ソニーサイバーショットDSC-HX5V【第3回】

SUPER GTで流し撮り

Reported by奥川浩彦


 DSC-HX5Vの第3回のテーマはサーキットだ。撮影したのは3月に鈴鹿サーキットで開催されたSUPER GT開幕戦。使用感の前に、第1回と第2回で触れなかったDSC-HX5Vの基本的な性能を改めて紹介しよう。

 最初は感度だ。以前レビューをしたサイバーショットDSC-TX7と同じで、高感度ノイズに関しては少なめで好印象。裏面照射型CMOSセンサーの力だろう。ISO400くらいまでは、ほとんど気にする必要はないだろう。ISO800くらいからノイズが目立ち始めるが、ISO1600にしても極端にノイズが増加することもない。

 少々気になったのは解像度だ。DSC-TX7の画像を見たときは屈曲光学式のためか、沈胴式のレンズと比べてやや劣っていると思ったが、今回DSC-HX5Vを交えて両者を比べると、DSC-TX7の方がわずかながら解像感がある画像となっている。DSC-HX5Vは、ズーム倍率を欲張った部分で不利なのだろうか。第1回と第2回の画像を見ても、今ひとつシャキっとしない絵が多いのは、レンズが原因かもしれない。

 DSC-HX5Vが搭載するのは、35mm判換算25〜250mm相当、開放F3.5〜5.5、光学10倍ズームの「ソニーGレンズ」だ。超広角ともいえる25mmからの10倍ズームを実現する難しさのせいか、開放F値は広角側でF3.5とやや暗めとなっている。暗めのレンズで気になるのは、光の回折による小絞りボケだ。撮像素子は1/2.4型有効1,020万画素なので、画素ピッチは2μm以下、絞りF4あたりからボケが始まる計算となる。シャキっとしない画像はその影響かもしれない。

 レンズの歪曲収差に関しては、25mmの広角端でも見事に補正されている。望遠端も問題はない。ところが、静止画と違い、動画撮影時はデジタル的に補正されないので、広角側ではタル型の歪曲収差が見られる。広角側から3分の1くらいズームすると改善され、残り3分の2は問題がない。これが、実際のレンズの性能だろう。

  • 作例のサムネイルをクリックすると、リサイズなし・補正なしの撮影画像を別ウィンドウで表示します。

・感度

※共通設定:DSC-HX5V / 約3.8MB〜約4.1MB / 3,648×2,736 / F4 / 0EV / WB:オート / 5.8mm
ISO125ISO200ISO400
ISO800ISO1600ISO3200

・歪曲収差

※共通設定:DSC-HX5V / 約3.9〜約4.2MB / 3,648×2,736 / -0.3EV / ISO125 / WB:オート
広角端(25mm相当)中間(76mm相当)望遠端(250mm相当)
AVCHD動画から切り出し。広角端AVCHD動画から切り出し。広角端から6分の1ほどズーム
AVCHD動画から切り出し。広角端から3分の1ほどズームAVCHD動画から切り出し。望遠端

 さて、話をサーキット撮影に戻そう。基本的に、レースなど動く被写体を撮影するなら一眼レフカメラが最適だが、実際にサーキットに行けば、携帯電話やコンパクトデジカメで撮っている人はたくさんいる。筆者自身も一眼レフカメラを買う前は、ズームもない銀塩コンパクトカメラで撮った、マシンが豆粒の様に小さく写った写真を見て嬉しく思った記憶がある。なので過大な期待はせず、10倍ズームの恩恵で、コンパクトデジカメにしては少し大きめにマシンが写れば充分と考えて臨んだ。

 最初の撮影は被写体までの距離の近いヘアピンカーブだ。撮影した場所は報道エリアだが、意図的に観客席の金網のすぐ下で撮ったので、観客席からの撮影とほぼ同じ条件だ。

 少しでも大きく写したいので、スマートズームを使って画像サイズを5M(2,592×1,944ピクセル)、ズームは14倍(35mm換算で350mm)とした。シャッター速度を1/400秒にするため、ISO感度は200を選択、マシンが来る前にシャッターボタンを半押しして置きピンで撮影した。

 撮れた絵は、コンパクトデジカメとしては普通だと思うが、期待したよりは画質が悪い。何枚か撮った絵を比べてもほぼ同じなので、これが実力だろう。スマートズームを使用して同じ条件で静止物を撮った画像と比べても画質面で劣っている。動きものが苦手なのだろうか。

スマートズームを使用して、置きピンで撮影。画質は今ひとつだが、“豆粒”よりは大きめに写った
DSC-HX5V / 約2.8MB / 2,592×1,944 / 1/400秒 / F5.5 / -0.3EV / ISO200 / WB:オート / 42.5mm
EOS 7Dで撮影。比較にならないくらい高画質
EOS 7D / 約3.5MB / 5184x3456 / 1/800秒 / F7.1 / -0.3EV / ISO200 / WB:オート / 300mm

 参考までにデジタル一眼レフカメラで撮った画像も掲載しよう。Car Watchに掲載している画像は1,920×1,080ピクセルにリサイズしているが、ここでは原寸でお見せしたい。カメラはEOS 7D、300mmのレンズ(35mm換算480mm)なので、少し大きめに写っているが、比較にならないほど高画質だ。本格的にモータースポーツを撮りたい方には、デジタル一眼レフカメラの使用をお勧めしたい。

 サーキットで活かせそうな機能として、10倍ズーム以外に高速連写とマニュアル露出を紹介したい。10コマ/秒の高速連写を同じ場所で使ってみた。前回の動物園のペンギンと違い、動きの予測ができる被写体には有効な機能だ。もちろん、一度撮影すると10数秒は次の撮影はできないので、多くのマシンを見送ることになる。画質はそれなりなので、連続した画像を並べて紹介しよう。

動きが予測できる被写体は高速連写で撮影しやすい

 セッション終了後にピット内で撮影したのが、SUPER GTの人気チーム、グッドスマイルレーシングの初音ミクポルシェだ。時々やってしまうミスだが、画像サイズを戻し忘れ500万画素のまま撮影してしまった。それでも、静止物の撮影では普通の画質で撮れている。

 グランドスタンド裏に展示されていたマシンも撮影した。展示されていたのは3台、偶然だが撮影した「HIS ADVAN KONDO GT-R」がGT500クラスで優勝、「M7 MUTIARA MOTORS雨宮SGC 7」もGT300で優勝した。この2枚は翌日撮影したので、画像サイズは1,000万画素で撮っている。

ピットにて初音ミクポルシェを撮影
DSC-HX5V / 約2.7MB / 1,944×2,592 / 1/25秒 / F3.5 / -0.3EV / ISO200 / WB:オート / 4.2mm
グランドスタンド裏に展示されていたHIS ADVAN KONDO GT-R。GT500クラスで優勝
DSC-HX5V / 約3.7MB / 3,648×2,736 / 1/320秒 / F8 / -0.3EV / ISO125 / WB:オート / 4.9mm
M7 MUTIARA MOTORS雨宮SGC 7もGT300クラスで優勝
DSC-HX5V / 約3.9MB / 3,648×2,736 / 1/200秒 / F8 / 0EV / ISO125 / WB:オート / 4.2mm
パドック風景。コンパクトデジカメはデジタル一眼レフカメラより気楽に取りだして撮影できる
DSC-HX5V / 約3.7MB / 2,736×3,648 / 1/640秒 / F3.5 / 0EV / ISO200 / WB:オート / 4.3mm

 次はマニュアル露出モードだ。DSC-HX5Vの絞りはNDフィルターを使用する方式で、絞り値は変化するが、被写界深度は変化しない。実際のF値は広角端ではF3.5とF8、望遠端ではF5.5とF13の2段階に変化する。これに合わせてシャッター速度を細かく選択する方式だ。極小画素ピッチのコンパクトデジカメで、本当にF13まで絞ったら、かなりボケた画像になってしまうので、NDフィルターによる方式は正しいと思う。

 ライバル機種と思われるパナソニックのLUMIX DMC-TZ10は、実際に絞りを変化させるマニュアルモードを搭載しているが、変化させられる幅が1段分もないことを考えると、およそ2段+1/3の幅があるDSC-HX5Vの方が実用性は高い。絵作りとして使えるのはシャッター速度だけだが、流し撮りだけでなく、滝や噴水の撮影でも水の流れる雰囲気がだせそうだ。

 コンパクトデジカメのオート露出=速いシャッター速度に設定される、と考えていた筆者だが、DSC-HX5Vに限って言えば、望遠側でも遅めのシャッター速度になることが多い。昼間の屋外でも望遠側にして撮影すると、手ブレ警告が表示され驚かされることが頻繁にある。自動的に設定されるシャッター速度はNDフィルターのオン/オフによる2段階だが、どちらに転ぶかは、シャッターボタンを半押しして初めてわかる。

実際の時計と、液晶モニターに映った時計は0.07秒ほど差がある

 流し撮りを初めてすぐに気付いたのは液晶モニターの遅延だ。普段の撮影は気にならないが、流し撮りをしようと思うと、表示の遅れで被写体を追従するときにズレを感じた。だが昔のデジカメほど遅れはなく、すぐに慣れてきた。実際に測定してみると0.06〜0.07秒くらいで、以前調べた機種の0.12秒よりはかなり改善されている。

 S字コーナーで10枚ほど流し撮りをしてみた。プログラムオートでDSC-HX5Vが選んだシャッター速度は1/100秒、F11。焦点距離が160mm(35mm換算)なので、手ブレ補正を搭載しているとはいえ、今ひとつ納得のいかない設定だ。普通ならNDフィルターなしで1/500秒、F4.5の方が無難だと思う。

 今回はスローシャッターで撮影がしたかったので、マニュアルモードにせず、そのままプログラムオートで撮影した。10枚撮った中で、一番ましな1枚を掲載しよう。もう少しシャープネスとコントラストを上げたいと思うが、コンパクトデジカメでこれくらい撮れれば充分だと思う。今回はプログラムオートで撮ったが、マニュアルモードでシャッター速度を任意に設定できるのは便利だ。コンパクトデジカメとしては貴重な存在だと思う。


S字で流し撮り。レタッチソフトでシャープネスとコントラストを上げればそこそこの写真になりそう
DSC-HX5V / 約3.6MB / 3,648×2,736 / 1/100秒 / F11 / -0.3EV / ISO125 / WB:オート / 27.8mm

 今週のスイングパノラマは、ヘアピンのインフィールドで、デグナー、立体交差下からヘアピンまでを撮ってみた。セッションの合間の写真だが、オフィシャルの車も問題なく写っている。このあたりは流石スイングパノラマといった感じだ。

 SUPER GTは3月21日の鈴鹿から始まり、4月4日に岡山で第2戦が行なわれた。第3戦は今週末、5月1-2日に富士スピードウェイで開催される。第3戦の注目ポイントはエヴァンゲリオンレーシングの参戦だ。ゴールデンウィーク中の開催なので、国内レースで最も観客の入るイベントとなる。お時間のある方はデジカメを持って観戦いただきたい。

DSC-HX5V / 約2.4MB / 4,912×1,080 / 1/1,600秒 / F3.5 / 0EV / ISO125 / WB:オート / 4.2mm




(おくがわひろひこ)1961年、名古屋生まれ。パソコン周辺機器メーカーのメルコ(現:バッファロー)で広報担当、2001年イーレッツの設立に参加。2006年、iPRを設立し広報業とライター業で独立。写真を始めたのは学生時代にモータースポーツを撮りたかったから。キヤノンモータースポーツ写真展3年連続入選。F1日本グランプリ(鈴鹿・富士)は87年から皆勤賞。CarWatchのモータースポーツ取材を担当中。http://okugawa.jp/photo/menu/motosp.html

2010/4/28 00:00