インタビュー

メーカーインタビュー2013:キヤノン編

来年はレンズの年か。一眼レフ、ミラーレスのどちらも強化

 デジタルカメラ市場における存在感において、キヤノンというブランドの大きさは特別なものだ。普及価格帯のコンパクトデジタルカメラから高級コンパクト、小型・薄型のモデルからAPS-Cサイズに近い大型センサーを搭載するハイエンド機まで用意するなど守備範囲が広い。そのうえ、一眼レフカメラにおいてはニコンとともに2強を形成し、昨年はミラーレスカメラにも参入した。

 しかし一方で、コンパクトデジタルカメラ市場が大きく縮んでいる中、各社が高級コンパクト機へと経営資源を集中している中で、幅広いユーザー層をカバーせねばならないとも言える。高級機への踏み込みは浅くならないだろうか。

 また、決して好調とは言えないEOS Mが、2年目を迎えてEOS M2へと進化した。機能、サイズともに進歩したEOS Mだが、一眼レフのビジネスが大きいキヤノンは、こちらでも自社製品(一眼レフ)とのカニバライゼーションを意識し、同じように踏み込みの甘さが出てこないものか。

 存在が大きなメーカーだけに、そこにはいくつかの疑問も湧いてくる。キヤノン・常務取締役でカメラ事業を束ねる眞榮田雅也氏に話を聞いた。

キヤノン・常務取締役の眞榮田雅也氏

EOS 70Dで「デュアルピクセルCMOS AF」を提案

−−まずは、大きく動いた今年の市場。コンパクト機の変調はそれ以前からあったと思いますが、今年1年を振り返っての市場動向と、それに対比してキヤノンの製品戦略について話を伺えますか?

 まずは弊社のカメラ、交換レンズなどについてお話させてください。今年の私共の製品は、コンパクトデジタルカメラも含めて、従来から市場に受け入れられていた製品ラインナップを、それぞれにしっかりと正常進化させることができた年だと思います。

 とりわけ大きな変化は新しいAF技術の導入です。EOS 70Dの投入により、レンズ交換式カメラの領域にデュアルピクセルCMOS AFを提案しました。AF速度の高速化を果たせた側面もありますが、動画撮影時に継続的に像面のあらゆる位置で追従できるようになったことで、AFシステム全体の完成度を大幅に引き上げることができました。

EOS 70D。デュアルピクセルCMOS AFを搭載。ライブビューでのAFが高速化した

 またコンパクトデジタルカメラのPowerShot NやビデオカメラのIVIS miniという新しい撮影スタイル・利用スタイルの製品を提案しています。従来から消費者に受け入れていただいている製品を確実に進化させるだけでなく、新しいアプリケーションの提案を積極的に行なってきたのが今年でした。市場の変化への対応という意味では、具体的な新製品や新要素技術といった面で新コンセプトを打ち出し、それによって応えることができました。

−−画素を構成するフォトダイオードを分割し、像面位相差でAFというのは、確かにセンサーを内製するキヤノンならではの機能ですね。かつて“本当はセンサー内AFでもっと画期的な技術があるので中途半端には出したくない”と、当時の打土井副本部長が話していたことがありましたが、これがキヤノンとして目指していた最終的なAFシステムでしょうか?

 その始まりであると思います。今回開発したAFシステムは、特に動画の領域で、もっとも優れたAFに仕上がったと自負しています。合焦するポイントに着地する際の動きを最適化できる点がポイントです。最後の追い込みで迷わないため、静止画では素早く正確なAFを実現できますし、動画の場合もピントの合う点へとどうランディングさせるか、動きの制御を行なえます。

 CINEMA EOS SYSTEMのEOS C100は新AF技術発表前のモデルでしたが、新CMOSセンサーを導入していましたので、来年2月のファームウェアアップデートでデュアルピクセルCMOS AFに対応します。すでにプロの方々には使っていただき、特にシネマトグラファー(映画を撮影するカメラマン)から高い評価をいただいています。

−−デュアルピクセルCMOS AFの場合、映像プロセッサー側のソフトウェアが進化することで、さらに多彩なAF機能を提供できそうですね。センサー面全体に無数のAFセンサーが埋め込まれているようなものですが、今後のファームウェアによる進化も期待していいでしょうか?

 いろいろな意見を聞きながら、AF制御のコントロールのあり方に関しては、今後も継続的にブラッシュアップを図っていきたいですね。

−−これまでの歴史を振り返ると、AFシステムの大幅な進化はレンズ交換式カメラ全体のシステム構成を変える一因になってきたと思います。EOSのボディ、レンズラインナップに手を加える必要はありませんか?

 デュアルピクセルCMOS AFの一番の特徴は、動画と静止画を切り替える必要がない、完全にシームレスな撮影体験を高精度AFの元に提供できることです。すでにレンズに関しては長期的な視野で、動画にも対応可能な静止画用レンズを増やしていますが、ボディに関してはこの技術を多様な製品に広げていかなければならないと考えています。

ミラーレスと一眼レフ、両方に軸足を

−−“動画と静止画のスムースな切り替えが可能なAF”というと、EOS Mの動向が気になります。CINEMA EOS SYSTEMにおいて、シネマトグラファーに好評だったとおっしゃっていたように、デュアルピクセルCMOS AFならば(たとえば顔認識や被写体ロックをかけながら像面位相差AFを行なうなど)コンシューマ向けにも新しい簡単だけど高度な動画撮影体験をもたらすことができるのでは?ファインダー付きのEOS Mで、これまでにない静止画・動画ハイブリッドのカメラを作れそうですよね。

EOS M2。先代EOS Mから小型化した上で、AF性能を高めた

 そう思います。像面位相差によるAFがさらに完成度を高めていけば、カメラは更に進化していくと思います。

−−来年前半には目にすることができるでしょうか?

 そう遠いタイミングではないと思いますよ。

−−景気動向による浮沈はあるものの、一眼レフ市場の中におけるキヤノンの立ち位置は盤石という印象です。一方でEOS Mに関してはこの1年、かなり苦戦を強いられていたように思います。さらに市場の形も変化していますよね。日本を中心にアジア地区はミラーレスカメラへのシフトが急速に進み、ざっくり半分くらいの台数になっていますよね。一方で欧米市場の反応は鈍く20%前後しかない。欧米に近い比率だった中国も徐々にミラーレスカメラが増えてきました。今後、どう舵取りをしていくのでしょう?

 ミラーレスカメラに関するキヤノンの基本的なスタンスは変化していません。交換レンズシステムにおいても、可能な限りのダウンサイジングを実現していく。これがEOS Mの基本コンセプトですし、今年のEOS M2にも引き継がれている考え方です。また、さまざまな領域の画を撮りたいというニーズを満たすための交換レンズシステムでありますから、レンズのバリエーションがなければ、システムとしては完成されません。

 これはミラーレスか一眼レフかといったボディの構造に依存するものではありませんから、ハイエンドの一眼レフからミラーレスカメラまで含め、レンズのバリエーションを徹底的に広げていきます。レンズを交換しながらよりよい写真を撮っていただくこと。そこの部分を楽しんでいただきたいと思っています。

−−来年、キヤノンとしては“レンズの年になる”ということでしょうか。EF、EF-Sについてもアップデートを継続的にかけつつ、EF-Mに関してもフルラインナップを目指した展開になるのでしょうか?

 EFレンズ群についてはリニューアルをより一層、押し進めていきます。光学設計の旧いものはもちろん機能の面でもアップデートが必要なものはありますので、順次リニューアルを進めます。エントリークラスのレンズはある程度揃っていると考えていますが、“遊べる”という面で楽しみ方を広げるレンズを出せればと思います。具体的に申し上げることはできませんが、いろいろと新しい光学系のレンズを計画しています。きっと“おおっ!”と唸っていただけるようなレンズが登場するかもしれないですね。

 EF-Mに関しては、まだまだこれからレンズを拡充しなければならない状況ですから、もちろん多くのレンズを出していきます。フルラインナップを目指すのか? という意味では、(EF、EF-Sの既存資産に頼るのではなく)EOS Mユーザーのニーズに合うレンズをフルラインで揃えていければと思います。

−−つまり、EF、EF-Sの一眼レフ用レンズの開発にも正面から取り組みつつ、ミラーレスカメラ用のEF-Mに関してもフルラインナップを揃えていく、2面作戦を展開するということでしょうか。

 はい、キヤノンは一眼レフとミラーレスカメラの両方に対して(片方に軸足を置くことなく)レンズラインナップを整備していきます。

−−AFに関する質問とややかぶるのですが、そこまで本格的にEOS Mに注力を始めるということは、ボディバリエーションも拡がると考えていいのでしょうか?

 第1世代目のEOS Mは、EOSの性能を保持しながら、どこまでダウンサイジングできるかがテーマでした。一方、EOS M2は、Mをベースに操作性や機能など改善すべき点をきちんと改善したカメラです。さらに将来となると、今度は1台のボディではなく、ラインナップを広げていく必要があるでしょう。

−−“一眼レフが得意なメーカーは、ミラーレスカメラを矮小化して、一眼レフ市場を守ろうとしている”といった声も出ていますが、キヤノンはEF-Mというマウントに対して本気ということですね?

 もちろん本気ですよ。その為には、交換レンズの充実が不可欠です。たとえばEF-M 11-22mm F4-5.6 IS STMの描写力をぜひ試してください。プロの方々からも評判がよい、描写性能がとてもいいレンズに仕上がっています。本数に関しては正確な数字を申し上げることはできませんが、“たくさん”と答えさせていただきます。

−−ミラーレスカメラの市場は、パナソニックとオリンパスがプレミアムなミラーレスカメラに取り組み始め、さらにはソニーがフルサイズセンサー採用機を出し、これまでとは異なる方向に大きく動き始めているように見えるのですが、こうした分野をどのように見ていますか?

 キヤノンとしては、あらゆるマーケットに対し、日本、アジアでも欧米でも、対応できるよう準備をしています。だからこそEF-Mにも力を入れますし、いろいろなマーケット展開できる基本的な要素技術として新しいAFシステムを投入しました。

 コンパクトなサイズで、交換レンズを用いて動画も静止画も境目なくよい画が撮れるようになれば、ミラーレスカメラのユーザーはさらに増えると思います。交換レンズ式のカメラシステムでカバーできる領域が、プロ、セミプロ、アマチュア、あらゆるユーザー層で広がる可能性がありますから、そこに対応する検討を進めています。

入力から出力までが「最高画質」

−−コンパクトデジタルカメラに関してはどうでしょう? スマートフォンの影響はいうまでもないことですが、どのように対応していきますか?

 ご存知のようにスマートフォンの内蔵カメラで充分な領域というのは、急速に市場が縮小しています。そのため、スタイリッシュコンパクトのジャンルはモデル数を圧縮しようと思っていまが、この分野は世界的にまだまだ大きなマーケットなので、手を抜くという意味ではありません。製品としての進化は継続させます。特に海外ではミドルクラスの高倍率ズーム機の人気がありますし、PowerShot Sシリーズの認知度も高いので、そこは継続して取り組んでいきます。

−−眞榮田さんは、以前から「もっと高級感のあるプレミアムな製品に仕上げないと」と話していました。一方でキヤノンは市場シェアが大きいこともあって、幅広い製品ラインナップで数も追わねばならない。センサーサイズという意味ではPowerShot G1Xという挑戦もありましたが、もっとプレミアムな製品へも挑戦したいと考えているのでは?

 より高級感や操作感などを大切にしつつ、映像性能を高めた製品の可能性も、いろんな側面から検討しています。

−−高級感、操作感などは理解できますが、具体的にはどんな点に注力した製品になるのでしょう?

 銀塩時代からのカメラの操作性を振り返ってみると、実はカメラ撮影の手順はかなり変化しています。たとえば銀塩カメラにおいて、撮影しながらISO感度を変えることは考慮されていません。しかし、現在ほど感度特性の幅が広くなってくると、これを表現手段のひとつとして使いたくなってきます。

 上記は一例にしか過ぎませんが、デジタルになって撮影時のパラメータは変わってきました。ところが操作性はかつての銀塩時代を踏襲しています。そこで、新しいデジタル時代の操作性とは? というテーマで見直しています。

−−年末商戦の時期でもありますので、現行製品に関してもいくつかお伺いしたいのですが、眞榮田さんの立場からとりわけ訴求しておきたいポイントはありませんか?

 まずはPowerShot S120です。PowerShot S90から数えて5世代目となり、操作性・完成度ともに完成の域に達しています。一押しするだけで気持ちよくピントの合うAFや薄型化されたボディ、レンズなど、ぜひ一度みなさまに使っていただきたいモデルです。もちろん、デュアルCMOS AF搭載のEOS 70Dも店頭で体感していただきたいですね。特に動画におけるAF性能は他にない体験だと思います。

PowerShot S120 PREMIUM BOXも数量限定で発表された

 交換レンズに関しては、EF 24-70mmのF2.8L II USMとF4L IS USMをほぼ同じタイミングで発売しましたが、それぞれにサイズ・重量や描写性能といった要素を、かなり高いレベルのバランスで完成させることができました。

−−スマートフォンが最初の写真体験という利用者が今後は増えてくると思います。そうしたスマートフォンが自分の最初のカメラであるという人たちに、写真専用機であるカメラへの興味を持ってもらう動線を、うまく作っていけるでしょうか?

 スマートフォンのユーザーは、写真に関してより多彩な楽しみ方をしていますよね。多彩な楽しみをしているが故に、次のステップではもっと高画質に撮影したい、もっとよい画が撮りたいというニーズが増えてきてると、私共の調査でもわかっています。

 スマートフォンは、通信サービス・インフラと写真文化が融合することで、どんな新しいユーザー体験を実現できるかを示してくれました。もちろん、一部の市場がスマートフォンに影響を受けていることは確かですが、カメラとスマートフォンの連携を磨き込むことで将来的には(カメラ業界にとって)プラスにできると思っています。市場規模としてはスマートフォンの方が10倍近くの大きさがありますから、そうした大きなインフラの上にカメラという機器がきちんと載れば大丈夫ですよ。

 Wi-Fiを通して、EOS 6D、PowerShot S120などのスマートフォンとの連携はかなり良くなっています。スマートフォンやタブレットとの連携は、今後も継続して改善していくのでご期待ください。

−−来年の予告という意味では、すでに“レンズの年になる”との予告をいただいていますが、来年早々にはCP+の開催もあります。キヤノンはどのようなコンセプトでの展示を考えていますか?

 キヤノンの最大の特徴は、映像入力から出力まで製品をカバーできる数少ない企業という点です。それだけに、“プリント”という文化を重要視しています。CP+では“高い入力性能”はもちろんですが、質の高い出力に至る全体システムをご覧に入れたいと考えています。出力といっても紙だけでなくもちろんディスプレイも含みます。全方位で優れた美しい画をトータルで体験してもらいたいですから、より優れたプリント、より優れた4Kディスプレイなど、これらの進化を体感していただければと思います。“キヤノン”ブランドの中で完結する、入力から出力まで最高画質というソリューションを是非、体感しに来てください。

(本田雅一)