デジカメアイテム丼

カメラ用防湿庫業界に新たなチャレンジャー現る

細かい機能や造りの良さがうれしい「SIRUI HC110」

SIRUI HC110

冒頭から筆者個人の話しで恐縮だが、大学入学で東京に出てくるまで南九州のとある盆地で過ごした。日本の夏場の気候の特徴として高温多湿になりやすいが、そこはその傾向がさらに強く、ちょっと油断してしまうとカメラの光学部分や交換レンズ、はたまた現像したフィルムに簡単にカビが生えてしまうところであった。

実際、当時の友人や知り合いのカメラや交換レンズにカビが生えていることは珍しくなかったし、筆者自身もお気入りの交換レンズにカビを生やしてしまい、カメラを買おうとアルバイトで稼いだ貯金のなかから泣く泣く清掃代を支払ったこともあった。

そんな経験が30年以上経った現在までトラウマになっており、夏場の除湿については人一倍気を払っているつもりである。もちろん防湿庫は自分にとって常に気になる大切なアイテムのひとつだ。

今年2月に開催されたCP+2017では、カメラ以外にも多くのアクセサリー類が新たに発表された。三脚や雲台をメインに展開するSIRUI(シルイ)も同様で、いくつかの新しい製品がブースに並べられていたが、そのなかに防湿庫がさりげなく展示してあったことは筆者自身強く記憶に残っている。

なぜなら、先に紹介したように気になるアイテムであること以外に、防湿庫といえば国内ブランドの勢力が強く、SIRUIのような海外ブランドのものは(全くではないものの)見かけることは少なかったからである。

今回、偶然にもその使い勝手を試す機会があったのでここに報告したい。

ユーザーの利便性をよく考えた機能

チェックした防湿庫はモデル名「HC110」。現時点でのSIRUIブランドの防湿庫としては最大のもので、高さ820×幅450×奥行380mm・容量110L・重量23.5kgの大容量タイプだ。

ちなみに、そのほかのモデルとして高さ520×幅400×奥行335mm・容量50L・重量14kgの「HC50」、高さ680×幅400×奥行335mm・容量70L・重量18kgの「HC70」もライナップしている。売れ行きなどによっては、今後バリエーションの拡大を期待してよいだろう。

HC110には400×330mmほどの大きさの棚板が3枚付属する。1枚の棚板には、ミドルクラスのフルサイズデジタル一眼レフカメラ6台、もしくはF2.8クラスの標準ズームレンズを立てた状態で11本ほどを載せることができる。

棚板を2枚使用して機材を収納した様子。最下段はハイエンドのデジタル一眼レフカメラも余裕で収納が可能。交換レンズを収納している部分の天地を詰めるともう1枚棚板を入れることもできそうだ。

棚板は軽量ながら堅牢にできており、機材の重さでたわむようなことも皆無だ。さらに取り外しの可能なスポンジも付属しているので、棚板と機材が擦れ合うことがないのもありがたく感じられる。

棚板は棚板レールを使い庫内に設置する。このレールは優れもので、機材を載せた棚板を安全に引き出すことができ、奥に収納した機材とのアクセスを容易にしているのだ。いちいち前に鎮座する機材を取り出す必要がない。

なお、棚板の位置は好みに応じてセットできるが、庫内の下部には防湿ユニットがあるため、その位置と重ならないようにする必要がある。

奥に見えるのが防湿ユニット。防湿ユニットは寿命があるものだが、SIRUIではその際ユーザー自身で交換することをすすめている。

防湿ユニットの話が出たところで、本モデルの特徴をさらに挙げておこう。背面部に、防湿ユニットが飛び出していないことだ。

一般的に背面排気の防湿庫は、防湿ユニットが多かれ少なかれ背面から飛び出していることが多い。一方SIRUIは非常にすっきりとしたものである。

もちろんユニットが飛び出していない分、より壁側に寄せることができる。少しでも効率的に部屋を使いたい写真愛好家は注目しておきたい部分である。

さらに防湿庫背面に電源用のDCジャックがあるが、付属するDCプラグの形状はL字型なので、さらに壁へ近づけることができる(ただし、背面の排気口から無理なく排気できるための隙間が必要なのは、他の防湿庫と同じだ)。

なお、防湿ユニットは単に除湿を行うばかりではない。光触媒を用いることで、庫内の防カビ、抗菌、脱臭、空気清浄も行う。防カビ、抗菌のメリットについてはいうまでもないが、脱臭は特に喫煙者や中古カメラファンは注目しておきたい部分。HC110に収納しておけば、不快な臭いを絶ちいつでも快適に撮影が楽しめるはずだ。

防湿庫の多くは、防湿ユニット自体に設定ダイヤルや稼働状態を示すパイロットランプが付いている。そのような場合、特に設定を行う際は、ダイヤルを塞ぐ位置に置いた機材を一旦外に取り出す必要があり不便なことも多い。パイロットランプにしても、収納している機材で見えなくなってしまうこともある。

SIRUIの防湿庫は天板前面部にコントロールパネルを備えており、設定も運転している状態を知るパイロットランプの確認も手間がかからない。しかも庫内の湿度や温度はデジタル表示であり、視認性も良好。設定自体も希望する湿度(%RH)にセットするだけだ。大切な機材を守る防湿庫であるが、その運転管理のしやすさは群を抜くと述べてよい。

ありがたいのはそれだけではない。庫内の天板裏にはLEDのライトを備えており、冷蔵庫と同様、扉を開くと自動で点灯し閉じると消灯する。筆者は過去LEDライトを防湿庫のなかに設置したものの、点灯消灯の操作が手間で結局使わなくなった経験を持つが、これなら便利。下段まで照らすことはできないものの、重宝すること請け合いだ。

キャビネットは厚さ1.2mmの冷延鋼板から造っており頑丈にできている。

また、扉はアクリルでなく厚さ3mmの強化ガラスであることも特筆すべき部分。傷がつきにくく、長くクリアであり続けることだろう。

扉にはしっかりとした大きさの取っ手が備わっている。鍵も付いており、小さな子どもがいる家庭でも安心だ。

細かな部分まで配慮の行き届いた防湿庫、それが筆者のHC110に対する印象である。後発であるがゆえに、先行するライバルを研究し、さらに三脚や雲台の製造で培ったSIRUIならではのエッセンスを加えたものといえる。

防湿庫というと一度買うと壊れるまで使い続けることが多いアイテムであるが、思わず買い換えしたくなる完成度の高さである。

しかも価格的に比較的手頃で(SIRUIダイレクトショップで税込み4万4,604円)、保証も本体6年、防湿ユニット3年と長期に渡る。

あとしばらくすると蒸し暑い季節がやってくる。HC110はそのようなとき、きっと心強い味方になってくれるはずだ。

大浦タケシ

(おおうら・たけし)1965年宮崎県生まれ。日本大学芸術学部写真学科卒業後、二輪雑誌編集部、デザイン企画会社を経てフリーに。コマーシャル撮影の現場でデジタルカメラに接した経験を活かし主に写真雑誌等の記事を執筆する。プライベートでは写真を見ることも好きでギャラリー巡りは大切な日課となっている。カメラグランプリ選考委員。