インタビュー

繋がる新世紀へ…「エクシリム オートトランスファー」の秘密を聞く

リアルタイムでスマホに転送 カシオEX-ZR1600の最新技術とは?

多くの方が日常的に持ち歩いているスマートフォン。コンパクトデジカメはこれらスマートフォンのカメラに押され、元気がないカテゴリーだと言われている。しかし、そんな中でも個性的な機能を搭載することで高い支持を集めているのがカシオの「EXILIM」シリーズだ。

そんな同シリーズに注目の新機能「エクシリム オートトランスファー」を搭載する「EXILIM EX-ZR1600」(以下EX-ZR1600)が登場した。今回は同モデルを紹介するとともに、この新機能についてカシオ計算機QV事業部第一開発部部長の松原直也氏に詳しくお話しを伺った。

QV事業部第一開発部部長の松原直也氏

自撮りとスマホにすこぶる強いデジカメ

まずはEX-ZR1600について簡単に紹介しよう。

有効画素数1,610万画素の1/2.3型高速CMOSセンサーを搭載。18倍の光学ズームを搭載し、35mm判換算で約25-450mmの画角で撮影できる。

液晶モニターは3型を採用。本体上部に向けて180度回転することが可能。チルト液晶とレンズ横に装備するフロントシャッターにより、手軽に自分撮りができる。

液晶モニター側の操作ボタンの中に無線ボタンを用意。
液晶モニターをチルトすることで手軽に自分撮りができる

そして最大の特徴が、スマートフォンとワイヤレス接続し、リアルタイムで撮影した写真を転送できる「エクシリム オートトランスファー」を搭載することだ。松原氏は、同機能により、カメラの使い方は「繋がる新世紀」に入ったと語る。

「フイルムカメラの時代から、カメラというのは見る道具があって成立するものでした。当時はプリントやアルバムを使って写真を見ていました」(松原氏、以下同)

「そして1995年に弊社がQV-10を発売したことで、写真はパソコンで見るものに変わりました。デジタルカメラで撮って、パソコンで見る、メールで送る。ブログにアップする。ちょうど写真を手軽に扱えるWindows 95が発売されたタイミングと一緒でした」

「そして今、デジタルカメラの画像を見る道具が、パソコンからスマートフォンに変わりました。スマートフォンにはそれ自身にカメラを搭載していますが、ユーザーアンケートなどによると、旅行やイベントなどはやはりデジタルカメラで撮りたいという声が大きい。しかし、デジタルカメラで撮ると、SNSへのアップなどが煩わしい。そこで今回、シャッターを押すだけでスマートフォンに保存できる製品を作ろうと考えました。エクシリム オートトランスファーがないと、スマートフォンはデジタルカメラの相棒になれていないと思っています」

これまでのWi-Fi接続とは違う仕組みを

超高速連写やHDRによる暗所撮影機能など、デジタルカメラへの新機能の搭載を積極的に行ってきたカシオ。しかし、意外にもWi-Fi機能の搭載は遅い。

最初にWi-Fi機能がコンパクトカメラに搭載されたのは2005年のことだが、同社がWi-Fi機能を搭載したのは中国市場向けのモデル「EX-TR350」(2013年発売)。そして、日本市場では2013年発売の「EX-10」が最初となる。

「これまでのWi-Fi機能では『繋げる』操作が必要です。だから個人的にもその機能を使うことはあまりありませんでした。カメラで撮ったシーンをSNSで送りたいと思ったときは、『繋げる』のではなくスマートフォンでも撮ってました。その方が簡単ですからね。だからこそ、本当に繋がっているカメラと作ろうと考えたのです」

繋がるデジタルカメラの開発は、カシオ初のWi-Fi搭載カメラの開発とともに始まった。当時はまだ、Bluetooth 4.0(規格名:Bluetooth Low Energy、ブランド名:Bluetooth Smart)を搭載したスマートフォンがなかったため、すぐには導入することができなかったが、方法は見えてきた。決め手となったのはBluetooth Smart(Bluetooth 4.0)の持つ省電力機能だ。

ここで「エクシリム オートトランスファー」機能について解説しよう。同機能を利用するには、まず連携するスマートフォンに専用アプリ「EXILIM CONNECT」をインストールする。

スマートフォンに専用アプリ「EXILIM CONNECT」をインストール。「カメラとペアリングする」を選び、Bluetooth接続を行う。

同アプリを利用して最初にBluetooth接続を行うと、自動的に「EXILIM EX-ZR1600」を親機とした形でのWi-Fi接続設定が保存できるのだ。

また、このときに撮影した写真の自動転送のオンオフも設定できる。同機能をオンにしておくと、写真を撮るとすぐにスマートフォンに転送されるようになるのだ。

カメラ側でもBluetooth機能をオンにすることでペアリングが完了。そのまま無線LAN接続も自動的に行う。
接続設定の最後で自動転送を設定する。いつでもオンオフできる。
カメラで見た接続状況
こちらはスマホアプリでの接続状況

「ペアリングしたカメラは電源がオフの状態でも、Bluetoothは常時接続となっています。写真を撮るとBluetoothでスマートフォン側のアプリをコントロールして、Wi-Fi接続を立ち上げ、カメラと接続して、写真をWi-Fiで転送する仕組みです」

松原氏によるとBluetooth 4.0の常時接続による消費電力は非常に低く、1カ月間繋ぎっぱなし(カメラの電源はオフ)の状態でもバッテリーは切れることがないという。この低消費電力のBluetoothと、ファイルサイズの大きな写真データも高速で転送できるWi-Fiを組み合わせることで、『繋がる』デジタルカメラの新機能を実現したのだ。

しかし、この「エクシリム オートトランスファー」機能の実現には数々の苦労があったという。全く新しいアイデアでのスマートフォン連携を実現するため、まずはドライバーソフト作りからスタート。発売まで数カ月という段階でとりあえず動作する試作品ができたが、それは常時接続、サクッと転送という言葉とはほど遠い状態だったという。

「弊社のEXILIMシリーズではあまり表立っては言っていませんが、普通にシャッターを押したときも、裏側では高速連写して、キレイな1枚の写真を作り出すといったことをしています。つまり、搭載しているメモリをかなり酷使している状態です」

「今回そこに通信が乗るということで、まず深刻なメモリの奪い合いがありました。また、低消費電力のはずのBluetooth機能はなぜか電力を高く消費し、スマートフォンとの常時接続にも暗雲が立ちこめていました。現場からは何度も発売を遅らせてくれと言われましたね」

しかし、現場の開発チームはそれらをひとつひとつ修正していく。メモリ問題は、容量をアップすれば解決するのだが、それは原価に跳ね返り、価格競争力を弱めてしまう。また、過去のモデルからのハードウエア上の変更点は最小限に抑えたいという開発上の都合もあったという。少ないメモリを効率良く使うために、排他処理やメモリの使用を順番を厳密に制御することで、メモリ問題は解決した。

また、Bluetoothの消費電力のトラブルは、Bluetooth/Wi-Fiのコンボチップを使っているために処理が複雑になり、うまくスリープできていなかったことが判明し、しっかりとスリープさせることで解決を図った。こうして「EXILIM EX-ZR1600」は当初の予定通りのスケジュールで発売できることになったという。

18倍ズームの写真を素早くSNSへ!変わるデジカメの使い方

同機能を実際に使ってみたが、写真を撮って数秒後には転送がスタート。カメラを構えているときはスマートフォンをカバンにしまったままで、一切の操作をすることなく転送できているのが便利だった。

さらに自動転送はオフにも設定でき、その場合はカメラからペアリングしたスマートフォンに画像を手動で送ったり、逆にスマートフォンからカメラにアクセスして、欲しい画像だけを選んで転送するという3つの方法が利用できる。普段は自動転送をオフにして、イベントが始まったらその間だけオンにするといった使い方もできる。

「その3つの使い方のどれでも、操作するのはカメラ、スマートフォンのどちらかだけというのが基本です。いちいち両方取り出して操作する必要はありません」

スマートフォンからカメラ内の画像にアクセスした所。カメラの電源がオフの状態でスマートフォンから操作することで画像の選択取り込みができる。
スマートフォンの画面を見ながら撮影するリモート撮影にも対応する。

さらに「エクシリム オートトランスファー」ではスマートフォンに転送できるだけでなく、アルバムアプリと連動することでクラウドを使った写真の共有もできる。

「アルバムアプリの『scene』は2014年のベスト30にも選ばれたアプリです。スマートフォンに『scene』をいれておけばスマートフォンに写真を転送すると同時にさらにクラウドへのアップロードもできます。そしてSNS経由やQRコードを利用して友人知人とクラウド上のアルバムを共有することができます」

自動転送モードの利用時にそのままSceneアプリのアルバムに画像を自動登録することも可能。
Sceneアプリでは保存したアルバムや画像が見られるURL、SNS経由やQRコードを利用して共有することができる。

スマートフォンとの競争で勢いを失いつつあるコンパクトデジタルカメラだが、この機能を利用すれば、スマートフォンの内蔵カメラと同じ使い勝手で、デジタルカメラの機能が利用できる。

松原氏は「スマートフォンが苦手なズームしたい被写体、暗いシーン、動く被写体を撮るときこそ、デジタルカメラの出番。スマートフォンのカメラと使い分けていただければ」と語る。

初めてWi-Fi機能を搭載したデジタルカメラが登場して約10年。最近ではミドルクラス以上のデジタルカメラでは、Wi-Fi機能の搭載が当たり前となってきた。

しかし、EX-ZR1600は使い勝手で、便利さでそのさらに一歩先に進んだ。「エクシリム オートトランスファー」はこの先のスマートフォンとデジタルカメラの新しい関係を作るかもしれない機能だ。

コンシューマー向けデジタルカメラとして市場を作り出した「QV10」の登場からちょうど20年。今、再びカシオが、デジタルカメラの新しい使い方を提案しているのだ。

協力:カシオ計算機株式会社

コヤマタカヒロ