オールドデジカメの凱旋
ニコンCOOLPIX 950
いまだ色褪せない、斬新かつ風格あるデザイン
2017年5月17日 07:00
自分は仕事柄、定期的に中古カメラ売り場をチェックしている(まあ、趣味も兼ねるが)。だけど、ここ数年は「面白そうな古めのコンデジをあまり見ないナァ」と感じる事が多くなった。う~ん、5年くらい前までは、気合いの入った個性的なコンパクトデジタルカメラ(2000年代前半に発売)をちょくちょく見かけたんだけどねぇ……。
だけど、中古商品とは不思議なモノで、意識して探している時には目ぼしいカメラが見つからず、意識せずに訪れた時に偶然見つけたりする。今回紹介する「ニコンCOOLPIX 950」も、秋葉原で往年のBCLラジオ(ソニーのスカイセンサーとか、ナショナルのクーガーとか)の中古品を物色していた際に見つけたモノである。
1999年、当時の"高性能"とは
ニコンCOOLPIX 950は、光学3倍ズームと約200万画素の撮像センサーを搭載する高性能デジタルカメラである。「はぁ? 2,000万画素じゃなくて200万画素!?」と拍子抜けする人もいるだろうが、COOLPIX 950が発売された1999年当時だと、200万画素という数値は“かなりの画素数”という印象だった。そう、今の感覚だと2,000万画素以上のインパクトかもしれない。
発売時の価格は12万5,000円と結構高価だったが、今回の商品は本体のみ(元箱や備品一切ナシ)で1,000円という、これまた拍子抜けする価格(笑)。……ということで、ちゃんと作動するかどうかだけ確認して、あまり深く考えずに購入した。発売当時、魅力は感じていたが価格の関係で購入に至らなかったCOOLPIX 950。そのカメラが昼の定食代くらいの出費で買えたのは何だかラッキー!
COOLPIX 950が発売されたのは、まだ21世紀を迎えていない1999年3月。「メガピクセル機」と称される100万画素超のコンパクトデジタルカメラの台頭により、デジタルカメラに対する注目や期待が高まっていた頃である。この頃のデジタル一眼レフカメラは非常に高価な製品ばかりで、多くのカメラユーザーにとっては“高嶺の花”であり、“特殊な機材”という存在。だから、デジタル一眼レフカメラと比較して比較的安価なコンパクトデジタルカメラに注目が集まっていた。
そんな中、銀塩一眼レフカメラのニコンF5やF100を彷彿とさせるマグネシウム合金製の外装やグリップ周りのデザインを採用するCOOLPIX 950が登場! その高級感や描写性能と同時に、銀塩カメラとは違う“斬新な機構”にも魅了された。代表的なのが、レンズ部分が回転する「スイバル機構」である。この機構の採用により、いろんなポジションやアングルでの撮影が快適におこなえ、レンズ部分が出っ張らないため携帯性の面でも有利になる。
スイバル機構は従来モデルのCOOLPIX 900や910にも採用されていたが、Fシリーズばりのマグネシウム合金製外装やデザインによって、900や910とは違う“風格”が感じられる。その佇まいに、自分を含め多くのニコンユーザーやファンは魅了されたものだ。
改めてCOOLPIX 950を手にして感じるのは「全体的に大柄で厚みのあるボディだな」という事。そして「歴代のCOOLPIXスイバル機で最も完成度の高いデザインだわ」という事である。実は、自分は2000年の秋に、後継モデルのCOOLPIX 990(300万画素・2000年4月発売)を購入したのだが、COOLPIX 950のデザインと比べると、やっぱグリップ部のラインの色は紫じゃなくて赤だろう! コマンドダイヤルが前から後ろに移動したのもデザイン的には弱いよなぁ……といった感想で、その印象は、当時も今も変わらない。また、次の後継モデルのCOOLPIX 995(300万画素機・2001年6月発売)に至っては、内蔵フラッシュを固定式からポップアップ式に変更した関係で“ずんぐりむっくり”なデザインに感じられてしまった(もちろん、個人の好みですが)。
シャッターボタンで初期化?
単3形のニッケル水素電池4本を装填し、底部のカードスロットに1GBのCFを挿入。そして、電源を入れて内蔵時計の「日時設定」と「カードフォーマット」をおこなう訳だが、そこで現在のカメラとの違いに遭遇する。表示されるメニュー項目の移動は、背面の2つのズームボタンでおこなうが、その選択や決定はシャッターボタンでおこなう。そう、記録メディアのフォーマットもシャッターボタンによって実行されるのだ。現在の感覚だと、これには違和感を覚えるなぁ。マルチセレクター(十字キー)やOKボタンによる実行も手順的には大差ない。だけど、シャッターボタンを押すという“撮影する行為”でカードを初期化するのは、自分以外にも気になった人が多いんじゃないかな?
電源のオンオフ……というか、撮影モードと再生モードの選択は、シャッターボタン周囲のセレクトダイヤルでおこなう。撮影モードは「A-REC」と「M-REC」の2つに大別され、その先に再生モードのポジションが設けられている。「A-REC」はフルオートのモードで、「M-REC」は露出モードの選択(P、A、S)や、測光、ホワイトバランス、階調補正、などの手動設定が可能になる。あ~、この電源オンからじんわり立ち上がる感じが何だか懐かしい(笑)。まあ、当時はこれでも「速い」と感じたハズだが。
スイバル機構を採用するカメラは、その外観が特徴的なだけでなく、カメラを保持する感覚も現在一般的なコンパクトカメラとは異なる。通常だと、右手でカメラを保持して、左手はボディの反対端や底部を支える格好になるだろう。でも、COOLPIX 950のようなスイバル機だと、左手でレンズ部を保持して、シャッターボタンを押す右手は“添える感覚”に近くなる場合がある。これは、カメラ位置やレンズアングルを優先的に決めて、後から液晶モニターが見やすい角度に調整する……という撮影スタイルを取る場合に多くなる。そういった独特な取り回しも、スイバル式コンパクトカメラの興味深いポイントになると思う。
気合いの入った仕様に
1990年代後半、撮像センサーの多画素化や低価格モデルの登場などにより、デジタルカメラの認知度や普及度は着実に高まっていた。しかし、すでに熟成された感のある銀塩カメラと比べると、ボディの素材やデザイン、また操作性やレスポンスなどの面で、まだまだ不満を感じるカメラが多かった。
そんな時世に、銀塩一眼レフの上位機種張りの金属ボディやデザインを採用するCOOLPIX 950が登場した。その気合いの入った設計や仕様に、多くのカメラファンは「このデジタルカメラなら、高級な銀塩カメラのように愛着が持てるかも」と感じたはずである。と同時に、銀塩カメラにはないデジタルカメラの可能性や伸びしろの大きさも高揚感を高める要因になった。ロールフィルムを装填する物理的な制約や、現像するまで撮影結果が確認できないといった、“銀塩カメラの呪縛”から解放されるからだ。
さて、現在のデジタルカメラ事情はどうか? スマートフォンに内蔵されるカメラの進化(高機能&高画質化、SNSとの連携など)に押され、各社ともコンパクトデジカメの整理・統合が進んでいる。大型センサーを採用し高画質をウリにする高性能・高級タイプや、小型ボディに光学30倍以上のズームレンズを搭載する高倍率タイプ(一眼レフ風スタイルの機種もあり)、そして防水性や耐衝撃性に優れるタフネスタイプ。こういったキャラクターを持たせた製品展開により、スマートフォンとの差別化を図っている。
今回のニコンCOOLPIX 950は、いま挙げたタイプの中では「高性能・高級タイプ」に属するカメラになるだろう。それゆえに、COOLPIX 950のデザインや素材感を変えずに、最新のデジタルカメラ技術を結集させれば…という妄想も広がってしまう。1型・2,000万画素のCMOSセンサー、24-240mm相当のそこそこ明るい10倍ズーム、Nikon 1譲りのスピード性能…でも外観は“ほぼCOOLPIX 950”! あ、こんな妄想、自分だけ?(笑)
まあ、そんな夢のような話は別としても、現在一般的なデジタルカメラとは違った冒険的なデザインや機能・仕様が再来してもイイと思う。このCOOLPIX 950のように、銀塩カメラの“伝統”と、デジタルカメラの“革新”を融合させた(ような)モデルが増えると、きっとコンパクトカメラの市場も活気づいて楽しくなるはず。そう、銀塩カメラに慣れ親しんだ人にとっても、デジタルカメラからデビューした人にとってもね。