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なぜ「Surface Book」は写真愛好家におすすめなのか
3:2液晶、GPU、UHS-II SDスロット……写真家・大和田良さんも使ってみた!
Reported by 石井英男(2016/3/28 07:00)
写真とノートPCの関係を変える新しい選択肢……このページでは、人気のSurface Bookの魅力について、PCライターの石井英男さんに解説してもらいます。ハイパワーにして変幻自在、写真愛好家におすめするその理由とは?
さらに記事の最後には、写真家の大和田良さんも登場します。実際にSurface Bookを使った印象を語っていただきました。それではどうぞ!(編集部)
本文:石井英男 状況・製品写真:加藤丈博 出演・コメント・画面内の作品:大和田良
デジタルカメラは年々進化を続けており、画素数も増え続けている。いまや3,000万画素クラスや5,000万画素クラスのものもあり、画像の現像や編集などを快適に行なうには、高い処理性能が要求されるようになった。
自宅やスタジオでの現像・編集作業なら、据え置きのデスクトップPCで現像や編集を行なえばよいが、写真撮影を趣味や仕事とする方なら旅行の際など、外出先で撮影する機会も多いことだろう。移動中に作業を強いられるプロも多いはずだ。やはり気軽に持ち歩けるノートPCが必要になる。
しかし、ノートPCなら何でもいいというわけではない。高画素データも快適に現像できるだけの性能とディスプレイの発色の正確さが要求される。さらに、タッチ操作やペン操作に対応していれば、写真の編集、レタッチなどを直感的に行なうことが可能になるので、より望ましい。
こうした条件をすべて満たす唯一ともいってよい製品が、2016年2月4日に発売された日本マイクロソフトの2in1 PC「Surface Book」なのだ。ここでは、写真愛好家にとってのSurface Bookの魅力を紹介していきたい。
クラス最高の基本スペックを誇る高性能2in1
それではまず、Surface Bookの基本スペックから見ていこう。
Surface Bookは、13.5型液晶を搭載した2in1 PCであり、CPUやメモリ、SSDなどの構成の違いによって、全部で4つのモデルが用意されている(価格表記は税込での直販価格です)。
- ・Core i5 / メモリ8GB / SSD 128GBモデル:22万1,184円
- ・Core i5 / メモリ8GB / SSD 256GBモデル:26万9,784円
- ・Core i7 / メモリ8GB / SSD 256GBモデル:29万1,384円
- ・Core i7 / メモリ16GB / SSD 512GBモデル:37万2,384円
詳しくは後述するが、最廉価モデル以外は、キーボード部分に外付けGPUが搭載されている。今回は、中位となるCore i5/メモリ8GB/SSD 256GBモデルを試用した。
日本マイクロソフトのWebサイトなどでは、搭載CPUの詳細を公開しておらず、単にCore i5またはCore i7とのみ記載されているが、今回の試用機には、Core i5-6300U(2.4GHz)が搭載されていた。
Core i5-6300Uは、開発コードネームSkylakeと呼ばれていたインテルの最新CPUであり、第6世代のCoreプロセッサとなる。Core i5-6300UはデュアルコアCPUであるが、1つのコアで2つのスレッドを同時に実行可能なHyper-Threadingテクノロジーをサポートしているため、最大4スレッドの同時実行が可能である。RAW画像の現像など、CPU性能が要求される処理にも十分なパフォーマンスだ。
メモリの増設はできないが、最小構成でも8GBを搭載。これなら大抵の用途で不満を感じることはない。
2in1や薄さを重視したモバイルノートPCでは、ストレージとしてSSDを採用した製品が主流だが、単にSSDといっても、従来のSATAおよびAHCIに対応した製品と高速インターフェイスのPCI Expressおよび高速プロトコルのNVMeに対応した製品では、その性能には大きな差がある。Surface Bookは、ストレージの性能にもこだわり、PCI ExpressとNVMeに対応した最新SSDを採用している。試用機では、Samsung製のSSDが搭載されていた。
Surface Bookは、PCとしての基本スペックもクラス最高レベルであり、まさにプレミアムな製品といえる。
マグネシウム合金製のソリッドで質感の高いボディ
Surface Bookは、外観や質感にもこだわっている。ボディには軽くて丈夫なマグネシウム合金が採用されており、剛性感の高さは抜群だ。
表面は、金属の質感をいかしたマットな仕上げになっており、手触りもよい。デザインもソリッドで洗練されており、高級デジタル一眼レフカメラと同様に、所有する喜び、触れる喜びを存分に感じることができる。剛性も非常に高く、キーボードの手前の角を片手で持ちあげても、たわむようなことはない。
本体のサイズは、約312.3×232.1×22.8mmで、重量はGPU搭載モデルが約1,579g、GPU非搭載モデルが約1,516gとなる。
ディスプレイ部分を取り外して、タブレットとして使うことも可能で、その場合のサイズは約312.3×220.2×7.7mm、重量は約726gとなる。
また、Surface Bookはディスプレイ部分とキーボード部分を繋ぐ部分に、「ダイナミックフルクラムヒンジ」と呼ばれる蛇腹のような形状の多関節ヒンジを採用していることも特徴だ。一般的なノートPCの場合、ディスプレイ部分とキーボード部分には隙間ができるが、ダイナミックフルクラムヒンジを採用したSurface Bookは、ディスプレイ部分とキーボード部分の間に隙間がなく、見た目も美しい。
Surface Bookは、一般的なクラムシェル型のノートPCとは異なり、ディスプレイ側にCPUやメモリ、SSDなどが入っているため、通常のノートPCよりもディスプレイ側が重い。そのため、十分な固定トルクを持つヒンジを使わないと、勝手にディスプレイ部分とキーボード部分の間が開いていってしまう恐れがある。横幅全体で重量を支えるダイナミックフルクラムヒンジなら、そうした心配はない。また、ディスプレイ部分を閉じても、キーボードと密着しないことも特徴だ。
3:2表示の高解像度液晶は写真愛好家に最適
ディスプレイにもこだわっている。液晶ディスプレイは13.5型で、解像度は他に類を見ない3,000×2,000ドットである。
ディスプレイのアスペクト比は3:2で、現在主流の16:9のワイド液晶に比べて、縦方向が長い。この3:2というのは、35mmフィルムのアスペクト比と同じであり、デジタルカメラの撮像素子も3:2を採用している機種が多い。写真愛好家にとっては馴染み深いアスペクト比であろう。一般的なワイド液晶で3:2の写真をフルスクリーン表示させると、左右に黒い非表示部分ができてしまうが、Surface Bookなら画面一杯に表示できるので無駄がない。
このディスプレイは、PixelSenseディスプレイと名付けられており、コントラスト比は1,800:1、表示色域はsRGB 100%対応であり、表示は色鮮やかで美しい。表示品位にこだわる写真愛好家でも満足できるだろう。ディスプレイの表面はいわゆる光沢タイプだが、輝度が高いため、外光の映り込みもあまり気にならない。
タッチパネルとデジタイザも搭載しており、液晶周囲のベゼル部分も含めて完全にフラットになっているので、見た目もすっきりしていて美しい。
タッチパネルは10点マルチタッチ対応で、1,024段階の筆圧検知対応のSurfaceペンも付属する。
キーボード部分にGPUとバッテリを搭載
キーボード部分にGPUとバッテリが搭載されていることもSurface Bookの特徴だ。ディスプレイ部分を分離して使える2in1 PCでは、キーボード部分にも追加バッテリを搭載している製品はいくつかあるが、GPUを搭載した製品はSurface Bookが初めてだ。キーボードを装着するパワフルラップトップモードとキャンバスモードでは、このGPUとバッテリを利用できるため、高いグラフィックス性能と長時間のバッテリ駆動時間を得られるわけだ(前述したように一番低価格なモデルにはGPUが搭載されていない)。
他社の2in1 PCは、単体GPUを搭載しておらず、CPU統合グラフィックスを利用している製品がほとんどだ。ノートPCに単体GPUを搭載すると、ボディが厚く重くなり、騒音も大きくなりがちだが、Surface Bookは約1.5kgであり、単体GPUを搭載した2in1 PCとしては世界でもトップクラスの軽さといえるだろう。ちなみに、いわゆるゲーミングノートPCでは、単体GPUを搭載した製品も多いが、重量はSurface Bookの2倍近くになるのだ。
搭載GPUは、NVIDIA製ということしか明らかにされていないが、GPU-Zで仕様を確認したところ、SPを384基搭載したMaxell世代のGPUと表示された。GPUクロックは954〜933MHz。デオメモリは1GBのGDDR5を搭載する。
Surface Bookのために、NVIDIAとMicrosoftが共同で開発したGPUとされており、NVIDIAのGPUラインナップの中ではエントリークラスとなるが、CPU統合グラフィックスに比べれば、性能は格段に高い。
ディスプレイ部分とキーボード部分はPCI Express経由で接続されており、電気的なロック機構があるため、勝手に着脱することはできない。キーボード右上の取り外しボタンを長押しすることで、ロック機構が外れ、ディスプレイ部分を取り外せるようになる。
今回の試用機のようにキーボードにGPUを搭載しているモデルでは、アプリケーションがGPUを使用している最中にディスプレイ部分を取り外すことはできず、取り外しボタンを長押しすると、GPUを使っているアプリケーションの終了を促すウィンドウがポップアップする。
Surface Bookは、キーボードの使い勝手も優れている。キーピッチは約19mm、キーストロークは1.6mmと余裕があり、キー配列も標準的なので、手の大きな男性でも快適にタイピングできる。また、バックライトが搭載されているので、暗い場所でもミスタイプを防げる。ポインティングデバイスとしては、トラックパッドを採用。クリックボタンと一体化した最近流行のタイプで、サイズが105×70mmと大きく、ガラス素材を採用しているため、触ったときの感触が心地よく、操作性も良好だ。
独自ポート「Surface Connect」などインターフェイスも充実
インターフェイスとしてはUSB 3.0×2、Mini DisplayPort×1、SDカードスロット×1、マイク/ヘッドホン端子×1を備える。SDカードスロットはUHS-IIに対応。カメラユーザーにうれしい配慮だ。
さらに、独自ポートのSurface Connectを搭載する。付属のACアダプタを接続できるほか、オプションのSurfaceドックの接続も可能だ。
Surfaceドックには、USB 3.0×4、Gigabit Ethernet×1、Mini DisplayPort×2、オーディオ端子×1が用意されており、Surface Bookの拡張性をデスクトップPC並に高めることができる。
Surface Connectは、USB 3.1 Type-Cと同様にリバーシブル仕様になっており、上下の向きを気にせずに接続できる。Surface Connectは、磁力でくっつくようになっており、ある程度以上の力で引っぱられると自動的に外れるため、ケーブルをひっかけて本体を落としてしまうといった事故を防げる。
ワイヤレス機能としては、IEEE 802.11a/b/g/n/ac対応無線LAN機能とBluetooth 4.0を搭載。センサー類も充実しており、光センサー、加速度センサー、ジャイロセンサー、磁気センサーを搭載している。
ディスプレイ部分が着脱でき、3つのスタイルで利用可能
Surface Bookは、普通のクラムシェル型ノートPCに見えるが、ディスプレイ部分が着脱できる構造になっており、ディスプレイ部分のみを取り外してタブレットとして使うことが可能だ。
また、ディスプレイ部分を180度回転させて反対向きにキーボードに装着することも可能なので、全部で3つのスタイルで利用できることになる。用途に応じて、最適なスタイルを使い分けられることも大きな魅力だ。
Surface Connect同様、ディスプレイ部分とキーボード部分も磁力でくっつくようになっており、小気味よく脱着が可能だ。
キーボードを装着して通常のノートPCとして使うスタイルは「パワフルラップトップモード」と呼ばれているが、このモードは、いわゆるオフィスアプリを使って文書を作成したり、メールの返事を書く場合などに適している。
ディスプレイ部分のみを取り外してタブレットのように使うスタイルは、「クリップボードモード」と呼ばれ、指先でのタッチ操作で、写真やWebサイトなどを閲覧するのに便利だ。クリップボードモードでは、重量も約726gと軽くなるので、立ったまま片手で持って操作することもできる。
また、クリップボードモードはタブレットとして使えるスタイルだが、一般的なWindowsタブレットと違って、解像度が3,000×2,000ドットと非常に高い。表示色域もsRGBカバー率100%と広く、高品位な表示が可能だ。撮影した写真をその場で見てもらいたい場合は、クリップボードモードのSurface Bookを渡すことで、写真をじっくりと鑑賞してもらうことができる。
ディスプレイ部分を180度回転させてキーボードに装着した状態で閉じると、「キャンバスモード」になる。キャンバスモードでは画面の奥から手前に向かって適度な傾斜がつくため、Surfaceペンでの操作に適している。写真にペンでコメントを入れたり、レタッチなどにも便利だ。
実測で13時間という長時間駆動を誇る
付属のACアダプターは65W仕様で、USB給電用のUSBポートも用意されている。USB充電に対応したスマートフォンやデジタルカメラなどを使っている方にはありがたい。電源コネクタは、Surface Connectなので、コネクタの向きを気にせずに差し込めるのも便利だ。ACアダプターもコンパクトで、重量も実測で302gと軽いため、携帯性は優秀。本体と一緒にカバンに入れて、気軽に持ち歩ける。
バッテリー駆動時間は公称12時間とされているが、実際にバッテリーベンチマークソフトの「BBench」(海人氏作)を利用し、1分ごとに無線LAN経由でのWebアクセス、10秒ごとにキー入力を行なう設定でバッテリー駆動時間を計測したところ(電源プランは「バランス」、液晶輝度は「中」)、13時間という結果になった。無線LANを常時有効にして、公称を上回る駆動時間を記録したことは素晴らしい。屋外で撮影を行なう場合でも、バッテリーの残量を気にせず使うことができる。
Photoshop、Lightroomとの相性は最高
Surface Bookは、電磁誘導方式の高精度デジタイザを搭載しており、付属のSurfaceペンを利用したペン操作が可能なことも魅力だ。
Surfaceペンは、1,024段階の筆圧検知に対応しており、書き味も良好。ペンの追従速度や精度も高い。
ペンのお尻の部分にはボタンがあり、ボタンを押すことで指定したアプリケーションを起動したり、消しゴム機能など割り当てることが可能である。また、ペンは磁力により、ディスプレイ左側面にくっつくようになっているので、ペンを紛失する恐れがない。
このSurfaceペンは、Photoshop CCやLightroom CCとの相性も最高だ。例えば、Photoshop CCで、写真を拡大してレタッチをする場合など、ペンなら直接ピクセルを指定できるので、マウスやタッチパッドを使うよりも快適に作業が可能であり、作業効率も高まる。また、Lightroom CCで風景写真の空の青さを強調するときなど、写真の特定の領域だけを補正したい場合なども、ペンで範囲を指定すると非常に楽だ。
Surface Bookは、インテルの最新CPUとNVMe対応の超高速SSDを搭載しているため、処理性能も高い。
そこで、Lightroom CCを使って、RAW画像30枚(2,400万画素、2,000万画素、1,500万画素、1,100万画素が混在)を現像して、JPEG形式に書き出すのに必要な時間を計測してみたところ、今回の試用機ではわずか1分36秒で完了した。
参考のために、同じRAW画像30枚を、Core i7-2640Mと8GBメモリ、512GB SSDを搭載した少し古いモバイルノートPC(重量はSurface Bookとほぼ同じ)で現像・書き出しを行なったところ、6分32秒もかかり、Surface Bookのほうが4倍以上も高速という結果になった。高画素デジタル一眼レフを愛用している写真愛好家でも、Surface Bookの性能には満足できるだろう。
Surface Bookが実現するモバイルスタジオの可能性
Surface Bookは、Surface Proシリーズで培った技術の集大成ともいえる完成度の高い2in1 PCであり、さまざまな用途に余裕を持って対応できる、まさにプレミアムな製品だ。
特に、アスペクト比3:2の高精細液晶ディスプレイを搭載していることや、写真のレタッチにも便利なSurfaceペンを利用できることなど、写真愛好家にとっては最高の相棒となるマシンだ。趣味で写真を撮影している方だけでなく、撮影した写真をすぐその場で現像・レタッチを行ない、納品する必要があるプロカメラマンにも、自信を持ってお勧めできる製品である。
Surface Bookは、これまで写真愛好家の夢であった、気軽に持ち運べて、本格的な作業が行なえるモバイルスタジオを実現する、現時点で唯一のマシンなのだ。
写真家・大和田良さんからのメッセージ
Surface Bookで最も印象的だったのは、そのスタイルの多様性だ。タブレット、ノートPCとして使えることはもちろん、画面側を逆にキーボードに差し込むことでより高速なタブレットとして使用できることには柔軟な対応力を感じた。高画素機によって撮影されたデータの画像処理も、ノートPCとしては十分な処理速度を保っており、タッチスクリーンによる直感的な焼き込みや覆い焼きなど、写真を操る新たなキャンバスとして大変な魅力を感じられた。
ロケの合間にタブレットとして使用し、イメージの確認を行なうのも簡単だ。タブレット、ノートPCという両者の特性を生かし、それをシームレスに行き来しながら活用できるのが非常に便利だ。
この1台を導入することで、さまざまな可能性があると感じた。撮影後のイメージの編集フローに重きを置く写真家にとって、強い味方になるだろう。
1978年宮城県仙台市生まれ。東京工芸大学大学院芸術学研究科修了。著書に 『prism』(青幻舎)、『ノーツ オン フォトグラフィー』(リブロアルテ)、『FORM』(深水社)など。2011年、日本写真協会賞新人賞受賞。
(編集部より)デジタルカメラマガジン2016年4月号には、大和田良さんが写真家としてSurface Bookを使い込み、その使用感をたっぷりと語ったコーナーがあります。そちらもぜひご覧ください!
協力:日本マイクロソフト株式会社