新製品レビュー

キヤノン「EOS R50 V」

初級者へのフォローが手厚い、動画入門者向けのミラーレスカメラ

EOS R50 V。レンズはRF-S14-30mm F4-6.3 IS STM PZ(以下同)

キヤノンのミラーレスカメラ「EOS R50 V」をお借りできたので簡単ながら動画作例も交えて紹介したい。

EOS Rシリーズをベースに動画機能を高めた新シリーズ「EOS V」シリーズの第1弾で、動画クリエイターやVlog撮影者に向けた動画特化型のレンズ交換式カメラとなる。ボディのみの実勢価格は11万3,300円前後、「RF-S14-30mm F4-6.3 IS STM PZ」が付属するキットが同14万800円前後だ。

動画に特化してもEOSの操作系を踏襲

こうした動画向けミラーレスカメラは他社が先行しており、キヤノンは後発組といえる。もともとEOS Rシリーズはそれなりにしっかりした動画機能を搭載しており、動画クリエイターのニーズもカバーできていたと思うが、動画をメインにしたいエントリー層にはリーチしにくかったのかもしれない。

EOS R50 Vはボディの価格を10万円強に抑えながらも、スマホよりはだいぶ大きなAPS-Cセンサーや交換レンズによる表現力の高さ、また本格的なマニュアル動画撮影といった楽しみ方をエントリー層を中心に提供する内容になっている。

センサーのスペックなどが同じ姉妹機の「EOS R50」は、上部にEVFを搭載した一眼レフカメラのようなルックスになっている。対してEOS R50 VはEVFレスの四角いボディデザインで、より”動画機”という雰囲気が強い。

本機はもちろん写真も撮れるが、モードダイヤルのポジションも動画モードがメインになるなど動画機ぶりが徹底されている。EOS Rシリーズでシャッターボタンの部分にズームレバーが付くのも珍しい。ライブ配信の設定を呼び出すボタンなども新鮮なところだ。

前面にも録画ボタンを備える
ズームレバーは回す角度で2段階にスピードを変更可能
ズームスピードは個別に決められる
ライブ配信ボタンを押すと配信のメニューが出る

動画特化型とはいえ、操作系やメニュー画面はEOS Rシリーズ共通のものなので他のEOS Rシリーズを触ったことがあればそのまま使える。そのため、EOS Rユーザーが動画用サブ機的に併用するのにもハードルは無さそうだ。

背面のボタンもEOS Rになじみのもの

冷却ファンは内蔵していないが、「マグネダイキャスト」をシャーシに採用して放熱性に配慮しているとのことだ。4K30Pや4K60Pでも制限無しの撮影ができるとのこと(自動電源オフ温度:高の場合)。

グリップ側に縦位置用の三脚穴を装備
端子類は液晶モニターヒンジ側にまとめてある

4K30Pと4K60の比較

動画の最大解像度は4K。30Pの場合はフル画角撮影でき、60Pはクロップで撮影となる。以下は4K30Pと4K60Pを比較したものだ。

【EOS R50 V:4K30Pと4K60の画角を比較】

4K30Pは6Kオーバーサンプリングということで、高解像力の動画が楽しめる。木々の葉もかなり細かく描写されていた。4K60Pは一回りクロップされるが、解像度自体は同じ4Kとあって画質劣化は特に感じられない。

動画の撮影画面

イントラ記録は非対応でHEVCなどのLong GOPのみとなるが、4:2:2 10bitも記録可能なので高度なグレーディングや精度の良いグリーンバック合成にも対応できそうだ。

動画記録サイズ設定画面
動画記録形式の設定画面

高感度

動画の最高感度はISO 12800で、拡張時がISO 25600となる。ここではISO 6400で撮影した夜景の映像を掲載する。

【EOS R50 V:高感度】

APS-Cというセンサーサイズのせいもあってか、この感度でもノイズ感の少ないクリーンな絵になっていた。暗所でも不安無く使える性能があるのはありがたい。

自撮り&マイク

自撮りで話しているところを記録した。レンズの望遠側で撮影していることもあって、背景が自然な感じでボケており、人物が引き立っている。

【EOS R50 V:自撮り&マイクテスト】

撮影時がかなり風が強いタイミングだったので風切り音が入っているが、人の声自体は聞きやすい音質で記録されており、まずは内蔵マイクでも問題は無さそうだ。

一足先に発売されたVlog機「PowerShot V1」には着脱式の風防が同梱されていたが、本機に同梱がないのは少々残念。純正オプションでも用意は無いようだが、社外品には存在するのでチェックしてみてほしい。

外部マイクを接続すると4チャンネルで音声を記録可能。編集での自由度が高まる

手ブレ補正

手持ち撮影が多くなるVlogカメラでは手ブレ補正も大切になってくる。本機はレンズの光学手ブレ補正と電子手ブレ補正を併用した強力な手ブレ補正も可能となっている。

手ブレ補正の強さは「IS機能:切」「IS機能:入」「動画電子IS:入」「動画電子IS:強」の4種類で順に補正効果が強くなってくる。動画電子ISでは画角が少し狭くなる点には注意したい。

【EOS R50 V:手ブレ補正】

作例は歩くモデルに合わせる形で横歩きしながら撮影している。手ブレ補正を使わない場合は盛大に手ブレが発生している。動画電子ISを使うとかなり手ブレは抑えられる印象で、特に「動画電子IS:強」では手ブレは気にならないレベルになった。

自動水平補正モード

手持ちで水平がズレてもある程度補正してくれるのが「自動水平補正モード」だ。水平がズレやすいハイアングルやローアングルでは特に便利な機能だろう。

【EOS R50 V:自動水平補正モード】

作例ではわざとカメラをロール方向に動かして補正を確認した。テストなのでかなり大きめに動かしているが、自動水平補正モードを入にすると水平はほぼ動かなくなる。手持ちながらフィックスのように撮れるのでステージ撮影などでも活用したいモードだ。

120Pによるスローモーション

スローモーションとファストモーションをカメラ内で作成できる「S&F」モードを搭載している。ここでは最もゆっくりなスローが作れる「5倍スロー」を試してみた。

S&Fの設定画面

5倍スローはフルHDのみとなるが、120Pキャプチャを24P記録にすることで実現できる。かなりのスローなので印象的なシーンの素材にはぴったりだ。なお4Kの場合は最遅で2.5倍のスローが作れる。

【EOS R50 V:カメラ内スロー生成(S&Fモード)】

またこの作例では「シネマビュー」機能を併用している。これは映画のような横長の画面(シネマスコープ)で記録できるモードだ。上下に黒い帯が付き映画のような雰囲気になる。

シネマビューの設定画面

LUTをカメラに転送できる

カラーグレーディングを前提としたLog撮影(Canon Log 3)に対応している。Log撮影はローコントラストで記録することで、できるだけ情報を切り捨てずに編集が行えるモードだ。

Logを使うにはカスタムピクチャーを選択する。ほかには、おなじみのピクチャースタイルなどもある
Canon Log 3を選択したところ

そしてLogの素材を編集ソフトでビデオガンマに変換する際に使うのがLUTと呼ばれるカラーのプリセットだが、EOS R50 Vではカメラ内でLUTを適用して記録できる「Look File設定」にも対応している。

あらかじめ編集ソフトで作るなどしたLUTファイル(.cube形式)をSDカード経由でカメラに登録しておくと、撮影時にそのルックでプレビューしながら記録もできる。仕上がりがその場でわかるので露出などの調整もしやすい。またパソコンでのLUT適用といった手間も省ける。

次の作例は、簡易的に自作したブリーチバイパス風のLUTをLook File設定に読み込ませて適用したものだ。LUTはWebサイトで公開されているものもあるので、色々なルックを試せるのは面白い。

自作のLUTを登録したところ
【EOS R50 V:Look File(LUT)設定の例】

まとめ

さすがはAPS-Cサイズのセンサーということで高感度も含めた画質はかなり高いレベルに仕上がっている。キットレンズのRF-S14-30mm F4-6.3 IS STM PZの描写力も不満はないものだ。

PowerShot V1との違いといえば、本機はレンズ交換式ということ。APS-C対応のRF-Sレンズだけでもラインナップは5本を数える。いまのところすべてズームなので明るい単焦点レンズも望まれるが、RFレンズには使いやすい小型の単焦点レンズもラインナップされているので心配はいらないだろう。

PowerShot V10、PowerShot V1と同じく「カラーフィルター」も装備。簡単に雰囲気のあるルックにできる

機能面では動画初心者をサポートするS&Fやシネマビューといった機能が充実している一方、Log記録など表現の幅を広げる機能もしっかりある。使っていくうちにステップアップしても応えてくれる1台と言えそうだ。

モデル:進藤もも

1981年生まれ。2006年からインプレスのニュースサイト「デジカメ Watch」の編集者として、カメラ・写真業界の取材や機材レビューの執筆などを行う。2018年からフリー。