートは60pまたは50p)、約7倍の望遠撮影が可能になる。キットレンズの望遠端でいえば、EF-S 18-55mm F3.5-5.6 ISが616mm相当、EF-S 18-135mm F3.5-5.6 ISが1,512mm相当、EF-S 55-250mm F4-5.6 ISが2,800mm相当になるのだからおもしろそうだ。
また、マニュアル露出やマニュアル感度設定が可能になったのも大きい。前モデルはプログラムAE、感度オートで固定だったため、明るい場所なのに高感度で絞り込まれてしまうようなときに不便を感じたが、本機では感度を下げて絞りを開けて撮ることができる。
なお、左手側側面の端子カバー内に、新しく外部マイク端子が装備された。内蔵マイクはモノラル仕様のままだが、外付けマイクを使うことでステレオ音声の収録が可能になった。このあたりは動画重視の人にはかなりうれしい進化だろうと思う。
動画の記録サイズを選択する画面。解像度は1,920×1,080ピクセルのフルハイビジョン。フレームレートが30pにアップした | 前モデルはプログラムAE、ISOオートのみだったが、本機では「マニュアル露出」が選択できる(同時に感度も手動選択可能になる) |
マニュアル露出での動画待機状態の画面。プログラムAEのときと違って、絞りやシャッター速度、感度が記録される | 新機能の「動画クロップ」は、撮像素子中央部の640×480ピクセルの領域だけを記録するもので、通常時の約7倍の望遠撮影が可能だ |
「動画クロップ」時の画面。EF-S 18-55mm F3.5-5.6 ISの望遠端が600mm相当になる。フルHDでも使えればいいのにと思う | 前モデルまでは「EOS」と「Kiss」が別々の場所だったのが、本機では1か所にまとめられた。その上の穴は内蔵マイク |
本体左手側の端子カバー内。新しく外部マイク端子が追加されている。おかげでステレオ音声の収録が可能となった |
■まとめ
一番気に入ったのは、高感度の画質が良くなったこと。パッと見の印象だけでいえば、ISO1600がISO100とたいして変わらないと思えるくらいにクリアになっているし、ISO3200でも十分に鑑賞に耐える。画素ピッチはレンズ交換式カメラでは最小クラスなのにこの画質なのだから、キヤノンのノイズ処理のうまさには舌を巻くしかない。
反面、ファイルサイズが大きくなったのは悩みの種だろう。記録メディアもHDDも低価格化しているから、我慢できる部分もないではないが、連続で撮れるコマ数が大幅に減った(特にRAWやRAW+JPEG同時記録で)のはうれしくない。まあ、連写したい人はEOS 7Dを選びなさいということかもしれないが、もうひと頑張り欲しいところではある。
また、動画機能が強化されたのも注目のポイントだし、露出補正の範囲が広くなったのもちょっぴりだがうれしい改良。連写のパフォーマンスやファインダーの性能、頑丈さなどを求めるなら話は別だが、そうでなければ非常に高い満足度の得られるカメラに仕上がっているといえる。
メニューの「露出補正/AEB設定」の画面。露出補正の範囲は±5EVで、AEB併用時はバーグラフの目盛が±7EVまで増える | ファインダー撮影時に露出補正ボタンを押したときの表示。補正値が±2段の範囲を超えると、バーグラフ自体がスクロールする |
こちらは再生時の画面。もちろん、表示なしも可能。液晶モニターのサイズは3型で同じだが、ひとまわり大きな像が見られる | 各種撮影データが確認できる詳細情報表示画面。ヒストグラムは輝度(初期設定)またはRGBのどちらかを選択できる |
インデックス表示は4コマまたは9コマ。この画面で電子ダイヤルを回すと1画面分ずつ画像送りが行なえる | 動画再生時の画面。スロー再生やフレーム(コマ)送り、指定位置の前後をカットする簡易編集機能も備えている |
■実写サンプル
・オートライティングオプティマイザ
「オートライティングオプティマイザ」は初期設定では「標準」になっているし、フルオートなどの「かんたん撮影ゾーン」では自動的に「標準」になる。
役に立つ機能ではあるが、露出をマイナス補正したときにもはたらいてくれるので、思いどおりの結果が得られないケースもある。なので、オフにしておくのが筆者個人としてはおすすめだ。
オートライティングオプティマイザ |
※共通設定:EOS Kiss X4 / EF-S 18-55mm F3.5-5.6 IS / 5,184×3,456 / 1/100秒 / F8 / ISO100 / WB:太陽光 / 23mm
オートライティングオプティマイザ:しない | オートライティングオプティマイザ:弱め |
オートライティングオプティマイザ:標準 | オートライティングオプティマイザ:強め |
・ピクチャースタイル
画像仕上げ機能の「ピクチャースタイル」は、「スタンダード」、「ポートレート」、「風景」、「ニュートラル」、「忠実設定」、「モノクロ」がある。
「ユーザー設定」には好みなどに合わせてカスタマイズしたピクチャースタイルを登録することや、キヤノンのWebサイトからダウンロードしたピクチャースタイルファイル(「ノスタルジア」や「トワイライト」などがある)を登録することも可能だ。
ピクチャースタイル |
※共通設定:EOS Kiss X4 / EF-S 18-135mm F3.5-5.6 IS / 5,184×3,456 / 1/500秒 / F8 / ISO100 / WB:太陽光 / 55mm
ピクチャースタイル:スタンダード | ピクチャースタイル:ポートレート |
ピクチャースタイル:風景 | ピクチャースタイル:ニュートラル |
ピクチャースタイル:忠実設定 | ピクチャースタイル:モノクロ |
・感度
感度の設定範囲はISO100〜6400。「ISO感度拡張」でISO12800も選択可能となる。設定ステップは1EV単位。ISOオート時は「1/35mmフィルムカメラ換算の焦点距離」秒を基準に感度が上がっていくようだ。撮影時の表示は1EVステップだが、撮影した画像のExif情報を見ると、1/3EVステップとなっている。
感度の範囲は初期設定ではISO100〜6,400まで。ISOオート時の上限感度を自分で選べるようになったのが新しいところ | カスタム機能の「ISO感度拡張」を「する」にすると、ISO12800(「H」で表示)が選択可能になる |
ピクセル等倍で見ると、ISO800から微妙にディテールが悪くなるが、不満はまったくないレベル。ISO1600では暗部にノイズが浮いてきて少しシマリが悪くなってくるものの、カラーノイズが良好に抑えられていることもあって、実用にはほとんど問題なさそうな印象だ。
ISO3200になると、はっきりとディテールのアマさが目に付くようになる。とはいえ、カラーノイズがよく抑えられているのと、発色の崩れが少ないからか、常用できそうなくらいに思える。さすがにISO12800は非常用でしかないが、ISO6400でもそこそこ使えそうな感じだ。
※共通設定:EOS Kiss X4 / EF-S 18-135mm F3.5-5.6 IS / 5,184×3,456 / F8 / WB:太陽光 / 106mm※クリックすると撮影画像を表示します
ISO100 | ISO200 | ISO400 |
ISO800 | ISO1600 | ISO3200 |
ISO6400 | ISO12800 |
・動画
フレームレートがアップしたおかげで、動く被写体のパラパラした感じが軽減されたのが好印象。また、マニュアル露出と感度の手動設定が可能になったのも大きな進化だ。
また、前モデルはプログラムAE、ISOオートのみだったため、明るい場所でも高感度になるケースが多かったが、本機は感度を下げて絞りを開けられる分背景をボカして撮れるようになった。
新機能の「動画クロップ」は装着レンズの焦点距離が7倍になったかのような望遠効果が得られるのが特徴。あまりにも望遠すぎて手持ち撮影はほとんど不可能だが、かなり強烈なアップがねらえるので楽しい。
※サンプルはいずれも撮影した動画をそのまま掲載したものです。再生についての問い合わせは受けかねます。
【2010年3月8日】プログラムAEの作例とマニュアル露出の作例が入れ替わっていたのを修正しました。
動画(マニュアル露出)EOS Kiss X4 / EF-S 18-135mm F3.5-5.6 IS / H.264 / 1,920×1,080 / 1/400秒 / F16 / ISO1600 / WB:オート / 135mmm |
動画(プログラムAE) EOS Kiss X4 / EF-S 18-135mm F3.5-5.6 IS / 1,920×1,080 / 1/200秒 / F5.6 / ISO100 / WB:オート / 135mm |
動画(マニュアル露出) EOS Kiss X4 / EF-S 18-135mm F3.5-5.6 IS / 1,920×1,080 / 1/500秒 / F5.6 / ISO100 / WB:オート / 135mm |
動画クロップ(マニュアル露出) EOS Kiss X4 / EF-S 18-135mm F3.5-5.6 IS / 640×480 / 1/500秒 / F5.6 / ISO100 / WB:オート / 135mm |
・そのほか
2010/3/8 00:00