オールドデジカメの凱旋
キヤノンIXY DIGITAL(2000年発売)
「ボックス&サークル」デザインを懐かしむ
2018年7月5日 17:00
発売時には買わなかった(買えなかった)カメラ。また、以前は所有していたが手放してしまったカメラ……。それを中古店で見つけて、思わず買ってしまった。そんな経験のある人も少なくないだろう。
自分の場合は2000年5月に発売された「キヤノンIXY DIGITAL」が、そんなカメラである。このIXY DIGITALの中古品を購入したのは2003年11月のこと。ちょうど3月に発売された400万画素機の「IXY DIGITAL 400」などを使用していたが、発売時に強烈なインパクトを与えた初代IXY DIGITALに懐かしさを覚え、つい買ってしまった。元箱・備品完備で、当時の中古購入価格は1万2,000円ぐらいだった。
元々「IXY」と名の付くカメラは、1996年5月に発売されたAPSフィルムカメラから始まった。APSとはAdvanced Photo Systemの略で、当時の新規格。IXYは直線的な箱型ボディにレンズ周辺を円で縁取った「ボックス&サークル」デザインを特徴とし、ボディ外装にはステンレス合金を採用していた。
今回取り上げる2000年5月発売のキヤノンIXY DIGITALも、そのIXYの名前とコンセプトを継承したコンパクトデジタルカメラである。35mm判換算35-70mm相当の光学2倍ズームレンズは、沈胴時に1円玉サイズ(直径20mm)に収まるコンパクトな光学設計とした。撮像素子は1/2.7型・有効約202万画素のCCDセンサー。
背面には1.5型の液晶ディスプレイを搭載。実際に撮れる画像と差が生じないため、正確な構図やフレーミングが可能になる。……まあ、今なら特筆すべき点ではないが、2000年あたりは“デジタルカメラ黎明期”を抜けきっていない頃。自分自身も、その少し前までAPSフィルムカメラの「IXY310」などを使っていたから、デジタルカメラの視野率100%モニターには感動を覚えたねぇ。
"最初"のIXY DIGITALの思い出……
冒頭で「発売時に強烈なインパクトを与えた初代IXY DIGITALに懐かしさを覚え、つい買ってしまった」と述べたが、今回紹介している2003年11月に購入した中古品は2台目。実は、2000年5月の発売時にも本機を購入しているのだ。
その2カ月前、自分は初めてのデジタルカメラとして「キヤノンPowerShot S10」を購入しているが、そのPowerShot S10と同じ“光学2倍ズーム搭載の200万画素機”でありながら、圧倒的にコンパクトでスタイリッシュなボディのIXY DIGITALを買わずにはいられなかったのである。
発売直後のIXY DIGITALを買ったときには、いろんな所に出かけて撮影した。なかでも印象深いのが、その年の10月に訪れた下北半島の旅だ。翌年の春に廃止される「下北交通大畑線」に乗車するのが主要目的だったが、それ以外にも、尻屋埼灯台の近くでのんびり過ごしたり、恐山霊場の荒涼とした雰囲気を満喫したり……と、下北半島の魅力を堪能した。この旅のメインカメラはフィルム一眼レフ「ペンタックスLX」だったが、旅の記録やスナップにはIXY DIGITALを使用した。
そんな想い出のある1台目IXY DIGITALだったが、翌年に後継モデルの「IXY DIGITAL 200」を購入した関係で、その年の暮れに友人に譲渡した。なお、後に聞いた話では、その1台目IXY DIGITALは、多摩川で遊んでいる際に水没紛失してしまった、とのこと……。合掌。
この2000年5月発売のIXY DIGITAL以降、IXY DIGITAL 200、IXY DIGITAL 200a、IXY DIGITAL 320……と、初代の基本コンセプトを継承するモデルが発売された。2003年3月の「IXY DIGITAL 400」以降は光学3倍ズームがIXY DIGITALシリーズの主流になり、ボディのデザインや仕上げも多少変わっていった。
そして、2005年3月の「IXY DIGITAL 600」では、連続した曲面で全体を構成する「カーバチャーデザイン」(Curvature Design)という手法を採用。このデザインは“手に馴染みやすく滑らかなフォルムを実現”という触れ込みだったが、手に馴染みやすいかどうかは個人的には疑問だった。このタイプのモデルは、グリップ部が滑らかにスリムになっていくから、右手でホールドした際に何だか不安になるんだよねぇ……。
改めて手にしたIXY DIGITALには、今見ても新鮮なデザインセンスや外装仕上げの良さがあった。少し大げさに言えば“感動的”である。写真を撮る道具としてだけでなく、所有して満足感が得られる上質なガジェット。そんな雰囲気があるカメラなのだ。
発売時の価格は7万4,800円。当時としては一般的な価格帯のコンパクトデジカメだったのに、現在の高級コンパクトデジカメに匹敵するどころか、それ以上にも見える“作り手のこだわり”を、このキヤノンIXY DIGITALには感じるのである。