フォトコンテスト

第12回名取洋之助写真賞はフォトジャーナリストの川上真氏が受賞

日本写真家協会賞にはプリンティングディレクターの高栁昇氏

高栁昇氏

日本写真家協会は12月14日、第42回日本写真家協会賞贈呈式、および第12回名取洋之助写真賞授賞式を開催した。

日本写真家協会賞

今年の日本写真家協会賞は株式会社東京印書館の取締役 統括プリンティングディレクターである高栁昇氏に贈られた。氏は多くの写真家から信頼を得ており、近年では年間50~60冊の写真集を手掛けている。森山大道氏の写真集をはじめ、本橋成一「上野駅の幕間」、「石元泰博の桂離宮」、江成常夫「鬼哭の島」など枚挙にいとまがない。

受賞の挨拶で、プリンティングディレクターの役割について語り、それが印刷物の本質を突く話だった。写真集を作る時に重要なのは「上手にデフォルメすること」だという。

印刷原稿に対して、実際の印刷は表現できる領域が狭い。印刷ではモノクロの銀塩プリントの階調は全て再現できず、増してデジタルカメラの時代になって、印刷のハンディキャップはさらに広がった。

「RGBで捉えられた演色領域は、印刷のCMYKより広く、表現できる色の数は減ってしまう。モノクロも同様にデータの方が階調が豊かにある」

ただ、印刷物にはほかのメディアにはない臨場感、存在感がある。その魅力があるからこそ、多くの人が写真集を手に取る。

そうした写真集を作るために必要なのが、表現者の意図をつかむことだ。印刷がすべてを表現できない以上、表現したいポイントに集中することが成果物のクオリティを高めることにつながる。

「クライアント、写真家の要望をよく聞く。表現したい点をしっかり押さえれば、望むクオリティは達成できる」

実際の成果は高栁氏が手掛けた写真集を見れば理解できるだろう。また今回の受賞は個人に対してだが、印刷は携わる人たちの共同作業であることを強調し、社員、同僚への謝辞であいさつを結んだ。

名取洋之助写真賞

名取洋之助写真賞には現在、イギリスで活動するフォトジャーナリストの川上真氏が選ばれた。氏は本日の式への出席のため、一時帰国したが、体調を崩し欠席。尊父が本人からのメッセージを代読した。

受賞作の「枝川・十畳長屋の五郎さん」は再開発が進む江東区の長屋を取材したものだ。2014年から約2年間、この地に通い、多くの時間を長屋に住む人々と話すことに費やした。ここは在日朝鮮人が多く暮らす街であり、ここには差別、独居老人、孤独死といった数々の社会問題が詰まっている。

「受賞により、作品を発表できる機会を得たことに何より感謝したい。今後ともマスメディアのニュースにはならない、中心から取り残された人々を取材していきたい」と川上氏は抱負を語っている。

同奨励賞は「娘(病)とともに生きていく」を撮影した和田芽衣氏に贈られた。この作品の主人公は作者が授かった第一子だ。生まれて9カ月の時、結節性硬化症という根治できない難病であることが判明した。

和田芽衣氏

大学病院で臨床心理士として勤務していたが、娘の病気と子育てに専念するために退職を決める。そして5年前の12月、初めての入院の準備を進めていた時、新しいカメラを買った。

「写真を通して、医療の現場や病に立ち向かう人など、そこに生きる人たちの姿を多くの人に伝えていきたい」と和田氏は言う。

写真は趣味として中学時代から続けてきたが、改めてきちんと学び直した。現在は3児の母でもある。

「撮影に出かける時は、祖母、主人が子どもを見てくれています。これからもどんどん国内外へ出かけていくつもりなので、よろしくお願いします」と列席した家族に感謝の言葉を贈るとともに、堂々と写真家宣言を果たした。

第12回 名取洋之助写真賞受賞作品写真展は2017年1月27日~2月2日に富士フイルムフォトサロン東京、2月17日~23日に同大阪で開かれる。