インタビュー

【フォトキナ】海外でも高級ミラーレス機が伸びてきた――富士フイルム

富士フイルム 光学・電子映像事業部 岩田治人氏 神前秀介氏

Photokina 2014インタビューも、富士フイルム 光学・電子映像事業部 営業部 マネージャーの岩田治人氏および神前秀介氏とのやりとりで最後となる。

お2人とも富士フイルムが展開するプレミアムクラスのカメラ「Xシリーズ」の商品企画にもかかわる方々である。ここまでは製品そのものよりも、カメラメーカーとして目指すところや、新たな戦略(次の指し手)といったところにフォーカスしていたため、やや今回のインタビューは趣向が異なる。

富士フイルム 光学・電子映像事業部 営業部 マネージャーの岩田治人氏

しかし、昨年末に掲載した「メーカーインタビュー2013:富士フイルム編 ラインナップ拡充を果たした“Xシリーズ”、その目指す方向とは」にも掲載した通り、富士フイルムの進む方向は明確で、その後も変更がない。

すなわち、“写真フィルム開発の中で得られた知見を活かすこと”に特化した商品の企画・開発である。それは”発色”という感性に訴えかけるものであったり、X-Trans CMOS IIセンサーのようなデバイス技術であったり、映像処理技術などもある。が、いずれにしろカメラメーカーではなく、写真フィルムを作ってきた企業だからこそ……を前面に押し出し、自分たちの不得手な部分は可能な限りの対策を施しつつも勝負しない。

この潔さが近年、Xシリーズが一定以上の評価を集めている背景にあると言えよう。しかし、それだけに展開幅が広くはなく、“打つべき手”の幅は狭くなっているという見方もできる。フルラインナップでレンズ交換式、コンパクト、それぞれのカメラを展開しているわけではないだけに、話題も自ずと商品作りの細かなコンセプトへと収斂していった。

――昨年のインタビューでは、“電子機器の設計開発では、専門の会社にはかなわない。うちはフィルムメーカーならではの価値を追求する”と話していました。その後に発売されたX-T1は、機能的には疑問点や制約があったりするのですが、一方で電子ビューファインダーの遅延時間が極めて短いなど、ポイントを抑えたコダワリを見せていました。新製品のグラファイトシルバー エディションも発売されましたが、ここで機能が向上していますよね?X-T1とは同じプラットフォームだと思いますが、やはり得意のファームウェアアップデートで対応していくのでしょうか?

FUJIFILM X-T1

X-T1を発売した後、自分たちでチェックしつつ、もちろんユーザーからの声も集めながら、120個ぐらい改善項目をリストアップしました。120個も!と驚くかもしれませんが、これまでも100個前後の改善点を発売後にリスト化して対策してきています。グラファイトシルバーエディションは、独自の塗装を行った特別バージョンですが、リストアップした改善点の一部が盛り込まれています。その上で従来のX-T1への対応ですが、12月中旬に10項目ぐらい改善を施したファームウェアを提供する予定です。

X-T1グラファイトシルバーエディション

改善点は自分たち自身で気になった部分もありますが、何より写真家の方々やユーザーからのフィードバックの声を聞いて、素直に修正を加えていくという手法を取っています。

色再現と画質に“フィルムメーカーとしての表現”

――すでに新ファームウェアの機能などはアナウンスされていますが、とりわけ注目してほしい部分はどこでしょう?

まず、メカシャッターに加えて電子シャッターでの撮影が可能になります。これはグラファイトシルバーエディションにも入っていますが、これによって1/32,000秒のシャッターが切れるようになります。

次にフィルムシミュレーションにクラシッククロームを追加しました。これもグラファイトシルバーエディションや一連のXシリーズ新製品でお馴染みですよね。フィルムそのものをシミュレーションするのではなく、昔のクロームフィルムで撮影し、紙焼きにした写真をリファレンスに、少しマットな風合いも醸し出しながら絵作りをしたものです。

――フィルムシミュレーションは他社にないものですね。もちろん、色調モードを変更できる機種は多いのですが、絵としてのまとまりに欠ける場合も少なくありません。“絵の風合い”を重視するならば、今後、このバリエーションを増やしていくのでしょうか?

そうですね。一気に増やすことはできませんが、順次、新しい絵を考えていきたいと思います。

――フィルムシミュレーションとは離れるかもしれませんが、現像・プリントまでの化学処理におけるアナログ的な手法をシミュレーションできないでしょうか?たとえば「残銀処理」(ブリーチバイパス)の典型的な結果をシミュレーションした上で、パラメータでシルバーを残す程度を調整するとか?

化学処理や印画紙の選択など、アナログ写真における表現手法をシミュレーションするというアイデアはあります。ブリーチバイパスも検討してはみたのですが、なかなかキレイに安定した効果が得られにくいのと、銀の残し方で変化する絵の風合いをきちんと追いかけられるかというと現状ではなかなか難しい。しかし、アプローチの仕方はいろいろあると思いますから検討は重ねていきます。

たとえば印画紙の風合いも含めたシミュレーションは、まだできることがあるでしょう。モノクロのネオパン系の絵を出すとかですね。

――フィルムシミュレーションはとても良いと思いますが、一方でJPEG記録時にしか指定できませんよね。もちろん現像ソフトで指定してもいいのですが、RAW同時記録のJPEGでフィルムシミュレーションができないのはなぜでしょう?

そこは必要な機能として認識していますので、対応したいですね。他の方からも同じような指摘は受けています。

――電子ビューファインダー周りもアップデートで大きく変わってますね。アップデートの意図を教えていただけますか?

LCDとEVFの明るさ、コントラスト、色調などをマニュアル調整可能にしました。また明るさを検出(TTLによるCMOSセンサーを使った検出)を用いて、ファインダーやLCDの調整も行うようになります。

さらに“ナチュラルビューモード”を追加していますが、これはファインダーを覗いた時の自然さを意識したものです。光学ファインダーならこう見えるはずだよなぁ、という絵で表示するモードですね。通常の電子ビューファインダーは、映像補正処理を入れて撮影結果のシミュレーションを表示しています。しかし、それでは実際に光学ファインダーで見た雰囲気とは全く違うものになります。もちろん、撮影結果を予測するには良い機能なのですが、違和感を感じないモードも必要だろうと考えました。

――色調を“あるがまま”にするだけが利点なのでしょうか?

光学ファインダーを通した絵と現像結果は別ですから、そこは好みで切り替えていただくことになります。ナチュラルビューモードではフィルムシミュレーションの結果なども反映しません。利点は暗部も明部もバランスよく階調が見通せるように調整していることです。たとえば、ダイナミックレンジは400%まで追従しますから、明暗の激しいシーンでも暗部階調、明部階調ともにファインダー内で同時に見通せます。光学ファインダーならば当たり前なのですが、電子ビューファインダーでは最終的なJPEG出力を元に絵が作られるのでどうしてもダイナミックレンジは狭くなります。

これ以外にも、ダイレクトフォーカスエリア選択(フォーカスエリアをダイレクトに十字キーで選べる。これまではフォーカスエリア選択ボタンを押してから操作する必要があった)や、AEロックボタンとAFロックボタンの位置逆転設定、動画フレームレートが25フレームと50フレームに対応したり、動画撮影時のマニュアル露出対応、MF時のワンプッシュオートフォーカスボタン、パソコンに接続したリモートシューティングへの対応など多岐にわたります。

――改善点の一部はX100TやX30など、コンパクトデジタルカメラの新製品にも反映されていますね。カメラ構築のプラットフォームは、X30以上で共通化されているということでしょうか?

FUJIFILM X30

そうですね。映像処理エンジンとX-Trans CMOS IIセンサーが共通化しているので、機能面でもXシリーズに一貫した機能とアップデートが提供できます。機能的にコンパクトな製品から電子ビューファインダー付きレンズ交換式カメラまで統一感があるのは、プラットフォーム共通化の利点をシリーズ全体に行き渡らせるためです。

製品ごとにボタンの位置や数なども違いますが、可能な限りファームウェアの調整で操作性も共通化して、Xシリーズ内でカメラを持ち替えても違和感なく撮影できるように考えました。

――“Xシリーズ”の始まりを考えると、それはコンセプトであったと思いますが、ここに来てひとつのプラットフォームのようになってきているということでしょうか?

Xシリーズの価値を考えていった時に、まずは色再現と画質に関してフィルムメーカーとしての表現を行いました。今回、改めてフィルムシミュレーションをひとつ増やしましたが、今後もさらに増やしていきます。その上で、機能の共通化や操作性の共通化を進め、Xシリーズ共通の操作感を意識しています。

たとえばX100Tは、パッと見ただけでは従来機種からデザインが大きく変更しているようには見えないでしょう。しかし、実は金型から全面的に入れ替えてボタン操作が変わっています。液晶モニターの左は“見るボタン”で、右が“撮影関係のボタン”にするなどです。これはXマウントボディなどで導入していた操作性ですが、それをX100Tにも導入するなど、モデルごとに徹底的に合わせ込んでいます。

FUJIFILM X100T(シルバー)

――Xマウントのレンズラインナップの作り方も特徴的です。今後の予定はすでに公開されていますが、今後のレンズ開発における方向性のようなものを教えていただけますか?

まずは明るく高画質な単焦点レンズを中心に揃えることでカメラファンに訴求し、その後、便利さを追求する上でズームレンズの充実に務めてきました。今年は5段手ブレ補正機能付きの高倍率ズームレンズも出せましたし、今回は「XF 50-140mm F2.8 R LM OIS WR」、「XF 56mm F1.2 R APD」の2本を発表しています。前者のような明るいズームレンズも今後拡充しますが、後者のようにアポダイジングフィルタを用いた特徴的描写のレンズなども同時に揃えていきます。来年も5本を出す計画です。

X-T1+XF 50-140mm F2.8 R LM OIS WR
XF 56mm F1.2 R APD

方針としては、やはり画質優先ですね。たとえば「XF 16-55mm F2.8 R WR」(2015年リリース予定)は、あえて手ブレ補正機能を入れませんでいた。やはり補正レンズを挟むだけでも画質は落ちますので、単焦点レンズ並みの画質を大口径標準ズームレンズに求める方々に最高性能を提供したいと考えました。XFレンズの特徴は、解像感の高さとボケの綺麗さ、さらにレンズ収差は可能な限りレンズ内で補正し、電子補正は行わない。これはポリシーとして全うしています。また新しいナノGIコーティングも導入しています。今後は既発売の高級レンズにも採用し、順次入れ替えていきます。

レンズスペックの選択ですが、初期に発売していたレンズ設計のリフレッシュを行っていくか、あるいはフィッシュアイやシフトレンズなど、いろいろやろうと思えばできることはありますよね。愚直に面白い、いいなと思えるレンズを順に出していきます。

――富士フイルムは早い時期から、高級コンパクトデジタルカメラに取り組んできました。今年のPhotokinaではこの分野に多数のライバルが参入しています。

我々にはこれまでやってきたノウハウなどもありますし、また勝負するところがフィルムシミュレーションなどの絵作りなどです。さらにX30は世代を重ねて、とても実用的なカメラになりました。電子ビューファインダーも、X-T1と同じ仕組を導入して0.005秒の遅延におさめています。また、X10、20でできなかったことを思い切ってやっています。たとえば、コントロールリングを鏡筒に盛り込むなどですね。

また、X100ですが、安定したファンがいらっしゃるので、丹念に耳を傾けてできることをやっています。実はX100を購入いただいた方の30~40%が、X100Sも購入いただけました。X100Tでも既存のユーザーに着実な進化を感じてもらえる商品にしています。“プラットフォームごとにきちんと進化させる富士フイルム”として、X100からX100Sへの切替時も大量のファームウェア修正を行いましたが、そうした地道な努力を今後も続けていきます。

業界内で口コミが広がった

――方針が定まり、商品の方向が定まることで、全ラインナップが同じ方向を向いたという印象ですが、今後のビジネスプランは?

現状でやるべきカタチは決まってきたので、今後、大きく戦略が変わることはないでしょう。中判センサー、フルサイズセンサーなどが欲しいといろいろなところで言われていまうが、センサーのサイズは今後も変えるつもりはありません。

それよりも、軽量かつ高画質という方向に向かっています。我々は、色再現にこだわり、プリントで楽しんでもらいたい。パッと見て“ああ、良い写真だな”と思ってもらえる絵を出すには、ノイズや解像度を改善するだけではなく、そのときの雰囲気をどう表現するかが大事です。そしてカメラは“絵を表現”するための道具です。この部分を貫き通そうと。

――昨年末から今年にかけて、たとえばニューヨークの有名カメラ店などでも、ミラーレス機を前面に押し出した販売展開を行っていたりしますよね。一眼レフカメラが大多数で、そのほとんどをニコンとキヤノンのプラットフォームが占めていた米国市場にどんな変化が起きているのでしょう?

ご存知のようにコンパクトデジタルカメラは急減していて、我々が持っている数字では昨年に比べてマイナス28%ぐらいですが、実は一眼レフカメラも19%ぐらい減ってると見ています。ところが、レンズ交換式カメラという視点で見ると、ミラーレス機が41%も成長しました。これはワールドワイドでの数字です。中でも高級ミラーレス機が伸びていて、その分、一眼レフカメラが落ちています。

たとえば、富士フイルムのカメラボディで言うと販売台数は昨年1年間の売上に対して2倍の数字を7月の時点で達成しています。つい先日までは、ミラーレス機市場が大きいのは日本とアジアだけだと言われていましたが、欧州でのミラーレス機は金額はベースで56%増で、富士フイルムだけだと+120%超にまで達しました。米国市場もミラーレス機が前年比67%増で、富士フイルムが2.6倍。月によってはソニーα7の単機種を抜くこともあったほどです。

――その理由は何だとお考えですか?
ソニーα7、OLYMPUS OM-D E-M1、それに富士フイルムのX-T1。これら高級ミラーレス機が一度に出てきたことで市場の注目を集め、ミラーレスもここまで来たのかと見直されたことが大きいと思います。大きくガッシリして、動作感もはっきりしたカメラシステムに価値を感じていた人たちの評価基準が変化してきています。同程度の画質で撮影できるのに、システム総重量が2/3ぐらいで収まるとき、ではどちらを使いましょう?ということですね。

ソニーα7
OLYMPUS OM-D E-M1

またミラーレス機で高級機といっても、その体験を知ってもらう必要がありますから、カメラ専門店の店員教育プログラムを充実させ、実際にXシリーズでの撮影を通じてファンを作る、あるいは特徴について理解していただく活動を行っています。その結果、富士のカメラは絵がいい、色がいいという口コミが業界内で広がってくれました。中にはJPEGの撮って出しだけでもイイねと言ってくださるプロの方もいらっしゃいます。RAW現像の手間がなくなり、信頼できる絵が出せると。

市場での手応えを得て、システムとしても完成度が高まってきていますから、これで準備は整いました。今後はさらなる優れた色再現や、高感度性能工場など、ソフトウェアの改良でやれることをやっていきます。アルゴリズム改善でできることもまだ残っています。

現在使っているプラットフォームは、今後の製品でも使う予定ですので、まだまだファームウェアアップデートで追加できる機能も多いでしょう。時間と予算の制約はあるために一度にはできませんが、120の改良点リストについては大多数の顧客に解決策を提供したいと思います。

本田雅一