特別企画
世界で最も画角が広いフルサイズ用ミラーレスレンズ「LAOWA 9mm F5.6 W-Dreamer」を使ってみた
2020年9月29日 07:00
8月3日付のデジカメ Watchにて、とっても気になるニュースを目にした。株式会社サイトロンジャパンより、35mmフルサイズミラーレスカメラ用の交換レンズ「LAOWA 9mm F5.6 W-Dreamer」が発売されたというのである。焦点距離9mm! これは35mmフルサイズ用レンズのうち、魚眼レンズではなく通常の超広角レンズとしての焦点距離だ。
人の視角を遥かに超えた超広角レンズの画角において、もっか最も広い焦点距離9mmを実現した世界とはどんなものなのか? 超広角レンズ大好きの筆者としてはいてもたってもいられなくなってしまった。そんな折、運のいいことに当のレンズでソニーEマウント用を使わせていただける機会を得たので、ここぞとばかりに試してみた。
それはまさに想像を絶する世界だったことを、はじめに申し上げておきたい。
モノ好きがそそられるつくりの良さ
LAOWA(ラオワ)ブランドの「LAOWA 9mm F5.6 W-Dreamer」を設計・製造しているのは、中国の合肥市に拠点を置くVenus Optics(安徽長庚光学)だ。「新しいアイデアを組み込んだ面白いレンズを開発したい」という同社だけに、これまでに発売されたレンズも他では見られない個性派が揃っている。本レンズも、そのひとつに位置しているというわけだ。
そんなLAOWAのフルサイズ対応9mmレンズ、つくりの方はどうかといえば、これが至極上質で驚かされてしまう。
絞り値はレンズ側の絞りリングで設定するのであるが、回している時も、設定したいポジションでのクリック感も、極めて滑らかで上品なのだから操作をしてるこちらの気分がよくなるというもの。
もちろんピントリングを回す時(本レンズはマニュアルフォーカス専用)の滑らかさも非常によろしいものがあり、しかも、超広角では必須ともいえる被写界深度指標もしっかり刻印で表示されているという真面目さに感心する。
レンズ自体の外形寸法は62.4×66mmとなっているが、この数値はライカM用レンズの数値らしい。とはいえ、今回使用したソニーα7R IVとの組み合わせでも、程の良いサイズ感とバランス感を覚えることができたので、サイズや重量に対して不満を感じることはないだろう。小型軽量なミラーレスカメラにピッタリなレンズといえる。
超広角レンズらしく前玉が突き出したスタイルとなっているが、レンズのコーティングが特徴的に赤く輝き、その美しさが「撮る気」を否応なく盛り上げてくれるという嬉しい相乗効果がある。
この手のレンズとしては珍しくピント操作用のレバーがあることも特徴的。M型ライカ用のマウントも用意されているため、レンジファインダータイプのカメラでの使用を考慮したものかもしれないが、他のマウントで利用したとしても意外に使い勝手が良い。ちなみにピント合わせは全て手動で行うMF専用レンズである。
突き出した前玉の仕様から、通常型のレンズキャップでなく、かぶせ式のレンズキャップが標準装備されている。実際にこのレンズを使うユーザーに配慮した親切仕様だ。
圧倒的な超広角表現
焦点距離の差による画角の違いは、望遠になるほど小さいが、広角になるほど大きくなる。
もう少し分かりやすく言うと、焦点距離200mmと201mmの望遠レンズにはほとんど画角の違いがないが、焦点距離15mmと16mmの広角レンズの画角はかなり異なるということだ。
などと偉そうに言っている筆者にしても、9mmなどという超々広角レンズで写真を撮った経験などはないので、いったいどんな写真が撮れるのか想像もできないというのが正直なところである。
というわけで、東京アクアラインブリッジを被写体にして、他の画角と撮り比べてみた。
標準ズームレンズの広角端としてよくある24mmだとこんな感じ。
焦点距離12mmの別のレンズで撮影したのが上の写真。12mmでも相当広いレンズになる。
これが9mmでの撮影結果。24mm、12mmと比べると違いは歴然でとにかく広い。「近くのものは大きく、遠くのものは小さく写る」という広角レンズ特有の遠近効果がさらに出ている。海上へとつづく道が、水平線の遥か彼方へと消えていくかのようだ。
かつて24mmは超広角の入口などといわれていた。12mmもどちらかといえば特殊な焦点距離である。しかし9mmの画角を知ってしまった後では割と普通に感じてしまうから不思議だ。12mmと24mmが狭いわけでなく、十分に超広角レンズの範疇にある。「LAOWA 9mm F5.6 W-Dreamer」の9mmの方がさらに広いわけで、誤解のないように気を付けたい。
都市風景を独自の表現で
そんな途方もなく広い「LAOWA 9mm F5.6 W-Dreamer」を使って丸の内のビル群を撮ってみた。
「さすがにちょっとはみだしちゃうかな?」と思った高層ビルがあっさりと画面内に収まってしまったうえに、意識もしていなかった真横のビルまで飛び込んできたので再度驚いてしまった。強烈なパースペクティブ表現も実に印象的だ。
135度という画角を使えば、引きの取れない場所でも目の前の被写体を広い範囲にわたって写すことができるため、建築物などの空間写真で大いに活躍してくれるだろう。
感心したのは歪曲収差が素晴らしく良く補正されていること。ぐにゃりと曲がってしまうようなことがないため、直線で構成された建物を端正に写すことができた。特殊低分散ガラスを2枚使っているとのことで、広角レンズにありがちな倍率色収差もよく抑えられている。
被写体にグッと近づける面白さ
しかし、広い範囲を画面内に収めることができるということは、裏を返すと写したい主要被写体が小さくなってしまうということになる。特に「LAOWA 9mm F5.6 W-Dreamer」のような超々広角レンズではなおさらのことである。
そうなると重要になるのが最短撮影距離の短さ、つまり「いかに被写体に寄れるか」であるが、本レンズの最短撮影距離は12cmとこれまた驚くほど寄れるので安心だ。
というわけで最短撮影距離12cmで撮った花の作例が上の写真である。1cm程度の小さな花でも、近づいて撮ることで存在感を出すことができ、なおかつ周囲の被写体も同時に写し込むことができる。
グッと近づいて撮れる能力と、周囲を広く写し込める能力を使い、ローアングルで撮影してみたのが上の写真。花壇の前の小道を一緒に入れることで、小人か妖精が花の下から辺りを見渡しているかのようなイメージを作ることができたように思う。
この「小人目線」が面白かったのでもう一枚撮ってみた。画面内に溢れる情報をいかにコントロールするかがポイント。少しのカメラの位置変化で雰囲気がガラリと変わってしまうため構図作りの勉強にもなる。
さらに「小人目線」でネコをパシャリ。超々広角レンズの効果で道が広く見えるが、実際は自動車の通れないような狭い路地裏である。ネコとレンズの距離は10cmほど。思いがけず近づいてきた物体に「?」となったためか、視線をこちらに向けてくれたのがしめたところだった。この撮り方なかなかはまる。
とんでもない広さをカバーする
レンズの面白さに目覚めたところで、とある海の湾に場所を写した。
これほど広い画角のレンズでありながら取り回しが良いため、波打ち際ギリギリに迫った撮影も気楽にできて楽しい。比較的広い湾が苦もなく画面に収まり、水平線は水平線らしくまっすぐに写ってくれるので気持ちがよい。
海岸までやってきたのは、空を広く大きく写してみたかったから。流れる雲をタイムラプスで表現してみたら面白いのではないかという発想だ。
そうして作成したタイムラプス動画は、意外な雲の動きをみることができて、予想以上に面白いものとなった。生憎の曇り空で残念と思いきや、つぎつぎに湧き上がる雲や高速で消し飛んでゆく雲などは、画角の狭いレンズではまず表現できないものだ。
また、焦点距離9mmのフルサイズ用であることを考えればよく抑えられている周辺光量落ちを逆手にとった画作りをした(わざと目立ちやすくした)ことで、視線が中心に向かうような迫力がでたことも幸いしてくれた。
撮るほどに新しい発見がある奥の深いレンズである。
まとめ:驚きの画角で新しい表現を!
フルサイズ用の非魚眼レンズとして最広角を誇る本レンズは、ファインダーを覗くたびに、見たこともない驚きを与え続けてくれた。さすがは他にないアイデアいっぱいのレンズをつくり続けているLAOWAである。
面白いのは、普通の画角のレンズと違って、撮ってみるまでどんな写真になるのか想像できないところにあった。9mmの焦点距離がもたらす画角は、それほどまでに隔絶した世界なのである。
しかしそれは、これまでにない切り口で新しい表現ができるチャンスでもある。挑戦心を掻き立てながら臨めば、慣れ親しんだ何気ない景色の中に、新鮮な輝きを再発見することができるはずだ。