ニコンD700【第14回】

ずっしり重いけど、写りはすごいシグマ85mm F1.4

Reported by 北村智史


 D700用の中望遠は純正で、と思っていたのが、AF-S NIKKOR 85mm F1.4 Gの価格に血の気が引いてしまった結果、日和見的にシグマ85mm F1.4 EX DG HSMである。などと書いたらシグマに失礼だが、実はFXフォーマットで使えるAFの中望遠レンズのうちで2番目に安いのがこれなんである。ちなみに一番安いのはニコン純正のAi AF Nikkor 85mm F1.8 Dである。

 シグマの85mm F1.4が安いといっても税込みで10万円を少し切るくらい。大手量販店の店頭価格も今のところは8万9,800円程度で、ひょいっと買える品物でないのは確かだが、それでも純正の85mm F1.4 Gに比べれば半額以下。お買い得感はある。

 現物はというと、やっぱりでかいです。まあ、シグマの場合、50mm F1.4 EX DG HSMという、比較的巨大なレンズもあったりするので、このサイズにはあんまり驚いたりはしない。それに、純正の85mm F1.4 Gだってたいして変わりはない。スペック上はシグマ85mm F1.4 EXが3.6mm長いことになっているが、公称値の基準になっているシグママウントよりもニコンFマウントのほうがフランジバックが長いため、シグマ85m F1.4 EXのほうが1mmほど長いだけということになる。

 フィルター径は77mm。前玉側から見ると、ほとんど枠いっぱいがガラスである。当然、中身もガラスがいっぱい。なので、とても重い。重量は725g。純正の85mm F1.4 Gより130gも重いというのはちょっとすごい。

 筆者の手もとにあるデータの中では、85mm F1.4で725gは歴代3番目の重さである。トップの2本はすでに生産が終了しているので、現行レンズではもっとも重いことになる(1本は、コニカミノルタのAF 85mm F1.4G(D)Limitedという限定バージョンでこれが755g、もう1本はコンタックスNマウントのプラナーT*85mm F1.4でこちらは810g)。

 ただでさえ重たいD700をさらに重くするMB-D10なんかをわざわざ付けているところに、よりによって現行85mm F1.4で最重量のシグマ85mm F1.4 EXである。かっこうのよさはばっちりなのだけれど、ばりばりに重い。EN-EL3e×1本の最軽量バージョンでも2,085g。エネループ×8本仕様なら2,200gにもなる。

シグマ85mm F1.4 EX DG HSM。725gという重さがいちばんの泣きどころかも。ちなみに、ニコンのリアキャップに変えてます

 とはいえ、写りはばっちり素晴らしい。さすがに絞り開放はアマさもあるが、周辺部でもそこそこ解像しているのは見事。開放から1段、また1段と絞るごとに解像力が上がっていき、F5.6あたりでピークという感じ。周辺光量低下も絞り開放では目立つものの、F2でかなり改善されるし、F2.8なら気にせず使えると思う(きっちり均一にしたければF5.6まで絞らないといけないけど)。

 絞りは9枚羽根の円形絞りで、F2.2あたりまではかなりいい感じで丸い。F2.8でも形のはっきりした点光源ボケが入らなければ絞りの形が気になることはないだろう。ボケ自体もエッジのきつくないやわらかな感じで、前ボケ、後ボケともに自然できれい。

 フォーカスリングは動かしはじめだけ少し貼り付いたような感じの硬さがあるが、それは最初だけで、一度動かしてやれば後はスムーズに回ってくれる(で、時間が経つとまた貼り付いたような感じが出るんですけどね)。個人的にはもう少ししっとり感があるとうれしいのだけれど、AFレンズにそこまで求めるのは酷だろう。

 AF駆動は超音波モーター(HSM)で、フルタイムMFが使える。D700のファインダーだとボケはいまいち読みづらいけれど、ピントの山だけはつかみやすいので、MFでも安心して使える。AFの精度に問題はないけれど、このクラスのレンズだとどうしても合焦後の微調整がしたくなってしまう。そういうシーンでパッとMFに移行できるかどうかというのはとても大切だと思う。

 あと、面白いのがフードアダプターというのが付属していること。より望遠よりに画角がシフトするAPS-Cサイズ機向けに、フードの有効長を延長するためのもの。これを使うと、撮影時のサイズは36mm長くなる。偉そう度がアップする分かさばるので、ハンドリングの面ではちょっとなぁ、という気もしないではないし、装着したままだとレンズキャップの着脱ができないという不便もあったりするが、有害光をより効果的にカットできるのだから感謝すべきだろう。

 筆者としては、ちょっと重すぎてしんどいなぁと思う気持ちもあるけれど、そこのところさえなんとかできるなら、肩凝りを我慢する甲斐のあるレンズといっていい。おすすめのレンズだ。

付属のフードは花形で長さもまずまず。レンズ鏡胴に対して太すぎないので、カメラバッグへの収納性は悪くはないAPS-Cサイズ機の画角に対応するフードアダプターも装着したところ。こういうのが付属しているのはいいと思う(D700には関係ないですけど)
  • 作例のサムネイルをクリックすると、リサイズなし・補正なしの撮影画像をダウンロード後、別ウィンドウで800×600ピクセル前後の縮小画像を表示します。その後、クリックした箇所をピクセル等倍で表示します。

・絞りによる画質の変化

 絞り開放はさすがにアマい描写だが、四隅でも思っていたより解像している。周辺光量もだだ落ちじゃないので、けっこう思い切って使えそうな感じ。ボケをいかして画をつくるんだとF2からF2.8あたりがおいしそうだし、風景的にはF5.6、F8くらいまで絞ると四隅までキリッと締まっていい感じになる。なお、左右の上隅の枝は手前に生えている木のものなので、ピントは合ってない。ボケているのはレンズのせいじゃないのでご注意いただきたい。

F1.4
D700 / 85mm F1.4 EX DG HSM / 4,256×2,832 / 1/5,000秒 / 0EV / ISO200 / 絞り優先AE / WB:晴天
F2
D700 / 85mm F1.4 EX DG HSM / 4,256×2,832 / 1/2,500秒 / 0EV / ISO200 / 絞り優先AE / WB:晴天
F2.8
D700 / 85mm F1.4 EX DG HSM / 4,256×2,832 / 1/1,250秒 / 0EV / ISO200 / 絞り優先AE / WB:晴天
F4
D700 / 85mm F1.4 EX DG HSM / 4,256×2,832 / 1/500秒 / 0EV / ISO200 / 絞り優先AE / WB:晴天
F5.6
D700 / 85mm F1.4 EX DG HSM / 4,256×2,832 / 1/250秒 / 0EV / ISO200 / 絞り優先AE / WB:晴天
F8
D700 / 85mm F1.4 EX DG HSM / 4,256×2,832 / 1/160秒 / 0EV / ISO200 / 絞り優先AE / WB:晴天
F11
D700 / 85mm F1.4 EX DG HSM / 4,256×2,832 / 1/80秒 / 0EV / ISO200 / 絞り優先AE / WB:晴天
F16
D700 / 85mm F1.4 EX DG HSM / 4,256×2,832 / 1/40秒 / 0EV / ISO200 / 絞り優先AE / WB:晴天

・作例
ズームと違って神経質なボケ方になってないのが単焦点らしいところ。って、この明るさのズームなんてほとんどありませんけど
D700 / 85mm F1.4 EX DG HSM / 4,256×2,832 / 1/60秒 / F2.2 / -1.3EV / ISO200 / 絞り優先AE / WB:晴天
ある程度ファインダー性能の高いカメラでないと、絞り開放付近のピントのコントロールは難しい。D700でよかったなぁと思う
D700 / 85mm F1.4 EX DG HSM / 4,256×2,832 / 1/80秒 / F2 / 0EV / ISO200 / 絞り優先AE / WB:晴天
ピントが合ってないところのふわっと感がいい。このレンズでポートレートを撮ったら幸せな気分になれそうな気がする
D700 / 85mm F1.4 EX DG HSM / 4,256×2,832 / 1/250秒 / F2 / -1.3EV / ISO200 / 絞り優先AE / WB:晴天
最短撮影距離は0.85mで、このクラスでは標準的。そこまで寄ってないかもしれないけど、近接でもまずまず以上のシャープさだ
D700 / 85mm F1.4 EX DG HSM / 4,256×2,832 / 1/500秒 / F2 / -2.3EV / ISO200 / 絞り優先AE / WB:晴天
ズームだったら三脚なしではつらいシーンでも1/60秒で切れてしまう。絞りを開いて使えるレンズって幸せ。重いのは難点だけど
D700 / 85mm F1.4 EX DG HSM / 4,256×2,832 / 1/60秒 / F2 / -1.7EV / ISO200 / 絞り優先AE / WB:オート
ベース感度が高めのD700だけに、シャッター速度はばんばん上がる。最高1/8,000秒ってありがたいスペックなんだと再認識した
D700 / 85mm F1.4 EX DG HSM / 4,256×2,832 / 1/3,200秒 / F2 / -1EV / ISO200 / 絞り優先AE / WB:晴天
左側の草のボケ方がちょっとざわざわした感じに見えるけれど、ほかの部分は自然で悪くないと思う
D700 / 85mm F1.4 EX DG HSM / 4,256×2,832 / 1/200秒 / F2.8 / -2EV / ISO200 / 絞り優先AE / WB:晴天
カラフルな自転車を見つけたので1枚
D700 / 85mm F1.4 EX DG HSM / 4,256×2,832 / 1/125秒 / F1.8 / 0EV / ISO200 / 絞り優先AE / WB:晴天
遠景なのでちょっと絞り気味。といってもズームの開放F値と大差なかったりする。単焦点だから有利なのは当然だけど、歪曲がないのもいい
D700 / 85mm F1.4 EX DG HSM / 4,256×2,832 / 1/1,250秒 / F4.5 / -0.7EV / ISO200 / 絞り優先AE / WB:晴天
だいたいF2.2あたりまでは絞りの形がきれいな円形になってくれる。点光源ボケもきれいに丸い
D700 / 85mm F1.4 EX DG HSM / 4,256×2,832 / 1/250秒 / F2.2 / -1.3EV / ISO200 / 絞り優先AE / WB:晴天


北村智史
北村智史(きたむら さとし)1962年、滋賀県生まれ。国立某大学中退後、上京。某カメラ量販店に勤めるもバブル崩壊でリストラ。道端で途方に暮れているところを某カメラ誌の編集長に拾われ、編集業と並行してメカ記事等の執筆に携わる。1997年からはライター専業。2011年、東京の夏の暑さに負けて涼しい地方に移住。地味に再開したブログはこちら

2010/12/6 00:00