ソニーサイバーショットDSC-HX5V【第4回】

ホント萌えました! 初工場萌え〜

Reported by奥川浩彦


 筆者が鈴鹿サーキットに通い出したのは1983年からで、間もなく30年になる。主に国道23号線を通り、鈴鹿市の手前にある四日市市は何度も通過してきた。そのため、はるか以前から四日市のコンビナート群の夜景は綺麗だと思っていたが、いつ頃かわからないが「工場萌え」という言葉を耳にするようになり、あらためて「やっぱ綺麗だよね」とより意識して通るようになった。特に国道23号線の昌栄町から海山道一(丁目)まで2km弱の大陸橋から海側に見える工場群は絶景だと思っていた。

 DSC-HX5Vのレビューを書くことになり、最初に浮かんだテーマが岐阜の桜と四日市の工場萌えだった。桜の方は昨年撮っているので多少はノウハウがあったが、工場はまったくの初心者。何処へ行って、どう撮ったらいいかを空いた時間に調べることから始めた。

 四日市には絵になりそうな工場群が多数あるが、目星を付けたのは鈴鹿川の北に位置する昭和四日市石油、中部電力塩浜変電所、三菱化学、三滝川の北に位置するコスモ石油、霞ヶ浦緑地の東に位置する協和油化だ。

 国道23号線や県道6号線を通る際に、横目でチラっと見る程度で近くへ行ったこともないし、撮影ポイントが何処にあるかわからない。まずは下見がてらデジカメを持ってロケハンを行くことにした。

 最初の撮影は4月17日、フォーミュラーニッポン開幕戦の取材の帰りに鈴鹿川の堤防を走ってみた。ここは夜釣りのスポットらしく数十台の車が堤防に駐車していた。工場の敷地に沿って一往復、工場は基本的に樹木に囲まれていて、その隙間から撮影することになりそうだ。最初の撮影は昭和四日市石油の入り口付近とした。守衛の方と話しをすると「タンクローリーが出入りするので、車を遠くに駐めて欲しい。あとはご自由に撮ってください」とのこと。おそらく多くの人が撮りに来るのだろう。

 すでに日没は過ぎていたので、薄暮の空をバックにシルエットで撮ってみた。「これではまだ萌えないなぁ」といった印象。場所を移動し、木々の隙間を見つけて再び撮影。暗くなるとDSC-HX5Vはなかなかピントが合わない。長時間露光がしたいので、マニュアルモードで撮りたいのだが上手くいかない。

 あれこれ試すうちにDSC-HX5Vのくせを発見した。マニュアルモードは30秒までの設定ができるはずなのだが、ブラケットがオンになっていると1/4秒までしか設定ができない。このあたりは取説をチラッと見ただけではよくわからない。DSC-HX5Vというかサイバーショットは何かを設定すると、他の機能が制限されることが多い。ブラケットの場合はISO感度の設定に制限があるのは知っていたので、今回は現場ですぐに気付くことができた。

  • 作例のサムネイルをクリックすると、リサイズなし・補正なしの撮影画像を別ウィンドウで表示します。
日没後の空をバックにシルエットで撮影。萌えません
DSC-HX5V / 約3.3MB / 2,736×3,648 / 1/60秒 / F4.5 / -0.3EV / ISO125 / WB:オート / 13.1mm
暗い被写体はピントが合わない
DSC-HX5V / 約3.1MB / 3,648×2,736 / 1/2.5秒 / F5 / 0EV / ISO125 / WB:オート / 21.8mm

 ちなみにカタログや取り扱い説明書では見つけられなかったが、筆者が試したところ、各モードのシャッター速度の下限は、おかませオートは広角端で1/4秒、望遠端で1/8秒、プログラムオートは1秒、手持ち夜景は広角端で1/4秒、望遠端で1/13秒、夜景モードは2秒となっている。

 この日は4月としては珍しく、東京では雪が降るほどの寒さだった。ここ四日市でも風も強く手がかじかむ中、ピントが合わない被写体にイライラしながの撮影となった。シャッターボタンを半押ししてもまったくピントが来ないことがしばしば、それでも何とか撮った17枚のうち、ピントが合っていたのは5枚だけだった。

 場所を移動すると少し明るい被写体を発見。これより先立ち入り禁止の看板の社名は中部電力になっていた。どこまでが昭和石油でどこからが中部電力なのかはわからなかった。そもそも目の前にある設備が何をするものかもサッパリわからない。マニュアルモードで露出時間をあれこれ変えながら撮影、3秒くらいにするといい感じ。チョット萌えてきました。再び堤防に戻って遠くから工場を撮影。ここでもピンボケと格闘しながら撮影をしてこの日は終了。

明るい被写体はピントOK。明るめに撮ると萌えそう
DSC-HX5V / 約3.9MB / 3,648×2,736 / 3秒 / F5 / 0EV / ISO125 / WB:オート / 15.0mm
堤防からの撮影もピントが厳しい
DSC-HX5V / 約3.5MB / 3,648×2,736 / 1.6秒 / F4.5 / 0EV / ISO125 / WB:オート / 11.5mm

 2回目は4月21日、鈴鹿サーキットの各スタンドからパノラマ写真を撮る仕事を終え、再び同じ場所へ。今回は作戦を変え、暗くなってしまうと工場設備がよく見えないので明かりが残るうちに下見と割り切って撮影。すぐに他の撮影ポイントを探すために移動した。

 工場群に沿って県道6号線を北上、天白川の川沿いを東に入って樹木の隙間に撮影ポイントを見つけた。おそらくここは三菱化学だと思われる。数枚撮ってすぐに移動、次は霞ヶ浦公園だ。公園内にある四日市ドームのあたりから、対岸にある工場を撮影。煙突から噴き出す炎が水面に反射していたので、縦位置で撮ってみた。ロケハン2回目はこれで終了だ。

明るい時間に被写体を観察するために撮影
DSC-HX5V / 約3.8MB / 3,648×2,736 / 1/320秒 / F4 / +1.3EV / ISO125 / WB:オート / 5.6mm
暗くなる前に構図などを研究した方がいい
DSC-HX5V / 約3.6MB / 3,648×2,736 / 1/200秒 / F4.5 / +1EV / ISO125 / WB:オート / 12.9mm
樹木の隙間から撮影ポイントを探し出す
DSC-HX5V / 約4.2MB / 2,736×3,648 / 1/25秒 / F5 / 0EV / ISO200 / WB:オート / 24.4mm
炎を意識して縦位置で撮影
DSC-HX5V / 約3.6MB / 2,736×3,648 / 1/10秒 / F5 / 0EV / ISO1,000 / WB:オート / 16.7mm

 3回目は4月24日の土曜日。鈴鹿サーキットのパノラマ撮影に向かう途中で、三滝川の堤防から北側のコスモ石油を撮ってみた。スイングパノラマで撮った画像の左に見える橋が国道23号線、右側の橋は工場間を結ぶ道で、堤防の途中で通行止めとなる。

 この日のサーキットの撮影仕事は早めに終わったので、明るいうちから各所を撮影、霞ヶ浦公園でも対岸をパノラマ撮影、さらに対岸に移動して近くから何カ所か撮影してみた。尺取り虫の様に撮っては移動を繰り返したが、帰宅して確認するとGPSの測位は意外と短時間で行なわれた。

三滝川の堤防から撮影。左の橋は国道23号
DSC-HX5V / 約2.3MB / 4,912×1,080 / 1/1,600秒 / F3.5 / 0EV / ISO125 / WB:オート / 4.2mm
昼間の工場は錆の跡や朽ちた感じがいいかも。遠くに見える中部電力の白い煙突は綺麗すぎ
DSC-HX5V / 約4.2MB / 3,648×2,736 / 1/1,000秒 / F5 / 0EV / ISO125 / WB:オート / 21.8mm
味があっていい感じ……かも
DSC-HX5V / 約4.0MB / 3,648×2,736 / 1/800秒 / F5 / 0EV / ISO125 / WB:オート / 17.5mm
夜の方が萌えるが昼間も悪くない
DSC-HX5V / 約4.0MB / 3,648×2,736 / 1/125秒 / F11 / 0EV / ISO125 / WB:オート / 14.3mm
バックの煙突との位置関係を少し変えたいが、撮れるポジションがない
DSC-HX5V / 約4.0MB / 3,648×2,736 / 1/100秒 / F11 / -0.3EV / ISO125 / WB:オート / 27.8mm
霞ヶ浦公園の対岸に渡って、近くから撮影
DSC-HX5V / 約3.7MB / 2,736×3,648 / 1/1,600秒 / F5 / -0.3EV / ISO125 / WB:オート / 18.7mm
数枚撮っては移動を繰り返したが、GPSの追従性は悪くない
DSC-HX5V / 約3.9MB / 2,736×3,648 / 1/1,250秒 / F5 / -0.3EV / ISO125 / WB:オート / 27.8mm
霞ヶ浦公園から対岸をパノラマ撮影
DSC-HX5V / 約2.4MB / 4,912×1,080 / 1/1,250秒 / F3.5 / 0EV / ISO125 / WB:オート / 4.2mm
望遠というほどではないが、プログラムオートは1/160秒と表示。安全をみてマニュアルに切り替え1/1,000秒で撮影
DSC-HX5V / 約4.1MB / 3,648×2,736 / 1/1,000秒 / F5 / -0.3EV / ISO125 / WB:オート / 15.3mm
霞ヶ浦公園と対岸の工場地帯に架かる橋から撮影。探せば撮影ポイントはいくらでもありそう
DSC-HX5V / 約3.9MB / 2,736×3,648 / 1/640秒 / F5 / +0.3EV / ISO125 / WB:オート / 29mm

 この日の撮影のメインは四日市ポートビルからの夜景の撮影だ。霞ヶ浦公園のすぐ北にある四日市ポートビルは土曜日だけ夜9時まで営業している。日没の30分ほど前に展望台に登り撮影を始めることにした。

 今ひとつピント性能が信頼できないDSC-HX5Vなので、EOS 7Dも持って展望台に上がった。ちなみに展望台の入場料は300円。親切な係りのお姉さんと話をすると、出入りは自由で朝来て撮影して、夜また来てもOKとのこと。それほど高い金額ではないがとっても良心的だ。夕日の撮影を終え、1階に降りて喫煙、再び展望台に昇り日が落ちるのを待った。

 三脚と一眼レフカメラを持った方がもう一人来られていたので、「よく来るんですか」と話しかけてみた。初めて撮影に来たそうで、なんと埼玉から来たとのこと。待ち時間の長い撮影なので、あれこれ話をしてみるとプロの夜景写真家、川北茂貴さんだった。デジタルカメラマガジンや月刊カメラマンなどで原稿を書かれていて、GANREFには夜景撮影のノウハウも掲載されている。撮られた作品や夜景撮影のノウハウは川北さんのホームページを見ていただきたい。

 筆者もガラスの反射を防ぐために黒い布を持って撮影に臨んだが、筆者がテープで布を固定するのに対し、川北さんは布に吸盤を取り付けていた。「なるほど」。水準器を付けて撮っていたので、質問してみると「暗くなると水平が見えなくなるから」とのこと。再び「なるほど」。そのあたりのノウハウはホームページで公開されている。もう1人一眼レフカメラと三脚を持って撮影に来られた方がいたので話しをしてみると、こちらは時事通信の写真記者。結局3人ともお仕事での撮影ということだった。

 徐々に夕闇が迫り撮影開始となった。それまで点灯していた展望台の照明を落としてくれるなど妙に親切だ。川北さんによると、東京の方では布の使用が禁止だったり撮影条件が厳しいところが多いらしい。これだけの夜景と撮影条件がいいところは全国でも珍しい、と絶賛だった。

 明るさが残るうちはピントの問題はない。保険で一眼レフカメラも持ってきたので、とっかえひっかえで忙しい撮影となった。暗くなるとシャッターボタンを何度か半押しし直すことはあったが、それほど問題なく撮影は終了した。ビルを降り、霞ヶ浦公園で少し撮影をしてこの日は終了となった。

四日市ポートビルの展望台から東側を撮影。左が名古屋方面、右が四日市、鈴鹿方面
DSC-HX5V / 約2.3MB / 4,912×1,080 / 1/400秒 / F3.5 / 0EV / ISO125 / WB:オート / 4.2mm
日が落ちる前
DSC-HX5V / 約4.1MB / 3,648×2,736 / 1/160秒 / F4.5 / 0EV / ISO125 / WB:オート / 11.8mm
日没後
DSC-HX5V / 約3.6MB / 3,648×2,736 / 1/4秒 / F4.5 / -0.3EV / ISO125 / WB:オート / 11.5mm
ここから夜景モードに切り替えて撮影
DSC-HX5V / 約3.8MB / 3,648×2,736 / 1.6秒 / F4.5 / 0EV / ISO125 / WB:オート / 10.8mm
7時過ぎまで撮影して撤収。四日市ポートビルはお勧めスポットだ
DSC-HX5V / 約3.7MB / 3,648×2,736 / 2秒 / F4.5 / 0EV / ISO125 / WB:オート / 11.8mm
この日は風が強く炎の水面への写り込みがイマイチ
DSC-HX5V / 約3.7MB / 3,648×2,736 / 2秒 / F5 / +1EV / ISO125 / WB:オート / 15.3mm
夜景モードでは2秒までしか露光ができない。暗めの被写体は厳しい
DSC-HX5V / 約4.1MB / 3,648×2,736 / 2秒 / F5 / +1EV / ISO125 / WB:オート / 32.5mm
風景モードもピントが合いやすいが、長時間露光ができない
DSC-HX5V / 約2.7MB / 3,648×2,736 / 1/8秒 / F5 / 0EV / ISO800 / WB:オート / 32.5mm

 GWはレース取材などがあり1日も休まずお仕事。最後の撮影は5月8日に行った。太陽の向きを考慮して、午前中から四日市へ、1時間ほど撮影して名古屋の自宅に戻った。往復2時間強だが、他の仕事も抱えていたので夕方6時頃に再び四日市へ。

 この日は気温も高く、撮影もだいぶノウハウが溜まってきたので気分よく撮影を行なった。夜景を撮る場合、DSC-HX5Vの液晶モニターに映るのは光の点だけだ。実際に肉眼で見ても写真の様に明るく見えるわけではないが、DSC-HX5Vのモニターではさらに暗く見えている。まるで星空を見ている様で構図を決めるのが難しい。変な方法だが、一眼レフで先に撮って、それを液晶モニターで確認しながら撮影を行なった。

 2秒までの露光時間で撮れる被写体は夜景モードにするとピントが合いやすい。それ以上はマニュアルモードなので、明るいところでピントを合わせてから、シャッターボタンを半押しのままフレーミングを変えて撮影するケースも多かった。手持ちなら気にならないが、三脚を使用しているのでかなり面倒な作業となる。

 だが、撮るうちに徐々に快感を感じるようになってきた。光の点しか映らないモニターが、「撮影中」、「処理中」と表示が変わり、パッと画像が映し出される瞬間は感動的だ。気付くと時間は10時半を過ぎていた。

午前中の太陽で撮っておきたかった
DSC-HX5V / 約3.8MB / 3,648×2,736 / 1/1,600秒 / F4.5 / -0.3EV / ISO125 / WB:オート / 10.5mm
ここも午前中なら順光で撮ることができる
DSC-HX5V / 約3.8MB / 3648x2056 / 1/250秒 / F10 / -0.3EV / ISO125 / WB:オート / 10mm
インパクトのある設備だが、いったい何をするためのものなのか……
DSC-HX5V / 約4.2MB / 3,648×2,736 / 1/125秒 / F11 / 0EV / ISO125 / WB:オート / 26.0mm
鈴鹿川の対岸からパノラマワイドで撮影。写真では伝わらないが右側のタンクは直径70〜80mくらいあり迫力満点
DSC-HX5V / 約3.1MB / 7152x1080 / 1/1,000秒 / F3.5 / 0EV / ISO125 / WB:オート / 4.2mm
肉眼でも真ん中の塔は暗闇に沈んで見えないほどの暗さだ
DSC-HX5V / 約3.3MB / 2,736×3,648 / 2秒 / F5 / +1EV / ISO125 / WB:オート / 17.5mm
撮り方のコツを覚えると萌えてきます
DSC-HX5V / 約4.1MB / 3,648×2,736 / 7秒 / F5 / 0EV / ISO125 / WB:オート / 28.4mm
肉眼で何も見えない被写体を撮って、モニターに映った瞬間は感動的だ
DSC-HX5V / 約3.8MB / 2,736×3,648 / 5秒 / F5.5 / 0EV / ISO125 / WB:オート / 40.7mm
やはり昼間より夜の方が工場萌えの主役かも
DSC-HX5V / 約4.2MB / 2,736×3,648 / 5秒 / F5 / 0EV / ISO125 / WB:オート / 32.5mm
4時間も撮影に没頭するほど萌えました
DSC-HX5V / 約3.8MB / 2,736×3,648 / 3秒 / F4.5 / 0EV / ISO125 / WB:オート / 9.4mm
2つのタンクがカッコイイ
DSC-HX5V / 約3.7MB / 2,736×3,648 / 3秒 / F5 / 0EV / ISO125 / WB:オート / 24.4mm
初日から比べると、同じカメラでも数段よくなった
DSC-HX5V / 約3.7MB / 3,648×2,056 / 5秒 / F4.5 / 0EV / ISO125 / WB:オート / 9.9mm

 初、工場萌えは個人的には充分萌えたと思っている。撮影ポイントは探せばまだまだありそうだ。動物園やサーキットの撮影はGPSのデータにそれほど重要性を感じないが、桜や工場の様に撮影ポイントを探すことが難しい撮影では位置情報の価値は高いだろう。今回もPanoramioに画像をアップしてあるので、参考にしていただきたい。



(おくがわひろひこ)1961年、名古屋生まれ。パソコン周辺機器メーカーのメルコ(現:バッファロー)で広報担当、2001年イーレッツの設立に参加。2006年、iPRを設立し広報業とライター業で独立。写真を始めたのは学生時代にモータースポーツを撮りたかったから。キヤノンモータースポーツ写真展3年連続入選。F1日本グランプリ(鈴鹿・富士)は87年から皆勤賞。CarWatchのモータースポーツ取材を担当中。http://okugawa.jp/photo/menu/motosp.html

2010/5/13 00:00