写真展

「蜷川実花:Self-image」(原美術館)レポート

初のセルフポートレイトを展示 非“蜷川カラー”の世界とは

「Self-image」2013 ©mika ninagawa, Courtesy of Tomio Koyama Gallery

この展覧会の企画は、2013年11月、蜷川さんが出版した写真集「Self-image」をきっかけにスタートした。約1年の準備期間を経て、「蜷川実花:Self-image」が原美術館で開催されている。

会場となる建物はヨーロッパモダニズムを取り入れて建てられた戦前の邸宅だ。作者はこの独特の展示空間に身を置く中で、作品のイメージを広げていくことになる。

「原美術館でなければ思いつかなかった展示がたくさんある」と蜷川さんは話す。未発表だった作品に目が向き、作者の中で世界が深化し、それが形になっていった。その成果は、来場者それぞれが2つのフロアに置かれた5つの部屋を辿る中で気づくことだろう。

本展は華やかさの影にある闇をカラーで捉えた蜷川ワールドを入口に、作者の内面に深く入り込んでいく構成となる。2階の部屋にはセルフポートレートと、この上なく個人的な時に撮られた桜のイメージが置かれた。

1月22日、記者会見で作品解説を行なう蜷川実花さん。

廊下の市松模様は、蜷川さんの写真に合わせて張り替えたものだが、かつての原邸は、このデザインが施されていたそうだ。

何も武装していない写真群=Self-image

蜷川さんのデビュー作はセルフポートレートで、20歳から約3年ほど撮り続けた。

「1台のカメラで自分自身を撮る。閉じた世界からのスタートでした」

その後は2007年と2012年の2度、自らを被写体に撮っている。

「どちらも映画を撮る前後の期間でした。たくさんの人と仕事をしていると、カメラ1台で何ができるかというシンプルなところに立ち返りたくなる」

今回は3年前、へルタースケルターの制作時に撮ったシリーズを初めて発表した。私生活は7歳の子どもを育てるシングルマザーであり、自宅では自分と向き合う時間はない。この撮影は、ロケ先で一人になれる夜の時間に行なうことがほとんどだという。

「三脚を立て、セルフタイマーを使うことも多く、撮る側の意思はほぼ入っていない。そんな1枚でも、自分の写真になっているのが面白い」

それは自分という殻を使い、生の有り様を見つめていく作業だ。

セルフポートレートを収めた2つの部屋にはさまれた空間に、桜を撮ったPLANT A TREEが置かれている。自分の中で、どの作品とも交じり合わない異質なものという。

「PLANT A TREE」2011 ©mika ninagawa, Courtesy of Tomio Koyama Gallery

撮影場所は長年、眼にしてきた目黒川に咲く桜で、2010年のある春の夜、数時間の中で撮影した。離婚を決めた直後、その足でカメラを手にし、この川に向かった。

シャッターを切る瞬間は、視覚ではなく、自分の内面の動きに委ねることを常に重視しているそうだが、それでも自意識は働いてしまう。自分でコントロールできないような特別な感情の時なら、きっと自意識にとらわれない面白い写真が撮れるのでは、と考えたそうだ。この時の写真を見るたびに、写真は撮影者自身を写し出すものであることを思い知らされるらしい。茫然自失となるほどのショックを受けながら、それを反射的に表現手段に転換する。これも一種のセルフポートレートであるのかもしれない。

凝縮された蜷川実花ワールドも

1階には、多くの人を魅了する蜷川実花的な色とモチーフを詰め込んだ。その代表的な一つが金魚であり、最初の部屋では約10分の映像作品を上映し、隣りでは写真集noirの世界を未発表作品を中心に再構築している。

金魚を繰り返し撮る理由について、この生き物が人為的に作り続けられている存在であることを挙げる。この観賞魚は人の眼を楽しませるためだけに交配され、人工的にしか生きられない。

「Self-image」2013 ©mika ninagawa, Courtesy of Tomio Koyama Gallery

「その生き物を日本人は、幼い頃から愛でる存在でしか見ていない。その私たちの不感症さが気になる」

と同時に、そこには今の社会や自分たちの姿もだぶって見えてくる。

そのほか、とりどりに彩られたヒヨコたちやルージュで装った唇、不思議な形をした魚たちのイメージが空間を埋め、存在を主張しあう。撮影地は日本や香港などさまざまだが、どれもが日常の中に当たり前にあるモノから切り取った風景だ。

「雑菌やノイズがたくさんある世の中で、それをただ否定するのではなく、いかにたくましくしなやかに生きていくかが大きなテーマ。これまで手を変え品を変え、そのことを語り続けてきた。後年、この展示は、私にとっての大きなエポックになったと言われるものになると、自分では思っています」

これらは蜷川作品を見るためのちょっとした導入部だ。あとはそれぞれがその先にある何かを感じ取ってほしい。

ギャラリー2に広がるnoirの世界。この色使いは絵を描いていた時から変わらず、母から受け継いだものだという。

蜷川さんが高校1年生の時、初めて購入した中古のミノルタX-700。レンズは24mm一本で、初期の5〜6年間は活動していた。

蜷川実花:Self-image
  • ・会場:原美術館
  • ・住所:東京都品川区北品川4-7-25
  • ・会期:2015年1月24日土曜日〜2015年5月10日日曜日
  • ・時間:11時〜17時(水曜は20時まで、入館は閉館時間の30分前まで)
  • ・入館料:一般1,100円、大高生700円、小中生500円

関連情報

蜷川実花展「noir」
  • ・会場:8/ ART GALLERY/ TOMIO KOYAMA GALLERY
  • ・住所:東京都渋谷区渋谷2-21-1渋谷ヒカリエ8階
  • ・会期:2015年2月4日水曜日〜2015年2月23日月曜日
  • ・時間:11時〜20時
  • ・休廊:会期中無休

蜷川実花展「Portraits & Flowers」
  • ・会場:CAPSULE
  • ・住所:東京都世田谷区池尻2-7-12地下1階
  • ・会期:2015年2月21日土曜日〜2015年4月12日日曜日
  • ・時間:12時〜19時
  • ・休廊:月曜日〜金曜日(土曜日・日曜日のみ開廊)

蜷川実花展「Portraits & Flowers」
  • ・会場:SUNDAY
  • ・住所:東京都世田谷区池尻2-7-12地下1階
  • ・会期:2015年2月21日土曜日〜2015年4月12日日曜日
  • ・時間:11時30分〜23時(ラストオーダー22時)
  • ・休店:水曜日

(市井康延)