写真展告知

大西みつぐ写真展「川の流れる町で」

(ふげん社)

『川の流れる町で』「放水路」より

代表作「Wonderland」(1980~2006)を始め、東京の下町を長年撮り続けてきた大西みつぐ氏ですが、均質化されていく下町の風景に対し、いつからか「喪失感」を覚えるようになります。馴染みの場所のはずが、以前と同じ感覚では歩くことができなくなってしまった。そこで大西氏は、「荒川」という一本の川の流れをたよりにふたたび歩き始めました。東京の「今」を荒川流域から映し出した、氏の最新写真集『川の流れる町で』(ふげん社)より「放水路」と「眠る町」に加え、2017年2月に満を持して公開された、大西氏の初監督作品『小名木川物語』の世界を垣間見るような深川や砂町などのおなじみの写真も展示いたします。

会期中には、写真集へ推薦文をお寄せいただいた写真評論家の飯沢耕太郎氏とのトークイベントや、貸切舟と足で『小名木川物語』の舞台を散策する「川あるきツアー」を開催いたします。ぜひ足をお運びくださいますようお願いいたします。

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岩淵水門から旧中川河口に抜ける荒川放水路の工事が始まったのは1913(大正2)年。17年間にわたる難工事がようやく完成したのは1930(昭和5)年だった。それ以来、東京の下町を南北に貫く全長22キロ、幅約500メートルの「川」は、その地域に住む人たちにとって、いわば原風景というべきものになった。

江東区深川に生まれ、同砂町、江戸川区臨海町で暮らしてきた大西みつぐにとっても、荒川放水路(現荒川)は、気がつけば常にそこにある大きな存在だったのではないだろうか。今回ふげん社から写真集として刊行され、写真展も開催される「川の流れる町で」は、単純に川と町の眺めを写しとめたというだけでなく、彼自身の過ごした日々の記憶を背負いながら、この地域の現在と未来とを立ち上がらせようとする気迫のこもったシリーズとなった。

シリーズの全体は「放水路」と「眠る町」の2部に分かれる。「放水路」では荒川そのもののたたずまいに直接カメラが向けられ、「眠る町」ではその対岸にある八広と四つ木という二つの町を行き来しつつ、路地の隅々にまで目を届かせた。下町の写真というと、人の匂いのする光景を情緒的に捉えることが多いが、大西のこの仕事ではそんな感傷はきっぱりと切り捨てられている。むしろ剥き出しにされた川と町と人の姿が、痛々しいほどの切迫感で写り込んでいるのだ。彼が写真集のあとがきに記しているように、そこには「東日本大震災後の東京臨海部の風景が無防備に晒されていること」に対する、強い危機感が投影されているのではないだろうか。

大西の写真は、このところ批評的なドキュメンタリーとしての側面を強めつつある。もし20年後にこれらの写真を見直すとすれば、そこに2010年代半ばの「いま」の状況が、生々しく露呈していたことに気がつくだろう。

―――飯沢耕太郎(写真評論家)

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『川の流れる町で』「眠る町」より

会場・スケジュールなど

  • ・会場:ふげん社
  • ・住所:東京都中央区築地1丁目8-4築地ガーデンビル2F
  • ・会期:2017年3月21日(火)~4月8日(土)
  • ・時間:12時~19時(土曜日は17時まで)
  • ・休館:日曜日、月曜日、祝日
  • ・入場:無料

トークショー 大西みつぐ×飯沢耕太郎(写真評論家)

日時:3月24日(金)19時~
参加:2,000円(トーク終了後懇親会あり)

※要予約。

大西みつぐとゆく「川あるき」ツアー

貸切舟でいくお江戸川めぐりコース

日時:3月26日(日)11時30分~16時
参加:4,500円(昼食付き)
定員:9名

『小名木川物語』を歩く下町散策コース

日時:3月26日(日)13時30分~16時
参加:2,000円
定員:11名

※要予約。

作者プロフィール

1952年 東京深川生まれ
1985年 「河口の町」で第22回太陽賞受賞
1993年 「遠い夏」ほかで第18回木村伊兵衛写真賞受賞

個展企画展多数

著書に「Wonderland」「遠い夏」「下町純情カメラ」「昭和下町カメラノート」など

日本写真家協会会員・日本写真協会会員

大阪芸術大学客員教授

ニッコールクラブ顧問