ハリー中西(はりーなかにし)
プロフィール:1959年京都市生まれ。1981年大阪写真専門学校(現、ビジュアルアーツ)卒業後、スーパースタジオ入社。1984年独立、Harry's Eye設立。2011年「祇園 さゝ木 佐々木浩の舞台」で2010グルマン世界料理本大賞シェフ部門のグランプリ受賞、他に「それからの香港」「京都の値段」「京都の値段その二」「大阪たこ焼33ヶ所めぐり」「わたしにもできる京料理」「パンの教科書」「スローフードな宿」「京都人だけが食べている」「大阪食堂」「京の手みやげ」「京味深々」「IL GHIOTTONE RISTRANTE」「京都和こもの帖」「スローフードな宿2」「京都外食手帖」「LUXURY MASTERPIECES OF KYOTO」などの書籍や全日空機内誌「翼の王国」「dancyu」「料理通信」「専門料理」「あまから手帖」など雑誌、PR誌、大阪リーガロイヤルホテル、ウェスティンホテル大阪/淡路島、京都ブライトンホテルなどの広告も手がける。
「彼の撮る写真は、一言でいうとリアル。料理を実物以上にリアルに撮れる人です」
今最も予約を取るのが難しい京都の人気料理店の代表格である「祇園 さヽ木」の大将・佐々木浩さんの言葉である。
ハリー中西さんが全撮影を担当した「祇園 さゝ木 佐々木浩の舞台」(永末書店刊)という著書が、料理界のアカデミー賞ともいわれる「グルマン世界料理本大賞」でこの春パリでグランプリを受賞したばかりだ。料理人、佐々木浩さんの選ぶ優れた食材、厨房の舞台裏、完成され器に盛られた料理の美しい写真群を集めた素敵なヴィジュアルブックだ。一流の料理人が作る料理を一流の写真家が撮影しているのだから、最高の仕上がりになるのは当たり前だ。
Harry Nakanishi (c) |
Harry Nakanishi (c) |
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Lei Weddingより Harry Nakanishi (c) |
関西といえば日本の食文化の中心である。今回は料理写真家として有名な京都在住の職人魂の写真家、ハリー中西さんの撮影テクニックを見せていただきに京都と大阪の現場の数々に密着取材でお邪魔してきた。
初日は関西では有名な食の情報誌「あまから手帖」という雑誌の撮影現場。ハリーさんや編集さんやライターさんたちが取材している現場を逆(?)取材させてもらうという、取材されるお店の人にとっては何ともややこしい取材on取材システムの突撃レポート3本勝負。スタートは大阪の中心部、北新地にある焼きトン屋さん。カウンターは居酒屋風なのにテーブル席には何故かシャンデリアがありワインのメニューも豊富な、以前は一体なんのお店だったんだろうか? と思わせる不思議な佇まいの昭和レトロな雰囲気の焼きトン屋さん。お店に入って一通りの挨拶が終わり、あまから手帖の編集部の地宗さんとこの日のライターの柴田さんがお店の御主人やスタッフへ取材を開始と同時に、ハリーさんたちは入口近くのテーブル席に早速ライティングをセットし始める。スタンド組み立てからライトの大まかな配置までものの5分もかからず、当たり前だが手際がよい。ここでの撮影は料理の完成品の組合せと、お店の方の仕事風景、そして店内カット。デジタルカメラはニコンD700、フィルムカメラはコンタックス645と同じくコンタックスのRTSⅢ。かつてボクも使ってた懐かしいカメラだ。ハリーさんの料理写真のほとんどは、これまでブローニーフィルムのコンタックス645にフジのベルビアで撮影されている。
デジタルと銀塩フィルムの使い分けや違いは? それと、銀塩でもブローニーと35の両方があるけど、フィルムカメラサイズの使い分けは何でしょう?
「料理の写真だけは昔からずっとフィルムで撮ってますねー。今まで撮ってきた写真の持つトーンや“艶”を同じように表現するには、デジタルやとなんぼライティングを変えて頑張っても思い通りにならんのです。Photoshopで後処理作業しても無理やねえ。コンタックス645にカールツァイスのレンズ、ベルビアとの組合せで撮影。この相性がええ味を出すんです。料理メイン以外のカットはデジタルでも良いと思う。35と645の使い分けは雑誌に載るときのサイズで決めます。扱いが小さいのんは35mm、1ページとか見開きとかの場合にはブローニー、単純にそれだけです。元々フジ派やったけど、ベルビアも最初に出てきた頃はしょうもないフィルムやったけど改良されてホンマに良くなったんで、もうコレしか使いません。ISO感度は実際には50無い場合が多いんで、撮るモノによって32とか25やと思って1/3〜1/2の調整で段階露光して使ってますね。他のレンズやフィルムの組合せなんか一切考えられません! えっ? もしベルビアのフィルムが無くなったら? その時になったら考えますわ(笑)」
今ではほとんどのカメラマンや印刷媒体がデジタル化しているので、他の人との写真とも併用使用になることの多い店舗カットや制作過程のカットなどは35デジタルで撮り、料理の質感を出すためやこだわりの“艶”の表現のために完成カットは銀塩645にベルビアを詰めての組合せを使うというのは理に適った手法だと頷ける。
空の皿をテーブルにセットし→セコニックのメーターで露出を測る→ライトの位置を微調整→完成した料理が盛られた皿に交換→My箸でタレの分量や薬味やつけあわせの配置を微調整→もう一度ライティングチェック→ファインダーを覗いてシャッターを数枚切る→終了。料理は時間が経つと味も落ちるのは云うまでもないが、見た目の鮮度だって刻々と変化していくので素早く撮り終わらなければならない。この間すべてを終えるまで僅か数分。隙のない美しい動きはまさに職人の為せる技“所作”だと感動した。
料理撮影では手持ちも多いけど、三脚は中型も小型もどちらもジッツオ製。主にカーボン製の小型を使うが、ブローニーのコンタックスなどでしっかり撮る場合には大きい方を使う | 自由雲台とセットになっているクイックシューは重宝されている | ロケ用のライティング機材はモノブロックが多い。スタンド類はすべてマンフロット製品 |
コンタックス645とメインで使うレンズ | 35mm判もずっと使っているコンタックスのRTSⅢ。「カールツアイサー」なんだから仕方がない(笑) | F3の時代からニコンも使っていたのでレンズもあるが、デジタルではD700にカールツァイスのマクロ50mmがお気に入り |
料理の撮影で心がけてることって教えてもらえますか?
「やっぱ大事なんはスピードでしょうね。料理は時間が経つとどんどん劣化していきます。出てきたときが一番美味しい瞬間なんで、盛られたものが出されたら一瞬でアングルを判断し、箸で修正なりしてシャッターを切っていきます。料理人の皆さんが僕にゆうてくれはるのは、仕事が早いからええ、と。モタモタしてるカメラマンが現場に来たら蹴りたなるゆうてます(笑)。そこが一番心がけてるとこかなあ〜」
もしボクがやったら、皿から料理をこぼしてしまい、あわてて元へ戻そうとした瞬間にテーブルの脚につまずきライティングセットを倒してテンヤワンヤの大騒ぎになり、スタッフ全員からひんしゅくを買い、みんなから蹴られてしまう羽目になってしまうだろうなって想像したら怖くなった(汗)。
美しく見せるために料理に油を塗ったり、小手先の技でキレイに見せるカメラマンも多いらしいが、ハリーさんの写真は食べても美味しい料理を撮るポリシー。従って撮影終了後には撮影した料理をいただく。やはり食べてこそ料理だ。ボクもご相伴にあずかったのだが美味しかった。直前に大盛りランチを食べてきたことを後悔しビールが欲しくなったけど、昼間だし仕事の最中なので断念して次のお店へ向かう。
久しぶりに会ったハリーさんとアシスタントのちゃんぷ君で、撮影前に大盛りランチで腹ごしらえ | 大阪取材スタート、この日の雨は七夕だから仕方がない | 1軒目は焼きトン屋さん |
ハリーさん自らフィルムセット | 本日のカメラはニコンD700、フィルムはコンタックス645とRTS III。ここではD700には35mmと20mm、コンタックスにはそれぞれのマクロを装着 | まずは空の器をセットする |
客の椅子に座ってライティングをチェック | 愛用のセコニックメーターで露出を計る | 料理カット用のコンタックス645&プラナー80mm F2レンズ |
まずは料理カットの焼きトンが出来るまでを撮影 | あまから手帖の編集者、地宗さんは話を聞き出すのがうまい流石! | このローアングルも食い道楽ゆえの客目線なのか? 笑 |
再び、焼きの進行や煙りの具合を見ながら店内の風景カットのアングルを決めて三脚セット。三脚はジッツオのカーボンに自由雲台&クイックシュー付きが軽くてコンパクト。そして狭い店内でも取り回しが便利だ |
料理の仕上がり時間を読んでいたので、すぐさまセットへ運び込む | こぼさないように必ず両手で受け渡し | 熱々のうちに、箸でネギの配置を変える |
焼きトン、入りましたっ! | コメットのモノブロック、Twinkle 03シリーズ | 再度、メーター計測も素早く |
もつ煮込みのスープの調整 | 慌てることもなくしかもスムーズに、そして真剣に儀式は進む | 3品目が所定の位置に並んだところで…… |
すばやく、軽やかにシャッターが切られて | あっという間に終了〜。ロールフィルムを巻き取る | 片付けも素早く行なう |
オツカレサマの後で試食をしながらライターの柴田さんや編集の地宗さんは店主にクエッション | ハリーさんはひたすら食べるおじさんだ(笑) | ご馳走様でしたー、じゃなくってお疲れ様でした! |
続く2軒目、3軒目の取材先はどちらもカレー屋さんどす。まずは本町にあるカレー屋さん。以前にもハリーさんたち“あまから軍団”は取材に訪れたことがあるので、店の入口にはハリーさん撮影の写真がでっかく貼られていた。お店の人が持って来てくれたコップの水を飲み終わる頃には、もう撮影が終了していた。チーズやトマトの入ったイタリアンなカレーが好評らしく実際に美味しかった。
次なる店までクルマで移動、ここで大阪の別のカメラマンと遭遇した。関西は狭い | 2軒目のお店のドアには以前撮ったカリー中西、じゃなくハリー中西撮影の華麗なるカレーの写真が貼られていた | このお店での撮影は1カットのみ。機材はコンタックスRTSⅢ & カールツァイス・マクロプラナー60mm F2.8 |
アシスタントちゃんぷへライティングの指示を出す | 35mmカメラもフィルムはもちろんベルビアだ | カレーが運ばれてきたら、空の皿と交換する |
撮影開始〜! | 40秒後に終了、そして撤収 | 撮影したカレーをみんなでいただき、次なるお店へ移動 |
次なるお店は淀屋橋にあるバーカウンターだけのオシャレなカレー専門店。前述同様に簡単に打ち合わせをした直後には、店内の全景カットを邪魔なモノ移動を指示して撮影。完成カット用写真を次に撮るためにアシスタントによるライトのセッティングも終わっており、後はカレーができるのを待つのみ。ここのお店ではカツカレーだ。トローリとしたルーの上に柔らかそうなヒレカツをサクッと揚げて良く切れる包丁でカットして出てきたカツカレー。これまた美味そうだ! カポックのレフ板を調整してあっという間に撮影は終了し、皆さんで試食タイム。携帯電話がかかってきたボクは外で少し話してからいそいそと店内へ戻ったのだが時すでに遅し。彼らはムシャムシャとすべてを食べ尽くしていたのだった。かくしてボクのカツカレーは夢に終わった。
最後の撮影は淀屋橋へ。ここもカレー専門店 | ラフを見ながらチェックし、撮影の要点をまとめる | 店内撮影に不要なモノを移動する指示 |
店舗内の全景撮影を終えて、 | カウンター上に料理カット用の準備をはじめた直後にカレーが運ばれて、 | 熱々のうちに素早く撮影を終える |
撮影終了後にはお約束の試食タイム | ボクが食べる分はこのおじさんが全部平らげていた(涙) | あまから手帖さん、1日密着取材のご協力ありがとうございました!! |
この日の撮影はこれですべて無事に終了。お世話になった、あまから手帖編集部の地宗さんとはここで別れてハリー一行は雨の高速道路を京都へと急いでクルマを走らせた。上がりを急いでいる現像所の受付時間にギリギリ間に合った。
ハリーさん行き付けの居酒屋「まゆめ」にてインタビュー続行。
ボクと同い年のハリーさんは京都市の中心部で、もし店を継いでいれば3代目という和菓子屋さんの長男という、いかにも京都らしい職人環境で生まれ育った。
「もとは絵が大好きで高校生くらいまでは漠然と絵描きになりたかったんやけど、高校出た後で何しようかなーって時に、写真やったら近いかな? って思って大阪にある写真の専門学校へ行くことになりました。その頃はじめて家にあった親父のカメラを持ちだし、学校の近所にあるカメラ屋へ持ってってフィルムの入れ方を教わりました。それまでカメラ触ったこと1回もないんです(笑)。他の生徒たちは専門学校へ来るくらいやから、前からカメラが好きとか学校の写真部におって花やら鉄道やら撮ってはったひとばっかりの中で、僕だけはまったくのド素人で三脚に付けたシノゴ(4×5)のカメラを担いで街へ行って写真撮ったり、そりゃもう新鮮でしたね。今は観光客もいっぱいいてるけど当時は危険な街やった大阪の新世界ゆう場所へ行って風景を撮る練習とかしてましたね。そしたら眉毛のないオッサンとかヘンな人がぎょうさんおって「コラッ!何撮っとんじゃボケっ!」ってなんやかんやゆうて寄ってくるんですよ。オッサンの写真じゃなく風景撮ってるだけなのにいいたがるんです。それがまた怖いんやけど面白いんですよ(笑)」
ボクも何度か西成とかあいりん地区とかでモデル撮影したことがあるけど、気がついたら大勢のオッサンたちに囲まれてビックリした経験があります。あんまりしつこいんで言葉の通じない外国人のフリして逃げてきましたけど(笑)。
「学校の授業ゆうても先生のゆうてることやら全然わからんし、写真って点数付けるのもおかしいし、何が正解ってないでしょ? そやから授業を受けてるよりも街へ出て写真撮ってるのがメッチャ面白かったです」
じゃあ自分で最初に“表現”として最初に写真を撮ったり、仕事として考えたきっかけは?
「卒業制作をやるにあたって何か考えて作品を作るって機会に、僕は生きてる食べ物、例えばリンゴとかレモンとかを2つに割ってそれをだんだん腐らせていく過程を撮ったりしてたんですが、それらの写真が割と評判よくって。それからですかね、表現するってことが面白くなってきたのは。でも未だ写真を仕事にするって意識はなかったです。そうこうするうちに卒業って時期になり学校で紹介された関西では有名なファッション系の京都のスタジオへ就職して、その会社のボス、諏訪賢さんに師事させてもらいました。9時から夜7時までってきいてたのに、初日から深夜1時とか終わりだったんで“なんやコレっ”って、すぐに辞めようって思いましたね」
で、すぐに会社を辞めたの?
「翌日 "辞めます”って云おうと思って会社行ったんです。そしたらまた終わりが1時とか2時とかで話す時間が無くなかなかいえなくて。1週間経ち、1カ月経ち、1年過ぎてもいう機会がないままずるずると。結局それが4年間続きました(笑)。だけどそこのボスがすごい人で今はファッションを撮っていないけど、本当にいろいろな良い経験や勉強をさせてもらったって思います」
会社を辞めた後、フリーランスとして独立という形になったものの、交通事故による金銭的諸事情により普通以上に働かざるをえなくなったハリーさんは、昼間は内装業、夜はバーテンダーをしながら雑誌撮影の仕事をしてた。そしてさらに当時は未だ日本では珍しかったネイルサロンでも働くという三重四重の仕事漬け生活だった。っていえば普通の働き者なのだが、そこで話は終わりじゃなくて、すべての仕事が終わった深夜、彼はそこからが自分の時間とばかりに毎夜毎夜、朝までバーで飲むという生活を送っていたという。
「22〜23歳の頃、当時、木屋町にシャナナというバーがあって、スタジオにいる頃から遊びに行ってたんです。そこで知り合った友人たちも多く、今でも付き合いがある人もいます。中でもバッキー井上という人物と親しくなったことがきっかけで今の仕事に直接結びついていると思うんですわ。彼がいなかったら写真でも別の方向の仕事だったんじゃないかなーって。彼が雑誌関係の仕事をしていた関係でポパイとかホットドッグプレスとかの情報誌をはじめ様々な他の仕事も紹介してもらったり、事務所に居候したりとかだったんです」
その後数年で借金を返済した彼は31歳で結婚し、その頃から仕事の中心が料理写真メインになっていく。
京都郊外、洛北にある「しょうざん」という大きな宴会場や日本庭園を持つ商業施設のお正月のおせち料理の撮影現場を訪ねた。この日、京都地方は梅雨明けで昨日と打って変わった高い気温とすさまじい太陽光線で、空は真っ青に晴れ渡っていた。郊外にあるしょうざんまでの道のりの車窓からは、暑いけれども夏らしい風景が美しかった。
朝9時、カーテンで光を遮断した宴会場の中で撮影準備を開始。クライアントである、しょうざんの社員の方々、広告代理店の担当者、料理スタイリストさんやアシスタントetcがテキパキと動き回り、たくさんのおせち料理や小道具、背景に使うデコラ板、その他が所狭しとなっている会場の片隅に撮影セットを組み、チェック用のノートパソコンをカメラに繋ぐ。
この日の撮影はスタイリストの萩原かおりさんがいらっしゃるので、細かな仕事はプロの彼女に任せて、ハリーさんはライティングや撮影に専念。多くのカットをこなさなければいけないので、次から次へと撮影&モニターチェックをして進めていく。所用がありボクはお昼に会場を出たが、それまでの短い時間にもずいぶんとスピーディーに撮影は進行していった。
翌日は朝から京都の有名な総合レジャー施設、しょうざんでの次期正月シーズンのおせち料理のメニュー撮影 | テーブルにはでき上がった品々や撮影に使う様々な小物などが準備されている | クライアント担当者、広告代理店の担当者、スタイリスト、アシスタント、以前の撮影内容などと照らし合わせ打ち合わせ |
テストデータを早速繋いでチェックしてみる | 料理の他にもなんやらいろんな美味しそうなモノがあって楽しくなる | ホワイトバランスの設定も大切 |
今日は美人のスタイリスト萩原さんがいるので安心してるハリーさん | 仕上げの段階はやはり真剣になる | クライアントさんやスタッフの皆さんと一緒にテストデータをチェックする |
この撮影では集合カットが多いので本日のジッツオは中型三脚だが同じようにクイックシューで使用。そしてストロボも撮影会場が広いからか、サンスター製の出力が大きい方のモノブロックが待ち構えていた |
WindowsのノートパソコンはDELL製。使ってる人が多いなー | カポックや白レフ、銀レフなど用途によって手製のレフ板が活躍する | 撮影中、邪魔しないようにそっと出て行きましたとさ |
現場取材の最終日は冒頭の言葉をもらった大将、佐々木浩さんのお店「祇園さゝ木」での百貨店限定販売向けのおせち料理の撮影。料理に疎いボクでも名前くらい知ってる有名店だし、名物大将にお会いするのも楽しみな現場だ。
祇園の高級料亭が多く建ち並ぶエリアの中にある一軒家は奇をてらうこともなく、さりげなくお客を迎える佇まいが漂う店構えだ。少し離れた駐車場から、機材を抱えて運び込むハリー一座をお店の若いスタッフさんたちがお迎えしてくれるのが、いかにも京都の高級店らしい気遣いを感じた。暖簾をくぐって中へ通してもらうと威勢の良い挨拶が飛び交うのもこれまた感激。ハリーさんと大将の佐々木さんは長年にわたり何度も一緒に仕事をしている、お互い気心が知れてる仲。早速、メニューの打ち合わせを済ませ、奥の個室での撮影準備にとりかかった。中庭からは午後の日射しが良い感じで入っている明るい部屋のテーブルにダミーのお重をセットしてのシンプルなライティングが組まれる。今日の撮影は切り抜きに使う可能性もあるので35デジタル。早速ニコンD700にカールツァイスのマクロレンズが取り付けられる。少し高い位置からの不安定な俯瞰、そして品数が多いので三脚使用での配置が決まっていく。ほどなくして、美しく仕上がったお重が運ばれてくる。だいたいが整ったところで佐々木さんの登場。ここで細かい並びが決まる。決まったらニコンのシャッター音が気持ちよいリズムを刻みながら、あっという間に終了。今日も仕事が早かった。事務所へ戻って雑用を終えて外へ出たら、西本願寺上空に浮かぶ夏の夕暮れ雲が心地よかった。
京都の中でも特に祇園界隈は道路が狭いので、駐車場から荷物を運び込むのも仕事のうち。歌手の鈴木さん? いいえ今日もハリーさんです | お出迎えしていただき中へと | ランチを終えたカウンターでは佐々木さんが撮影用の料理をされていた |
奥にある中庭の見えるテーブル席へ機材をセッティング開始 | お店の方と手短かに撮影打ち合わせ | その間にも佐々木さんは若い衆に指示を出していく |
テーブルの上にはダミーが置かれてセッティングはだいたいできている | 三種の神器のブロアー、クロス、そして大活躍のハリーMy箸。コレがないと撮影はできない必需品 | 続々と仕上がったお重が運ばれてくる |
ハリーMy箸の技が素早くお重の中の一品一品達をモデルに例えるならメイクアップするように整えていく | 最終ライティング調整の指示 | 助手のちゃんぷ君も真剣な眼差しでガンバル |
カラスミの固定にボクの100円ライターも活躍(笑) | D700にはニコンマウントのカールツァイス・マクロプラナーT* 50mm F2はデジタルではこれが抜群にヌケがよいとのことで愛用している | 佐々木さんが進行を確認にくると、現場のスタッフ達に緊張が走った |
いよいよ真打ち登場! | 大将の手際良さに見とれてるうちにハリーさんの撮影は終了 | 超多忙のお2人はプライベートでなかなか飲みに行けないので、今度こそとスケジュールを決めていた(笑)。オツカレサンでした〜! |
京都という土地柄は、程良いコンパクトサイズの街だけどなんでもある。何処へ行くにも近いし、この街を離れるというのは想像ができない、と語るハリーさん。やっぱり好きなんだなあ、生まれ育ったこの街が。
ところで長い間抱えてる大きな疑問があるんだけど、ハリー中西の“ハリー”って本名のどこにも引っかかってないし、どういういきさつや理由で名付けたの?
「前に話した若い頃に通ってたシャナナって店は当時のいわゆる京都のオールディーズやロカビリー好きの不良仲間たちの溜まり場なんですよ。で、そこに集まってる友だちの多くがアメリカングラフィティみたいな気分になりきって、誰もがジョニーとかジミーとかガイジンぽい名前で呼び合ってたから、僕もなんとなくハリーがエエかなっていう軽いノリで付けてそのまま30年が過ぎてただけ(笑)」
さらに、もう一つの疑問をぶつけてみた。料理写真家として大きな成功を収めているハリー中西さんだが、プロとしてのスタートを切って以来、これまで一度も自分自身の作品制作というものをやっていないというのが、ボクの中ではずっと疑問だったので訊いてみた。
「今後は自分の作品も撮ってみたいと思うんですよ。もう50歳も過ぎてから
のスタートは遅いんやけど、これまでは撮りたいモノがなかったんですよ」
今はやっと撮りたいモノが出てきたってこと?
「いやあ、今でも未だ無いんやけどね(笑)。何かを残したいっていう思いが強くなったっていうか……。その時は料理じゃないんやと思うけど。」
それって、どんな方向性なんだろうねー??
「昔、撮りたかったんは酒場の風景。バーが好きなんで酒場の写真を撮って廻ろうってずっと思うてたんやけど、結局、飲み屋へ行くと自分が酒を飲んでしまうんで、写真なんか撮れなくなってしまうんですよ(笑)」
話しを訊いていて飲酒業界なら顔も利くし良いアイディアじゃないかって思ったんだけど、このテーマはこの人向きではないことは、同じ穴のムジナとして自覚してしまった(笑)。
ハリーさんと知り合って何年も経つのだが、2人で徹底的に話し込んだのは初めてだ。普段はシャイで無口なハリーさんとは、大勢で居酒屋とかバーでグダグダ騒いで明け方までカラオケを歌ったり。ましてや、写真についての話をするなんて思いもしなかったが、今回は写真の話しから同世代としての人生、そしてココでは書けない秘密の話(笑)までたくさん語り合えて良かった。ヘビースモーカーだった彼も今は煙草をやめてすっかりガムの人になっている。忙しい中をお付き合いくださって、ホンマに楽しい時間をありがとう。お互い長生きしたいね〜!!
撮影協力
祇園 さヽ木 http://gionsasaki.com/
あまから手帖 http://www.amakaratecho.jp/
2011/7/29 00:00