新製品レビュー
FUJIFILM X100S
実用性とこだわりを両立。趣味性を高めた人気モデル後継機
(2013/3/26 00:00)
2011年、富士フイルムXシリーズの先駆けとなったFUJIFILM X100が登場した。ハイブリッドビューファインダーという新機軸、往年のレンジファインダー機を彷彿とさせるデザイン、そしてAPS-Cセンサーとフジノンレンズによる高画質。あのサプライズから2年の時を経て、後継機FUJIFILM X100Sがあらわれた。こだわり派を魅了する進化の数々を見ていこう。
イメージセンサーと画像エンジンを刷新
X100Sの特徴を端的にいうと、“見た目そのまま中身総取っ替え”である。従来機の外観をほぼそのまま踏襲する一方、内部は大幅に改良されている。その象徴ともいえるのがデジタルカメラの心臓部の刷新だ。新型イメージセンサー「X-Trans CMOS II」と新画像エンジン「EXR Processor II」を組み合わせ、画質とパフォーマンスを向上している。
まずX-Trans CMOS IIは、レンズ交換式のX-Pro1やX-E1が採用する有効1,630万画素のローパスレスセンサーで、さらに像面位相差画素を追加した構造になっている。像面位相差AFを採用することで、従来機よりも高速なAF動作を実現した。実際に試用するとキビキビと小気味よく、AF動作でストレスを感じるシーンはあまりなかった。
EXR Processor IIはカメラの俊敏さを向上する。起動時間0.5秒、高速連写6コマ/秒、撮影間隔0.5秒など、総じてカメラの動作が高速化している。試用して特に恩恵を感じたのは起動時間だ。従来機を使っていたときはパワーオンで待つ習慣が身についていたが、X100Sは電源投入後すみやかに撮り出せる。像面位相差AFも相まって、機動力のあるカメラに仕上がっている。
意外と多い外観チューニング
先に外観はほぼそのままと述べたが、ディテールがかなり改良されている。わかりやすいところでは、ファインダー切換レバーの形状が変わって従来機よりも操作しやすくなった。背面ボタンはレイアウト自体は従来機と同様だが、十字カーソルの上ボタンをDRIVEからAFに変更し、右手親指だけでAFエリアを変更できるようになった。また、従来機のRAWボタンはQボタンに変更となり、ワンプッシュでクイックメニューを呼び出せる。ボディ前面の向かって右下に設けられた「S」マーク、軍艦部ロゴの赤い「S」の文字もポイントといえる。
軍艦部のダイヤル類もチューニングが施された。シャッターダイヤルはシャッタースピードとAモードの角度を若干広げ、操作性を向上している。露出補正ダイヤルは従来機よりもトルクが重めになり、誤操作防止に気を配っている。従来機では意図せず露出補正ダイヤルがまわっていることが多かったので、このチューニングはありがたい。
フォーカスモード切換レバーは、従来機がMF→AF-S→AF-Cという並びだったのに対し、X100SはMF→AF-C→AF-Sという並びに変わっている。これは使用頻度の高いAF-SとMFを一気に切り替えできるようにという配慮だ。こうした変更点を列挙してみると、デザインこそ従来機を踏襲しているが、後継機として着実な進化が実感できる。
デジタルスプリットイメージをはじめ多彩なMF機能
ファインダー関係はハイブリッドビューファインダーをそのまま搭載する一方で、MFアシストを強化している。なかでもXシリーズらしさを発揮しているのがデジタルスプリットイメージだ。スプリットイメージは合焦方式のひとつで、左右にズレた像を合わせることでピント調整する。往年の一眼レフにはスプリット用のフォーカシングスクリーンがあり、愛用していた人も少なくないはずだ。
デジタルスプリットイメージは新搭載の像面位相差センサーを活用し、スプリット方式をデジタル再現したものである。MFモードでEVFの中央部に帯状に分断されたモノクロ像があらわれる。この像の左右のズレを合わせると、ピントが合う仕組みだ。最新技術を駆使しながら、ノスタルジックな操作スタイルを再現している点が興味深い。加えて、ピーキング機能も搭載し、これらはMF時にコマンドレバーを長押しすることで切り替えられる。機能を増やすだけでなく、実用スタイルまで想定している点が秀逸だ。
フォーカスリングの操作性も向上している。従来機はフォーカスリングとレンズの動きにタイムラグがあり、ストレスを感じることが多かった。X100Sはフォーカシング用エンコーダーのピッチを狭め、追従性が向上している。速く動かせば焦点が大きく移動し、ゆっくり動かせば小刻みだ。レスポンスも俄然よくなり、トルク感こそ異なるが、MFレンズをフォーカシングしているようなリアリティがある。
小絞りボケを防ぐ点像復元処理
画質向上はX100S最大のアドバンテージといえるだろう。新搭載のX-Trans CMOS IIは、X-Pro1やX-E1と同様のAPS-Cローパスレスセンサーだ。APS-Cセンサーの余力とローパスレスによる解像感の高さは、レンズ交換式のXシリーズで実証済みである。
加えて本機は、EXR Processor IIによる点像復元処理「レンズモジュレーションオプティマイザー」を搭載した。これは回折現象を防ぐ機能である。F8~F16あたりまで絞り込むと、回折現象によって像がボヤけてしまう。そこで本機は、絞り、撮影距離、像高など、撮影条件に応じた点像情報から復元フィルターを作り、これをEXR Processor IIで撮影画像にかけあわせる。こうすることで回折現象が発生する以前のシャープな像を生成するという仕組みだ。
F5.6/F8/F16で撮影した画像を比較すると、F8でわずかに像が甘くなるものの、F16まで絞っても像のシャープさはさほど変化しない。通常は絞り込むほどに像が甘くなるので、点像復元処理の効果を実感できる結果といえるだろう。
X-Trans CMOS IIは高感度撮影の低ノイズ化にも貢献している。ISO感度を一段ずつ上げて撮影したところ、ISO3200まではさほどノイズは感じられず、ISO6400でいくぶんディテールが甘くなる程度だ。ISO12800以上はさすがにノイジーだが、ISO6400までなら常用できるだろう。
仕上がりモードに相当するフィルムシミュレーションは、新たにPRO Neg.StdとPRO Neg.Hiが加わった。既存のフィルムシミュレーションに比べて発色が渋めで、PRO Neg.Stdは軟調テイスト、PRO Neg.Hiはコントラストが強めになっている。オールドライカレンズで撮ったような心持ちノスタルジックなテイストだ。
また、新たにアドバンストフィルターを搭載し、全8タイプのエフェクトが適用できる。トイカメラ、ミニチュア、ダイナミックトーンなど、積極的に画像加工するエフェクトがそろっている。Fnボタンにアドバンストフィルターを割り当てておくと、一発呼び出しができて便利だ。
トルクフルな低速域を楽しむフィーリング
オートバイの世界には、「低速がより楽しい」というフィーリングがある。基本的に、オートバイはスピードこそが正義だ。しかし、スピードがそこそこであっても、低速がトルクフルであればそのフィーリングを楽しもうというとらえ方だ。絶対的なパフォーマンスだけでなく、アナログフィーリングも含めた評価軸である。X100Sは、そんな低速がより楽しいタイプのオートバイに似ている。
そもそも従来機のX100は、OVFとEVFをスイッチングするきわめて趣味性の高いカメラだった。後継機であるX100Sは、その趣味性の高さをさらに昇華している。画質とパフォーマンスの向上が本機の特徴だが、デジタルスプリットイメージ、ピーキング、追従性の向上したピントリングなど、MF操作がとにかくおもしろい。カメラを操ることに楽しさを感じられるのであれば、X100Sの魅力をより実感できるだろう。
実写サンプル
- ・作例のサムネイルをクリックすると、リサイズなし・補正なしの撮影画像をダウンロード後、800×600ピクセル前後の縮小画像を表示します。その後、クリックした箇所をピクセル等倍で表示します。
- ・縦位置で撮影した写真のみ、無劣化での回転処理を施しています。
・ISO感度
・アドバンストフィルター
・フィルムシミュレーション
・作例
【17時15分】MF操作感に関する「X100Sはレンズ内部のレフレクター方式のピッチを狭め、」との表現を「X100Sはフォーカシング用エンコーダーのピッチを狭め、」に改めました。また、続く「速く動かせば焦点距離が大きく移動し」との記述を「速く動かせば焦点が大きく移動し」に修正しました。