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応募・受賞で広がった「写真の世界」…海外コンテスト受賞者、Kogameさんインタビュー

International Photography Awards 2022 風景部門「Nature Photographer of The Year」受賞作
撮影:Kogame

今年、ソニーグループが新たに写真&映像アワード「THE NEW CREATORS」を新設し、募集を開始した。撮影機材の条件、応募料などは一切なく、誰もが参加できる。

コンテストは気軽に自分の作品のレベルを確認できる場であると同時に、新進写真家として見い出される登竜門でもある。

今回紹介するKogameさんもアワード受賞によって、世界が広がった1人だ。

現在、Kogameさんは会社員のかたわら、写真家としての仕事もこなす。観光写真の撮影、カメラメーカーからの評価依頼、メディアでの作例撮影や執筆などを行う。

「それまでに全く考えてもいなかった経験をしています。それは全てコンテストで入賞したことから始まったことです」

Kogame Takeshi Kameyama

会社員のかたわらフォトグラファーとして活動中。風景からポートレート、アートまで、ジャンルに拘らない幅広い作風が特徴。雑誌・オンラインで撮影・レタッチ方法の解説も行っている。International Photography Awards 2022 にて Nature Photographer of The Year 受賞。ルーシー賞(写真界のアカデミー賞)に招待され、海外からも高い評価を得ている。TIFA2022 Gold、SWPA2022 日本賞、東京カメラ部10選2020。

撮影:Kogame
撮影:Kogame

創作活動は自分のペースで

コンテストの入賞者というと、写真中心の生活を送っているイメージがあるが、Kogameさんは違う。

「撮影は基本的に月2回ほどのペースです。それも家族の用事が優先ですから、計画していても行けなくなることもあります」

本業は会社員なので、動けるのは休日のみ。

「子どもが小さい頃は夜中に出かけて、起きる時間には家に帰っていました」

写真を撮り始めたのは16年前。子どもの誕生をきっかけにデジタル一眼レフカメラを買った。実にノーマルだ。

「最初、キットレンズで撮ったら、コンデジと写りがそう変わらない。でもその後、単焦点レンズを買い足すと、写真が俄然面白くなりました」

山好きの父親の影響で、ずっと山には親しんできた。主な被写体は風景と子どもだ。

「2〜3年目に新潟県美術展覧会に応募しましたが、全く引っ掛からず、才能がないんだと落ち込みました」

その後、Instagramが流行り始め、使い始めたことで流れが変わった。

「写真を見る枚数が飛躍的に増えました。あらゆるジャンルに興味があったので、国内外の写真を見まくりました」

それまでは被写体を見つけると、感覚的にカメラを向けてシャッターを切っていたことに気づく。

「被写体がきちんと写っていれば良かった。けれどInstagramで僕が良いと思う写真はそうではない。考えられた構図が取られ、1枚の写真として密度が高い。それと光と影が美しく写し込まれている。私は特に陰影や色調、彩度をより強調した海外の写真に惹かれました」

Instagramを始めて1年ほどした時、ある主催団体から投稿写真をセレクトするキュレータ—を依頼された。

「毎日500〜1,000枚程度の投稿がありました。審査する視点に立つことで、写真の見方が広がりました」

一見、目を惹くきれいな写真は多くある。ただ深く心を捉え、想像を掻き立てる1枚は少ない。

「撮影者が何を思って撮ったかを考えます。それが感じられる写真は強い。訴えかけてきます」

大切に想うものが被写体

Kogameさんは新潟在住。撮影エリアは近隣が多く、遠くて車で2時間程度の福島県や山形県へ足を延ばすぐらいだという。

「桜や、田植えの始まり、一面の雪景色になる頃など、頻繁に撮影に行く季節もあります」

田に水が張られると、そこが大きな水鏡になる。街の風景と人々の営みがある中に、光や偶発的な光景が起きるのを待つ。

撮影:Kogame

風景ともう1つ、重要な被写体が人物。

「小さい頃から長女を撮ってきました。家族写真でありながら、そこから発展した作品として成立させたいと思っています」

撮影:Kogame

家族で遊ぶ時間の中で、瞬間を見つけてシャッターを切る。撮るための位置やポーズを指示することはない。

きらめく光の粒の向こうに女の子が遊ぶ1枚がある。

「ちょうど『アナと雪の女王』が流行っていたので、花火をした時、『魔法使いになれるよ』と声を掛けた。そうしたら彼女は得意になって花火を回し、演じ始めました」

撮影:Kogame

アワード受賞で世界が広がった

東京カメラ部に投稿を始め、2018年にInstagram部門で初めて写真が選ばれた。そして2020年には「東京カメラ部10選」として認められる。

東京カメラ部 10選 2020 選出作品
撮影:Kogame

2022年には5月にソニーワールドフォトグラフィーアワード(SWPA)で日本部門賞に選ばれたと連絡があり、その秋には 「International Photography Awards 2022 」(IPA)風景部門で「Nature Photographer of The Year 」を受賞した。この部門では日本人初だ。

SWPAに出した写真は街を俯瞰で捉えた。住宅街と工場が見え、その中央に鉄道が通る。

ソニーワールドフォトグラフィーアワード(SWPA)日本部門受賞作
撮影:Kogame

「その光景に偶然、郵便配達の赤いバイクが入ってきたことで、人の営みの縮図が見えた。ただ入賞するのは絶景がほとんどですよね。こんな身近な風景は選ばれるはずはないと思っていたので驚きましたし、きちんと見てくれる人がいることに励まされました」

地元の風景を通して、新潟の文化や歴史に思いを馳せてもらう写真が撮りたい。経験を積むうちに、そう思うようになった。

「写真を撮り始めて、降雪量が年々減っていることを感じます。住人にとって厳しい自然環境ですが、実りには必要ですし、誇れる美しい風景です。写真だけでなく、この光景を大人になった娘たちにも見せたい」

IPAの受賞作は、写真界のアカデミー賞と言われる「ルーシー・アワード」にもファイナリストとしてノミネートされ、Kogameさんはニューヨークで開かれる両授賞式に招かれた。

KogameさんはIPAの審査員に言われたコメントが深く心に残っている。

「あなたの写真には見た人に考えさせ、行動を起こさせる力があります」

ルーシー賞の授賞式はカーネギーホールで、男性の出席者はタキシードが必須。入口にはレッドカーペットが敷かれ、テレビなどで見たセレブリティの世界が目の前にあった。

「どちらの式典でもモニターに僕の写真が投影された時、会場から歓声が上がった。それに僕はとても感動しました」

この受賞が発表されて以降、写真家として仕事の依頼が入り始めた。

「内閣府から連絡があり、海外向けの情報誌『Highlighting Japan』に写真を掲載したいと言われました。また日本大使館からギリシャで行う写真展『現代日本の写真家たち』に誘われました」

『Highlighting Japan VOL.188』表紙
撮影:Kogame

現在は、より良い写真を制作するための「選ばれる写真」コミュニティを立ち上げ、約50人の会員がいる。

身近な風景でも見たことのない光景は表現できる。Kogameさん自身、超ローアングルや、三脚を使ったハイアングルで、新たな見え方を試みる。

そういえばソニーの新しい写真&映像アワード“THE NEW CREATORS”では、撮影機材が不問となっている。ソニー以外のカメラはもちろん、スマートフォンで撮影した作品も応募可能だ。デジタル一眼レフカメラで作品制作を始めたKogameさんの目には、どう映っているのだろうか。

「誰もがスマホを手にして写真を撮っている時代です。そこからも新しい写真が生まれてくるのではと期待しています」

“THE NEW CREATORS”は音楽、映画・映像部門を持つソニーのグループ各社が手を組んだ、これまでにないアワードだ。副賞には所属アーティストのMV撮影体験、映画撮影現場の見学体験なども用意する。気軽に写真、映像で遊ぼう!

撮影:Kogame

“THE NEW CREATORS” 応募概要

応募期間

2024年11月18日(月)10時00分〜2025年2月10日(月)23時59分

写真作品

  • ネイチャー部門:自然風景、植物や野生動物など自然をテーマに据えた作品
  • 自由部門:被写体に制限のない作品
  • U25部門:満25歳以下(応募締切日時点)が対象。みずみずしい感性を活かした作品

映像作品

  • イマジネーション部門:ポートレートムービー、ミュージックビデオ、Vlogなど自由な作品
  • ドキュメンタリー部門:特定の取り組みや課題に対してテーマを設定し、取材や記録をもとに構成した作品
  • ショート部門:60秒以内の映像で、見る人の心を掴む作品

審査員

  • 写真部門:石川直樹(写真家)、蜷川実花(写真家、映画監督)
  • 映像部門:上田慎一郎(映画監督)、大喜多正毅(映像作家)

賞・副賞

  • グランプリ(各1人):50万円
  • 優秀賞(各2人):20万円
  • 入賞(各3人):5万円
  • 佳作(各最大30人):ソニーポイント1万円分

(いちいやすのぶ)1963年、東京生まれ。コロナ禍でギャラリー巡りはなかなかしづらかったが、少し明るい兆しが見えてきた。そんな中でも新しいギャラリーはいくつも誕生している。東京フォトギャラリーガイドでギャラリー情報の確認を。写真展の開催情報もお気軽にお寄せください。