オールドデジカメの凱旋

キヤノンIXY DIGITAL(2000年発売)

「ボックス&サークル」デザインを懐かしむ

発売時には買わなかった(買えなかった)カメラ。また、以前は所有していたが手放してしまったカメラ……。それを中古店で見つけて、思わず買ってしまった。そんな経験のある人も少なくないだろう。

自分の場合は2000年5月に発売された「キヤノンIXY DIGITAL」が、そんなカメラである。このIXY DIGITALの中古品を購入したのは2003年11月のこと。ちょうど3月に発売された400万画素機の「IXY DIGITAL 400」などを使用していたが、発売時に強烈なインパクトを与えた初代IXY DIGITALに懐かしさを覚え、つい買ってしまった。元箱・備品完備で、当時の中古購入価格は1万2,000円ぐらいだった。

ステンレス合金製でコンパクト設計ボディの「キヤノンIXY DIGITAL」。APSカメラのIXYシリーズから継承するボックス&サークルデザインは、今見ても完成度が高くて感心させられる。縦位置を基準にした文字配置もシブイ!

元々「IXY」と名の付くカメラは、1996年5月に発売されたAPSフィルムカメラから始まった。APSとはAdvanced Photo Systemの略で、当時の新規格。IXYは直線的な箱型ボディにレンズ周辺を円で縁取った「ボックス&サークル」デザインを特徴とし、ボディ外装にはステンレス合金を採用していた。

パーツ類の細部や、プリントされている文字などにも、デザインセンスの良さが感じられる。

今回取り上げる2000年5月発売のキヤノンIXY DIGITALも、そのIXYの名前とコンセプトを継承したコンパクトデジタルカメラである。35mm判換算35-70mm相当の光学2倍ズームレンズは、沈胴時に1円玉サイズ(直径20mm)に収まるコンパクトな光学設計とした。撮像素子は1/2.7型・有効約202万画素のCCDセンサー。

背面には1.5型の液晶ディスプレイを搭載。実際に撮れる画像と差が生じないため、正確な構図やフレーミングが可能になる。……まあ、今なら特筆すべき点ではないが、2000年あたりは“デジタルカメラ黎明期”を抜けきっていない頃。自分自身も、その少し前までAPSフィルムカメラの「IXY310」などを使っていたから、デジタルカメラの視野率100%モニターには感動を覚えたねぇ。

記録メディアはCFカード。ただし、同梱の8MBのカードだと「ファイン/ラージ」設定で約12枚しか撮影できない。この64MBのカードなら、同じ画質設定で「108枚」の撮影可能枚数が表示される。それにしても、「GB」じゃなくて「MB」ですか。時代ですのぉ~。
撮影可能枚数は液晶モニターオンで約85枚、モニターオフで約270枚。
付属のバッテリーチャージャーはIXY DIGITAL本体よりもデカい!

"最初"のIXY DIGITALの思い出……

冒頭で「発売時に強烈なインパクトを与えた初代IXY DIGITALに懐かしさを覚え、つい買ってしまった」と述べたが、今回紹介している2003年11月に購入した中古品は2台目。実は、2000年5月の発売時にも本機を購入しているのだ。

その2カ月前、自分は初めてのデジタルカメラとして「キヤノンPowerShot S10」を購入しているが、そのPowerShot S10と同じ“光学2倍ズーム搭載の200万画素機”でありながら、圧倒的にコンパクトでスタイリッシュなボディのIXY DIGITALを買わずにはいられなかったのである。

発売直後のIXY DIGITALを買ったときには、いろんな所に出かけて撮影した。なかでも印象深いのが、その年の10月に訪れた下北半島の旅だ。翌年の春に廃止される「下北交通大畑線」に乗車するのが主要目的だったが、それ以外にも、尻屋埼灯台の近くでのんびり過ごしたり、恐山霊場の荒涼とした雰囲気を満喫したり……と、下北半島の魅力を堪能した。この旅のメインカメラはフィルム一眼レフ「ペンタックスLX」だったが、旅の記録やスナップにはIXY DIGITALを使用した。

大畑線の乗車券(硬券)。コンパクトデジカメは、こういった小物の撮影に便利だなぁ~と、旅先でIXY DIGITALを使いながら実感した(2000年10月8日撮影)。
下北交通大畑線の終点、大畑駅のホームにて(2000年10月8日撮影)。
尻屋埼灯台の近くのラーメン屋で出会った子犬。その後、しばらく一緒に過ごした(2000年10月9日撮影)。

そんな想い出のある1台目IXY DIGITALだったが、翌年に後継モデルの「IXY DIGITAL 200」を購入した関係で、その年の暮れに友人に譲渡した。なお、後に聞いた話では、その1台目IXY DIGITALは、多摩川で遊んでいる際に水没紛失してしまった、とのこと……。合掌。

液晶モニターの色再現は、かなり青みが強い。そのため、昔はホワイトバランスを「くもり」に設定して使うことが多かった。
撮影モード、露出補正、ホワイトバランス。これらの撮影機能は、MENUボタンを押すたびに切り換わる(表示される)。そして、ホワイトバランスの次に表示されるのが「設定」。ここで左右の矢印ボタンを押すと、画質やデジタルズーム、各種のセットアップ項目が表示される。
再生画像の拡大倍率は一定で、左右の矢印ボタンで拡大部分を移動(ローテーション)させる。
光学2倍ズームの広角端と望遠端の画角。どちらも十分とは言えない画角だが、自然な描写が得られる使いやすいズーム域ではある。広角端(35mm相当)
こちらは望遠端(70mm相当)
マクロ時の最短撮影距離は、広角端で10cm(レンズ先端から)。少し大きめの花なら、割と大きめに写せるマクロ能力。

この2000年5月発売のIXY DIGITAL以降、IXY DIGITAL 200、IXY DIGITAL 200a、IXY DIGITAL 320……と、初代の基本コンセプトを継承するモデルが発売された。2003年3月の「IXY DIGITAL 400」以降は光学3倍ズームがIXY DIGITALシリーズの主流になり、ボディのデザインや仕上げも多少変わっていった。

そして、2005年3月の「IXY DIGITAL 600」では、連続した曲面で全体を構成する「カーバチャーデザイン」(Curvature Design)という手法を採用。このデザインは“手に馴染みやすく滑らかなフォルムを実現”という触れ込みだったが、手に馴染みやすいかどうかは個人的には疑問だった。このタイプのモデルは、グリップ部が滑らかにスリムになっていくから、右手でホールドした際に何だか不安になるんだよねぇ……。

IXY DIGITAL 600の後継モデル「IXY DIGITAL 700」。従来モデルと同様、カーバチャーデザイン(Curvature Design)」を採用。液晶モニターが2.0型から2.5型に大型化。2005年9月発売。後継機の登場、早過ぎ!

改めて手にしたIXY DIGITALには、今見ても新鮮なデザインセンスや外装仕上げの良さがあった。少し大げさに言えば“感動的”である。写真を撮る道具としてだけでなく、所有して満足感が得られる上質なガジェット。そんな雰囲気があるカメラなのだ。

発売時の価格は7万4,800円。当時としては一般的な価格帯のコンパクトデジカメだったのに、現在の高級コンパクトデジカメに匹敵するどころか、それ以上にも見える“作り手のこだわり”を、このキヤノンIXY DIGITALには感じるのである。

直線的なIXY DIGITALボディは、クレジットカード並のコンパクトサイズである。それゆえに、26.9mmの奥行きにはやや厚みを感じる。そのぶん、右手でホールドした際の安定感は高い。
IXY DIGITA専用のソフトケース。いつ買ったかは不明だが、すでにボロボロ状態。
質量は約190g(本体のみ)。だが、ステンレス合金製のコンパクトボディは、実際に手にすると“心地良い重み”を感じる。

吉森信哉

1962年広島県庄原市出身。東京写真専門学校を卒業後、フリー。1990年からカメラ誌を中心に撮影&執筆を開始。得意ジャンルは花や旅。ライフワークは奈良・大和路の風景など。公益社団法人 日本写真家協会(JPS)会員。カメラグランプリ2018選考委員。