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あの日のライカ Vol.6 チバユウスケ × ライカSL2-S

街の向こうに沈んでいく夕日。28mmで切り取る自然な画角が好きだ。雲の中に入っていく太陽の輪郭が浮かび上がるまで露出を抑えている。
ライカSL2-S/アポ・ズミクロンSL f2/28mm ASPH./プログラムAE(F5、1/1,000秒、-1.7EV)/ISO 100/WB:オート/モノクロHC

THEE MICHELLE GUN ELEPHANTで活躍後、ROSSO、Midnight Bankrobbers、The Birthdayなど、精力的に活動をしてきたチバユウスケさんは、ソロアルバムのアートワークや特典の写真集に、自身が撮影した写真を使用。アルバムの世界観を視覚的に表現するという大切な役割を写真に託している。高コントラストなモノクロの作品を好むが、それは抽象画のようであり「音」にも近いと話すチバさん。ライカSL2-Sを使うことで、写真で表現することを楽しさをさらに深く感じたという。

© Keita Haginiwa 2023

チバユウスケ
1968年生まれ。1996年、THEE MICHELLE GUN ELEPHANTのボーカルとしてメジャーデビュー。その後はROSSO、Midnight Bankrobbers、The Birthdayとバンド活動を続けている。2020年に開催した写真展「YUSUKE CHIBA-SNAKE ON THE BEACH-PHOTO EXHIBITION」は全国を巡回した

——写真はいつ頃から撮っているのでしょう。

かなり昔、ポラロイドで撮ったりしてたのを覚えている。写した瞬間はまだ写真が浮かび上がってこないじゃない? その時にボールペンで表面を擦ったりして、変わった写真にするみたいなことにハマってたかな。それからブラックのCONTAX Tを買って、カラーもモノクロも撮ってた。一度修理して、まだ元気に動いているよ。

——インスタントカメラやフィルムカメラをお使いだったんですね。デジタルに移行したのはいつくらいですか?

2015年に「ライカD-LUX “RSJ Edition”」という俺モデルのカメラが出たことがあって、それをもらってからかな。

——「俺モデル」という言い方がカッコイイです。

いや、出来上がってるやつにサインを入れただけくらい。「Rolling Stone」の創刊100周年を記念した企画で、その時に初めてライカというものを触ったけれど、おもしろい画質だと感じた。本当にライカの名前を知っている程度で、いつかはライカ、みたいな感じではなかった。でも、それをきっかけにデジタルでも撮るようになったし、このときにモノクロで撮ってみたら、俺が写真に望んでいる世界観はこれだな、ということに気付けて、それからはだいたいモノクロで撮るようになったね。

——デジタルカメラはライカD-LUX以外にもお使いですか?

単焦点レンズ付きのコンパクトデジタルカメラを使ってる。基本的に日常の中で使っていて、ツアーやイベントにも持っていくし、あっと思ったときに撮りたいから、軽くて、すぐに起動して、常に持ち歩けるようなカメラが好みかな。今日のように取材があれば、その道すがらも撮るみたいな。

——2枚目のソロアルバム「潮騒」ではジャケットの中にご自身が撮影した写真を使い、3枚目のソロアルバム「SINGS」では写真集も付けて写真展も開催しました。

2枚目のときは撮り貯めたものからセレクトしたけれど、写真集と写真展用には、こういう写真が好きだな、撮りたいな、というものが出てきて、撮りに出掛けたりした。はっきりとこういう写真が好きだとは言えない。でもカッコイイものではあってほしいね。

——そのような写真が撮れるようにカメラの設定も変更しているのですか?

今回はライカSL2-Sで撮っているけれど、最初からパキッとしたモノクロで撮れるようにコントラストを付けて、シャドウも黒く落ち込むような設定にしている。あとは撮影時に露出補正で好みのシャドウの表現になるように調整しているかな。

ふだんはあまり人物を撮影することはないが、ライブ終わりにメンバーをスナップすることがある。
ライカSL2-S/アポ・ズミクロンSL f2/28mm ASPH./プログラムAE(F2、1/50秒、-0.3EV)/ISO 4000/WB:オート/モノクロHC
遊びに行ったライブで目に入ったドラムセット。被写体の一部分を切り取って想像させるのが好きだ。
ライカSL2-S/アポ・ズミクロンSL f2/28mm ASPH./プログラムAE(F2、1/50秒、-0.7EV)/ISO 1600/WB:オート/モノクロHC

——さて、ライカSL2-Sは普段お使いのカメラと比較していかがでしたか?

まず、重いなあって(笑)。手元にきてすぐに公園なんかに行って撮ったりしたけども、撮っている最中からなんかすごいなと。そしてデータを持ち帰りPCで見てみたらやっぱりすごかった。きめ細かい。いつものデータと比べると質感も緻密さも違う。

——レンズは「アポ・ズミクロンSL f2/28mm ASPH.」をお使いですね。普段お使いのカメラと同じ画角ですが、その感覚があったのでしょうか。

他のレンズも選べたけど、これ1本でいいと言ったのは覚えている。焦点距離がどうのとかは意識してない。でも、馴染んでたんだろうね。それが付いたまま、バシャバシャ撮っていただけ。勝手にピントも合わせてくれるし、とにかく楽だなと思いながら撮ってた。

ライカSL2-S+ライカ アポ・ズミクロンSL f2/28mm ASPH.

——とてもコントラストが高く、撮っているものも大胆で、何を撮ったのか、撮った時間帯や場所すらわからないような骨太な世界がカッコイイです。

抽象画に近い感覚だとは自分自身では思ってる。見た人に「なんだろう」と思ってもらえる写真は「音」に近いというか。その感覚に応えてくれるライカSL2-Sは、すごく表現力みたいなものがあるカメラだなと思ったね。こういう写真が撮れちゃうんだ、みたいな。影が引き締まった写真を撮れたのは嬉しかったし、雪の写真なんかもこのカメラだから撮れたと思う。

車のフロントガラスに張り付いた雪。水滴の輪郭が作るドット模様が印象的だった。よく見ると、氷の中のざらつきまでシャープに描写している。
ライカSL2-S/アポ・ズミクロンSL f2/28mm ASPH./プログラムAE(F4.5、1/1,000秒、-1.7EV)/ISO 100/WB:オート/モノクロHC
公園を散歩しているときに足元に見えた世界。思い切って露出を追い込むと浮かび上がる陰影に面白さを感じた。
ライカSL2-S/アポ・ズミクロンSL f2/28mm ASPH./プログラムAE(F5、1/1,600秒、-3.0EV)/ISO 100/WB:オート/モノクロHC
歩いていて目についた木の根。-3EVの露出補正で暗部をじっくりと落とす。根の表皮の模様がしっかりと浮き立って見える。
ライカSL2-S/アポ・ズミクロンSL f2/28mm ASPH./プログラムAE(F4.5、1/1,000秒、-3EV)/ISO 100/WB:オート/モノクロHC

——日常的に持ち歩くことにこだわってカメラ選びをしてきた身から、ライカSL2-Sは日々のお供になりそうですか?

ポケットに入れて持ち出すことはできない(笑)。でも、とても良いカメラだと思う。だからこそ、わざわざ何かを撮りにいく、という感覚で使いたいかもしれない。街でもいいし、友だちを撮りにでもいいし。これまでは「写真を撮りにいこう」という感覚はなかったから、ライカSL2-Sを通じて、もう少し写真が表現に近づくような感覚があるね。

——今後もまた音楽活動にご自身が撮った写真を使っていきたいですか?

やりたいね。写真との距離は近づいてきていると思う。最初はジャケットの中に使っていただけだけど、それを写真集にしたくなったりした。そして、撮ったのであれば人に見てもらいたい、と思って写真展もやった。音楽と同じで、写真もちゃんと表現となるような行為を追求していきたいね。

夜の渋谷センター街。煌々と輝くテナントの看板がまぶしい。何も考えずにシャッターを切りながら歩くスタイルが自分には合っている。ライカSL2-S/アポ・ズミクロンSL f2/28mm ASPH./プログラムAE(F2.2、1/60秒、-1.7EV)/ISO 100/WB:オート/モノクロHC
夕方の空を見上げる。淡い空を背景に葉を落とした木の子細な枝が広がる。シャープなラインで、1本、1本を描き分けているよう。
ライカSL2-S/アポ・ズミクロンSL f2/28mm ASPH./プログラムAE(F2.8、1/100秒、-0.7EV)/ISO 100/WB:オート/モノクロHC

制作協力:ライカカメラジャパン株式会社

デジタルカメラマガジン2023年5月号には、カメラマン 萩庭桂太さんがライカM10-RとライカQ2を使って撮影したチバユウスケさんのスペシャルギャラリーを収録しています。ぜひあわせてご覧ください。