特別企画
スマホに合体するカメラユニット「Hasselblad True Zoom」を試す
光学10倍ズームの実力を検証
2016年12月1日 07:00
レノボ傘下のスマートフォンメーカーであるモトローラから発売されているSIMフリースマートフォン「Moto Z」は、独自の拡張機能である「Moto Mods」を採用している。スマートフォンにさまざまなアクセサリーを装着して機能を拡張できる仕組みで、その1つとしてHasselbladがカメラモジュール「True Zoom」を提供している。スマートフォンのカメラ機能は年々強化されているが、「Hasselblad」のブランドをひっさげて投入されたTrue Zoomの実力を検証してみた。
スマートフォンがコンパクトデジカメになる「True Zoom」
Moto Zは、最薄部で厚さ5.19mmという超薄型のスマートフォンで、携帯会社からではなく、モトローラから直接販売されており、NTTドコモやソフトバンクに加え、ドコモ系のネットワークを利用するMVNO各社のSIMを使うことができるSIMフリースマートフォンだ。9万円を超える価格はSIMフリースマートフォンとしては高額の部類に入るが、その分パフォーマンスは高く、快適に動作する。
Moto Zの背面にはかなり強力なマグネットが内蔵されており、Moto Modsが簡単に、ピッタリと装着できるようになっている。独自の金属端子「Moto Modsコネクター」もあり、これによってスマートフォンとMoto Modsを接続して使うことができるようになる。スピーカーやプロジェクターモジュールもあり、電力の供給とデータの送受信を直接行える。無線で接続するのではないので、安定して使える点もメリットだ。
なお、Moto Mods自体は姉妹機の「Moto Z Play」でも利用でき、こちらは6万円弱なので、True Zoom自体を試したい場合はこちらを選ぶのも手だろう。
さて、そのMoto Modsの1つである「True Zoom」は、Hasselbladが開発したデジタルカメラモジュールだ。実際の製造はモトローラだろうが、Hasselbladがデザインや画質の設計を担当したようだ。同社の75周年記念モデルとして「4116」(カメラ事業開始の1941年から2016年の意味)が刻まれた製品であり、Hasselbladとしても力を入れている製品だ。
デザインは最近のHasselbladらしいブラックとグレーのツートンカラーで、レンズの周囲のほぼ正方形のエリアがグレーとなっており、往年のHasselbladを連想するスクエアボディのイメージを演出している。全体としてはスマートフォンのサイズに合わせて横長のボディだが、カメラらしいデザインとなっており、正面から見るとカメラにしか見えないだろう。
がっちりとしたグリップもあり、カメラメーカーのHasselbladとして持ちやすさを考慮したデザインになっているという。実際、スマートフォンを構えるのとは比較にならないほど構えやすい。4116コレクションのアイコンとしてオレンジカラーとなったシャッターボタンもしっかりとしていて押しやすく、一体型のズームレバーも素早いズーミングが可能。
電源ボタンも装備しており、ボタンを押すとカメラが起動してレンズが繰り出すとともに、スマートフォン側の画面が点灯してカメラモードになる。スマートフォンをロックしていても、カメラの起動は端末のロックをバイパスするので、いちいちロック解除する必要はない。
あとはスマートフォンの画面をファインダーとして撮影すればいい。全面タッチ操作ということを除けば、操作性はデジタルカメラと同様で、スマートフォンというよりもコンパクトデジタルカメラで撮影している気分になれる。
難点としては、撮影画像を確認するにはスマートフォン側のロックを解除しなければならない。iOSのように撮影直後の画像だけはそのまま確認できれば良かったが、撮影直後の画像確認にもロック解除が必要になる。ただ、指紋センサーを搭載していて、指を軽くタッチすればすぐにロックが解除されるので、それほど大変でもない。指紋センサーは是非活用するといい。
高倍率ズームのコンパクトデジタルカメラ
True Zoomのカメラとしてのスペックは、撮像素子に1/2.3型有効1,200万画素の裏面照射型CMOSセンサーを採用。レンズの焦点距離は35mm判換算25-250mm相当の光学10倍ズームで、F値はF3.5-6.5。光学式手ブレ補正も内蔵する。スペックとしては、いたって普通の高倍率ズーム搭載のコンパクトデジタルカメラである。しかし、これがスマートフォンと連携するというのが新しい。
イメージセンサーやレンズはTrue Zoom側に搭載されるが、カメラの制御や画像処理はスマートフォン側が担当。光学設計や絵作りはHasselbladが監修したとのことで、撮影モードにもHasselbladの「H」ロゴが使われている。
撮影モードは、オートモードの「写真」、「プロフェッショナルモード」、「パノラマ」、「動画」の4種類で、写真モードでは「H」アイコンをタッチすることでカラー(JPEG)、モノクロ(JPEG)、カラー(RAW+JPEG)の選択が可能。さらにシーンモードとしてオート、スポーツ、夜間の人物写真、逆光の人物写真、夜景、横向き(ランドスケープ=風景?)が用意されている。
プロフェッショナルモードでは、合焦範囲、ホワイトバランス、シャッタースピード、ISO感度、露出補正を調整できる。シャッタースピードは4~1/2,000秒、ISO感度はISO100~ISO3200、といった設定が可能。ダイヤル風のUIをタッチパネルで操作するため、ややまどろっこしい感じもあって、頻繁に切り替えるのは少し面倒。
カメラとしての全体的な動作レスポンスは、ほかのスマートフォンカメラとそれほど違いはない。1/2.3型クラスのコンパクトデジタルカメラと比べてもそれほど遜色ないだろう。
最近は、スマートフォンのカメラでも1/2.3型で1,200万画素というレベルはいたって普通だが、光学10倍ズームとなるとそうはいかない。光学式手ブレ補正も優秀で、慎重に撮影すればワイド端なら1/3秒程度、テレ端で1/30秒ぐらいでも高いヒット率だった。
画質に関しては、センサーサイズの小ささもあり、ざらつきのあるいわゆる「コンパクトデジタルカメラ」という印象。ほかのスマートフォンカメラのようにシャープネスの強い見栄えのする画質ではないが、素直な写りをする。スマートフォンカメラと同程度という印象ではあるが、iPhone 7 Plusの2倍程度とは比較にならない、10倍という光学ズーム倍率は得がたい特徴だ。
True ZoomではJPEGに加えてRAW(DNG)での同時記録にも対応しており、両者を比べてみると、RAW画像の方が4,000×3,000の画像なのに対し、JPEGはわずかにカットされており、RAWデータでは四隅にケラレが発生していることが影響しているのかもしれない。JPEGへの画像処理はHasselblad監修とあってか、色は鮮やかに、ノイズも抑えた画質になっている。
継続的なサポートを期待したい製品
スマートフォンと直結しているTrue Zoomのメリットは、安定してスマートフォンに撮影画像が保存され、そのまますぐにSNSなど、インターネット経由で画像を送信できる点だ。デジタルカメラの無線LAN機能でスマートフォンに転送することもできるが、安定性に劣るし、バッテリーの消費も激しい。
その点、Moto Modsの仕組みであればスマートフォンに画像が直接保存されるので、そのまますぐに画像を再利用できる。Lightroom Mobileなどのアプリを使って補正を行ったり、Instagramに投稿したり、10倍ズームを生かしたライブ速報といった使い方も可能だ。
スマートフォン的には、SIMロックフリー端末として、国内ではまだ珍しい「DSDS」(デュアルSIM・デュアルスタンバイ)に対応しており、SIMを2枚挿して使い分けることができるのも便利な点。大手キャリアの通話用のSIMと、MVNOのデータ用のSIMを使い分けるといった使い方ができる。
カメラとして機能自体は控えめだし、スマートフォンと変わらないサイズのセンサーで、画質の差はそれほど大きいとはいえない。ただ、光学10倍ズームという特徴に加え、逆光耐性をはじめ、スマートフォンのレンズに比べて余裕のある設計による粘りが感じられ、数値的なスペックだけでは分からない部分にも強みはある。
スマートフォンで高倍率ズームの製品は、以前サムスンがGalaxy Cameraとして提供していたが、あちらはデジタルカメラのOSがAndroidになった製品で、スマートフォンとしては使いづらかった。
True Zoomは、取り外せばMoto Z単体として非常に薄型の一般的なスマートフォンになる。普段はスマートフォンとして使い、カメラを取り出す代わりにTrue Zoomを取り出して装着して撮影する、という使い方もいいだろう。カメラとしては薄く、軽量なので、持ち運びも容易だ。
また、カメラとスマートフォンが分離するメリットもある。モトローラが今後Moto Mods対応スマートフォンを継続的に開発すれば、スマートフォンを買い換えてもTrue Zoomは継続して使える。昨今は、カメラよりもスマートフォンの進化が早く、OSのバージョンアップをしようとしてもスペックが足りないといったこともあるし、バージョンアップが配信されないスマートフォンもある。Galaxy CameraやパナソニックのLUMIX DMC-CM1辺りも同様の問題を抱えていたと言えるだろう。
これに対して、Moto Modsの仕組みであれば、スマートフォンを新しくしても、True Zoom自体は継続して使え、スマートフォン側の性能が向上すれば、カメラとしての使い勝手も向上するというメリットもある。この辺りは、iPhoneに接続して使うDxO ONEと同じ考え方だろう。
True ZoomもDxO ONEも、それぞれのスマートフォン側のオリジナル端子がいつまで継続して提供されるか、という点が製品寿命に繋がっている。製品のソフトウェアバージョンを見ると「0.74」となっており、今後継続的なアップデートも期待したいところ。
Moto Modsという新しいアイデアと、Hasselbladの75周年記念モデルという位置づけも含めて、興味深い製品だし、常に持ち歩きたくなる製品に仕上がっている。