キヤノンEOS 5D Mark II【第2回】

2つのダイナミックレンジ機能、その関係性

Reported by 大浦タケシ


 第2回目となるキヤノンEOS 5D Mark IIの長期リアルタイムレポートは、以前から個人的に気になっていたことを検証してみたいと思う。

 EOS 5D Mark IIに限らずこのところのキヤノンデジタル一眼レフには、2つの画像調整機能が装備されている。ひとつが「高輝度側・階調優先」、もうひとつが「オートライティングオプティマイザ」である。高輝度側・階調優先はハイライト側が約1EV分ダイナミックレンジが拡大される機能だ。ややノイズが浮きやすく感じることがあるものの、少しでも白トビを抑えたい撮影では便利な機能である。「する」と「しない」から設定が選べ、「する」にした場合ベース感度はISO200となる。デフォルトでは「しない」となっている。

 一方、オートライティングオプティマイザは、露出によって暗くなった被写体を最適な明るさにするとともに、コントラストも自動的に調整する。逆光での撮影や黒ツブレしてしまいそうな被写体の撮影に効果的で、「標準」、「弱め」、「強め」、「しない」から任意で選択できる。デフォルトは「標準」で、多くのユーザーはあまり意識することなく使っているのが正直なところだろう。

002
「高輝度側・階調優先」は白トビを約1EV分抑える機能だ。デフォルトでは「しない」に設定される
003
「オートライティングオプティマイザ」は、自動的に暗部を明るく調整しコントラストをアップする機能。デフォルトでは「標準」となっている。

 そこで、この2つを同時に使ったらどうなるのか、ということである。高輝度側・階調優先とオートライティングオプティマイザによって、ハイライトの白トビとシャドー部の黒ツブレが同時に抑えられるのではないかと、単純ではあるが考えたのである。多分、EOS 5D Mark IIをはじめとして、そう思うキヤノンユーザーもいることだろう。ニコンにはハイライト部とシャドー部を同時に調整するアクティブD-ライティング機能があるが、上手くいけばそれに近い効果が期待できそうである。検証は以下のとおりの設定で行なった。


  1. 高輝度側・階調優先「しない」 / オートライティングオプティマイザ「標準」
  2. 高輝度側・階調優先「しない」 / オートライティングオプティマイザ「弱め」
  3. 高輝度側・階調優先「しない」 / オートライティングオプティマイザ「強め」
  4. 高輝度側・階調優先「しない」 / オートライティングオプティマイザ「しない」
  5. 高輝度側・階調優先「する」 / オートライティングオプティマイザ「標準」
  6. 高輝度側・階調優先「する」 / オートライティングオプティマイザ「弱め」
  7. 高輝度側・階調優先「する」 / オートライティングオプティマイザ「強め」
  8. 高輝度側・階調優先「する」 / オートライティングオプティマイザ「しない」

 思惑どおりであれば、いうまでもなく7.の『高輝度側・階調優先「する」、オートライティングオプティマイザ「強め」』が一番効果は高そうである。これまで低い低いといわれ続けていたデジタル一眼レフのダイナミックレンジが大きく改善されるかも知れない。気になる結果は以下のとおりとなった。

※共通設定:EOS 5D Mark II / EF 24-70mm F2.8 L USM / 約5.4〜6.0MB / 3,744×5,616 / 1/3秒 / F8 / 0EV / ISO100 / WB:オート / 43mm

高輝度側・階調優先「しない」 / オートライティングオプティマイザ「標準」高輝度側・階調優先「しない」 / オートライティングオプティマイザ「弱め」高輝度側・階調優先「しない」 / オートライティングオプティマイザ「強め」高輝度側・階調優先「しない」 / オートライティングオプティマイザ「しない」

※共通設定:EOS 5D Mark II / EF 24-70mm F2.8 L USM / 約6.0〜6.5MB / 3,744×5,616 / 1/6秒 / F8 / 0EV / ISO200 / WB:オート / 43mm

高輝度側・階調優先「する」 / オートライティングオプティマイザ「標準」高輝度側・階調優先「する」 / オートライティングオプティマイザ「弱め」高輝度側・階調優先「する」 / オートライティングオプティマイザ「強め」高輝度側・階調優先「する」 / オートライティングオプティマイザ「しない」

※共通設定:EOS 5D Mark II / EF 24-70mm F2.8 L USM / 約5.5〜6.2MB / 5,616×3,744 / 1/15秒 / F8 / 0EV / ISO200 / WB:オート / 24mm

高輝度側・階調優先「しない」 / オートライティングオプティマイザ「標準」高輝度側・階調優先「しない」 / オートライティングオプティマイザ「弱め」高輝度側・階調優先「しない」 / オートライティングオプティマイザ「強め」高輝度側・階調優先「しない」 / オートライティングオプティマイザ「しない」

※共通設定:EOS 5D Mark II / EF 24-70mm F2.8 L USM / 約5.9MB / 5,616×3,744 / 1/15秒 / F8 / 0EV / ISO200 / WB:オート / 24mm

高輝度側・階調優先「する」 / オートライティングオプティマイザ「標準」高輝度側・階調優先「する」 / オートライティングオプティマイザ「弱め」高輝度側・階調優先「する」 / オートライティングオプティマイザ「強め」高輝度側・階調優先「する」 / オートライティングオプティマイザ「しない」

※共通設定:EOS 5D Mark II / EF 24-70mm F2.8 L USM / 約6.2〜6.5MB / 5,616×3,744 / 1/2秒 / F8 / 0EV / ISO100 / WB:オート / 24mm

高輝度側・階調優先「しない」 / オートライティングオプティマイザ「標準」高輝度側・階調優先「しない」 / オートライティングオプティマイザ「弱め」高輝度側・階調優先「しない」 / オートライティングオプティマイザ「強め」高輝度側・階調優先「しない」 / オートライティングオプティマイザ「しない」

※共通設定:EOS 5D Mark II / EF 24-70mm F2.8 L USM / 約6.9〜7.0MB / 5,616×3,744 / 1/4秒 / F8 / 0EV / ISO200 / WB:オート / 24mm

高輝度側・階調優先「する」 / オートライティングオプティマイザ「標準」高輝度側・階調優先「する」 / オートライティングオプティマイザ「弱め」高輝度側・階調優先「する」 / オートライティングオプティマイザ「強め」高輝度側・階調優先「する」 / オートライティングオプティマイザ「しない」

 作例を見る限り、高輝度側・階調優先を「しない」に設定した場合、オートライティングオプティマイザは「標準」、「弱め」、「強め」とも良好に機能している。暗部が明るく調整されるとともに、コントラストもわずかだがアップしている。オートライティングオプティマイザを「しない」にしたときと比較すると、個人的には「弱め」でさえも充分に効果的に感じるほどだ。

 ところが、期待の高輝度側・階調優先を「する」に設定した場合では、残念なことにオートライティングオプティマイザはほとんど機能していない。「強め」に設定しても暗部がほんのわずかしか明るくならず、「しない」に設定したときとほぼ同じ濃度といってもよいほどだ。高輝度側・階調優先のほうは機能しているが、目論んでいたような、白トビと黒ツブレが軽減し見かけ上のダイナミックレンジがさらに拡大したような画像にはならないのである。思惑が大きく外れた結果となった。

 高輝度側・階調優先とオートライティングオプティマイザ、この2つの画像調整機能は同時に使用するようには考えられていないものである。しかしながら、このことはマニュアルへの記載やアナウンスはされておらず、私のように欲張りなユーザーは同時に使い、がっかりしてしまうことも多々ありそうである。オートライティングオプティマイザを上手に活用したければ、高輝度側・階調優先との併用は止めたほうがよい、あるいは、高輝度側・階調優先を使うとオートライティングオプティマイザは機能しないということを今後EOS 5D Mark IIを使う時は留意しておきたいと思う。



大浦タケシ
(おおうら・たけし)1965年宮崎県生まれ。日本大学芸術学部写真学科卒業後、二輪雑誌編集部、デザイン企画会社を経てフリーに。コマーシャル撮影の現場でデジタルカメラに接した経験を活かし主に写真雑誌等の記事を執筆する。プライベートでは写真を見ることも好きでギャラリー巡りは大切な日課となっている。カメラグランプリ選考委員。

2009/5/26 11:00