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4K2K時代到来で始まる「テレビ×デジカメ」の新時代



 今から17年くらい前になるだろうか。デジタルカメラ黎明期の頃、若輩にもかかわらず「デジタルカメラとは何か、これからどんなことが起こるのか」というテーマで講演をさせてもらったことがあった。

「撮像素子はすぐに1,600×1200画素は越えていきますよ」と話しても、みんな半信半疑だったVGAセンサー主流の時代。その後、あっという間に200万画素時代は過ぎ去り、1000万画素の時代へと突入していった。“メガピクセル(100万画素)”なんて言葉を憶えている人も、もういないかもしれない。

 スライドを見返してみると、同じ講演で「今はデジタルでキャプチャできるだけで便利と思っているけれど、そのうち“写真=デジタル”となり、フィルムを知らない人たちばかりになるから、今のうちに商売のスタイルを変えましょう」、「デジタル化が進んでいくと、そのうち写真を”見て楽しむ”スタイルが変化するから、印刷以外の楽しみ方を考えなきゃいけない」と話していた。

 実は筆者自身、それほど自信満々といったわけではなかったが、結果的に言えばどれも“当たっていた”ことになる。勢いで“これから世の中は変わるぞ!”というと、本当に時代が変化していった。

 しかしこの頃、まったく想像していなかったこともある。それが、家庭の中に印刷品質といえるような高精細ディスプレイが入っていくことだ。また、ここまでデジタル製品がネットワークで接続され、無線でコミュニケーションを取るようになるとも想像していなかった。今はもう、スゴイが当たり前になってしまっただけともいえる。

 たとえば、撮影した写真がどこかネットにつながったディスプレイに表示される、なんてデモを行なっても、誰も驚いてはくれないだろう。パソコンにカメラをかざすと、スッとデータがダウンロードされていくなんてデモも、よくあるパターンと一蹴されるのではないだろうか。

 しかし、デジタル製品がネットワークされるのが当たり前になった今だからこそ、かつては想像もしていなかったような使い方が、“当たり前のように”なっていくのだと思う。他愛もないアプリケーションだったものが、ある日突然、素晴らしいものになる。テクノロジーによるイノベーションがあると、今までとは価値観が大きく変わっていく。


4K2Kテレビと写真

 テレビに限らず、このところさまざまな形でのイノベーションを起こしている技術がある。それは表示パネルの超高精細化だ。超高精細化は視覚に対して直接的に訴えかけてくる。精細度が一定以上のレベルになると、急に体験レベルが高くなる。デジタル的な表現が、アナログ的表現へと変化する境目を越えるためだ。

 昨年末、東芝は4K2K液晶パネル(実際にはフルHDの縦・横2倍のQuad フルHD)を採用した初めての家庭向けテレビ「REGZA 55X3」(以下X3)を発売した。

REGZA 55X3

 この製品は裸眼3D機能を搭載。電気的に屈折の大きさを変えられる特殊なレンズが配されたレンチキュラーフィルムを貼り付け、2D表示と3D表示の両立を目指した。

 しかし、それでも4K2Kパネルによる表示は、よくぞテレビでここまで! といえる出来だった。圧倒的な高精細表示は、それだけで見る者を圧倒する。超高解像度のディスプレイは、アナログの滑らかさ、自然さと、デジタルの正確な描写の両方を兼ね備えているからだ。

 このように書くと観念的と思われるかも知れないが、実はこれには理由がある。

 近年、アップルがRetinaという名称で、画素を認識できないディスプレイをiPhone、iPadで採用し、人気を博していることはご存知だろう。

iPad

 Retinaとは網膜のことだ。網膜で感じる映像の解像度は、網膜細胞の大きさで決まっている。視野角1度につき50Hzまでの周波数なら認識できるというのが定説だ。この計算からいうと、REGZA 55X3の水平方向の画素数である3840画素ならば視野角にして80度近い距離まで近付かないと、画素ひとつひとつを認識できないことになる。

 実際に80度の視野角になるまで近付くとわかるが、ここまで近接した上で、さらに近付いて観察することはほとんどない。写真全体を見渡せる適切な距離をたもつと自然に画素が見えない距離での鑑賞となるからだ。

 画素を認識できる限界以上の解像度(視野角当たりの画素数)になると、それまでとはことなり、画像が紙のような風合いに見えてくる。すなわちアナログとデジタルの境目を越えて、感じなくなる領域だからだ。この現象は、昨今のスマートフォンで体感している人も少なくないだろう。

 もちろん、色再現の範囲やコントラスト比、色や明暗の再現性といった要素もあるが、解像度という切り口でアナログに近い見え味になると、利用者の体験としてはとてつもなく大きな違いとなってくる。ちょうどインクジェットプリンター技術が進み、インク滴を視認できなくなった頃のことを思い出す。

 今やインクジェットプリンターは、プロフェッショナルが作品をプリントする道具として、当たり前に使われるようになった。デジタル表現のインクジェットで印刷するべきか、アナログ的感光材料で表現すべきかで悩む必要はない。どちらも同じように高画質を引き出せる。どちらも長所と短所があるが、インクジェットがデジタルであることを意識することはほとんどない。


X3からレンチキュラーシートがなくなると……

 さて、X3で写真を見たときにも、ここまで写真がキレイなら、もっと使い途がありそうだと思っていたのだが、先日発表された東芝「REGZA 55XS5」(以下XS5)では、X3よりもはるかに高画質になっていた。レンチキュラーフィルムがなくなったおかげで、コントラストは明確に向上している。

REGZA 55XS5

 透明感のある発色は、フィルムシートに写真をプリントし、透過光で展示しているかのようだ。あるいは、巨大なライトテーブルの上にある、巨大なポジフィルムを見ているようでもある。いずれにしても、その表現は“透過光”は意識させられるため、印画紙へのプリントとは異なるものの、アナログ的な風合いが感じられ、階調表現さえも増えているように見える。

 コントラストが上がったため、立体感がより増して見えるばかりでなく精細度も高く見える。これはコントラストが高くなることで、明暗の境目が明瞭になるためだ。同じ4K2KでもX3とXS5ではかなり違う。XS5は機能面で見るとX3の裸眼3D機能を外したもので、超解像などの画質チューニングは進んでいるが、それ以外の機能やスペックは同じ。静止画を表示するだけならさほど違わないように思えるが、実はまったく体験の質は異なる。XS5での写真鑑賞は、バーチャルな写真展でも行なっている気分になる。

 と、単純に画質だけを考えた時、写真ディスプレイとしての満足感は大変に高いのだが、X3、XS5で4K2Kで写真を楽しむためには、少しばかり注意も必要だ。

 HDMIは規格上、4K2K映像を24Hzあるいは30Hzで出力できるが、60Hz表示はできない。本機の場合、上記出力を受けることができないため、外部機器からは専用のリンクを介してしか4Kの表示を行なえない。その専用リンクに対応する入力インターフェイスがTHD-MBA1で、4本のHDMIケーブルを用いてフルHDを4枚分同時表示することで構成再表示を得る。

 THD-MBA1に関しては、AV Watchが以前にレポート記事を掲載しているので詳細はそちらを見て欲しいが、インターフェイスユニット自身が約20万円とかなり高価であるが、業務用途などならば十分に採算性はあると思う。

THD-MBA1

 もうひとつは、USBを通じてメモリーに保存された画像をテレビ側で表示させる方法だ。XS5のメディアプレーヤー機能から写真を選ぶと、USB端子に接続したストレージを参照し、スライドショーを表示できる。このメディアプレーヤ機能はDLNAクライアント機能が統合されているのだが、動画や音楽は対応しているのに、なぜか写真に関しては再生できない。この点は残念だが、ひとまずUSBメモリーが使えれば写真閲覧に不自由はないだろう(将来はDLNAでの再生にも対応して欲しいものだ)。

 いずれの場合も画質設定などは一気に簡略化され、基本的にsRGB対応ディスプレイとして振る舞う。複雑な画質モードはなく、東芝得意の”おまかせ”モードもない。光センサーによるバッグライトの明るさ連動もしないので、見ている環境に合わせて(すなわち暗い部屋ならば暗め、明るい部屋なら明るめにバックライトを動かす)好みの明るさに調整しておこう。

 一方、色温度はデフォルト設定が数字の「7」。しかし、少し色温度が高めに感じられた。ほんの少しだけの違いだが、個人的な好みを言えば、6と7の中間くらいがちょうどいい。とはいえ、いずれにしろ素直な再現特性になっているので、恣意的に特定の色や映像が強調されることはない。“テレビでの写真表示って、どこかビデオっぽくて嫌いなんだよね”という人にもバランス良く見える画質だと思う。

 もっとも、高画質なだけに撮影者に対しても厳しい。デジタルカメラやレンズのクセが見えやすいためだ。テレビ的な映像処理が行なわれず、ストレートに表示されるため、カメラごとのシャープネスのかかり方(持ち上げている周波数や帯域幅の違い)が、目で見てよくわかる。

 特に高画質なカメラボディと高性能レンズを組み合わせた場合には、そのパフォーマンスを如実に感じることができるはずだ。反面、無理に輪郭を演出しているカメラのイヤな部分もよく見えてしまう。とはいえ、それだけ写真を素の状態で楽しめるということだ。


4K2Kで写真を楽しむという選択肢

 さて、XS5の映像を見て感じたことがある。それは「4K2Kで写真を楽しむ」という選択肢を、カメラ業界とテレビ業界、双方が手を取り合って真面目に考えなければならない、ということだ。

 テレビのフルHD化が過去数年で進んだ中、テレビの大画面で写真を見ようという提案は、これまでにも何度もされてきた。特にソニーは自社製一眼レフカメラとの接続で、専用の画質設定になるなどのギミックを盛り込んでいるなど、テレビとカメラの相乗効果を高める取り組みに積極的だった。

 しかし、4K2Kでの写真表示は、それらとはまた違った領域である。カメラとテレビのマッチングを取る必要もなく、ただ、ディスプレイとして正しい特性で写真を表示してやれば、あとは溢れんばかりの情報量で写真を魅せてくれる。パネル自身が表現できる空間周波数の帯域が広いため、演出的な画像処理を行なわない方が、写真そのものに説得力を感じる。

CP+2012のペンタックスリコーブース。REGZA X3にPENTAX 645Dの撮影画像を映し、高画質環境の価値を訴求していた
同じくCP+2012から。ソニーブースでは、αシリーズの再生画像をTRIMASTER SRM-L560でディスプレイ

 東芝が口火を切った4K2Kテレビだが、今後は対応製品も増えていくことだろう。これは業界を挙げて、より快適に、そして簡単かつ美しく写真を鑑賞するためのテレビについて考えるべきだろう。

 カメラメーカーの大多数は日本にあり、日本で販売されているテレビの大多数が日本メーカーの開発。4K2Kで写真を楽しむという選択肢について、真剣に考えてみる時期なのかもしれない。






本田雅一
PC、IT、AV、カメラ、プリンタに関連した取材記事、コラム、評論をWebニュースサイト、専門誌、新聞、ビジネス誌に執筆中。カメラとのファーストコンタクトは10歳の時に親からお下がりでもらったコニカEE Matic。デジタルカメラとはリコーDC-1を仕事に導入して以来の付き合い。

2012/6/8 00:00