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インタビュー:選ばれるCFexpressカードとは? ProGrade Digitalが示す「プロのための設計思想」

ユーザーの環境を見据えたCFexpressとその製品群

CFexpress 4.0に対応したProGrade DigitalのCFexpress Type B GOLD

名だたる大手メーカーがひしめく中、後発ながらも確かな存在感を放つブランドがある――ProGrade Digitalだ。

その背景には、単なるスペック競争を超えた“現場視点”のものづくりと、プロフェッショナルの信頼を勝ち得てきた実績がある。

今回話を聞いたのは、同社日本代表の大木和彦氏。CFexpressに関する貴重なお話を伺えたので、できる限り紹介していきたいと思う。

「ProGrade Digital」という名前に込めた意味

まずは「ProGrade Digital」というブランド名の背景について聞いてみた。

大木和彦氏(以下同):最初は長い名前だなと思いました。でも、今はよい名前だと思っています。

社名を決めたのはもちろん、創業者のWes Brewer(ウェス・ブリュワー)氏(以下ウェス氏)。大木氏はウェス氏が会社を立ち上げた際、電話でその名前を知らされたという。

創業者のWes Brewer氏(2019年に撮影)

大木氏:ウェスは、CF(コンパクトフラッシュ)やSDメモリーカードの高速化など、業界の最前線で長期間携わってきた人です。そんな彼が「この業界で、プロの現場を本当に分かっているのは俺たちしかいない」と。だからこそ、プロフェッショナルのための製品を作る会社として「プログレード(ProGrade)」という名前を選びました。

かつてメモリーカードの規格が乱立していた時代があり、カメラが変わればメモリーカードも変わるという、使い勝手の悪い時代があった。それがSDメモリーカードに集約され、ユーザーフレンドリーな時期が長く続いていたが、SDメモリーカードの性能が限界を迎えつつある現在は……。

大木氏:メモリーカードの乱立は、ユーザーにとってもメーカーにとっても、正直“良くない”状況だったと思います。ユーザーにとっては、採用カードの将来性を含めてカメラを選択しなければならない。カメラメーカーにとっては、どのカードを採用するかで製品スペックが制限されてしまいますし、将来的なカードの供給や価格も考慮する必要がありますから。

その後、SDメモリーカードに代わる高速なメモリーカードとしてXQDやCFastといった規格も登場した。しかし、それぞれに互換性がなく、カメラを替えるたびにメモリーカードも買い替えなければならない状態が再発した。

大木氏:この状況を打開するために、業界全体で規格を統一しようという思想のもとに生まれたのがCFexpressです。私たちがこの規格に注目したのは、単に高速だからではありません。カメラの未来を制限しない“共通基盤”になると確信したからです。

CFexpressはなぜ“必要不可欠”なのか

単なる新規格としてではなく、これからのカメラの性能を根底から支える“必然の選択肢”として、CFexpressがなぜ不可欠なのか――その理由を、大木氏は具体的な現場の視点から語り始めた。

大木氏:CFexpressは、プロの映像制作において、もはや“なくてはならない”存在です。理由は、やはり動画の進化です。とくに8KやRAW動画のような高ビットレートの記録では、従来のSDメモリーカードでは速度が足りません。

確かにCFexpressはSSD技術がベースですが、(ProGrade Digitalの製品は)“カメラ用に最適化”されています。PC用SSDと異なり、最初から最後まで継続して高速に書き込めないと、撮影が止まってしまう。だからこそ、カメラにはCFexpressが必要なんです。

PC用のSSDは、最初のキャッシュ領域だけが高速であれば十分とされ、容量を一気に使い切るような使い方は想定されていない。一方、カメラ――とくに動画撮影では、容量の限界まで連続して記録されることも珍しくない。この点が、両者におけるストレージの使い方の大きな違いといえる。

さらにPCでは、速度が一時的に低下しても処理が遅れるだけで致命的な問題にはなりにくいが、カメラの場合は書き込みが追いつかないと撮影そのものが止まってしまう。これでは、メモリーカードとしての信頼性を保てないだろう。

だからこそカメラには、「容量の限界まで安定した速度」が維持できるメモリーカードが不可欠となるわけだ。

大木氏:その課題に応えて生まれたのが「COBALT」です。CFexpressの性能を最大限に引き出すには、当時はSLC(Single-Level Cell)を使うしかないという結論に至りました。TLCやQLCでは途中で速度が落ちてしまう。だから私たちはSLCを採用したんです。

SLCは高価ですが、速度が落ちず、発熱も少なく、消費電力も低い。プロの現場に必要な要素をすべて備えています。とくに長時間の動画撮影では、熱暴走で止まるようでは使いものになりません。CFexpressを使うなら、その性能をフルに活かしてほしい。そのための「COBALT」でした。

COBALTもCFexpress 4.0に対応。容量は1.3TBまで拡大した

「ProGrade Digital」が躍進するきっかけとなった「COBALT」シリーズだが、TLCの技術革新で、SLC並みの持続速度が実現できるようになったことで、いったんその役目を終えるという。

そして、「COBALT」に代わる新たなモデルとして登場したのが「IRIDIUM」だ。こちらは大容量かつ高速なTLCを採用したタイプとなる。かつては速度の安定性に課題があったTLCだが、現在ではプロの現場でも十分に通用するレベルに進化していると、大木氏は語る。

TLCの上級版が「IRIDIUM」。CFexpress Type Aからも選べる

カメラメーカーとの連携が示す信頼性の高さ

「CFexpressを搭載したカメラは、CFexpressを使って開発している」

大木氏への取材の中で印象に残った言葉のひとつだ。これは、カメラの性能を最大限に引き出すには、CFexpressカードの高速かつ安定した書き込み性能が欠かせないことを端的に示している。

一方で、(SDメモリーカードとのダブルスロットを備えたカメラで)SDメモリーカードを使用した場合、書き込み速度の遅さやバッファ開放の遅延により、カメラの性能が制限されるという暗黙の警鐘でもある。

さらに、取材を進める中で、この言葉にはそれ以上の深い意味が込められていたことも明らかになっていく。

大木氏:たとえば、キヤノンの「EOS-1D X Mark III」では、スペック表に「325GBのカード」と明記されていました。当時、325GBでCFexpressカードを出していたのは、私たちだけです。

ニコンのZ9でも同様です。書き込み速度を必要とする撮影には「プログレードデジタルのCOBALT 325GBまたは650GBで使用可能」と書かれていました。つまり、「このCFexpressカード」を前提にカメラが設計されていますよ、ということなのです。

これは、私たちがカメラメーカーと長年築いてきた信頼関係の成果でもあります。サンディスクやレキサー時代から、メーカーと一緒に製品を作ってきた経験があるからこそ、次に必要とされるスペックを先回りして用意できる。それが、ProGrade Digitalの強みです。

ニコンZ9の仕様表に「ProGrade Digital COBALT」の文字が見える

大木氏は、創業者であるウェス氏と共に、サンディスク、レキサーといったメモリーカード業界の最前線を歩んできた人物だ。その後、ウェス氏の呼びかけに応じて「ProGrade Digital」に参画し、現在は日本市場における同社の顔として活躍している。

大木氏:CFexpressの将来性は非常に大きいと考えています。なぜなら、カメラの進化が止まらない限り、メモリーカードも進化し続けなければならないからです。

とくに動画の分野では、8K、12K、RAW、HDRといった高負荷な記録が当たり前になってきています。そうなると、カードの性能がカメラの性能を決めるといっても過言ではありません。

だからこそ、私たちは常に「次の次のスペック」を見据えて、まだ世の中に存在しないカメラのためのカードを先に用意するという姿勢で開発を続けています。

カメラメーカーに認められているという実績は、大きな意味をもつ。その信頼がプロフェッショナルユーザーの支持を得て、ブランドの名は一気に広まった。

その流れを加速させたのが「COBALT」の登場だ。SLCを採用することで、当時の現場が求めていた高い書き込み性能と安定性を実現し、まさにプロの期待に応える存在となった。

「COBALT=SLC」という明確な設計思想があったからこそ、今のProGrade Digitalがあるのではないか。

それがブランドの象徴となり、信頼の礎を築いたのだとすれば、「次の次のスペックを見据える」という大木氏の言葉には、より深い重みが感じられた。

使う側・作る側の「現場を知っている」

大手メーカーがひしめくメモリーカード市場で、ProGrade Digitalはどのようにして独自の存在感を築いてきたのか。これまでの話から、その理由や背景が少しずつ見えてきた。

とはいえ、技術的な優位性だけなら、他のメーカーももち合わせている。後発である同社が、ここまで急速に存在感を高めた背景には、さらに別の要因があるのではないか。

大木氏:プロフェッショナルの世界って、常に“今ない未来”を見て作らなきゃいけないんですよ。そして私たちは、これまでのプロセスの中で、ユーザーやプロ向け製品を作るメーカーが何を考え、どう動いているかを知っている。これは、他社にはない大きな強みだと思っています。

大企業かどうかではなく、重要なのは、プロの厳しい要求に応えられる最先端かつ高品質な製品を生み出す力です。

さらに、ユーザーやカメラメーカーが何を求めているのかを具体的に想像し、それをどう提案すれば実現できるかを理解していること。これこそが、ProGrade Digitalの真の強みです。

大きさが揃えられ、さらにマグネットでスタックできるのもProGrade Digital製カードリーダー。ノートPCの背面にも取り付けられる

大木氏はインタビューの随所で、ProGrade Digitalを「小さな会社」と表現していた。最初は謙遜かと思っていたが従業員数を尋ねてみたところ、返ってきた数字は、こちらの想像の百分の一にも満たない規模だった。まさに少数精鋭。だからこそのスピード感と柔軟性で未来を見据えた開発ができるのだと、あらためて実感した。

そして大木氏は、「製品の差別化や強みは、まだほかにもある」と言葉を続けた。

大木氏:大木氏:「Refresh Pro」というアプリを提供しています。簡単にいえば、ユーザーサイドでメモリーカードのメンテナンスを行うことができるツールです。ウェスが、サンディスク時代にも、レキサー時代にも、やりたくてもできなかったツールを、自分の会社でついに実現したものです。

CFexpressやSDメモリーカードって、使っているうちに残存メモリーが溜まることで書き込み速度が落ちますので、定期的なディープフォーマットは必要です。カメラは機能進化を続けるので、カードもファームウェアの更新が必要です。そういった“見えない劣化”や“予見できない進化”に対して、ユーザーが自分のPC環境でメンテナンスできるようにしたのが「Refresh Pro」です。

Refresh Proのロゴ。このマークが入ったメモリーカードが使用できる

補足すると、「Refresh Pro」とは、

①ヘルス:フラッシュメモリーの健康状態を測定し、パーセンテージで残りの寿命を表示
②サニタイズ:ディープフォーマットを行い、カードを工場出荷状態の高速性能に回復
③ファームウェアアップデート:メモリーカードを最新のファームウェアにアップデート

の3機能を備えたPCアプリのこと。同社製のメモリーカードとカードリーダーを組み合わせることで使えるようになる。

利用条件は「R」マークの付いたメモリーカードで、その中にはSDやmicroSDメモリーカードも含まれている。驚くことに、ProGrade DigitalのSDメモリーカードはファームウェアをアップデートして進化できるというわけだ。

Refresh Proを使えば、ユーザーサイドでファームウェアのアップデートができる

大木氏:「このカードは大丈夫かな?」という不安を抱えたまま撮影に臨むのはリスクが大きい。メモリーカードを安心して使うためにはメンテナンスが必要です。カードの寿命を事前に知り、本来のパフォーマンスを実現できるよう定期的にディープフォーマットを行う、そしてカメラの進化に適応したファームウェアにアップデートする。「Refresh Pro」を使用することで、カメラとカードのトラブルをできるだけ回避する。プロフェッショナルに大きな安心材料を提供するツールと考えています。

プロの創造力を支えるために

現在、ProGrade Digitalでは数量としてはSDメモリーカードのV60(128GBと256GB)が定番として人気を誇っているとのこと。CFexpressとの比率を見ても、現時点ではSDメモリーカードの方が多く出荷されているようだ。

しかし一方で、容量単価ではCFexpressの方が安価で、速度面でも圧倒的な差があるため、デュアルスロットのカメラを使っているなら「迷わずCFexpressを選ぶべき」と大木氏は語る。

大木氏:CFexpressというと“高画質動画向け”というイメージをもたれるかもしれませんが、その速度やレスポンスを体験してしまうと、写真を撮る方でも『もうSDは挿したくない』という声が出てくるのです。僕自身もそうで、間違ってSDを入れてしまうと、データ転送のときに本当にストレスを感じます。待ち時間が全然違うので。

「プログレードデジタルのメモリーカード市場シェアが最も高いのは日本」と大木氏はいう。

これまでの話を聞くと、「プロからの信頼が厚いからこそ売れているのだろう」と思うかもしれない。

しかし、実はそれだけではない“売れるべき理由”が存在しており、それがインタビューの終盤になって明かされていく。

大木氏:世界共通価格にしています。海外製品でよくある“日本だけ高い”ということはありません。基本的には、どこの国で買っても同じ価格です。為替が動いたら、すぐに反映するようにしていて。為替が動いているのに価格が変わらないというのは、不自然でしょう。

こうした理由から、ProGrade Digitalの製品は量販店ではなく、Amazonでの販売を中心に展開しているという。

そのため、勝手に値上げや値下げされることはなく、セールの実施も自社で管理。ブランド価値を守るために、販売チャネルの運用にも細やかな配慮がなされている。

CFexpress Type AもCFexpress 4.0に対応済み。選択肢は年を追うごとに増えている

最後に、大木氏からメッセージをいただいたので、それを紹介して終わりにしたいと思う。

大木氏:メモリーカードは、ただのメモリーカードではありません。カメラの性能を最大限に引き出すための“鍵”です。とくに動画や高速連写を使う方には、高性能なCFexpressカードをぜひ体感してほしいと思います。

私たちはこれからも、プロの創造力を制限しないための製品を作り続けていきます。カメラの未来を信じて、その先を支えるカードを“先回り”して用意していきたいと思っています。

ProGrade Digitalが掲げる「プロフェッショナルのためのグレード」という理念は、CFexpressという規格を通じて、まさに現実のものとなっていると強く感じた。

インタビュー前には「なぜProGrade DigitalのCFexpressはこれほど支持されているのか?」と疑問もあったが、今ではその理由に深く納得している。

ユーザーに対しても、カメラメーカーに対しても、「必要なもの」を「必要なとき」にすでに用意できていること。それを可能にしているのは、豊富な知識と経験、そして確かな開発力を備えたチームの存在だ。

十分な速度感で信頼できる製品を市場に届けるその姿勢が、目の肥えたユーザーたちの信頼を集める大きな理由なのだろう。

桐生彩希