レンズマウント物語

第10話 互換性とマウントアダプター

ライカLマウントのレンズをMマウントで使用するためのアダプター。ファインダーフレームの切り換えのために3種類が用意された。ここに示すのはその内50mm用(左)と90mm用(右)。

レンズマウントの互換性

 一般的に、レンズ交換カメラのレンズマウントはほとんど互換性がない。メーカーによってレンズマウントの規格が異なり、場合によっては同じメーカーでも機種によって異なったマウントを用いている。ユーザーからみればボディが異なるとレンズも買い直さなければいけないことになり、不便極まりないのだが、ではなぜ互換性を実現できないのだろうか?

 その理由の1つは、これまでも書いたように、メーカーによるユーザーの囲い込みである。カメラボディに同じメーカーのレンズしか使えないとなれば、ユーザーは仕方なくそのメーカーの交換レンズを購入する。また、新しい機能を搭載したボディの新製品が登場しても、すでに購入したレンズを生かすために、同じメーカーのボディを購入するという形で、ユーザーをつなぎ止めておくことができるわけだ。

 理由の2つめは、技術革新との関連だ。これも述べたようになにかしら技術革新があって新たな機能が追加されると、レンズマウントを介してやりとりされる情報やエネルギーの規格も変更しなくてはならない。自社のボディと交換レンズのことなら、ユーザーの囲い込みのこともあるので、互換性をできる限り損なわないような努力をするのだが、他社の製品まで考慮することはしない。

 全世界的な互換性を有していたM42マウントが、TTL開放測光やAE化の波が来るとロック付きや追いかけ方式など各社独自の絞り値連動方式を採用し、結果として互換性が失われてしまったことが、これを象徴しているだろう。また、同様に比較的多くのメーカーが採用していたKマウントも、自動露出やオートフォーカスの導入に伴う改変によって、ユニバーサルマウントとしての地位を失った。

 このような理由から各社独自のレンズマウントを採用するようになったのだが、第2の理由に関しては技術革新が一段落してきた現在ではちょっと事情が変わってきたと言えるだろう。ごく限られた範囲ではあるが、フォーサーズやマイクロフォーサーズというメーカー間の互換性を確保したレンズマウントの規格も現れてきている。

マウントアダプター(レンジファインダーカメラの場合)

 しかし、ユーザーとしては同じメーカーのボディと専用レンズだけではなく、互換性のない、異なった組み合わせで使ってみたい要求も出てくる。その要求に応えるのが、マウントアダプター(レンズアダプターと呼ぶこともある)であると言えるだろう。

 ただ、このマウントアダプターへのニーズは、レンジファインダーカメラの時代にはそれほど大きなものはなかった。一眼レフほどレンズ交換の自由度がなかったし、なによりマウントの違うレンズを装着して、連動距離計が使えなくなったりする不便さが当時のユーザーにとっては大きなデメリットになっていたのだ。

 そのレンジファインダーカメラでマウントアダプターの存在が大きく認識されたのは、1954年のライカM3の登場からのことであろう。それまでのスクリューマウント(いわゆるライカLマウント)からバヨネットマウント(Mマウント)にレンズマウントが変更されたのだが、それに伴ってLマウントのレンズをMマウントのボディで使用するための純正マウントアダプターが発売された。時代の流れからバヨネットマウントへの変更は必須であったにしても、それまでのバルナックライカのユーザーをできるだけつなぎ止めておきたいという意図から出されたものである。

 MマウントのフランジバックはLマウントよりも1mm短いので、この差を利用したものだ。距離計連動のためのコロの位置と動きはLマウントから変えていないので、旧レンズでもそのまま距離計が連動する。Mマウントではレンズの焦点距離の情報をバヨネットの爪の長さでボディに伝え、フレームを切り換える機能が新たに加わったが、これは焦点距離に合わせて3種類のアダプターを用意することで対応した。

Lマウント用のアダプターをMマウントのボディに装着したところ。フランジバックの1mmの差を利用している。距離計連動用のコロは(矢印)はLマウントのレンズにもそのまま使える。

 もともとレンジファインダーカメラの場合は、レンズマウントを介して伝える情報の種類が少ないので、このようにあまり大きな問題もなくマウントアダプターが実現できた。現在使われているMマウントでも、デジタル時代になってから6ビット情報が追加された程度で、やはり伝達情報はあまり多くない。その代わりオートフォーカスも手ブレ補正も実現できていないが。

マウントアダプター(ペンタックスの場合)

 一眼レフの場合も初期のものは伝達情報がほとんどなく、その意味ではマウントアダプターを作りやすかったと言える。実際にヤシカペンタマチックやミランダのように種々のマウントアダプターを用意し、他社レンズを積極的に使えるようにしたものもあったが、あまり大きな流れとはならなかった。

 一眼レフのマウントアダプターで最も早い部類に属するものは、アサヒフレックス用のレンズをアサヒペンタックスに装着するためのものだろう。現在のペンタックスリコーの前身である旭光学では、ウェストレベルファインダー形式のアサヒフレックスという一眼レフを出していたが、これにペンタプリズムを載せたアサヒペンタックスを1957年に発売するに当たって、レンズマウントをM42マウントに変更した。そのときに上記のライカと同じような事情からマウントアダプターを出したのである。

 アサヒフレックスのマウントは37mm径のスクリューマウントで、フランジバックはM42マウントと同じ45.5mmである。ライカのようにフランジバックの差を利用できない。ので、ボディ側マウントの基準面に幅1mmの段差を設け、そこにアダプターを落とし込むような形で装着していた。ペンタックスのM42マウントにこの段差があることを気付いた方もいるかもしれないが、この理由はマウントアダプター用なのである。

ペンタックスのM42マウントに設けられた幅1mmの段差(矢印)。これは実はアサヒフレックス用のレンズを装着するためのマウントアダプターを落とし込むためのものである。

 同様の工夫は、ペンタックスが1975年にKマウントに変更した際にもなされている。Kマウントのフランジバックはやはり45.5mmで、ボディ側マウントの基準面と爪の面の段差にM42用のマウントアダプターを落とし込むような構造になっている。

ペンタックスはKマウントにM42マウントのレンズを装着するためのマウントアダプターでも同様の手法を使っている。マウントアダプターは、Kマウントの基準面と爪の間の段差に落とし込むようになっている。
M42マウント用のマウントアダプターをKマウントのボディに装着したところ。アダプターの面はKマウントの基準面より僅かに引っ込んだところにあり、基準面はKマウントのものをそのまま使用することになる。
アダプターを内側に落とし込むようにするとロックピンが効かなくなるので、ボディ側のマウントには、このアダプター用の回転制限の突起(矢印)が設けられている。

マウントアダプターの条件

 互換性のないレンズをボディに装着して使えるようにするのがマウントアダプターだが、情報の伝達を別にしても、マウントアダプターを実現するには幾何学的な寸法の面で以下のような条件がある。

1.ボディ側のマウントの径がレンズ側のマウント径よりも大きいこと
 特にフランジバックの値が近い場合はこの条件が効く。ライカMマウントは口径43.9mm(爪の谷部分)とLマウントの39mmよりも大きく、またKマウントは口径45mm(爪の山部分)とM42マウントの42mmよりも大きいため、前述したようなアダプターが可能になる。だが、口径が38mmと小さなエキザクタマウントのボディに他の35mm判一眼レフカメラ用のレンズを装着することは難しい。

 しかし、フランジバックに十分な差があれば、ケラレを起こさない範囲でこれも可能となる。実際に画面サイズの大きなカメラ用のレンズを画面サイズの小さな、従ってマウント口径も小さなカメラボディに装着するようなアダプターは数多く存在している。ペンタックス645用のレンズをKマウントのボディに装着するためのアダプターなどは、その代表的な例だ。近年ではフランジバックの短いミラーレス(ノンレフレックス)カメラが普及し、画面サイズもさまざまなバリエーションがでてきたので、この可能性が広がっている。

ボディ側のマウント径がレンズ側のマウント径よりも小さくても、フランジバックに十分な差があればマウントアダプターを作ることができる。写真はマイクロフォーサーズのボディ(左)にフォーサーズ用のレンズを装着するためのマウントアダプター(右)。

2.ボディ側のマウントのフランジバックがレンズ側のマウントのフランジバックよりも短いこと
 こちらの方が厳しい条件だ。マウントアダプターはレンズとボディとの間に挟むことになるので、その分純正の組み合わせよりもレンズが前に出る。そのときの実質的なフランジバックはボディ側のフランジバックにマウントアダプターの厚みを加えたものになるので、レンズ側のフランジバックがこれに一致しないと焦点の位置がずれてしまうことになるのだ。

 レンズ側のフランジバックの方が短い場合、本来の位置よりもレンズが前に繰り出されることによって、より近い距離に焦点が合ってしまうことになる。その程度は繰り出される量とレンズの焦点距離に関連するが、一般的には無限遠や通常の被写体距離では焦点が合わず、接写専用になってしまうことが多い。

 例えばフランジバック44mmのキヤノンEFマウントのボディに、フランジバック46.5mmのニコンFマウントのレンズを装着して使う場合は、2.5mmの余裕があるので、それを利用してマウントアダプターを作ることができるが、逆にキヤノンEFマウントのレンズをニコンFマウントのボディに装着するものはできない。仮にそのようなマウントアダプターを作ったとしても無限遠に焦点を合わせることはできず、接写専用になってしまうわけだ。もっとも、この例では情報の伝達面でも問題が生じるが、これについてはいずれ項を改めて解説しよう。

 中にはマウントアダプターに光学系を入れて焦点位置を補正しているものもあるが、これはレンズが本来もっている光学的特性、収差のバランスが変わってしまうので、あまり歓迎されない。

豊田堅二

(とよだけんじ)元カメラメーカー勤務。現在は日本大学写真学科、武蔵野美術大学で教鞭をとる傍ら、カメラ雑誌などにカメラのメカニズムに関する記事を書いている。著書に「デジタル一眼レフがわかる」(技術評論社)、「カメラの雑学図鑑」(日本実業出版社)など。