【伊達淳一のレンズが欲しいッ!】タムロン「SP 24-70mm F2.8 Di VC USD」
以前、この連載でも書いたが、ボクは大口径標準ズームにはあまり興味を持っていない。確かに、フィルム時代にはISO64~100の低感度リバーサルフィルムで撮影していたので、F2.8のズームレンズは欠かせない存在だったが、デジタルになって高感度の画質が飛躍的に向上したことで、大きく重く値段も高い、それでいてカバーする画角は平凡な大口径標準ズームにはこだわらなくなった。利便性を求めるならより高倍率のズームを、浅い被写界深度による大きなボケ表現を求めるなら単焦点レンズを、というのが、ボクの基本的なスタイルだ。
EOS 5D Mark IIIに装着した「SP 24-70mm F2.8 Di VC USD」(Model A007)。価格は14万7,000円。キヤノン用が発売済み。ニコン用とソニー用は近日発売 |
ただ、2012年の春以降は少々事情が違う。ニコン「D800」「D800E」、キヤノン「EOS 5D Mark III」が発売されたことで、35mmフルサイズ一眼レフのポテンシャルが一気に高まったからだ。それまでボクはフルサイズ一眼レフに対しても消極的で、どちらかといえばAPS-Cサイズの一眼レフを好んで使ってきた。というのも、ニコン「D700」だとカメラの基本性能は高くても(発売当初はともかく今となっては)画素数が少ないし、キヤノン「EOS 5D Mark II」だと画素数は十分でもカメラの基本性能(特にAFや連写周り)が貧弱なので、APS-Cサイズの一眼レフのほうがバランス的に優れていた。
それに、フルサイズよりも周辺画質が安定しているレンズが多く、望遠撮影にも強いということも、ボクにとっては魅力だったのだが、D800もEOS 5D Mark IIIも従来機種の弱点を克服し、一眼レフとして高い基本性能と画質を両立させてきた。こんなフルサイズ一眼レフなら大歓迎だ。
しかし、これまでフルサイズ一眼レフを軽視していたので、フルサイズ用の高性能レンズがない。特にまともな標準ズームを持っていないことに気づいてしまった。ニコンもキヤノンも“24-70mm F2.8”という大口径標準ズームがラインナップされていて、ニコンの「AF-S NIKKOR 24-70mm F2.8 G ED」は、「D3」と同時発売されたナノクリスタルコート採用の設計が比較的新しい標準ズームだし、キヤノンもまもなく新型のII型(EF 24-70mm F2.8 L II USM)が発売となるが、MTFを見た限りでは従来よりも周辺画質に期待できそうだ。が、どちらも価格は実売20万円前後で、標準ズームとしてはかなり高めだ。それよりも「AF-S NIKKOR 24-120mm F4 G ED VR」や「EF 24-105mm F4 L IS USM」のほうが、開放F4ながらズーム倍率は高いし、手ブレ補正機構だって搭載されていて、価格もまだお手頃だ。
そんなとき、タムロンから手ブレ補正機構を搭載した「SP 24-70mm F2.8 Di VC USD」(Model A007)が発表された。世界初の手ブレ補正機構「VC」搭載のフルサイズ対応大口径標準ズームだ。レンズ駆動は超音波モーター「USD」で、AF撮影時の動作音も静かで、フォーカスリングは回転しないのが特徴。フルタイムマニュアル機能も搭載していて、フォーカススイッチでAF/MFを切り換えなくても、AFモードのままでMFによるピント微調整が行えるので、親指AF(シャッターボタン半押しによるAF動作をOFFにし、AF-ONボタンで必要時のみAFを動作させる撮影スタイル)も快適に行なえる。タムロン初の簡易防滴構造も採用されていて、マウント部分を囲うようにラバーが施されているほか、レンズ内部に水が浸入しにくい構造を各箇所に採用しているという。
フィルター径は82mm。F2.8の明るさと手ブレ補正を両立させるにはこれくらいのフィルター径が必要なのだろう |
ただ、フィルター径は82mmと巨大で、重量も825gとヘビー級。価格も14万7,000円とタムロンとしては思い切った価格設定だけに、その描写性能が気になるところ。3,630万画素で手ブレにシビアなD800でぜひ使ってみたい、と思ったものの、4月26日にキヤノン用が発売されたが、ニコン用とソニー用は順次発売予定で、まだニコン用はできていないということだったので、今回はキヤノン用を借りてEOS 5D Mark IIIで実写を行なってみた。
■手ブレ補正機構でこれまで難しかったシーンの撮影も可能に
まずは外観から。前述したとおり、フィルター径は82mmなので鏡筒はそれなりに太いが、全長は約120mmで、EF 24-105mm F4 L IS USMとほぼ同じ大きさだ。自重落下を防止するズームロックスイッチも設けられている。撮影者側から見て手前がフォーカスリング、奧がズームリングで、ニコンやキヤノンの24-70mmズームとは逆のレイアウトになっているのでちょっと戸惑ったが、タムロンの「SP 70-300mm F4-5.6 Di VC USD」(Model A005)や、ニコンやキヤノンの70-300mmズームも同じレイアウトを採用しているので、慣れてくれば問題はないだろう。
ズームリングとフォーカスリングの回転方向はニコンと同じで、ニコンユーザーにとっては朗報だが、SP 70-300mm F4-5.6 Di VC USDとはフォーカスリングの回転方向は逆。AFで撮影することが多いとはいえ、同じメーカーのレンズで回転方向が違うというのはちょっと不思議だが、おそらくメカ機構設計的にこの仕様でないとこの大きさに収まらなかったのだろう。
それと、ズームリングは幅広なのに対し、フォーカスリングの幅はかなり狭くなっていて、最初はフォーカスリングの幅の狭さが気になったものの、AF撮影時にうっかりフォーカスリングに触れて、フルタイムマニュアル機能でピント位置が変わってしまうリスクは少なく、特にMF操作がしづらいということもなかった。
ズームテレ端時の鏡筒。上を向けても自重で落下することはないようだ |
標準ズームの画角では、望遠ズームのように手ブレ補正がなければファインダー像が安定しない、ということはないが、それでも1/30秒以下のシャッタースピードでの歩留まりは向上する。1/60秒前後のシャッタースピードでも画素数が多いカメラでは微ブレがわかってしまうので、やはり手ブレ補正があったほうが心強い。
さすがに1/8秒以下の撮影になると、ワイド側でも微妙に手ブレするときは手ブレしてしまうし、被写体ブレも多くなるので、それなりに数を撮影してブレのないカットを選ぶという撮影スタイルになるが、F2.8の明るさと手ブレ補正、そしてEOS 5D Mark IIIの高感度性能があれば、これまでなかなかキレイに撮影できなかったシーンも捉えられるようになる。とりわけライブビュー撮影時は、ホールディングが不安定になりがちなので、手ブレ補正の存在は実にありがたい。VCの動作音もそれほど大きくなく、動画撮影時でもよほどの静寂なシーンでもない限り、動作音が耳障りに感じることもない。手持ちの動画撮影用レンズとしても魅力的存在だ。
最近は画像処理エンジンでレンズの収差補正が行なえる機種も増えてきているが、レンズメーカー製のレンズを装着したときには、こうしたレンズ収差補正が効かないケースもある。そういう点では、純正レンズを選んだ方が無難ではあるが、こうしたレンズ収差補正を必要としないほど、レンズの素の光学特性が優れていれば話は別だ。
■周辺光量落ちはそれなりにあるが、倍率色収差は気にならないレベル
レンズの収差で一番気になるのが「倍率色収差」だ。画面周辺ほど大きくなる赤紫や緑の色ズレで、軸上色収差(色にじみ)とは違って絞っても解消しないやっかいな収差だ。D3/D300以降のニコンのデジタル一眼レフは、レンズメーカー製レンズであっても画像処理エンジンで倍率色収差を分け隔てなく補正してくれるので、非常にスッキリとした描写に仕上がるのが特徴だ。
一方、キヤノンはEOS 5D Mark IIIで倍率色収差補正が行なえるようになったが、補正が効くのは純正レンズのみ。当然、SP 24-70mm F2.8 Di VC USDを装着しても、カメラ内でのレンズ収差補正は効かないのだが、そうしたレンズ収差補正を行なわなくても、ほとんど倍率色収差は気にならない。ピクセル等倍以上で画面周辺部をシビアにチェックすれば、わずかに倍率色収差が残っているのがわかるが、通常の撮影では無視できるほど。EOS 5D Mark IIIのHDR機能のように彩度やコントラストを強調する処理を行なっても、倍率色収差による色ズレはほとんど目立たない。軸上色収差も絞り開放から非常に良く抑えられていて、前後のボケの輪郭に色づきが少ないのも特徴だ。
解像性能も非常に高く、絞り開放でもにじみはほとんどなく、ピントが合っている部分は非常にシャープだ。周辺部も像の乱れは少なく、フルサイズ用レンズとしては非常に安定した描写が得られるが、もちろん絞り開放よりも2~3段絞って撮影したほうがトータルの画質は向上する。
特に周辺光量低下はワイド端開放で目立ちやすく、近距離の撮影ほど四隅が暗くなりがちだ。もちろん、純正レンズでも同じ程度の周辺光量低下はあるのだが、純正レンズの強みで、画像処理による周辺光量補正がかかるので、それほど周辺光量低下が目立たない(ちなみに、ニコンのデジタル一眼レフに装着した場合は、レンズメーカー製であってもある程度の周辺光量補正は期待できるという)。周辺光量低下は2~3段絞って撮影すればほぼ解消するし、ワイド側の緩やかな周辺光量落ちは個人的には嫌いではない。
フードは逆付け可能で、比較的径が小さいのでカメラバッグへの収納も容易。ズーム自重落下ロックスイッチも装備されている |
困ることがあるとすれば、フィルター径が82mmと大きいので、高価なサーキュラーPLフィルターを買い足す必要があることくらいだろうか(笑)。もっともキヤノンのII型もフィルター径が82mmにサイズアップしているので事情は同じだ。ディストーション(歪曲収差)は、ワイド端で陣笠タイプのタル型、少しズームすると弱い糸巻き型に転ずるが、いずれも開放F4クラスの標準ズームと比べると歪みは少なめだ。
ボケ味もクセがなく、ワイド側でもそれほどボケがあまりうるさくなりにくい印象だ。もちろん、焦点距離や撮影F値、撮影距離、被写体と背景や前景との距離によってボケの印象は変わるので、すべてのシーンで好ましいボケ味が得られるとは限らないが、それはどんなレンズにでも言えること。中途半端にボケている部分はどうしても二線ボケっぽくなりがちだし、周辺部のボケは口径食とコマ収差の影響で三角になってしまったり、光点ボケに同心円状の年輪模様が出てしまうケースも見受けられる。それ以外は概ね自然なボケ味が得られると思う。逆光性能もまずまずで、光線の角度によってはゴーストは避けられないが、フレアは少なめで、シャドー部が黒浮きしにくく、コントラストを保っている。
■まとめ
とりあえず、EF 24-70mm F2.8 L II USMの予約を入れているが、SP 24-70mm F2.8 Di VC USDでデジタル補正なしでもここまでの描写が得られるのなら、値段の高い純正にこだわる必要はないかな、とも思う。D800、D800EやEOS 5D MarkIIおよびEOS 5D Mark IIなどフルサイズの一眼レフを買った、もしくは買おうと思っているが、その画質性能を引き出せる標準ズームをまだ持っていない、という人は、ぜひ選択肢のひとつとして検討してみてほしいレンズだ。
■実写サンプル
- 作例のサムネイルをクリックすると、リサイズなし・補正なしの撮影画像をダウンロード後、800×600ピクセル前後の縮小画像を表示します。その後、クリックした箇所をピクセル等倍で表示します。
- 縦位置で撮影した写真のみ、無劣化での回転処理を施しています。
・歪曲収差および周辺減光
※共通設定:EOS 5D Mark III / SP 24-70mm F2.8 Di VC USD / 5,760×3,840 / 0EV / ISO100 / 絞り優先AE / WB:マニュアル
【24mm】
F2.8 | F4 | F5.6 |
F8 | F11 |
【36mm】
F2.8 | F4 | F5.6 |
F8 | F11 |
【50mm】
F2.8 | F4 | F5.6 |
F8 | F11 |
【70mm】
F2.8 | F4 | F5.6 |
F8 | F11 |
・作例
・HDR
2012/5/30 00:09