インタビュー:RING CUBE写真展「OVERSEAS-世界を選んだ若手作家たち―」の4名に聞く


会場の様子

 リコーは、写真展「OVERSEAS-世界を選んだ若手作家たち―」を東京・銀座の「RING CUBE」で18日~29日まで開催している。

 海外で活躍する写真家5名による写真展で、参加写真家はアラキミキ氏、鈴木光雄氏、Taichi Imai氏、長坂フミ氏、南しずか氏。

 会場の展示プランはRING CUBEのサポートスタッフ「doughnuts」(ドーナツ)のメンバーが初めて担当。作品はすべて窓際に展示され、それらを1本のストレートラインとすることで、「世界はつながっている」ことを表現したという。

 写真展の概要は下記の通り。

  • 期間:11月18日~11月29日
  • 会場:RING CUBEギャラリーゾーン
  • 住所:東京都中央区銀座5-7-2 三愛ドリームセンター8・9階(受付9階)
  • 時間:11時~20時(最終日17時まで)
  • 休館:火曜日
  • 入場:無料
参加写真家が活動する地域の現地時間を示す時計を掲示する作品はすべて窓際に配置している
(c)アラキミキ(c)鈴木光雄
(c)長坂フミ(c)南しずか
(c)Taichi Imai

「自分の価値観や考え方は、本当に自分のものなのか」

左から南しずか氏、Taichi Imai氏、鈴木光雄氏、アラキミキ氏

 今回は参加した写真家のうち、アラキミキ氏、鈴木光雄氏、Taichi Imai氏、南しずか氏にお話を伺う機会を得た。アラキ氏はロンドン、鈴木氏はクアラルンプール、Taichi氏と南氏はニューヨークを拠点としてそれぞれ活動している。(以降敬称略)

――活動の場に海外を選んだのはなぜでしょうか。

鈴木「元々は東京に住んでいましたが、広告写真の仕事と並行した作家活動では海外を中心に作品発表をしていて、そのころから日本にいる必要性についても考えてはいました。あるとき、元同僚でマレーシア人の友人が母国でスタジオを始めていて、一緒に仕事をしないかと誘われたんです。ちょうど作品制作の環境を海外に移したいと思っていたし、マレーシアの気候が好きだったこともあり、移住を決めました」

アラキ「私にとっては、故郷の石川県から上京したときの感覚でロンドンに向かった感じです。現地での仕事はファッションフォトグラファーのアシスタントから始めました」

南「友人とバックパッカーの旅をしていたときに、行く先々の土地の価値観や考え方の違いに触れたのがきっかけです。自分自身の価値観や考え方は、本当に自分のものなのか。実は周りに大きく影響されているのではないかと考えるようになって、それを確かめるために海外へ出ていったというところです」

Taichi「高校生のとき、テラウチマサトさんの雑誌(PHaT PHOTO)に応募して入賞したことがあったんです。テラウチさんのプロフィールを調べていくうちに、MIT(マサチューセッツ工科大学)で講義をするほどの人だとわかって、自分もいつかテラウチさんのように、海外で活躍できるようになりたい、と強く思い、海外で活動しようと決めました」

――海外で活動するにあたり、苦労したこと、あるいは今現在苦労していることは何でしょうか。

南「私は特に苦労は無いと思っています。というのは、好きなことをやっているというのももちろんありますが、辛い事があっても、それも含めて全部勉強だと思っているからです」

鈴木「私の場合は、なんといっても文化の違いですね。日本ではこれが当り前、というのが海外では通用しない。私は現地でコマーシャルの仕事もしているのですが、特にマレーシアはイスラム圏なので、女性の肌の露出に厳しい。下着の広告の撮影をしていても、女性モデルが着ているショーツが全部写っていてはいけなくて、一部だけ身切れていればOKだったり、腋の下が見えてはいけなかったり。いろんなものの解釈が違うんですね」

アラキ「私は日本にいた頃から、予定の時間より早く現地に着くようにしているんですが、イギリスでは早くに行くと『あなたが予定より早く着いてしまうと、他の人も早く来ないといけない』と注意されたことがあったんです。現地では今まで当り前だと思っていたことが覆されるということがよくありました。とはいえ、本当に良いものをつくるときは、みんな予定より早く集まったりもするんですけどね」

Taichi「アメリカは日本よりも時間にルーズだというのはあります。ただそれよりも僕がショックを受けたのは、アメリカ人のお寿司の解釈です。カリフォルニアロールはアメリカ発祥なのですが、最近では食材を変わった形に組み合わせる『トランスフォーマーロール』や『ゴキブリロール』なんていうものもあって、そういう、どんな形のものでも寿司に乗せて食べる食文化にはついていけない部分もあります」

「私にとっては写真を始めたきっかけも、その後の成長も、周りの人の助けあってのことなのです」

――写真を始めたきっかけや、自分の表現に写真を選んだ理由についてお聞かせください。

鈴木「私は元々絵が好きで、デッサンや油絵を描いていました。風景画を描くときには写真を撮っていたのですが、そのうちに写真の方にも興味が出てきたのがきっかけです。本格的にやろうと思ったので、当時勤めていた会社を退職して、写真の学校に通い始めました」

アラキ「中学・高校時代は、1970年代頃に流行った格好をするのが好きでした。銀塩カメラもそのアクセサリーとして持っていたものだったんですが、なにかと研究するのが好きだったので、ふと、カメラの仕組みを勉強し始めました。気がつけば、自分の部屋に暗室を作るくらいにまではまりこんでいたんです。ある時、身の回りの人に私が撮った写真をプレゼントしたら、すごく喜ばれて。自分のしたことによって相手を喜ばせられるというのは、とても素敵なことなのだとその時思いました。私にとっては写真を始めたきっかけも、その後の成長も、周りの人の助けあってのことなのだと考えています」

南「私は航空宇宙学科出身なのですが、大学3年生の時に外研でアシスタントをさせていただいた教授の取材にきていた、NHKのTVクルーに影響されたのが大きいと思います」

Taichi「高校生の頃、僕の周りには写真を撮る人もおらず、アートとは縁遠い環境にいたんですが、当時付き合っていた人の元恋人が撮ったという写真を見て、『自分ならもっと上手く撮れるんじゃないか』と思ったのが撮り始めたきっかけです。やはり、その時々の思い出を残しておけるというところが、写真にはまっていった最も大きな理由だと思います」

――これまでで最も強く影響を受けたものは何ですか。

鈴木「元々絵画をやっていたこともあり、特にレンブラントやフェルメールといった17世紀の画家に強く影響を受けました。絵画に限らず、楽器を演奏していたこともあります。テクニックはもちろん必要ですが、重要なのは『感じる』ということだと思います。あらゆるものの中にあるスピリチュアルなものに惹かれます」

アラキ「植田正治さんの写真を見た時、その場から動けなくなるくらいの衝撃を受けたのを覚えています。音楽ではフィリップ・グラスの楽曲が好きで、写真を撮るときはいつも頭の中で流れています」

南「東京大学名誉教授の東昭さんと、カメラマンのボブ・サシャさんです。特にサシャさんはアイディアをいかに形にするかということにすごく長けている方で、この2人からは、プロとしての姿勢を学びました」

Taichi「これまでいろんな出会いがありましたが、その人柄や生き方から『こうありたい』と思うことがあって、その中の一人が、日本の写真事務所で働いていた頃にお世話になっていた社長さんです。社長さんの飾らない人柄に惹かれましたね」

「大事なのは手段や過程ではなく、最終的に自分のイメージどおりに作品を仕上げること」

――写真を撮るにあたって、心掛けていることやこだわりはありますか。

アラキ「空気感を大事にしています。その瞬間は一度しかないところに惹かれますね。だからいつも機材は複数持ち歩いていて、35mm判、中判、デジタルカメラをその時の感覚で選んで使っています」

南「よく食べて、よく眠ることです。体力が切れたら良い写真を撮ることは難しいので」

Taichi「常にカメラを持ち歩いて、いつでも写真を撮れる状態にしています。『その時』を記憶にとどめておく。それは人間にとって重要なことだと思うんです」

鈴木「自分の中にある写真のイメージに合った機材を選ぶことです。作風や表現方法を変えたかったら、まず機材を変えます。コンパクトか、シノゴか。フイルムなのか、デジタルなのか。私はカメラや照明だけでなく、PCで使うソフトも機材に含めて考えています。大事なのは手段や過程ではなく、最終的に自分のイメージどおりに作品を仕上げることです」

「自分なりの表現で作品をつくることで、『自分の生きている時代』を表現したいと思っています」

――今後、表現したいものや挑戦したいことをお聞かせください。

鈴木「作品に関しては、自分を素直に出していきたいですね。写真を撮るときに抱いていた、楽しさ、つらさ、悲しさ……。そんないろんな感情が、観る人に伝わるような作品を撮りたいです」

アラキ「いままでスタジオにこもって、100%を120%にするような仕事をしてきました。でもロンドンでいろんな人に出会って、自分の写真が変わってきた様に感じるんです。今後は自分に向き合うことで、『本当の意味でのアラキミキ』といえるものを出して、そして何かを感じ取ってもらえたら嬉しいです」

南「私はスポーツやライブ、カーニバルとか、動きのあるものが好きです。そういう『生身』の、飾らないものを、今までも撮ってきたし、これからも撮っていきたい。また、英語では写真を撮ることを『take a picture』といいますが、何か『give』できるものはないだろうか? ということも考えていて、写真を通して、何かしらの社会貢献をしたいと思っています」

Taichi「僕は政治、社会、環境、人間関係といった地球上の色々なシーンを『ビューティー』というかたちで表現することを試みています。たとえば中国の汚染された河川を撮ろうと思ったとき、現地に行って取材をしたりだとか、それをリアルに再現するとかではなく、ある事柄を抽象的に捉えて、自分なりの表現で作品をつくる。それを通して、『自分の生きている時代』を表現したいと思っているんです」



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2009/11/25 00:00