コラム

品質への徹底したコダワリを貫く三脚メーカー「SIRUI」

本社工場への訪問で見えてきた精度と価格バランス実現の秘密とは

SIRUIの代表をつとめる李 杰社長

近時、高い品質を誇る写真用品が中国発のメーカーから多数発売されるようになってきている。三脚やフィルター、マウントアダプターなど、一度は中国メーカーの製品を手にしたことがあるという方も多いのではないだろうか。

今回、そうした三脚メーカーのひとつであるSIRUI(シルイ:Guangdong SIRUI Optical Co., Ltd)の本社を訪問する機会を得た。早くから製造方法にCNC切削加工を導入し、高い精度の三脚を世に送り出してきた同社のコダワリや製品製造に対する考え方を聞いていった。

SIRUIとは?

SIRUIは、中国の広東省中山市に本拠地を置くメーカーだ。創業は2001年で、2011年には日本国内でもその製品が取り扱われるようになった。特にSIRUIの名を日本国内に知らしめたのが一脚製品だ。同社の一脚は他の近しいスペックの製品に対してみても、品質・精度の面で遜色がなく、にもかかわらず低廉な価格を実現していたため、驚きをもって迎えられた。

SIRUIでは三脚・一脚製品を中心に防湿庫など様々なカメラ用品がつくられている。本社社屋内のショールームにて
旧社屋外観。SIRUIはここからスタートした
新社屋エントランス

ちなみに同社が本拠地を定める中山市は多くの三脚メーカーが集まる地域で、SIRUIのほかにも、BENRO(1995年創業)などのメーカーが、この地で生産を行なっている。

同地域は珠江デルタの中南部に位置しており、深圳や香港にも至近。孫文の出身地としても知られている。

◇   ◇   ◇

◇   ◇   ◇

CNC加工機を大量に導入

SIRUIでは現在、多数のCNC切削加工機を導入している。CNC加工工場の1階には整然と加工機が配置されており、それぞれの加工機で三脚パーツなどが生産されていた。

CNC加工によってパーツをつくるメリットは、ひと塊りのインゴットから削り出しで形状を成形するため、高い加工精度が維持できることはもとより、パーツごとに衝撃耐性を高められる点にある。ここまではCNC加工機を導入している各社で共通している点だ。

削り出される前のインゴット。パーツ形状サイズに合わせてカットしている

SIRUIでもそうした事情は同じだが、筆者が同社の製造ラインで特にユニークだと感じた点は、接合部で使用するような細かなパーツに至るまでCNC加工で製造している点だ。こんなに細かな部品までCNC加工でつくるのか、と驚かされる場面が多々あった。

削り出されたパーツ。上のインゴットから削り出されたものだ

同社では、このようにパーツの製造・加工にCNC加工を積極導入し、品質・精度面のばらつきを排しつつ安定生産のバランスを維持している。だからこそ高精度にもかかわらず低廉な製品価格が実現できているというわけだ。製造部品の歩留まりについて尋ねたところ、不良品がでることはごく稀なことで、その確率も極めて低いとのことだった。

CNC加工機から整形されたパーツを取り出しているところ。右奥に整形されたパーツが見える
整形されたパーツを見せてもらった。これは電子基盤部品を固定するためのボードとのこと。SIRUIでは電子部品を用いた製品の開発も進められている

そして、同社の生産体制で特に目に入ってきたのが、製造セクション各所で製品精度を追求していく従業員の人たちの姿勢だ。

CNC加工によって成形された部品には、細かな“バリ”などが残っている場合がある。加工機の脇ではそのオペレーションと成形パーツのチェックがおこなわれていた。

成形されたパーツのチェックでは、各セクションの担当者はバリなどの問題箇所を瞬時に発見して手作業で微調整をおこなっていた。CNC加工によって成形まではほぼ自動化されているとはいっても、出来てきた部品をチェックし、基準としている品質を保っているのは、こうした個々の担当者が努力を絶やさないからこそのこと。当然といえば当然のことなのだが、何度も部品を磨いては確認して、といった動作を繰り返す姿には、部品の一つひとつに対して、各自が少しでもいいものに仕上げようとする意気込みや信念が感じられた。

三脚本体部。三脚製品の要となるパーツなだけあり、製造にあたっては複数回の整形工程を経てつくられているのだそうだ
三脚本体部のバリをとっているところ。CNC機のオペレーション担当者が、出来たばかりのパーツを一つひとつ目視で確認し、問題のある箇所を調整していた

工場内の一角には、加工機で使用するドリルのメンテナンススペースも設けられていた。多種類・多形状のドリルが使用されていることがわかる。

女性従業員も多数

つづけて三脚の組み立て工程へ移動してきた。CNC加工工程から一転して女性従業員の姿を多く見かける。聞けば、組み立て工程では細かな部品の取り扱いが多いため、物理的に手が小さい女性のほうが有利なのだという。

案内されたフロアでは、脚部の組み立てがおこなわれていた。写真はパイプに石突を組み合わせ、グリップを巻いているところ。グリップは強固に固定されているため、何らかの方法で接着されているのだろうと思っていたが、パイプとグリップの間に空気を送りこむ方法で組みつけが進められていた。

また、このグリップ部は微妙に曲線を描くデザインとなっている。手のかかりの良さなど、細かな使い勝手に配慮して改善や調整を積み重ねていくことでトータルでの使い勝手の向上が図られているのだろう。

組み立て工程では、1本1本人の手で伸縮チェックがおこなわれていた。脚部のロックナットを複数同時に緩めて素早く脚の展開をおこなうことがあるが、スムーズに展開するためには高い組みつけ精度が求められる。

組み立ての前後でパーツごとにチェックし、さらに組み立てた後でも伸縮動作を確認していたが、このように何重にもチェック体制を敷くことでパーツ・製品ごとの品質にバラツキが発生することを抑制しているのだ。

ぱっと見ただけでは、どのあたりに問題があるのかは分からなかったが、チェックの過程でカッターがけがおこなわれる場面もあった

写真は雲台の動作チェックをしているところ。ロック機構の動作に問題はないか、クイックシューの取り付けにガタつきはないか、またボール部の動作はスムーズかなど、実際の動作を細かく人の手で確認していた。

最終的には人の手で動作検証がなされているが、電子的な精密検査も実施されている。写真は雲台のボール受け側のパーツ精度を測定しているところ。使用感や精度に直結してくるパーツなだけに、入念な検査体制がとられていた。

このほか、防錆をテストする装置も。塩分を含んだ水を噴霧することで、サビへの耐性を検証していた。

また、高温・低温環境での耐性試験設備も整えられている。電子部品も機械部品も含めて多角的にテストをおこなうことで、長期運用を見据えた製品生産がおこなわれている。

カーボンパイプの加工も自社で完結

SIRUIでは、脚部のカーボンも自社で巻いて焼成加工までおこなっている。部材のカーボンシートそのものは外部からの仕入れだというが、成型加工以降はすべて自社工場内で完結させていた。

今回の訪問では「巻き」の工程も見せてもらうことができた。シート状のカーボンシートを切り出し、芯棒に巻き、さらに層数を示す模様を入れていく。

切り出される前のカーボンシート
シートを巻きつける芯棒
パイプに巻かれている白いものは、カーボンの巻数を示すための模様となるもの。この模様もカーボンシートを細くカットしたものだ
模様をつけるために等間隔で細いカーボンシートを用意していた
模様をつけるためのシート自体も同じ場所でつくられていた

現在、SIRUIの製品には8層巻と10層巻の製品がラインアップしている。それぞれの見分け方は脚の模様にある。8層の場合は波状となっており、10層の製品では細い線をクロスさせたダイヤ模様で示されている。

10層巻の製品。模様がダイヤ柄になっている
8層巻の製品は細い線が斜めに入り波状の模様となっている

以上、模様をつけるまでの工程を経て、パイプの焼成がおこなわれる。焼きあがったパイプは水洗処理が入り、組み立て工程に渡されることになる。

水洗処理の様子
組み立てへまわされる前の状態

電子製品の開発にも力を入れる

ショールームには、電動式の3軸ジンバルも展示されていた。製品名は「Swift P1」。ミラーレスカメラのほか、アタッチメントの使用でスマートフォンにも対応する。訪問時には、ほぼ最終段階に入っているとのことで実際に動作を確認することもできた。

製品の動作は極めてスムーズな仕上がり。特にグリップ部左側に設けられたコントロールリングは、機能選択時のセレクターやズーム操作に対応するものとなっており、操作面で使い勝手の良さを高める工夫が凝らされている。

正位置へのポジション復帰もグリップ前面にあるボタンクリックで即座に振り戻されるなど、レスポンスも良好だ。また、グリップ部にモニターが搭載されているため、基本的な動作状態の確認や機能セレクトに不足はない。

もちろん、iOSやAndroidで利用できるアプリの開発も進行中で、それらも含めて開発は全て自社で一貫製造しているという。

今後は、こうした電子分野の開発にも力を入れていくとのことで、同社のアイデアや技術を考えると、今後の展開が楽しみに思える。

ジンバル製品の検査室。製品には電子パーツが用いられているためクリーンルームになっていた

高品質・適正価格実現のために

SIRUIでは、これまで見てきたようにパーツの整形から組み立て、検品作業に至るまで、徹底して工程を分業化していた。そしてコンセプト設定から設計、部品の製造、最終組み立てまでを一貫して自社で手がけているわけだが、自社内でこれらのフローを完結させるメリットは複数あげることができる。

まず安定した生産ラインの確保が維持できるという点。SIRUIでは細かな部材までCNC切削加工で生産を行なっているが、これにより部材調達に伴う時間的またコスト面のロス解消が見込める。つまり、スピーディーかつ安定した製品生産が可能となっている、というわけだ。

そして細かな部材も自社で製造しているためコストバランスの調整でも利点がある。細かな部材を外部で委託製造する場合は、大量に発注すれば部材のコストを下げることが可能となるのは道理だ。SIRUIがこれをやらない理由は少量生産の製品であっても低廉な価格を実現すること、そして何より同社が掲げる製品の高い品質を確保するため、ということが背景にあると言えるだろう。

何よりも自社内で部材調達から組み立てまでを一貫させることができれば、クオリティーコントロールの面でも、製造にかかわる多くのスタッフの間で製品づくりに関する精神を高い次元で維持することにもつながってくる。

SIRUIの考える品質とは

これまで繰り返し品質について触れてきたが、これは同社が品質の追求を第一に掲げているためだ。では、同社の考える「品質」とは、どこにポイントがおかれているのだろうか。

主軸製品である三脚について、そのポイントを尋ねたところ、4点のこだわりを教えてくれた。いわく、[1]構造面の合理性、[2]外観デザイン、[3]軽さと持ち運びの良さ、[4]耐久性なのだそうだ。

いずれも三脚には欠かすことのできない要件だが、とくに[3]と[4]は製品の品質そのものを左右する要素だといえる。その中で安定性と機能性、そして軽さ=携行性について価格と品質のバランスをとるかたちで製品を開発・製造しているのだと、同社の担当者は続ける。

例えばカーボンの巻数についてみると現在、同社の製品ライナップは10層の製品が主軸となっている。この巻数について聞いたところ、現状では10層が最適なバランスなのだという回答だった。これ以上多くしても耐荷重量の劇的な向上はみられず、また価格バランスも崩れてしまう、というのが理由だ。この巻数とパイプ径のバランスについては、幾度となく試行錯誤を繰り返した末の結論とのことだった。

SIRUI製品の本質に宿るのは、高い品質を目指しながらも価格面での妥当性をしっかり担保する姿勢だといえそうだ。インタビューを重ねる中でも、“高品質な製品を適正な価格でユーザーのもとへ届けたい”と担当者は繰り返していた。

こうした絶えまざる努力の足跡は同社が取得している特許の数からも推し量ることができる。同社の製品ショールームの一角には壁一面に特許証が掲出されていた。かなりの数に見えるが、これでも一部だけなのだそうだ。

社名に込めた想いとは

さいごに、社名の由来について尋ねた。SIRUIの表記は「思锐」だ。

まず「思」とは“思い、考える”ことを意味しているという。すなわち“Think about”ということだ。

次に「锐」。これは“完璧さを追求する”ことを意味しているのだという。そこには“Sharpness”、“Accurecy”、“Perfection”の3つの意図が込められているのだそうだ。

ユーザーを考え、そこに突きささるような完成度の高い製品を届けるということ。社名に込めた想いは、そのまま製品開発の姿勢=品質の追求に通じているのだ。

企業姿勢を示す文言。ユーザーに寄り添い撮影体験の向上が志されている

同社のロゴデザインについても教えてもらった。社長の発案だというデザインは、三脚と雲台が象徴的に取り入れられたもの。下側の3本の青い直線が三脚の脚のイメージで、白い部分が雲台部分を表している。

社名ロゴ

今後、力を入れていきたい製品について尋ねたところ、李社長から「三脚」だという力強い返答が得られた。ミラーレスカメラが一眼レフカメラ市場を上回り、また4K、6Kの動画記録への対応があたり前のような状況となってきている今、日本市場を含め、電動ジンバルなどの動画に対応する三脚製品の拡充が求められている、と李社長は続けた。

電子製品の開発も進行しているSIRUIだが、今後も品質と適正価格を高次元でバランスした三脚製品の展開が進められていくのだろう。同社では更なる設備投資も進行中とのことで、取材で伺った際にも敷地内は拡張へ向けて活況を呈していた。生産力の強化と設計・製造の最適化はまだまだ続けられていくのだろう。その歩み方は、とても力強いものに思えた。

制作協力:常盤写真用品株式会社

本誌:宮澤孝周