写真展

「KYOTOGRAPHIE 2016」が4月23日に開幕

テーマは「Circle of Life いのちの環」

KYOTOGRAPHIE 京都国際写真祭は2013年にスタートした。ギャラリーや美術館だけでなく、京都の寺社や町家、蔵などを会場に選び、国内外の写真を展示している。その規模、来場者は年々増え、昨年は約6万1,000人を数えた。第4回目となる今回、初めて東京でプレスプレビューイベントを開いた。

会期は4月23日(土)〜5月22日(日)。※一部会期が異なる会場あり

パスポート(会期中全会場各一回のみ入場可能)の料金は、一般3,200円(前売券2,700円)、学生(大学・高校・専門生)2,000円。4会場、1日のみ有効の1DAYパスポート(2,000円)もある。

アートと鑑賞者の隔たりをなくす"これまでになかった写真のお祭り"

共同創設者はフランス人写真家のルシール・レイボーズさんと、照明家の仲西祐介さん。パートナーである二人は5年前に京都に移住した時に、この構想を思いついたという。その発想の基本にあったのはアルル国際写真フェスティバルだ。

仲西祐介さん(左)とルシール・レイボーズさん(右)

「始めるにあたって、3つの夢があった」とレイボーズさんは話す。

一つは、日本と世界の写真家たちを広く一般の人に紹介できるステージのような場を作ること。それは展覧会だけでなく、ポートフォリオレビューやキッズプログラムといった企画を含めてだ。

二つ目は、これまでになかった写真のお祭りを作ること。限られた愛好家だけでなく、子どもやファミリー、アートに馴染みのない年配の人たちも巻き込んでいくことを狙った。

会場に寺院や町家など京都らしい場所を選んだのは、「アートと鑑賞者の隔たり」をなくすための方策でもある。そこには普段、一般には公開されていない場所もいくつか含まれ、それもKYOTOGRAPHIEの魅力の一つになっている。

そして三つ目は、独自のセレクションでプログラムを組むことだ。展示を通し、KYOTOGRAPHIEとしてのメッセージを織り込んでいく。

「世界中で起きたことの中から、時代の潮流を見て取り、次のテーマを決めている」と仲西さんは話す。今年は「Circle of Life いのちの環」とした。昨今、命の価値が軽んじられてきているような状況を強く感じるからだ。

15会場で14の展覧会を行なうほか、アソシエイテッド・プログラムとして3つの展覧会や、サテライトイベントとして「KG+」と題した若手写真家による約30の展覧会を開く。このほか第2回インターナショナル・ポートフォリオレビュー(4月23日、24日)、ニューヨークの国際写真センター(ICP)から講師を迎えてのエディティングセッションや、無料のアーティストトークなど来場者向けプログラムを用意している。最新情報は公式サイトを参照されたい。

普段は一般非公開の邸宅も展示会場として公開

いくつか展示内容を紹介すると、サラ・ムーンの「Late Fall」がギャラリー素形、「Time stands still」を通常非公開の邸宅、招喜庵で展示される。

「Late Fall」は植物標本や動物の剥製をモチーフに、時の美しさ、不確実さ、儚さを写し出したもので、特大のプリントをフランスから持ち込む。

Avant derniere pivoine (Last but one peony), 2011 ©Sarah Moon

「Time stands still」はモノクロームで捉えたヨーロッパ各地の風景で、土佐和紙に印画したプラチナプリントとなる。会場の招喜庵は作庭家である重森三玲の旧邸であり、三玲の次男は写真評論家の重森弘淹。

京都市美術館別館では「Coming into Fashion コンデナスト社のファッション写真でみる100年 presented by CHANEL NEXUS HALL」を開く。

同社はヴォーグ、ヴァニティ・フェアなどファッション誌を擁する企業で、そのアーカイブにはエドワード・スタイケン、ウィリアム・クライン、アーヴィング・ペンら錚々たる写真家の作品が並ぶ。

その写真群からは「ファッションのデザイン、スタイルは循環の中で新しいものが生まれていく」ことが見て取れる。東京・銀座のシャネル・ネクサス・ホール(3月18日〜4月10日)に次ぐ世界巡回展となる。

John Rawlings, American Vogue, March 1943 ©1943 Conde Nast

「LA-LV / LDN_ Process」を展示するアントニー・ケーンズはロンドン出身のイギリス人新鋭作家。便利堂コロタイプ工房が主催する2015年度ハリバン・アワード最優秀賞を受賞し、KYOTOGRAPHIEに招かれた。

原板にガラスを用いて印刷するコロタイプは、約150年前にフランスで生まれ、便利堂は1887年(明治20年)から京都でこの技法を守り続けている。本展ではロスアンゼルス(LA)とラスベガス(LV)で撮影したイメージを、タブレット端末やコロタイププリント、アルミ板にプリントしたものなどで見せていく。

LA-LV_58 from the LA-LV series / 2015 / Aluminium silver ©Antony Cairns

誉田屋源兵衛 黒蔵では「Midway:還流からのメッセージ」が行なわれる。太平洋の中心に浮かぶミッドウェイ諸島には、海流の関係で年間20トンにも及ぶゴミが漂着する。浜辺に打ち上げられた海鳥の雛の死骸にはペットボトルのキャップが山積する。ゴミを親鳥が餌と間違え、雛に与えてしまっているからだ。

CF000478 Unaltered stomach contents of a Laysan albatross fledgling, Midway Island, 2009 (from the series Midway: Message from the Gyre). ©Chris Jordan

ここではクリス・ジョーダン(アメリカ)による写真と、デザイナーのヨーガン・レール(ドイツ)が制作したランプを展示する。そのランプの素材は、彼が沖縄の砂浜で拾い集めたプラスチックゴミ。なお誉田屋源兵衛は創業280年を数える帯の老舗。

このほか古賀絵里子展「Tryadhvan(トリャドヴァン)」、マグナム・フォト「EXILE―居場所を失った人々の記録」など、興味深い展示がある。古賀さんは昨年の若手写真家展KG+で最も優れた展示として選ばれ、今回のKYOTOGRAPHIEで撮りおろしの新作個展を開く。

「今と過去が循環し続けている」京都の土地性

2月10日に行なわれたプレスプレビューイベントでは小説家の平野啓一郎さんが会場に招かれ、KYOTOGRAPHIEについて語っている。平野さんは京都に10年ほど暮らした経験を持ち、レイボーズさんの写真集「Impression du Japon」(2013年刊)に文章も寄せている。

平野啓一郎さん

平野さんは子どもの頃、近所の側溝で鰻を捕まえたことがあるそうだ。翌日には、入れておいた甕を飛び出し、干からびて死んでいた。

「後年、鰻は全てマリアナ海溝で生まれたものだと知った。あの一匹も長い旅をしてきたはずと思い、心を動かされた」

また子どもを毎朝、保育園に送りに行く時、時折、子どもが自分のことをどう思っているのかと考えることがあるとも話す。その思念は、かつての自分の親たちの想いにも移っていく。

「他者と自分。過去と現在。感情のコンバージョン(変換、転換)が起こる。自分の感情とも、他人の感情ともつかない何かが、ぐるぐると循環していく。過去に経験したことが、何かを引き連れながら再来するようなきっかけがある」

その舞台として、京都は優れた土地性を持つ。

「ある部分で時間が止まっている。今と過去が循環し続けている。記憶と、自分の今、そして世界中の作品が交わる。今年もKYOTOGRAPHIEでそうした非常に刺激的な体験ができると期待している」