新製品レビュー
Adobe Lightroom mobile
PCとiPadで写真を同期。外出先での画像編集も
Reported by 北村智史(2014/4/25 12:00)
Adobe Photoshop Lightroomのモバイル端末版で、現時点ではアップルiPad専用(iOS 7を搭載したiPad 2以降)となる。iPhone版は2014年内にリリース予定。Androidへの対応も検討中とのこと。
無料のiOSアプリで、iTunes Storeからダウンロードできる。機能を利用するにはAdobe Creative Cloud(以下CC)のアカウントが必要となる(有償)。
インストールから同期まで
ダウンロードとインストールはiTunes Storeから行なう。「Lightroom」で検索するといちばんに出てくるが、律義に「Lightroom mobile」と入力すると空振りした。というのは、アプリの名称が「Adobe Lightroom」だからで、iPad上では単に「Lightroom」と表示される。混同を避けるため、ここではiPad用は「Lightroom mobile」、パソコン用は「Lightroom desktop」と書くことにする)。もちろん、ダウンロードは無料である。
起動してAdobe IDでサインインすると、いきなり「コレクションが使用できません。Lightroom desktopの同期を有効にして起動してください。」というメッセージが表示される。Lightroom desktop(最新版の5.4が必要)を起動して環境設定を開き、「Lightroom mobile」タブからサインインしたうえで、「コレクション」パネルで「コレクションを作成」を選んで、「Lightroom mobileと同期」にチェックを入れて「作成」をクリック。
これで一応準備は完了だが、同期する画像がクラウドにアップロードされるのに時間がかかるので、しばらく休憩である。
さて、起動直後の「コレクション表示」で表示するコレクションをタップすると「グリッド表示」に切り替わる。Lightroom desktopのグリッド表示と役割は同じだが、この画面で撮影データなどを確認することはできない。また、サムネイルのサイズを変更することもできない。
「グリッド表示」の画面で見たい画像を選んでタップすると1枚だけを画面いっぱいに見られる「ルーペ表示」に切り替わる(ヘルプオーバーレイでは「ルーペ表示」ではなく「フィットビュー」と書かれてたりする)。
当たり前だが、iPadの向きに応じて画面は自動で回転するので(画面をロックしていなければだが)、縦位置の画像は縦向き、横位置の画像は横向きに持つと大きく表示できる。画面をタップすると情報表示のオンオフ、2本指タップで情報表示の内容を切り替えられる。
画面左上の撮影情報は、テキストが表示されている部分をタップすることで内容が切り替わる。拡大/縮小は、例によってピンチイン/ピンチアウト、ダブルタップでも可能だ。
オフラインでも画像の調整が可能なスマートプレビュー機能を利用しているため、Lightroom desktopでのピクセル等倍表示と見比べると、表示解像度は低い(代わりにファイルサイズが小さく抑えられる)。スマートプレビューを利用することでオリジナルの画像はパソコンに置いたままにできるため、iPadの空き容量を無駄づかいしなくてすむわけだ。
コレクション内の全画像のスマートプレビューのデータをあらかじめダウンロードすることができ(それなりに時間がかかる)、そうするとオフラインでの運用もできる。
ただし、Lightroom mobile上でたくさんの画像に変更を加えた場合、それがオンラインになってからLightroom desktopに反映されるのにもけっこうな時間がかかる。そのあたりの待ち時間まで考えると、高速な回線で常時接続しているほうがストレスは少なそうだ。設定画面に「WiFiでのみ同期」というオプションがあるのを見ると、やはりWi-Fi環境がベターだろう。
閲覧と整理
「ルーペ表示」は「フィルムストリップ」付きとなしが選べる。左右にフリックして画像送りをするか、フィルムストリップ上のサムネイルをタップして画像を切り替えることもできる。
上下にフリックすると「フラグ」の設定が可能。下フリックが「拒否」、上フリックが「採用」となる。画面左上の「〈」をタップすると「グリッド表示」になり、もう一度「〈」タップで「コレクション表示」に戻る。使い方は簡単で、すぐに覚えられるし、スマートプレビューデータのダウンロードが完了していれば動作も軽い。
画面右上のアイコンをタップすると、「共有」「コピー先」「移動先」「削除」「ここから再生」が選べる。「共有」では、カメラロールに保存する「画像を保存」、アドレス帳のアイコンに設定できる「連絡先に設定」のほか、「コピー」「プリント」がある。
モバイル編集は「基本補正パネル」相当。プリセットも用意
「調整」および「プリセット」については、Lightroom desktopの基本補正パネルと初期状態で登録されている純正のプリセットの内容に準じる。トーンカーブやHSL/カラー/B&W、ディテール、レンズ補正などに相当する項目はないし、円形フィルターや補正ブラシもない。ユーザープリセットもサポートされていない。
操作としては、ホワイトバランスなどのように適用後の雰囲気がつかめるサムネイル付きのリストから選択するか、スライダー上でドラッグするか、という簡単なもの。従来からのLightroom desktopのユーザーならもちろん、初めての人もすぐに使い方を覚えられるだろう。
ここからは少し画像の調整もやってみる。
次は「自動階調」を試してみる。
今度は自動階調を使わずにやってみる。
分かりづらいのは「前へ」という項目で、直前に表示していた画像の調整内容を、現在表示中の画像に適用できるというもので、Lightroom desktopの「写真」メニュー→「現像設定」→「前の設定をペースト」と機能としては同じ。「設定をコピー」「設定をペースト」をセットにして、操作を少し簡略化したような項目である。ニュアンスとしては、「直前の画像の設定を適用」なのだが、「前へ」だけでは意味が通じない気がする(英語版では項目名が「PREVIOUS」になっているので、それを直訳したのだろう)。
もうひとつ、ややこしいのが「初期化」である。「前へ」と同様、「基本補正」と「すべて」のほかに、「書き込むには」というのと「開くには」という項目があって、iPadの言語を英語に切り替えてみると、それぞれ「To Import」と「To Open」なのだが、これはこれで意味が分かりづらい。確認したところ、前者は「読み込み時の状態にリセット」、後者は「開いたときの状態にリセット」ということらしい。
つまり、前者は、Lightroom desktopでの調整後の画像をLightroom mobileで受け取ってからの変更をリセットする項目、後者はその画像を開いてからの直近の変更だけをリセットする項目のようだ(ホワイトバランスと露光量を変更して、別の画像を調整して、それから彩度を変更した場合に、「書き込むには」はホワイトバランス以降の変更がリセット、「開くには」は彩度の変更だけがリセットされる)。
Lightroom desktopにも意味を取り違えているような項目があったりするが、いずれにしても、もう少し分かりやすい日本語を使って欲しいと思う。
「切り抜き」は、縦横比のプリセットがいくつか用意されているほか、比率を維持してトリミングしたり、90度ずつ回転させることもできる。「グリッド表示」も3種類から選べる。使い勝手はおおむねLightroom desktopと同じだ。
編集機能はシンプル。メタデータ編集の強化に期待
Lightroom mobileの現状は、Lightroom desktopで取り込んだ画像の確認(解像度の問題があるので、微細なブレやピントのチェックはできない)、フラグによる分類、コレクションから別のコレクションにコピー/移動による選別がいいところで、おおざっぱな調整の方向性を検討するといった軽作業までならいけるかな、というレベルだ。
それとやはり、凝った画像編集をしようとして厄介な問題は「色」である。なにしろ、iPadにはカラーマネージメント機能がない(ICCプロファイルに対応していない)。キャリブレートされたモニターとは色味もコントラスト再現も違うので、短絡的に断じてしまえば、iPad上で画像の調整を行なうことには大きな意味はないのである。
とはいえ、Lightroomという写真家のためのソフトウェアがiPadに乗ったことは大きいと思う。今のところ、機能はまだ多くないが、操作は簡単だし動作も重くない。これで色の問題がクリアになって(iOSがシステムレベルでカラーマネージメントをやってくれるか、Lightroom mobileがi1などのキャリブレーションツールをサポートしてくれればいいのだが)、出先での画像の取り込みが可能になって、撮ったその場で調整してプリントしたりメールで送信したりといったワークフローが構築できれば、ノートPCはいらなくなるし、作業もシームレスに行なえるようになる。そういうところまで進化していってくれたら楽しいだろう。
個人的には、色の問題をクリアするのは難しそうな気がしているので、どちらかというと、レーティングやカラーラベル、キーワード、ロケーションといったメタデータの編集機能を優先的にやってもらえるとありがたいと思う。