交換レンズレビュー
噂のキヤノン純正LED内蔵マクロレンズを試す
EF-M 28mm F3.5 Macro IS STM 小形軽量で気軽に撮れるのも◎
2016年8月24日 07:00
EOS Mシリーズに初マクロのレンズが登場した。これまでの5本のレンズに待望のマクロレンズEF-M 28mm F3.5 Macro IS STMが加わり表現の幅はさらに広く深くなった。
しかもこのレンズの使い勝手の良い所は、標準モードとスーパーマクロモードの二役を兼ねていることだ。キヤノンのミラーレスカメラの主役になっていくレンズと言っても過言ではないだろう。
発売日 | 2016年6月下旬 |
実勢価格 | 税込3万6,310円前後 |
マウント | EF-M |
最短撮影距離 | 0.093m |
フィルター径 | 43mm |
外形寸法 | 60.9mm×45.5mm |
重量 | 約130g |
デザインと操作性
まず、このレンズの特徴を3点あげておきたい。
1つは、レンズ前面にはLEDライトが内蔵されていることだ。このリング状に光るライトは補助光としての役割が強いが、スーパーマクロモードで接写して撮影する場合は、ポイントを絞って照らすライトと十分なりうる。
このライトは側面にあるスイッチにより、光源の強さ、片側だけの照射など使い手が明るさのバランスをとりながら活用できるところも柔軟な仕様だ。
2つめは、標準モードとスーパーマクロモードの切り替えの手軽さ。標準モードでは28mm(35mm判換算で約45mm相当)の一般的な単焦点レンズとして使え、そのボケは非常に美しく描画力は秀逸だ。
この標準モードでも等倍マクロレンズとして被写体に寄ることは可能なのだが、驚くべきはスーパーマクロモード。このモードにすると撮影距離は11~9.3cmとなり、撮影倍率は0.7~1.2倍のマクロ撮影のみが可能となる。
ほかに1本マクロレンズを用意しなくても、切り替え1つで踏み込んで撮れる手軽さが嬉しい。実際に撮影してみると、思いのほか被写体に近くないとピントが合わないので、その接写された世界に魅了される人も多いのではと思う。
3つめは、ハイブリッドISの搭載によって、ごく僅かな明かりの下でも手ブレせずに撮影できることだ。撮影倍率が高くなると露出倍数がかかってしまいシャッターの速度が遅くなるので、三脚を使わない撮影はなかなかしづらい。
ところが、この小さなレンズに搭載されたハイブリッドIS機能の性能の高さにより、暗い条件下でも手ブレせずにシャッターを切ることが可能だ。さらに身軽になり、レンズとカメラ、そして自分の感覚が一体になっていくことだろう。
このレンズの重さは130g。卵2つ分、もしくは単一電池よりも10g軽いのだ。フードもついて、LEDライトを使わない時は傷つかないように守ることもできる。
色がブラックのみという点は、シルバーのレンズで揃えていた筆者としてはちょっと残念だ。
作品
通常モードでも十分寄って撮影することが可能。スーパーマクロだと一定の距離のみピントが合うが、この通常モードでの撮影だと急に被写体との距離を変更したい時にもすぐに対応できる。機動力は抜群だ。
ライトの明るさを最大にして照射することで背景を落とし、さらにだんだんとボケていく奥行きの花たちにもグラデーションがかかる。この背景の色は光が届かない事によってできた青みであって、実際に目で見ると白だ。レンズに付いているライトはそのくらい狭い範囲を照射して、主役を引き立てるためのライトといえる。
内蔵のライトは手元が暗い時や、質感やニュアンスを表現したい時に非常に助かる機能。小さなライトを別途用いなくてもカメラのバッテリーから電源が供給され、リング状のライトをレンズの正面から当てることができる。表現に一手間を惜しみたくない人にとっては最適な機能といえる。
花についた雫を背景とのコントラストをつけつつも、やさしい雰囲気で切り取る場合にライトを使用する事をおすすめする。水滴の美しさや存在感を出すために、ライトの映り込みのハイライトを使い、みずみずしい表現の中に金属のような無機質を演出した。
ゼリーの柔らかい感触などをきちんと表現する場合、自然光のみで全体的に明るくしてしまうと質感が表現しきれない時がある。そんなときはライトを付けてみる。すると陰影を残しつつも美しいハイライトが差し込まれ、物質のニュアンスが伝わりやすくなる。
続いて、スーパーマクロモードでライトのON/消灯を比較してみた。どちらが良い、悪いというわけではなく、自分のイメージに近い状態をツールとして選ぶことが大事だと思う。今回はスパンコールなのでONがよく合う。ただしライトが似合わない被写体もあることなので、先に被写体への浮かぶ思いがあってこそ生きる機能なのだ。
人間の目では想像がつかない世界が広がるため、好奇心を抑えずいろんなものをスーパーマクロの世界で見てみると、気づかなかった発見がレンズを通してできる。
バラやチューリップなど被写体としてポピュラーなものではなく、普段小さすぎてなかなか絵になりにくいものをこのモードで撮ってみる。すると、息を飲むほど美しい世界がひろがる。ガクアジサイのちいさな花の部分やシモツケの蕾、スパンコールやビーズなど、繊細に仕上がっている小人の世界をのぞくことができるだろう。
焦点距離は35mm判換算で45mm相当のため、人間の見ている感覚と近く、一般的な撮影にも使いやすい。加えて重量は130gと軽く、気持ちがなんとなく動いた瞬発的な撮影には最適。描画力も素晴らしい。
日常でなにげなく見つけた雰囲気を撮影するのに、大げさなレンズでは意識が視線の先と気持ちに向きづらいが、このレンズは軽いのでいつも自分の感覚だけに意識を持ってこられる。
少し絞った作品だが、ピントを合わせた中心部分以外、もしくは写真の隅々に至っても解像力は素晴らしい。
EOS M3の内蔵ストロボでも撮影してみた。人工光でも作品撮りに十分使用できるため、重いマクロレンズを持たずして手軽にマクロ撮影を楽しめる。
まとめ
マクロレンズというと花や昆虫といった分野を思い浮かべがちだが、今回のこのマクロレンズに関してはそうした撮影分野を超えての幅広い活躍が可能と思ってほしい。
さらに、従来のマクロレンズのような重いイメージは捨てて頂き、一度カメラに装着してその軽さと機動力を味わってもらいたい。マクロレンズとしてのイメージが大きく変わることだろう。
写りとしてはとてもシャープ。描画力にすぐれており、安心して絞り開放でも使えるだろう。ボケ具合もスマートだ。またハイブリッドISが内蔵されていることから、しっとりとした写真を撮りたい場面に出会った時なども三脚や一脚をつかわずに身軽にきちんと撮影できる。
そして、通常モードとマクロモードという2種類が楽しめるため、普段の自分の撮影の癖から抜け出せなくなった人にも、新しい試みや発見をするステップアップとして手軽に使ってほしい。自分のイメージを超えて、素晴らしい作品を撮ることができるだろう。