【新製品レビュー】カシオHIGH SPEED EXILIM EX-ZR10

〜「HDRアート」搭載の個性派スリム機
Reported by 北村智史

 有効1,210万画素の裏面照射型CMOSセンサーに、28mm相当(35mm判換算、以下同)からの光学7倍ズーム、最新スペックの「EXILIMエンジンHS」を搭載。同時発表の「EXILIM Hi-ZOOM EX-H20G」にもある「超解像」技術を利用した「超解像ズーム」に加えて、連写+合成による「マルチ超解像ズーム」や「HDR(ハイダイナミックレンジ)」、「HDRアート」機能を備えている。

 大手量販店の店頭価格は3万9,800円程度。カラーバリエーションはシルバーとブラックの2色がある。


スリムボディに28mm相当からの光学7倍ズーム

 デザインの系統は2009年11月発売の「EX-FC150」などと同じで、スリムかつフラットで角を丸くした石けん型のフォルムを採用。搭載レンズは37-185mm相当の光学5倍ズームから、28-196mm相当の光学7倍ズームにスペックアップ。開放F値はF3-5.9と、望遠側が暗くなってしまったが、ボディの奥行きは28.8mmから27.4mmへとスリムになっている。

 液晶モニターが2.7型から3型になり、解像度も23.04万ドットから46.08万ドットに上がっている。そのせいもあってか、背面右手側の操作部はやや窮屈になった印象も受ける。「BS(ベストショット)」ボタンがなくなったし(「SET」ボタン押しで表示される「操作パネルから設定するようになった)、「MENU」ボタンも小さくなった。

 記録メディアはSDXC/SDHC/SDメモリーカードのほか、62.1MBの内蔵メモリを備える。実写でのファイルサイズは1,200万画素記録の高精細画質で平均約5.8MBだった。

 電源は薄型のリチウムイオン電池で容量は1,200mAh。CIPA基準の撮影可能コマ数は約290コマ。実写では200コマを超えたあたりで電池の残量マークがひとコマ減ったくらいだった(ストロボは非発光)。1日の撮影量が多い人なら予備の電池を用意したほうがいいかもしれない。

28-196mm相当の光学7倍ズームを搭載。開放F値は少し暗め。手ブレ補正はセンサーシフト式だ背面の操作部。液晶モニターが大型化した影響もあってか、「BS」ボタンが消え、「MENU」ボタンも小さくなった
「SET」ボタン押しで表示される「操作パネル」。空いている部分は高速連写やハイスピードムービー撮影時などにだけ表示される「BS(ベストショット)」の画面。「操作パネル」から呼び出す仕様に変更された
記録メディアは内蔵メモリが62.1MBとSD/SDHC/SDXCメモリーカード。電源は容量1,200mAhの「NP-110」を使用する
上面にはステレオマイクを装備。「AUTO」ボタンを押すと全自動の「プレミアムオート」に切り替わる「プレミアムオート」は、顔検出をはじめ、さまざまな情報を解析して最適な撮影設定、画像処理を行なうものだ

連写合成を活用した「マルチ超解像ズーム」「HDR」「HDRアート」

 目玉機能のひとつは「超解像ズーム」。デジタルズームと「超解像」技術を組み合わせたタイプ(先日レビューした「EX-H20G」と同じヤツ)が「シングル超解像ズーム」として装備されているほか、連写した4コマの画像を合成することでさらに画質劣化を抑えた「マルチ超解像ズーム」を装備。

 画質劣化を抑えられるズーム倍率は記録画素数によって異なり、「シングル超解像ズーム」は4,000×3,000ピクセル記録で10.5倍まで、「HSベストショット」から設定する「マルチ超解像ズーム」は3,648×2,736ピクセル記録で14倍までとなる。

「連続撮影切替」ボタンで「HSベストショット」メニューが呼び出せる「HSベストショット」のモード選択画面
「1」は通常の静止画撮影で、「2」が高速連写。連写スピードや撮影枚数などの設定が可能だ連写+合成によって画質劣化を抑えつつ望遠側を拡張できる「マルチ超解像ズーム」
撮影設定の「シングル超解像ズーム」は従来どおりのワンショットタイプ。デジタルズームと「超解像」技術を組み合わせたものだ光学ズームのみで望遠側にめいっぱいズームした状態。ちなみに、外側の薄いマスクは動画の撮影範囲を示している
「マルチ超解像ズーム」設定時の画面。緑の三角が光学ズームの望遠端で、14倍より右側はデジタルズームの領域を示す

 もうひとつの目玉機能が「HDR」。露出を変えて連写した3コマの画像を合成してダイナミックレンジを拡張する手法はおなじみのもので、最大13EVものダイナミックレンジを得られるとのこと。逆光などで白トビや黒ツブレが避けられないシーンで使うとものすごく効果的。ある程度カメラや写真の知識がある人が見れば合成による「HDR」イメージだと気づくだろうが、パッと見で不自然に感じるようなことはない。

3コマの連写画像を合成することで広いダイナミックレンジが得られる「HDR」

 それに加えて、本機ならではの機能として搭載されているのが「HDRアート」だ。「HDR」同様に画像合成を行なうが、その際に部分的に彩度やコントラストを調整することによってアーティスティックな効果を得るもの。テイスト的にはオリンパス「E-5」に搭載されている「ドラマチックトーン」に似ている感じもするが、仕上がりの雰囲気はずいぶん違う。ワンショットと複数コマ合成の差もあるだろうが、味付けの違いも大きい。

アーティスティックな表現が楽しめる「HDRアート」

 ただしHDR、HDRアートのどちらも、連写+合成処理が必要な関係で、ライブビュー時には効果を見られないし、ユーザーによる微調整もできない(その分、どんな写りになるかがわからないワクワク感が味わえるとも言えるし、一発勝負的潔さもある)。画角も少し狭くなる。また、撮影後の合成処理に時間がかかるのも我慢しなくてはならない。とは言え、1コマの画像から暗部補正や明部補正を行なう「ライティング」では得られないリアルなダイナミックレンジの広さは魅力だし、手持ち撮影でも利用できる気軽さもうれしい。


まとめ

 スリムなボディに28mm相当からの光学7倍ズームというだけでも十分に買えるスペックだが、「超解像ズーム」を使えばさらに望遠側を伸ばすこともできるし、「HDR」や「HDRアート」も面白い。ほかにも、フルHDからハイスピードまでの動画機能、高速連写、「スライドパノラマ」など、機能は盛りだくさん。カメラと写真で遊ぶのが好きな人にはおすすめの1台だ。

十字キーの左右に「EVシフト(露出補正)」を割り当てられる。「操作パネル」を呼び出さないといけない「EX-H20G」よりずっと快適動画の解像度の設定。なぜか「HD(1,280×720ピクセル)」がない。「HS」が付いているのはハイスピードムービーモードだ
こちらは動画撮影中の画面。静止画よりも少し画角が狭くなる再生時の画面。拡大は最大8倍まで。ヒストグラムなどの撮影データ抜きのシンプルなものももちろんある
一覧表示(インデックス表示)は25コマのみという割り切った仕様となっている。連写+合成で超横長のパノラマ画像が楽しめる「スライドパノラマ」

実写サンプル

  • 作例のサムネイルをクリックすると、リサイズなし・補正なしの撮影画像をダウンロード後、800×600ピクセル前後の縮小画像を表示します。その後、クリックした箇所をピクセル等倍で表示します。

・光学ズームと超解像ズーム

 光学7倍の望遠端(196mm相当)に対して、「シングル超解像ズーム」は1.5倍(合成で10.5倍)、「HSベストショット」の「マルチ超解像ズーム」では2倍(合成で14倍)までの望遠撮影が可能となる。

「シングル」と「マルチ」の画質の違いを比較する意味合いで、「シングル」の望遠端と、ほぼ同じ倍率の「マルチ」も撮影してみた。どちらも木の枝などは作りものっぽい描写になってしまっているが、「マルチ」のほうがディテールの再現がいい。

 ただし、「マルチ」は「HSベストショット」のモードのひとつということもあって、ホワイトバランスや感度は自動的にオートに切り替わる。モード切り替え後に手動で設定することはできるが、電源を切るとまたオートに戻ってしまう。そのため、曇りなどのあまり明るくない条件では感度アップの分だけ画質が悪くなってしまうケースもある。

光学ズームの広角端
EX-ZR10 / 4,000×3,000 / 1/250秒 / F3 / 0.3EV / ISO100 / WB:太陽光 / 5mm(28mm相当)
望遠ズームの望遠端
EX-ZR10 / 4,000×3,000 / 1/20秒 / F5.9 / -0.7EV / ISO100 / WB:太陽光 / 35mm(196mm相当)
シングル超解像の望遠端
EX-ZR10 / 4,000×3,000 / 1/20秒 / F5.9 / -0.7EV / ISO100 / WB:太陽光 / 35mm(196mm相当)
マルチ超解像(10.5倍)
3,648×2,736 / 1/20秒 / F5.9 / -0.7EV / ISO100 / WB:太陽光 / 35mm(196mm相当)
マルチ超解像の望遠端
3,648×2,736 / 1/25秒 / F5.9 / -0.7EV / ISO100 / WB:太陽光 / 35mm(196mm相当)

・HDR、HDRアート、ライティング

 1コマ撮りで暗部補正を行なう「ライティング」は処理が軽く、画角も変化しないのが強み。一方、「HDR」は画面が若干狭くなるのが残念な反面、暗部を持ち上げる効果はぐっと高いし、解像感もいい。処理待ちの時間が苦にならないなら使いでのある機能と言える。

「HDRアート」は普通の見え方とはまったく違って、なかなかに楽しめる。ライブビュー時には効果は読めないが、その分仕上がりを見る楽しさもある。「HDR」同様、処理待ち時間が長いのはもうひとつな点だが、普通のカメラでは撮れない映像が簡単に撮れるのは文句なしに面白い。

 ただし、「マルチ超解像ズーム」同様、モード切り替え時や電源オフでホワイトバランスや感度の設定がオートに戻ってしまう仕様は個人的には好きになれない。

通常撮影
EX-ZR10 / 4,000×3,000 / 1/100秒 / F8.8 / 0EV / ISO100 / WB:太陽光 / 5mm(28mm相当)
ライティング
EX-ZR10 / 4,000×3,000 / 1/100秒 / F8.8 / 0EV / ISO100 / WB:太陽光 / 5mm(28mm相当)
HDR
3,648×2,736 / 1/640秒 / F3 / 0EV / ISO100 / WB:太陽光 / 5mm(28mm相当)
HDRアート
3,648×2,736 / 1/1000秒 / F3 / 0EV / ISO100 / WB:太陽光 / 5mm(28mm相当)

・感度

 感度面で有利な裏面照射型CMOSセンサーを搭載してはいるものの、ベース感度はISO100で一般的なレベル。最高感度はISO3200となっている。

感度の設定範囲はISO100-3200。裏面照射型のセンサーだが、ベース感度は一般的なレベルだ。

 ピクセル等倍で見てまったく不満を感じないのはISO200止まり。ノイズよりもノイズ処理の悪影響のせいでディテール再現が悪くなるのが気になる部分で、ISO400でも細かい部分にもやがかかったようになってしまう。ただ、あまり大きなサイズにプリントしないのであれば、ISO800でもまずまず見られる画面になるし、小サイズならISO1600でも許容できるかもしれない。

ISO100
EX-ZR10 / 4,000×3,000 / 1/13秒 / F3 / -0.3EV / WB:太陽光 / 5mm(28mm相当)
ISO200
EX-ZR10 / 4,000×3,000 / 1/30秒 / F3 / -0.3EV / WB:太陽光 / 5mm(28mm相当)
ISO400
EX-ZR10 / 4,000×3,000 / 1/50秒 / F3 / -0.3EV / WB:太陽光 / 5mm(28mm相当)
ISO800
EX-ZR10 / 4,000×3,000 / 1/125秒 / F3 / -0.3EV / WB:太陽光 / 5mm(28mm相当)
ISO1600
EX-ZR10 / 4,000×3,000 / 1/250秒 / F3 / -0.3EV / WB:太陽光 / 5mm(28mm相当)
ISO3200
EX-ZR10 / 4,000×3,000 / 1/400秒 / F3 / -0.3EV / WB:太陽光 / 5mm(28mm相当)

・カラーフィルター
カラーフィルター:オフ
EX-ZR10 / 4,000×3,000 / 1/200秒 / F11.3 / -0.7EV / ISO100 / WB:オート / 12.9mm(73mm相当)
カラーフィルター:白黒
EX-ZR10 / 4,000×3,000 / 1/250秒 / F11.3 / -0.7EV / ISO100 / WB:オート / 12.9mm(73mm相当)
カラーフィルター:セピア
EX-ZR10 / 4,000×3,000 / 1/250秒 / F11.3 / -0.7EV / ISO100 / WB:オート / 12.9mm(73mm相当)
カラーフィルター:赤
EX-ZR10 / 4,000×3,000 / 1/320秒 / F11.3 / -0.7EV / ISO100 / WB:オート / 12.9mm(73mm相当)
カラーフィルター:緑
EX-ZR10 / 4,000×3,000 / 1/200秒 / F11.3 / -0.7EV / ISO100 / WB:オート / 12.9mm(73mm相当)
カラーフィルター:青
EX-ZR10 / 4,000×3,000 / 1/250秒 / F11.3 / -0.7EV / ISO100 / WB:オート / 12.9mm(73mm相当)
カラーフィルター:黄
EX-ZR10 / 4,000×3,000 / 1/250秒 / F11.3 / -0.7EV / ISO100 / WB:オート / 12.9mm(73mm相当)
カラーフィルター:ピンク
EX-ZR10 / 4,000×3,000 / 1/320秒 / F11.3 / -0.7EV / ISO100 / WB:オート / 12.9mm(73mm相当)
カラーフィルター:紫
EX-ZR10 / 4,000×3,000 / 1/250秒 / F11.3 / -0.7EV / ISO100 / WB:オート / 12.9mm(73mm相当)

・作例
画面周辺部は多少落ちる傾向があるが、中心部の解像力はなかなかのもの。天気のいい野外であれば、素晴らしくシャープに撮れる
EX-ZR10 / 4,000×3,000 / 1/100秒 / F12.6 / 0.7EV / ISO100 / WB:オート / 19.1mm(108mm相当)
道ばたに駐めてあったバイクのスピードメーター。ピクセル等倍で見ると、塗装にひびが入っているのが見えたりする
EX-ZR10 / 4,000×3,000 / 1/400秒 / F3 / -0.7EV / ISO100 / WB:オート / 5mm(28mm相当)
広角端ではレンズ前2cmまで寄れる。切り替え操作なしでマクロ域まで一気に寄れるのは便利だ
EX-ZR10 / 4,000×3,000 / 1/100秒 / F3 / -1EV / ISO100 / WB:オート / 5mm(28mm相当)
ジェットスキー禁止、上空高注意(桁下注意の水上版らしい)という標識がめずらしかったので撮ってみた
EX-ZR10 / 4,000×3,000 / 1/125秒 / F8.8 / 0EV / ISO100 / WB:オート / 5mm(28mm相当)
「EX-H20G」もそうだが、歪曲収差の補正はリアルタイムでやっているらしく、広角端でもすっきりした写りが楽しめる
EX-ZR10 / 4,000×3,000 / 1/250秒 / F8.8 / 0.3EV / ISO100 / WB:オート / 5mm(28mm相当)
駒形橋の近くで見かけた風車。何のためのものかはわからないけど、雲がほどほどに出ていたので画面に入れてみた
EX-ZR10 / 4,000×3,000 / 1/500秒 / F3 / 0EV / ISO100 / WB:オート / 5mm(28mm相当)
500m超え目前だったころのスカイツリー。クレーンの描写とかは、コンパクトカメラとしてはなかなかいいレベルだと思う
EX-ZR10 / 4,000×3,000 / 1/100秒 / F4.8 / 0EV / ISO100 / WB:オート / 23.8mm(135mm相当)
ここからは「HDRアート」で撮ったもの。被写体が動いている場合は、その部分だけは合成なしで処理するらしく、走る電車も問題なしだった
3,648×2,736 / 1/50秒 / F3 / 0EV / ISO400 / WB:オート / 5mm(28mm相当)
パチンコ屋さんの店先に置かれていたスノーマン
3,648×2,736 / 1/80秒 / F3 / 0EV / ISO500 / WB:オート / 5mm(28mm相当)
シュールな発色になる分、感度アップによる画質の劣化はそんなに気にならない感じがする。
3,648×2,736 / 1/40秒 / F3 / 0EV / ISO800 / WB:オート / 5mm(28mm相当)
コントラストが低いシーンでも、彩度がかなり高くなるので面白い画面になってくれる
3,648×2,736 / 1/125秒 / F3 / 0EV / ISO100 / WB:オート / 5mm(28mm相当)
上の2枚の葉は風で揺れていたので少しブレている。合成だけにやはり風の影響は問題なようだ。
3,648×2,736 / 1/160秒 / F3 / 0EV / ISO100 / WB:太陽光 / 5mm(28mm相当)
横位置で撮った「スライドパノラマ」。太陽が写っている部分だけ少し露出が違っているが、それほど気にはならないだろう
11,520×1,080 / 1/250秒 / F8.8 / 0EV / ISO125 / WB:オート / 5mm(28mm相当)

・動画

 動画機能はフルHD解像度で30fps。動画撮影中のズームも可能で、ゆっくりやればピントも自動的に追従してくれる。

1,920×1,080 / 30fps / H.264 / WB:太陽光




北村智史
北村智史(きたむら さとし)1962年、滋賀県生まれ。国立某大学中退後、上京。某カメラ量販店に勤めるもバブル崩壊でリストラ。道端で途方に暮れているところを某カメラ誌の編集長に拾われ、編集業と並行してメカ記事等の執筆に携わる。1997年からはライター専業。2011年、東京の夏の暑さに負けて涼しい地方に移住。地味に再開したブログはこちら

2010/12/17 00:00