写真家が監修したフォトグラファー向けPCが登場!

あの「礒村PC」でRAW現像を体験!「礒村浩一先生のスナップ撮影ゼミ」レポート

浅草スナップ撮影とPC講座の2部構成 最新モデルの実力とは?

撮影ゼミの講師を務めた礒村浩一さん。このとき使ったPCはeX.computre 写真編集PCのうち、2代目となる最新のマスターズモデルだ。

9月11日、写真SNS「GANREF」による写真撮影ゼミ「礒村浩一先生のスナップ撮影ゼミ Featuring eX.computer」が開催された。

弊誌でもおなじみの写真家、礒村浩一さんによる指導のもと、街の風景を撮り歩く主旨の撮影ゼミ。街中のスナップ撮影と、RAW現像講座の2部構成で、当日はツクモの一般公募とGANREF会員から合計10名が参加していた。

このうち後半のRAW現像講座については、ツクモ各店で販売中の写真編集PCを使用。写真編集モデルは礒村さんのほか、同じく写真家の桃井一至さん、若子jetさんが監修を担当したモデルも扱っており、大量の画像を扱うRAW現像を十分にこなす性能と、コストパフォーマンスを両立させたモデルを用意している。

当日はRAW現像のコツだけでなく、写真編集向けPCの性能も体験できた。

ツクモが販売している、写真家監修の写真編集PC。撮影ゼミ後半のセミナーで性能を試すことができた
礒村さんの指導のもと、浅草界隈を撮り歩いた

あえて縛りを設けた撮影実習

撮影ゼミ第1部の開催地は浅草。撮影エリアは雷門から浅草寺にいたる仲見世通り、浅草寺本堂、花やしき周辺。あいにくの空模様であったが、参加者はいずれも自前のカメラを持参し、礒村さんの指導に聞き入っていた。機種の比率はミラーレスカメラとデジタル一眼レフカメラが半々といったところ。本撮影ゼミの後半ではRAW現像を行なうため、礒村さんからは画像記録の設定をRAW+JPEGにするよう指示が出ている。

礒村さんのスナップ指導で特徴的なのは、撮影する際に「縛り」を入れることだ。例えば「28mm相当だけ」、「広角端、望遠端だけ」といった具合に、あえて便利なズームを使わず、足を使って構図を作るやり方を勧めている。

朝9時に集まった参加者とスタッフ
撮り歩きを始める前にスタッフから注意事項の説明が行われた

礒村さんによれば、この指導法には、撮影ゼミ参加者の柔軟性を引き出す意図があるという。

「普段やらない撮り方を引き出し、成長するために、まずは手癖で撮れなくする。撮り方に縛りのある中で、どう撮るかを考えることが重要です。自分の中にあるかもしれない、新たな視点を引き出すためには、得意な撮り方ばかりではなく、制約が必要なのです」(礒村さん)

この日は朝9時から正午までの3時間を2度区切り、3つに分けて指導を行なった。スタートから最初の区切りまでは自由撮影を行ない、1度目の区切りでは「50mm相当で撮ること」、2度目の区切りでは「地上1m以内の高さ限定で撮ること」をそれぞれ設定している。礒村さんは時間ごとに集合場所を設定しており、区切りごとに設けられた休憩時間には、参加者が撮った写真の添削を行なっていた。

時間を区切って場所を移しつつ、縛り撮影に臨む

「50mmは写真を勉強するには良い画角です。50mmを極めれば、広角も望遠も撮れるようになりますよ」(礒村さん)

「写真は自由に撮ることができますが、同時に『みんなに見てもらうもの』でもあります。単に自由に撮るだけではなくて、テーマを持って撮影に取り組んでください」(礒村さん)

撮影の合間を縫って、参加者の1人に"縛り撮影"の感想を聞いてみたところ、「慣れていない撮り方をするので少し疲れますが、確かにいつもとは違う写真が撮れて、刺激になります。普段使っていない筋肉を使っている感じ」とのコメントが得られた。

大勢の観光客で賑わう浅草寺本堂前
制約のある中で、それぞれ工夫を凝らして撮影に臨んでいた
撮影の合間、礒村さんからのアドバイスも受けられた

大量の画像から絞り込むコツ

昼休憩を挟んで14時からは、新橋にあるツクモデジタル.ライフ館にあるセミナールームで、RAW現像の基礎を伝授するセミナーを実施した。

主な内容は、初めて現像をするときに知っておくべき内容を伝えるもの。具体的には、この日撮った写真の選定と、人物や風景などの主題ごとに使える現像パラメータの調整方法を解説した。

新橋にあるツクモデジタル.ライフ館
RAW現像セミナー会場となった店内のイベントスペース

今回のRAW現像セミナーでは、セレクトでAdobe Bridge(以下Bridge)、現像ではPhotoshopのCamera Rawを使用していた。

礒村さんによれば、Bridgeを使ったセレクトのポイントは「大量のRAWデータの中から現像したいデータを選びやすい環境づくりをすること」だという。セミナーでは、UIの配置を変更し、プレビューとメタデータを確認しながら選ぶ方法を推奨していた。

選択した写真の中からさらに枚数を絞り込む方法のひとつとしては、カラーラベルを使う方法を紹介している。カラーラベルは、選択した写真に赤や黄色などのマークをつけて、一覧表示したときに目立たせる機能。BridgeやLightroomなどの画像管理・現像ソフトに標準で搭載されている。

セミナーでは、めぼしい写真にカラーラベルをつけておき、選んだ写真に対してさらに別の色のラベルをつけて、必要な枚数まで絞り込む方法を実践。礒村さんは、参加者が午前中に数百枚撮影した写真を、3枚まで絞り込むよう指示していた。

カラーラベルをつけてめぼしい写真を絞り込む
別の色のラベルを使って、さらに数を絞り込んでいく
この日撮った大量の写真の中から写真を選ぶ参加者たち
礒村さんのアドバイスを熱心にメモする参加者

風景は彩度調整が重要

選んだRAWデータの現像方法については、スナップ撮影で多い風景とポートレートの調整方法をメインに指導を行なった。

礒村さんが現像方法を指導した際に操作したパラメータは「ホワイトバランス」、「露光量」、「コントラスト」、「ハイライト」、「シャドウ」、「白レベル」、「黒レベル」、「自然な彩度」。Camera RawやLightroomにはこのほかにも数多くの調整項目が存在するが、今回は初級者向けということで、トーンカーブやカメラキャリブレーションなどの説明は最低限にとどめていた。

風景の調整では、彩度と明るさの操作を重要視している。画像の発色は明るくなれば薄くなるし、暗くなれば濃くなる。調整の仕方によっては、被写体が本来持っていた色とは全く異なる印象になってしまうため、特に彩度の調整は、慎重に行なうよう指導していた。

「調整の方向性は、いわゆる『記憶色』を重視します。撮影した時の感覚を思い起こしながら、その場の雰囲気を再現するように心がけてみてください」(礒村さん)

極端に彩度を上げて効果を説明しているところ

逆に、写真の色味を"作り込む"楽しみもある。その手段のひとつとしてはHSL調整が挙げられるだろう。

色味の調整について礒村さんが説明している際、参加者からHSL調整の使い所についての質問があった。礒村さんはこれに対して「色に含まれる原色の成分や、配分を変える項目」と説明している。

HSL調整には「色相」、「彩度」、「輝度」の項目があり、それぞれレッドからマゼンタまで8つのスライダーが存在する。このスライダーを個々に調整することで、写真の色に含まれる色成分、あるいは色の明るさを増減できる機能だ。

色相は画像の中の色成分を操作する調整項目

用途としては、例えばリンゴを持った人物の写真であれば、リンゴに含まれる赤色だけを強調して、人物や背景だけをグレースケールにする、といった演出ができる。また、特定の色成分や明るさを調整できることから、PLフィルターをかけたような効果を作り込むことも可能だ。

"自分なりの基準"を作ること

ポートレートについては、「シチュエーションのイメージを壊さない」色調整を心がけるように指導した。ここで重要な項目はホワイトバランス、シャドウ、ハイライト、白レベル、黒レベルだという。

ここでも、実際の色味の再現を目指すというよりは、写真のイメージに合った調整を勧めている。調整の方向性は「人の肌色を出しつつ、写真が持つイメージに合った調整を施す」こと。礒村さんが一例として実演した操作では、ホワイトバランスを暖色系にして肌の血色を調整したほか、顔のシャドー部分を持ち上げたり、必要に応じてスポット修整も行なっていた。

ホワイトバランスを調整して、顔の血色を調整している
雰囲気を崩さず、シチュエーションに合った調整を行なうのが重要

「スポット修整の初歩は"やりすぎない"ことです。特に人の顔は特徴があるので、あまりいじりすぎてしまうと別人になってしまいます」(礒村さん)

「RAW現像で大事なことは、調整に自分なりの基準を作ることです。例えば僕の場合は、カメラが出力するJPEGよりも少しだけ彩度を落とすことを心がけています。これはカメラメーカーの設定だと、彩度が強めに感じられるから。長く続けていけば、必ず自分なりの基準が固まってくると思いますので、今後ご自分でRAW現像を行なう際には、是非意識してやってみてください」(礒村さん)

また礒村さんはセミナーの最後に、写真作品づくりに際しての心がけについても言及。「自分の作品としての写真に正解はありません。やってはいけないこともないので、良いと思ったものを追求してほしい」と結んだ。

現像方法を参加者に指導する礒村さん

書き出し速度の遅さは古いパーツがネック

本撮影ゼミは、撮り方やRAW現像を学ぶことのほかに、写真編集向けPCの実力を体感することも趣旨の一つだ。RAW現像セミナーの後半、礒村さんは、RAW現像の速度を体感する目的で、この日撮った写真を一度に書き出すタイミングを設けた。

書き出しにかかる時間は、CPUやストレージの実力を図る意味でベンチマークになる。参加者の多くはすでに自宅のPCでRAW現像を経験したことがあるとのことだったので、体感レベルでの速度の違いを比較した。

一通り書き出しが終わった後、写真編集PCの評価について参加者に挙手を求めたところ、自宅のPCと比べて処理の終了が速かったと感じた参加者が過半数だった。

画像書き出し中の画面。大量のファイルの書き出しは最も待ち時間のかかる作業。カメラの画素数が上がればそのまま速度に反映される。

参加者からの声

今回の撮影ゼミ参加者の1人に、参加してみての感想を聞いてみた。

――カメラ歴を教えてください。

フィルムカメラの頃から数えて20年くらいになります。デジタルカメラも始めてからはそろそろ10年くらいですが、デジタル一眼レフを使い始めたのはここ数年です。

――撮影ゼミに参加した動機は何でしょうか。

RAW現像というものをほとんどやったことがなかったので、勉強したいなと思って参加しました。特に今回は撮影とRAW現像のレクチャーも受けられるということで、お得感もありましたし。RAW現像のセミナーは、もしものすごく難解だったら大変だなあと思っていたのですが、礒村先生のお話も分かりやすかったし、面白かったので、今後も継続してやっていけたらと思っています。

――今回の撮影ゼミで、よかったところ、印象に残ったところはどこでしょうか。

前半で"縛り撮影"を経験できたことはすごく良かったなと思います。所有してはいるものの、普段は使わない交換レンズを積極的に使う良い機会になりました。なんだか、新しい視点を得られたような気がします。撮影実習のときは、途中で写真を見てもらって、アドバイスをいただけたのも新鮮な経験でした。

――後半で試用したBTOモデルについて、ご自宅で使われてる製品と比べて実感できる違いはありましたか。

家のPCと比べてストレージが速いので、画像の切り替えやパラメータ変更の反映が速くて、思っていたよりもずっと操作のストレスが低いので楽しいですね。

RAW現像を快適にこなすPCとは?

レタッチやRAW現像作業時の快適さは、操作に対するレスポンスなど"動作速度"によるところが大きい。スペックが不足しているPCでのRAW現像作業は、ひとつひとつの挙動に時間がかかり、さしづめ水中で手足を動かすかのようなもどかしさを伴う。またメモリ不足などでふいにアプリケーションが落ちることもあり、想像以上にストレスフルである。

現像作業を快適にこなすうえで一定以上の性能を必要とする主なPCパーツは、CPU、メモリ、ストレージだ。

CPUは現像や各種画像処理のプロセッシング速度や立ち上げ速度、メモリは撮影画像のセレクトや現像パラメータ変更後の参照/比較時の速度、ストレージは保存枚数やJPEG書き出し時の速度に影響する。

このほか、動画編集やPCゲームなど、PC1台で多くの用途に対応させようと考えた場合、ビデオカードやCPUのグレードアップも視野に入れる必要がある。また、プリントに挑戦したい場合や、業務用途などで人に見せる写真を用意する必要がある場合は、正確な色を確認しながら調整するために、カラーキャリブレーションに対応したディスプレイもほしいところ。

ツクモの写真編集モデルは、RAW現像が快適にできるスペックをツクモと写真家が監修し、比較的手頃な価格で販売しているBTO PCである。

今回のような主旨で行なう次回の撮影ゼミ開催はまだ未定であるが、もし次のチャンスがあるようであれば、是非参加をご検討いただきたい。

関根慎一