【新製品レビュー】ソニーα550
ソニーのデジタル一眼レフカメラのうち、最上位モデルα900とエントリー3兄弟(α380、α330、α230)の間を埋めるニューモデル。この8月に欧米でα850、α500とともに発表されていたうちの1機種で、当初は日本での発売は未定とされていた(現時点でもα850とα500についてはアナウンスはない)。発売は10月22日の予定だったが、その後11月5日に延期されている。
大手量販店の予約価格は、ボディ単体が9万4,800円、DT 18-55mm F3.5-5.6 SAM付きズームレンズキットが9万9,800円、DT 18-200mm F3.5-6.3付き高倍率ズームレンズキットが13万9,800円となっている。
■3兄弟から操作系が変化。可動式の3型液晶を搭載
外見はエントリークラスのα380をスペックアップしたかのような感じで、目に付くのは、オーソドックスな形状のグリップを備えているところと、上面のボタンが増えているところ。3兄弟では十字キーに割り付けられていた感度(ISO)やドライブモードのボタンが独立したほか、新機能の「D-RANGE」と「MF CHECK LV」ボタンが追加されている。
それにともなって、撮影時は十字キーの単独操作によって測距点の手動選択が行なえるようになった。3兄弟はファンクションメニューに入らないと測距点の切り替えができないという不思議な仕様だったので、とてもうれしい改良だと思える。
露出補正ボタンも押しやすくなっている。上向きの面に置かれていた3兄弟と違い、ファインダーをのぞきながらでも押せる。とっても快適である。
AFは3兄弟と同じ9点測距だが、ファインダー内の測距点表示が変更されている。3兄弟は、ワイドとローカルのフレーム(ローカルフレームの中央にはドットもある)が常時表示だったが、本機は選択している(またはピントが合った)フレームが表示されるようになっている。
撮像素子は3兄弟がCCDを搭載しているのと違って、CMOSセンサー「Exmor」を搭載。有効画素数はα380と同じく1,420万画素となっている。それにともなって、ベース感度はISO100からISO200にアップ。最高感度もISO3200からISO12800へと2段アップしている。
記録メディアはメモリースティックデュオとSDHC/SDカードの2種類が使えるデュアルスロット。どちらのカードに記録するかは手動で切り替える必要があるものの、予備のカードをカメラの中に入れておける便利さ、安心感は案外に大きい。撮影中にカードの容量がなくなったときに、バッグの中からカードを出して交換して、場合によってはフォーマットしなくちゃいけないし……なんていう手間が省けるのだから大助かりである。
電源は容量1,650mAhのリチウムイオン充電池。CIPA基準の撮影可能コマ数はファインダー撮影時で950コマとなかなかの数字。ライブビューでも480コマの撮影が可能とのこと。α380のレビュー用の撮影では240コマほどで電池切れになったが、本機は300コマ以上撮ってもまだ70%以上の容量が残っていた。まあ、予備のバッテリーは用意しておいたほうが安心なのは間違いないが、内蔵ストロボやライブビューを多用するのでなければ、たいていの撮影はバッテリー1本だけで十分こなせるのではないかと思う。
ボディ内蔵の手ブレ補正の効き目は、3兄弟がシャッター速度換算で最大3.5段分だったのが、本機は最大4段分にアップ。3兄弟と比べて大きな差は体感できなかったが、顔から離して持つために不安定になりやすい手持ちのライブビュー撮影でも、ブレを抑えやすかったのは印象的だった。
液晶モニターは3型のエクストラファイン液晶。液晶パネル面と樹脂カバーの表裏合わせて3面に反射防止のARコートが施されている。解像度は92.16万ドットの高精細仕様だ。明るさはオートとマニュアルの切り替えが可能で、オート時は2段階切り替え、マニュアル時には5段階切り替えとなっている。今回はマニュアルで明るさ「0」の状態で試用したが、明るい野外での視認性に難があったα380と違って、本機はそれほど見づらく感じなかった。
可動範囲はカメラ背面に対して上下90度。スペック上はα380などよりも狭くなっているが、実用上十分な数字だと言える。ただし、残念ながら横方向には動かないため、縦位置でのローアングル/ハイアングル撮影には対応できない。
上面右手側。エントリー3兄弟に比べると、シャッターボタンの位置も変わっているし、ボタンの数も増えている | 十字キーには機能の割り付けはなし。なので、測距点の手動選択がダイレクトで行なえる |
背面の右手側上部。3兄弟に比べると露出補正ボタンが押しやすい | 背面左手側上部には「MENU」ボタンと「DISP」ボタンがある |
ファインダー内はこんな感じ。視野率は約95%、倍率は約0.8倍、アイポイントがかなり短いのでメガネ使用者にはちょっとつらい | ファインダー接眼部下の2分割の窓はアイスタートAF用センサー。肩からさげているだけでもAFが動くときがあるのはご愛敬 |
今回お借りできたのはDT 18-55mm F3.5-5.6 SAM付きのキット。SAM(スムーズAFモーター)内蔵なので、レンズ側に切り替えスイッチがある | 撮像素子は有効1,420万画素CMOSセンサー「Exmor」。もちろん、帯電防止コートとアンチダスト駆動機能も搭載している |
感度の上限は3兄弟のISO3200からISO12800に大幅アップ。高感度でのノイズも従来より大幅に低減されている。 | 手前がメモリースティックデュオ、奥側にSDHCメモリーカードのスロットがある。残念ながら、両者の切り替えは手動式だ |
容量1,650mAhのリチウムイオン充電池。ファインダー撮影で950コマ、ライブビューでも480コマ撮れるのはなかなかだと思う | 3型にサイズアップした液晶モニターは約92万ドット。上向き90度から下向き90度の範囲の可動式。残念ながら左右方向は動かせない |
おなじみのナビゲーションディスプレイ。液晶モニターの解像度が上がったおかげで、文字のエッジがすごくきれいになった |
■手持ち撮影で使える「オートHDR」
α380などにも搭載されていたクイックAFライブビュー(ファインダー像を記録してスルー画をほぼリアルタイムで液晶モニターに出力する方式。オリンパス式に言えばAモード)に加えて、新しくマニュアルフォーカスチェックライブビューを搭載。まあ、ごく普通のライブビューだったりするのだが、ソニーがやるとなぜか名前が長くなる。どうしてなんでしょうね。
与太はさておき、世間一般のライブビュー機能は、ソニーのデジタル一眼レフでは初搭載となる。ご存じのとおり、レスポンス面ですぐれるクイックAFライブビューは、ファインダー像を専用センサーで記録する関係で、視野率が約90%に下がってしまう。それに対して、マニュアルフォーカスチェックライブビュー(ユーザー辞書登録済み)は視野率100%。画面に写る範囲すべてをきちんと確認できるのがうれしい。
また、画面の任意の部分を拡大することも可能になった。マニュアルフォーカスチェックライブビュー状態で、AEL/拡大ボタンを押すと拡大部分を示すフレームが表示され、AEL/拡大ボタンを押すごとに7倍→14倍→1倍の順に切り替わる。AFではピントがきちんと合ってくれないことがある夜景などの暗い条件で、ピンボケの心配なしに撮れるのはうれしいところだ。
もうひとつの新機能が「オートHDR」。名前のとおり、自動的にハイダイナミックレンジな写真が撮れる機能だ。露出を変えて撮った数コマの画像をパソコン上で合成して作成するのが一般的だが、最近はカメラ単体でHDR合成が可能なものも登場してきた。
本機の場合は、シャッターボタンを全押しすると、露出の違う2コマを連写したものをカメラ内で合成する仕組み。連写速度が速いので手持ち撮影にも対応できるのと、処理時間が約2秒と短時間ですむのが自慢だ。これを長いと見るか、短いと見るかは人それぞれだろうが、他社のエフェクト機能で強いられる時間を考えると、筆者としては許容範囲内だ。
主に暗部を補正することで階調を整えるDレンジオプティマイザーと違って、画像に対する負荷が小さい分画質の劣化が抑えられるのがメリット。また、Dレンジオプティマイザーでは効果があまり得られないハイライト部のトーンの改善が見られるのが大きな違いだ。ただし、2コマの画像を合成する方式であるため、被写体が動いているとうまくいかないこともある。ようは、背景だけハイダイナミックレンジになるわけだ。
また、これはペンタックスK-7のも同じだが、保存形式はJPEGのみ。RAWまたはRAW+JPEGにしていると、グレーアウトして選択できなくなる。筆者はRAWでの撮影が基本なので、撮影メニューの「画質」を「ファイン」に切り替えて、それから「D RANGE」ボタンを押すという手間が必要になってしまう。どうせなら、オートHDRを選択したら、自動的にJPEGに切り替わるとか、RAW+JPEGになって、JPEGは合成、RAWはパソコン上で合成するための素材用としてそのまま保存とかしてくれると便利なのにと思った。
クイックAFライブビューの画面。右下のはカメラの揺れを5段階で教えてくれる手ブレインジケーター。バーの数が少ないほどブレにくい | こちらはマニュアルフォーカスチェックライブビュー時の画面。グリッド表示は選択可能。視野率が高い分広い範囲が見える |
赤い枠が拡大表示する範囲。どこを拡大するかは十字キーで移動可能だ。「MF CHECK LV」の文字は消せない。ソニーによると、クイックAFライブビューとの設定状態の違いをわかりやすい形で伝える必要があるとの判断から | 7倍に拡大したところ。もちろん、この状態で十字キーによって拡大する範囲を移動させることもできる |
こちらは14倍拡大状態。かなり細かい部分まではっきり見られるので、正確なピント合わせが容易にできる | こちらは従来からあるスマートテレコンバーター時の画面。倍率は1.4倍または2倍だけなので、ピント合わせ用には使えそうにない |
新機能のオートHDRの画面。露出違いで2コマの連写を行なうが、露出のずらし幅は最大3段まで。オートでカメラまかせにしてもいい | ピントと露出固定の速度優先なら最高7コマ/秒連写が可能。オートHDRが手持ちで撮れるのは、このスピードがあってのこと |
現時点ではオートHDRはJPEGにしか対応できないので、RAWやRAW+JPEGだとメニューがグレーアウトしてしまう |
■ファンクションメニューが大きく進化
さて、便利になったと感じたのはファンクションメニューの操作。ファンクションメニューの画面上で、コントロール(電子)ダイヤルを回すことで内容の変更が行なえるようになっている。
従来モデルであれば、複数の項目を変更したいときには、Fnボタン押し(ファンクションメニュー呼び出し)→十字キーで項目選択→OKボタン押し(詳細設定画面に移動)→十字キーで内容変更→OKボタン押し、という手順を2回繰り返さなくてはならなかった。本機の場合は、Fnボタン押し→十字キーで項目選択→コントロールダイヤル回しで内容変更→十字キーで次の項目を選択→コントロールダイヤル回しで内容変更という手順でいける。
文章で書くとそれほどでもないように思えるだろうが、実際にやってみると、ずいぶん作業量が減っているのがわかる。例えば、動くものを撮るときにはAFモードとドライブモード、測距点選択モードを同時に切り替えたりするわけで、そういうときに効率よく設定変更が行なえるようになったのだからありがたい。
まあ、慣れるまでにはちょっとばかり時間がかかるかもしれないが(つい、OKボタンを押して詳細設定画面に入ってしまう)、慣れてしまえば快適に操作できる。筆者個人はソニーの従来のファンクションメニューの使い勝手が好きではなかったが、本機のファンクションメニューは使いやすく感じた。
新型のファンクションメニュー画面。機能を変更したい項目は十字キーで選択。OKボタンで詳細設定画面に移行する | ファンクションメニューから「ISO感度」の詳細設定画面。ちなみに感度の設定ステップは1段刻みとなっている |
新しいのは、ファンクションメニューの画面でコントロールダイヤルを回すと、こんなふうにダイレクトに設定変更ができること。便利だ |
■コストパフォーマンスが高いイチオシモデル
α380のスペックアップバージョン的なイメージがあった本機には、正直なところ、あまり期待していなかったのだが、思っていたよりも悪くない。ライブビュー中に便利なはずのヘルプガイドが表示されると被写体が見えなくなってしまうとか、1枚撮って露出を変えてもう1枚、と露出補正ボタンを押したらサムネイル表示に切り替わったり(撮影直後の画像表示=再生状態なので、露出補正ボタンじゃなしに縮小ボタンとしてはたらいてしまう)などの首をかしげる部分もあるにはある。
が、露出補正ボタンは押しやすいし、測距点の手動選択操作もやりやすい。新機能のマニュアルフォーカスチェックライブビューやオートHDRもある。そのうえ、液晶モニターもよくなっているし、高感度域でのノイズも大幅に低減されている。
これで実売価格はα380より1万円高いだけなのだから、お買い得感は断然高い。ソニー機から選ぶとしたら、現時点では本機がイチオシなのではないかと思う(もちろん、予算と体力に余裕があるならα900のほうが間違いなくいいですけど)。
ただ、キットレンズのDT 18-55mm F3.5-5.6 SAMが、本機にはミスマッチ感があるのも事実。安価なわりにはよく写るレンズだが、使っていて楽しいレンズとは言いがたい。同社のWebサイトのサンプル画像だって、Vario-Sonnar T* DT 16-80mm F3.5-4.5 ZAだったりするし、やっぱりもうワンランク、ツーランク上のレンズと組み合わせたい。予算が苦しいなら、とりあえずDT 18-55mm付きで買っておいて、あとでVario-Sonnar T* DT 16-80mm F3.5-4.5 ZAやDT 16-105mm F3.5-5.6あたりに買い替える手もあるだろう。
ヘルプガイドをオンにしておくと、いろいろな機能の説明を表示してくれる。ありがたい反面、邪魔に感じるときもある | メニューのヘルプガイド表示。使い方に慣れてきたらオフにするのがおすすめ。わからないことがあったらまたオンにすればいい |
撮影後の画像表示が出ているうちに露出補正ボタンを押すと……こうなる。露出変えてもう1枚撮りたいんですけどね | 再生時の基本情報画面。3兄弟の液晶モニターよりも反射が少ないせいか、明るい場所でもあまり見づらくは感じなかった |
ヒストグラム画面。いろいろな情報を見られるのはいいが、もう少し画像を大きくしてもらえないものかと思ってしまう |
■作例
・オートHDRとDレンジオプティマイザー
従来からのDレンジオプティマイザーはおもに暗部のトーンを持ち上げるかたちで階調補正を行なうため、暗部のノイズが目立ちやすくなる欠点がある。一方、新機能のオートHDRは暗めの画像と明るめの画像を合成する方式なので、暗部にノイズが乗りにくいし、ハイライトの再現もよくなっている。
反面、2コマの画像を合成するために、風に揺れる木の枝や葉などが二重写しになってしまうこともある。また、Dレンジオプティマイザーは動く被写体にも対応できるうえに、ほぼ待ち時間なしで処理が完了するのに対し、オートHDRは2秒ほどの処理待ちが発生するのも泣きどころのひとつ。それぞれに一長一短があるので、条件に応じてうまく使い分けるのがいいだろう。
・感度
撮像素子がCMOSセンサー「Exmor」に変更されたことにともなって、ベース感度はISO200になった。減感機能はないため、ISO200が最低感度となる。最高感度はISO12800までに大幅アップしている。
細部の再現の劣化は、暗い部分ではISO800から目に付くようになってくるが、全体的にはISO1600でも常用できそうな画質。条件によってはISO3200でも使えなくはない感じ。3兄弟に比べれば、かなり向上しているのは間違いない。
ISO12800 α550 / DT 18-55mm F3.5-5.6 SAM / 4,592×3,056 / 1/3200秒 / F8 / WB:太陽光 / 55mm(82.5mm相当) |
・クリエイティブスタイル
画像仕上げ機能のクリエイティブスタイルは「スタンダード」、コントラストと彩度が高めの「ビビッド」、人肌の自然な発色が得られる軟調気味の「ポートレート」、「ビビッド」よりもシャープネスが強めの設定の「風景」、朝夕向けの「夕景」、「白黒」から選べる。もちろん、各クリエイティブスタイルごとにコントラスト、彩度、シャープネスの微調整が行なえる。
※共通設定:α550 / DT 18-55mm F3.5-5.6 SAM / 4,592×3,056 / 1/3秒 / F11 / ISO200 / WB:太陽光 / 24mm(36mm相当)
クリエイティブスタイル:スタンダード | クリエイティブスタイル:ビビッド | クリエイティブスタイル:ポートレート |
クリエイティブスタイル:風景 | クリエイティブスタイル:夕景 | クリエイティブスタイル:白黒 |
・自由作例
2009/10/29 12:19