いま買える「ニコンDX用高倍率ズームレンズ」を比較する
高倍率ズームと言えば、かつてはキワモノ的存在だったが、技術が進んだおかげで画質は驚くほど向上したし、初期は2mほどだった最短撮影距離も0.5m弱にまで短縮化されて使い勝手もよくなった。最近では、最初の1本として選ぶデジタル一眼レフ入門者も増えているようで、高倍率ズームを同梱したレンズキットも人気が高まりつつある。
このジャンルの牽引役を果たしているのが、フィルム時代からしのぎを削りあってきたタムロンとシグマだ。現在は、タムロンがAF 18-270mm F3.5-6.3 Di II VC LD Aspherical [IF] Macro、シグマが18-250mm F3.5-6.3 DC OS HSMをラインナップ。望遠端は35mmフィルムカメラ換算で400mm相当前後の超望遠域にまで達しており、どちらも光学式手ブレ補正機構内蔵を売りにしている。
一方、カメラメーカーでは比較的早くから高倍率ズームを発売したニコンも、この9月にAF-S DX VR Zoom Nikkor ED 18-200mm F3.5-5.6 Gをモデルチェンジ。新製品のAF-S DX NIKKOR 18-200mm F3.5-5.6 G ED VR IIが購入できる。光学系や手ブレ補正機構の効果は従来と同じながら、コーティングの更新による画質の向上、自重落下防止のロック機構を装備して使い勝手もアップさせている。
出遅れたトキナーは広角端をワンクラス広い16.5mm(25mm相当)に拡大したAT-X 16.5-135 DXで上級者にアピール。手ブレ補正機構もないうえに、135mm止まりの望遠端が弱みだが、AT-Xシリーズならではのがっちりした造りのよさ、ボディ内モーター仕様の快速AFは魅力だ。
今回は、現行高倍率ズームレンズの中から各メーカーの最新モデル4本をピックアップ。ニコンDX機のための高倍率ズームレンズ選びを考えてみたい。
製品名 | メーカー名 | 発売年月 | 標準価格 | 実勢価格 | 焦点距離 (35mm判換算) | フード | ケース |
---|---|---|---|---|---|---|---|
AF-S DX NIKKOR 18-200mm F3.5-5.6 G ED VR II | ニコン | 2009年9月 | 110,250円 | 93,700円 | 27〜300mm相当 | 付属 | 付属 |
18-250mm F3.5-6.3 DC OS HSM | シグマ | 2009年4月 | 89,985円 | 69,800円 | 27〜375mm相当 | 付属 | - |
AF 18-270mm F3.5-6.3 Di II VC LD Aspherical [IF] Macro(Model B003) | タムロン | 2008年9月 | 84,000円 | 69,800円 | 27〜405mm相当 | 付属 | - |
AT-X 16.5-135 DX | トキナー | 2009年4月 | 84,000円 | 69,800円 | 25〜203mm相当 | 付属 | - |
製品名 | レンズ構成 | 絞り羽根 | 最短撮影距離 | 最大撮影倍率 | フィルター径 | 大きさ | 重さ |
---|---|---|---|---|---|---|---|
AF-S DX 18-200mm F3.5-5.6 G ED VR II | 12群16枚 | 7枚 | 0.5m | 0.22倍 | 72mm | 77×96.5mm | 565g |
18-250mm F3.5-6.3 DC OS HSM | 14群18枚 | 7枚 | 0.45m | 0.29倍 | 72mm | 79×101mm | 630g |
AF 18-270mm F3.5-6.3 Di II VC LD Aspherical [IF] Macro(Model B003) | 13群18枚 | 7枚 | 0.49m | 0.29倍 | 72mm | 79.6×101mm | 550g |
AT-X 16.5-135 DX | 12群15枚 | 9枚 | 0.5m | 0.18倍 | 77mm | 84×78mm | 610g |
■ニコンAF-S DX NIKKOR 18-200mm F3.5-5.6 G ED VR II
ニコン純正であるのが最大の強みと言えるが、それだけに価格は高い。大手量販店の店頭価格では、ほかの3本よりも2万円以上の差がある(D300sとのキットで購入すれば、あと5,000円ほど差は詰まる)。
フルタイムMFが可能なタイプなので、AFモードのままマニュアルフォーカスによるピントの微調整が行なえる。また、望遠端の開放F値をF5.6としているおかげで、他社の18-200mmクラス(望遠端は開放F6.3)よりAFスピードの面で有利となっている(まあ、体感的には、ほんのちょっぴりの差でしかないが)。手ブレ補正効果はシャッター速度で4段分だ。
鏡胴はやや細身に仕上がっていて、手の小さな人にも持ちづらさは感じにくいのではないかと思う。ズーミング時のトルクの変動はもっとも少なく、なめらかに操作できる。また、新設のズームロックレバーは、カメラを構えたときにちょうど左手親指の位置にあって、ズームしようとして「あ、ロックしてた」というときのフォローがやりやすいのもいいところだ。
D300に装着したところ |
広角端 | 望遠端 |
AFのまま切り替え操作なしでMF操作が可能な「M/Aモード」を搭載。上級者にはポイントが高いスペックと言える | VR(手ブレ補正機構)の効果はシャッター速度で4段分。乗り物に乗っている状態での撮影に適した「ACTIVE」モードも備えている |
ズームロックレバーは、カメラを構えたときに自然に左手親指がかかる位置。なので、とっさのときにも素早くロック解除できる(はず) | 特にアナウンスはないが、マウント部にゴムのスカートを装備しているのを見ると、防塵・防滴性を備えていると見てよさそうだ |
■シグマ18-250mm F3.5-6.3 DC OS HSM
シグマ独自の手ブレ補正機構(OS)を搭載。シャッター速度で4段分の補正効果がある。AF駆動用に超音波モーター(HSM)を内蔵しているが、これはD3000をはじめとするAFモーターレスのボディへの対応策であり、フルタイムMFには対応していない。
そのため、マニュアルフォーカス時にはレンズ側で切り替え操作を行なう必要がある。フォーカスリングはかなりスカスカ感があり、操作感は決してよくない。
また、フォーカスリング、ズームリングともに純正とは回転方向が逆。レンズを取り外すときに、ズームロックしていないとズームリングが回ってしまう。ロックレバーは比較的操作しやすい位置にあるが、感触が硬いので頻繁に操作していると指が痛くなりそうだ。ズームリングのトルク変動は少なめで、操作感は悪くない。
D300に装着したところ |
広角端 | 望遠端 |
AF駆動はHSM(超音波モーター)だが、フルタイムMFには非対応。AFスピードもそれほど速いわけではない | 手ブレ補正機構(OS)のオンオフスイッチ。補正効果はシャッター速度4段分。カメラの動きを読み取る機能を備えているので流し撮りにも対応できる |
ズームロックレバーは左手親指の位置(わりと上側)にある。カメラを構えたままでもなんとか指がとどきそうな感じだ | 最短撮影距離は0.45m。鏡胴には各焦点距離における最短撮影距離での撮影倍率が印刷されており、近接撮影時の目安にできる |
■タムロンAF 18-270mm F3.5-6.3 Di II VC LD Aspherical [IF] Macro
4本中、もっとも望遠端が長いが、重さはもっとも軽い。ただ、鏡胴が太めなので、手の小さな人には持ちづらく感じられるかもしれない。
ニコン用はAF駆動用モーターを内蔵しており、D5000などにも対応可能。手ブレ補正機構の効果は公表されていないが、感覚的にはニコンやシグマに匹敵するレベル。ファインダー像の安定感が非常に高かったのが印象的だった。
ズームリング、フォーカスリングともに純正と同じ回転方向なのはいいが、ズーミング時のトルク変動はかなりある。特に広角から望遠にズーミングしたときに、100mm付近で急に重くなるのが使っていて気になった。
ズームロックレバーの位置は右手人差し指で操作する位置にある。カメラを構えて「あっ、ロック中じゃん」というときに、いったんファインダーから目を離す必要があるのも泣きどころと言える。
D300に装着したところ |
広角端 | 望遠端 |
ニコン用はレンズ内モーター仕様なので、AF/MF切り替えレバーがある。手ブレ補正機構(VC)の効果はかなり高いと思える | ズームロックレバーは右手側で、ファインダーをのぞいたまま操作するのは難しい。とっさのときには不便な位置と言える |
■トキナーAT-X 16.5-135 DX
風景ファンなどの希望に応えて広角側を16.5mmに広げているのが大きな特徴。代わりに望遠側は135mmまでしかないが、その分、コンパクトに仕上がっている。その割に重量感あふれるところはトキナーらしいところでもあり、同時にがっちりとした造りのよさも伝わってくる。
手ブレ補正機構は内蔵していないが、望遠端が短めなので、比較的ブレは抑えやすいだろう。ズームリング、フォーカスリングともに純正とは回転方向が逆。ズームリングの操作は重く、しかもトルク変動もあり、特に70mm以上の望遠域は頻繁にズーム操作をやっていると、それだけで指がくたびれてしまう。
ボディ内AFモーター仕様であるため、D5000などのモーターレスボディではAFが使えない。フォーカスリングはちょっとジャリジャリと音はするが、ダイレクト感があって操作感はそれほど悪くはない。
D300に装着したところ |
広角端 | 望遠端 |
フォーカスリングの回転角は非常に狭い。また、連動メカのジャリジャリ音も耳障りだが、操作性自体はそれほど悪くはない | 左が反射防止効果の高い植毛加工が施されたトキナーのフード(右はタムロンのフード)。画質へのこだわりが感じられるポイントだ |
■実写比較
- 作例のサムネイルをクリックすると、リサイズなし・補正なしの撮影画像(JPEG)を別ウィンドウで表示します。
・画角変化
ダイナミックな画角の変化は高倍率ズームレンズならでは。スペック的にはタムロンの15倍のズーム倍率が圧倒的だが、シグマの13.9倍との差はそれほど大きいわけではない。
4本横並びで比べると、やはりトキナーの望遠端が物足りなく感じられるが、その分広角側が広い(こういう画面だとあまり大きな差は感じられないが)という強みがある。なお、広角端は、ニコンやタムロンに比べてシグマがやや狭めの画角になっているようだ。
D300 / AT-X 16.5-135 DX / 4,288×2,848 / 1/100秒 / F11 / +0.3EV / ISO200 / WB:晴天 / 16.5mm(26mm相当) | D300 / AT-X 16.5-135 DX / 4,288×2,848 / 1/125秒 / F11 / +0.3EV / ISO200 / WB:晴天 / 135mm(203mm相当) |
・歪曲収差
広角端の歪曲収差は、いずれもいわゆるジンガサ型で、もっとも画角の広いトキナーがもっとも良好な結果となった。次いで、シグマ、ニコン、タムロンの順。一方、望遠端はいずれも弱いイトマキ型の傾向で、シグマ、タムロン、ニコン、トキナーの順となった。
絞り開放での周辺光量は、望遠端ではどれもそれほど気にならないが、広角端では目立つものもある。まあ、どれもF8あたりまで絞ればかなり改善されるので、それほど目くじらを立てる必要もないだろう。
D300 / AT-X 16.5-135 DX / 4,288×2,848 / 1/4,000秒 / F3.5 / -0.3EV / ISO200 / WB:オート / 17mm(26mm相当) | D300 / AT-X 16.5-135 DX / 4,288×2,848 / 1/1,600秒 / F5.6 / ±0EV / ISO200 / WB:オート / 135mm(203mm相当) |
・ボケ味
望遠端で同じ撮影距離で撮った関係でレンズによって撮影倍率が異なるため、単純な比較はできないが、個人的な感想としては、ニコンが少し硬い印象かなぁ、といったところ。
絞り羽根の枚数はトキナーが9枚で、ほかは7枚。円形絞りを採用しているのはニコンだけだが、ほかの3本も比較的ボケの形は円に近いほうだと思う。
・近接撮影
スペック的にはシグマがトップで、0.45mで1:3.4。次点のタムロンは0.49mで1:3.5(小数点以下2桁表記にすると、どちらも約0.29倍)。ほとんど変わらないはずが、撮り比べてみると、明らかにシグマのほうが大きく撮れる。この差はスペック以上なのではないかと思う。
フォーカスリングの回転角はどのレンズも狭めだが、おそらく遊星コロを利用しているであろうニコンがもっとも広く、無限遠から至近距離までで90度強ある。もっとも狭いのはトキナーでこちらは20度ちょっとしかない。
■まとめ
大手量販店の店頭価格はニコンのみ9万3,700円で、ほかの3本はいずれも6万9,800円でそろっている。
ニコンは純正(Capture NX 2でRAW現像を行なう際に歪曲収差の補正が可能だったりする)、フルタイムMFが使える、円形絞りといった強みがある。また、望遠端の開放F値がF5.6なので、AFが若干有利となることもある。あまり明るくない室内でAF動作を行なうとF6.3組の望遠端は合焦までに時間がかかったり、AFが迷ったりすることもあるが、F5.6のニコンとトキナーはずっとスムーズにピント合わせができた。そういうメリットと200mm止まりのデメリットを考え合わせて、まあこの価格差なら許せるかなぁ、といったところである。
シグマは望遠端の数字ではタムロンに譲るものの、実質上は気にするほどの差ではない(400mm相当クラスでの30mmの差はけっこう小さい)。むしろ、タムロンに対するマイナス点は、重さだろう。焦点距離で負けているのに80gも重いのだから、もうひと頑張りしてよっ、と言いたくなる。一方、近接能力の高さは魅力のひとつ。距離や倍率だけでなく、近接撮影時のシャープ感でもタムロンを上まわっている。
太めの鏡胴の割に4本中もっとも軽量なのがタムロン。手ブレ補正の効果も高く、ファインダー像の安定感ではニコンやシグマをも上まわるのではないかとさえ感じた。また、ズームリングとフォーカスリングの回転方向が純正と同じなので、ほかの純正レンズと併用する際に迷う心配がないのも心強い。これでもう少し望遠側のキレ(特に近接寄り)がよければと思う(と言っても、けして悪いわけではない)。まあ、最高倍率だけに、大目に見てあげないといけない部分もあるだろう。
広角好きにおすすめなのがトキナー。18mm(27mm相当)の画角で物足りなさを感じるものの、高倍率ズームの便利さに魅力を感じるなら、このレンズは間違いなくベストチョイスである。望遠側が短いのはマイナス点だが、望遠が短い分手ブレ補正なしでも不満を感じにくいし、補正光学系を組み込む必要がない分の性能面での有利さもある。実際、全般的にシャープ感の高い描写が得られたし、広角端の歪曲収差も少なかった。
さて、この4本の中からどれか1本を選ぶとしたら、筆者の場合はニコン純正を選ぶことになるはずだ。というのは、フルタイムMFが使えるのがこれしかないからだ。最近はAFのみで撮影することも多いが、それでもやはり手動でのピントの微調整が素早く行なえるという安心感は何ものにも代えがたい。
もちろん、画質も無視できない要素ではあるが、4本ともそこそこよく写るレンズだし、それに画質を最優先にするなら最初から高倍率ズームレンズは選ばないだろう。だったら、使い勝手や自分の撮影スタイルとの相性のいいレンズを選んだほうが得策だと思うのである。
■自由作例
D300 / AT-X 16.5-135 DX / 4,288×2,848 / 1/500秒 / F5.6 / -0.7EV / ISO200 / WB:晴天 / 135mm(203mm相当) | D300 / AT-X 16.5-135 DX / 4,288×2,848 / 1/250秒 / F8 / -0.7EV / ISO200 / WB:晴天 / 75mm(113mm相当) |
D300 / AT-X 16.5-135 DX / 4,288×2,848 / 1/2000秒 / F16 / -2.0EV / ISO200 / WB:晴天 / 17mm(26mm相当) | D300 / AT-X 16.5-135 DX / 4,288×2,848 / 1/4,000秒 / F11 / -2.0EV / ISO200 / WB:晴天 / 135mm(203mm相当) |
2009/10/1 12:00