特別企画
新フォクトレンダー15mmの周辺画質はどうなった?
デジタル対応の新レンズ設計を検証
Reported by 赤城耕一(2015/3/4 12:00)
コシナ・フォクトレンダーシリーズにラインアップされている初代スーパーワイドヘリアー15mm F4.5アスフェリカルは、1999年に登場した同社のライカスクリューマウント(いわゆるLマウント)互換マウントを採用するカメラ、フォクトレンダー・ベッサLの発売に合わせて開発されたものである。
ベッサLはコシナが生産していたOEM用のメカニカル一眼レフカメラを改装して誕生したユニークな目測専用カメラだ。機能は露光機能とフィルム給送、TTLメーター内蔵のみのフルメカニカルというシンプルなカメラだったため、スーパーワイドヘリアー15mm F4.5アスフェリカルも距離計カムを備えておらず、目測専用のレンズとして開発されている。被写界深度の深さから、距離計に連動する必要はないと考えられたのであろう。
小型軽量で、くちばしのようなデザインもユニークで、ライカに装着可能なことからライカユーザーにも歓迎され、実際の描写も非常に優秀であった。ライカマウントでは超高価で入手困難な幻のホロゴン16mm F8の代わりとして人気になったのだ。このレンズはコシナ・フォクトレンダーのレンズを代表するものといって過言ではないだろう。
その後、II型となり光学系は踏襲したままVM(ライカMマウント互換)マウントに改良され、距離計連動カムを内蔵し至近距離でのピント合わせも安心感が増した。デザインもモダンな雰囲気になった。
ところがこの間にM型ライカもデジタル化を果たし、ソニーα7のようなフルサイズミラーレス機も出現したことで、このII型までの光学系のままでは問題が生じることになった。問題とは周辺の色カブリである。
デジタル向けの新設計に改良
色カブリは、画面周辺域において撮像素子の底まで光が届かないために起こる現象で、とくにクラシックな設計の広角レンズでしばしば発生することがあるのは周知のとおりである。
もっとも色カブリを起こしてもPhotoshopなど画像処理ソフトで補正をすれば正常な色再現に再現することは可能だけれど、作業的には余計で面倒である。
今回紹介する新しいスーパーワイドヘリアー15mm F4.5アスフェリカル IIIでは、基本スペックを踏襲したまま光学設計を一から見直す大きな改良が行われた。
レンズ構成は9群11枚構成、非球面レンズを1枚使用している。M型ライカや、コシナ・ベッサシリーズ、ツァイスイコンでは距離計連動範囲は0.7mまで。距離計連動はしないが0.5mまでの距離設定は可能になっている。
もとはフィルムレンジファインダーカメラのことを見据えて設計されたコシナ・フォクトレンダーのレンズシリーズだが、ここでコシナ・フォクレンダー誕生から16年目にして、この代表的なレンズであるスーパーワイドヘリアー15mm F4.5アスフェリカルが本格的なデジタル対応のために改良が行われたことはたいへん興味深いことであり、今後のフォクトレンダーシリーズの展開を予感させるものとなっている。
今回はソニーα7 IIおよびα7Rに同社のフォクトレンダーVM-Eクローズフォーカスアダプターを装着したものと、ライカM(Typ240)にダイレクトに装着してみたが、α7 IIではボディのメニューから手ブレ補正用のレンズ焦点距離設定を行うことで的確な手ブレ補正が期待でき、またVM-Eクローズフォーカスアダプターのフォーカスリングを使用することでさらに至近距離での撮影が可能になるため「超広角マクロ」撮影を行うこともできる。実際みた感じでは、この組み合わせでレンズ面から5cm程度まで近寄れる感覚だ。
α7 IIはMF時の撮影が非常にやりやすくなったことも特徴で、拡大機能を自分が使いやすいカスタムボタンに割り付けることで素早い撮影も可能。またピーキングも応用できるが、このレンズはもともと被写界深度が深いために、至近距離で絞りを開放気味に設定するなどしなければあまりピント合わせに神経質になる必要はないと思う。ライカとは異なる完全ミラーレス機として、レンジファインダー用のレンズの使用でもフレキシビリティがあるから楽しめる。
α7Rは高解像度を最大限に生かすため光学ローパスフィルターレス仕様となっており、レンズの性能をそのまま生かすことができ、これまでにない高精細の超広角写真製作を行うことができるはず。
しかし、高画素ゆえにα7Rの画素ピッチは4.9μmと小さい(α7/α7 IIは6μm)ことから、マウントアダプターを介しての超広角レンズを使う場合は周辺まで光が届きづらくなり、周辺光量落ちもやや大きくなる。また小絞りによる回折現象も発生しやすくなるといわれている。α7 IIのように強力な手ブレ補正機能が内蔵されているわけでもないので、ブレのリスクが大きくなる。高画質の写真を製作するには撮影にあたっては十分に配慮せねばならないことは言うまでもなかろう。
ライカM(Typ240)では、ライブビュー撮影が可能であることと、専用のEVFが用意されているので、これらを応用すれば外付けの光学ファインダーを用意しなくても正確なフレーミングが可能になるわけだ。α7 IIと同様に通常の撮影ではライブビューやEVFではピント合わせに神経質になる必要はないと思う。距離目盛りをみて目測設定してもほとんど問題はない。
至近距離の絞り開放時など、被写界深度が浅くなる条件では、カメラ内の距離計を使って、EVFは構図を決めるファインダーとして徹して使用したほうが撮影速度は速いだろう。ただ、α7 IIよりも撮影距離が遠いので、やや撮影用途としては狭くなる。
作例
両機で撮影した実際の撮影画像をみてみると、色カブリは一切ないことが確認され、それだけではなく周辺光量や、コントラスト、解像力、階調再現性も旧型から改良が行われている印象をうけた。とくに超広角ながら画質の均質性に優れていることは特筆に値する。高画素のセンサーのポテンシャルを十分に引き出すことができるはずだ。
画像はII型までのややクラシカルなイメージとは少し異なった印象を受けたことも新鮮だった。絞りによる性能変化は小さく、開放から十分な実用性能を誇る。
α7R
α7Rに旧II型を装着して撮影してみると、大きく周辺光量が落ち込み、トンネルから撮影したのようになってしまった。III型は周辺光量低下はα7 IIよりは大きめに感じるものの問題のない再現性だ。
とはいえII型の周辺光量落ちも見方によっては非現実的な再現性で魅力がある。画像処理に長けた人なら色カブリの補正も考えてもいいだろうし、モノクロではよりダイナミックさを感じさせる再現になるはずであり。あわててII型を下取りに出したりせずにIII型との使い分けを考えてみても面白いかもしれない。
III型の高い解像力はα7Rのポテンシャルもストレートに引き出せる。もともと被写界深度が深いため極端に絞り込む必要もないが、絞り開放近くで近接撮影を行う場合などは、高画質を追求するためにもきちんとフォーカシングを行ったほうが明らかに結果はいい。超広角レンズを使用した緻密な風景写真などにこれから使われることだろう。
制作協力:株式会社コシナ