ペンタックスK-7【第1回】

MF時にも役立つワンランク上のファインダー

Reported by 中村文夫


 K-7にはセールスポイントが多すぎて、どれから取り上げてよいものやら、正直迷っている。とりあえず、第1回目は、私が最も魅力を感じた部分であるファインダーをメインテーマにレポートすることにしよう。

 ペンタックスはファインダーを大切にするメーカーとして知られている。なかでも中級機以上では、ガラスプリズムの採用を始め、高視野率&高倍率を維持など、常にワンランク上のスペックを目指してきた。だが唯一実現できなかったスペックが100%の視野率だ。ちなみにK20Dの視野率は95%。このクラスとしては決して低い数字ではないが、やはり100%には敵わない。

 数字だと分かりにくいので、実際に撮り比べてみることにした。以下の画像は、光学ファインダーで、被写体の花が画面の外枠ギリギリに入るようにフレーミングして撮影したもの。K-7はさすがに視野率100%を掲げるだけあり、ファインダーで見たままの範囲が忠実に写っている。余談になるが、視野率100%を実現するためにはファインダーの光学系と撮像素子の調整を完璧に行わないと視野と撮影画像にずれが生じてしまう。

 視野率5%の差は想像以上に大きく、K20Dの場合、ファインダーでは見えていなかった部分が大きく写り込んでいる。フィルムカメラの場合、撮影してから現像後の映像を見るまでの間に時間がかかるので、その間に記憶があいまいになり、画面の余計なものが写っていてもそれほど気にならない。これに対しデジタルカメラは撮影直後に画像が見られるので、わずかな差でも目に付いてしまう。要するにデジタルカメラは、視野率の低さが目立ちやすく、普及機といえどもそれなりの視野率が要求される。これまで視野率100%というスペックは最高級機だけにしか採用されていなかったが、最近ではパナソニックLUMIX DMC-G1のようなライブビュー専用機も登場。中級機にとっても重要なスペックになりつつある。

  • 作例のサムネイルをクリックすると、リサイズなし・補正なしの撮影画像を別ウィンドウで表示します。

左がK-7、右がK20Dで撮影した写真。両機種とも、画面に余計なものが入らないよう慎重にフレーミングしたが、K20Dで撮影した画像には、余計な枝(右上)や、背景紙の不足(画面下の黒い帯)が写り込んでしまった。視野率5%の差は想像以上に大きい
ボディから外したフォーシングスクリーン。K-7用ML-60(左)とK20D用LF-80。当然のことながらK-7用の方が大きい。

 K-7のファインダーを覗くと、従来より少し暗くなったように感じる。これはレンズのボケ味やMF時のピントの合わせやすさを優先した結果にほかならない。一眼レフの光学ファインダーに使われているフォーカシングスクリーンは透過率を上げると明るくなる性質がある。だが透過率を上げると拡散特性が低下。ピント確認がしにくくなったりボケが忠実に再現されないという弊害が発生する。つまりカメラのファインダーは、ただ明るければよいというものではなく、透過率と拡散特性のバランスがとても重要なのだ。一般的に入門機では明るさを優先する傾向が強い。これは開放F値の暗いズームレンズを組み合わせることが多いうえ、ユーザーがMFを利用する頻度が低いためだ。これに対し高級機では、大口径レンズやMF時のピント合わせのしやすさを重視。拡散特性の高さに重きを置いたファインダーが採用されることが多い。まさにK-7のファインダーは後者に該当する。100%の視野率も含めて、K-7はワンランク上のファインダーを装備しているのだ。

K-7のファインダー倍率は0.92倍。K20Dの0.95倍に比べると倍率が低いが、視野率が高いので、実際にファインダーを覗いたときの視野はK-7の方が広く見える。試しに拡大アイカップO-ME53を取り付けてみたが、アイピースにぴったり眼を押し当てないと四隅がけられてしまう。結論として、何も付けない方がよいようだ

 ファインダーの次に私が気に入っているのは、コンパクトなボディ。古くはアサヒペンタックスMEに始まり、小型軽量ボディはペンタックスのお家芸だ。デジタル一眼レフ第1号機の*ist Dでは、この点にかなり気を使っていたが、高級機のK10Dが登場した時点で、この良さが失われてしまった。K-7はペンタックスのカメラ作りの原点に立ち戻り、高機能&コンパクトを実現したのだ。またファインダーの視野率を上げるためには、ペンタプリズムをはじめとするファインダー光学系の大型化が避けられないが、ボディサイズに比してペンタプリズム部がやや大きく感じられるだけ。全体的にコンパクトにまとまっていて、よくここまで小さくできたものだと感心してしまう。またフィルムカメラ時代の名機LXを彷彿させる角張ったデザインも気に入っている。

 ひとつ残念なのは、バッテリーが変更になったこと。K10DやK20Dとの互換性が失われてしまった。容量がアップしているので、電池の持ちに関して不満はないが、K-7のために新たな予備電池をそろえなければならず痛い出費になってしまった。またオプションのバッテリーグリップは単3形電池の使用の可能で、経済的には有利になったが、これを付けるとせっかくのコンパクトさが半減してしまう。そのため今回はグリップの購入は見送った。

K-7用のバッテリーD-L190(左)とK20/10用D-L150。1,620mAhから1,860mAhへと容量がアップしたが、互換性が失われてしまった。大きさはほとんど変わらないので、何とか互換性を保って欲しかった

 K-7は3型の大型液晶モニターを搭載しているが、ボディの横幅に余裕がないので、従来モニターの左側にあった4つのボタンが、ボディのあちこちに分散してしまった。そのため、K20Dのつもりで再生ボタンを押そうとするとボタンが見つからないという事態が発生する。さらに露出補正ボタンとISOボタンがボディ上面へ移動するとともに、グリーンボタンが背面に移動するなど操作系に大胆な変更が加えられた。たとえば露出補正をする場合、これまでは右手の親指で±ボタンを押しながら人差し指で前ダイヤルを回していたが、それぞれの指の役目が入れ替わってしまった。

 さらにK20Dでは独立していたオートブラケットボタンがなくなりドライブモードの中に組み込まれた。どちらが使いやすいかは好みの問題かも知れないが、従来の操作性に慣れ親しんだユーザーにとっては、まさに青天の霹靂だ。やはりカメラの基本操作に関わる部分は容易に変更すべきではない。

 なお発売当初、AFエリアがダイレクトに変更できなかった点についてはファームウェアのバージョンアップで改善されたが、ワンタッチで測距エリアを中央に戻す機能は省かれたまま。いずれにしてもファームウェアのバージョンアップで対応できる部分については徹底的に改良して欲しい。たとえば露出補正ボタンとグリーンボタンの入れ替え、前後ダイヤルの入れ替えができれば、かなり使いやすくなるはずだ。

K-7(右)とK20D。露出補正ボタンとグリーンボタンの位置が入れ替わったので、この2台を同時に使うと混乱してしまう


中村文夫
(なかむら ふみお)1959年生まれ。学習院大学法学部卒業。カメラメーカー勤務を経て1996年にフォトグラファーとして独立。カメラ専門誌のハウツーやメカニズム記事の執筆を中心に、写真教室など、幅広い分野で活躍中。クラシックカメラに関する造詣も深く、所有するカメラは300台を超える。

2009/9/15 00:00