気になるデジカメ長期リアルタイムレポート

PENTAX K-5 IIs【第1回】

ローパスレスセンサーの実力は?

 PENTAX K-5 II/K-5 IIsは先代「K-5」の基本構造を継承したPENTAX KマウントDSLRの最上位機種だ。発表直後には、あまりの代わり映えのなさに落胆の声も聞かれ、かくいう筆者もその中の1人だった。

「DA 18-135mm F3.5-5.6 ED AL [IF] DC WR」を付けたK-5 IIs。ローパスフィルター付きのK-5 IIにはレンズキットとしてこのレンズが設定されているが、K-5 IIsはボディ単体のみでの販売になる。くれぐれもお間違いのないように。

 しかし、K-5の骨格を完全に継承したため、ほぼすべてのアクセサリーの互換性が保たれており、なにひとつ買い替えることなく、最新の撮像素子の恩恵を受けることができる。先代K-5、あるいはK-7からのユーザーにとっては大きなメリットになる。

 カメラのファームウェアもK-5ですでに完成されたものを発展継承し、新製品にありがちな実装未完成な部分もまずないものと考えられる。つまり面白みのなさは、裏を返せば、信頼性の高さにつながるわけだ。

バッテリーグリップはK-7用に設計された「D-BG4」を継続して使う。
KIRKやRRSなど、各カメラ専用設計のアルカスイスプレートも、K-7およびK-5用がそのまま使える。

 デジタルカメラの撮像素子は「フィルム」のようなもの。つまりは感光材料だ。銀塩カメラの場合、新発売の高性能フィルムを手持ちのカメラに装填すれば画質を向上させることができた。それになぞらえれば、K-5からK-5 IIsへのモデルチェンジは、熟成の進んだK-5のボディに有効1,628万画素ローパスレスCMOSセンサーという新次元の感光材料を組み合わせたものと理解すればいいだろう。

 注目の撮像素子だが、これも先代K-5から熟成を重ねて来たものをベースとし、K-01やK-30系に採用されているものとも兄弟関係にあたる。

鮮鋭性を阻害するローパスフィルターを取り払い、撮像素子本来の解像力を引き出す新しいCMOSセンサー。

 両者の違いは、K-30用は高速性を狙うため、素子からの読み出しを12bitとしているのに対し、K-5 IIとK-5 IIsはK-5と同じ14bitを確保している点。ローパスフィルター付きのK-5 IIの素子に関しては、先代K-5と同じものと考えて差し支えはない。

 K-30の撮像素子も、撮影画像の鮮鋭性を求めてローパスフィルターの効果を抑制したものだったが、K-5 IIsではその方向性をさらに押し進め、ついにローパスフィルターを取り払い完全な“ローパスレス”となった。

 ローパスレスというとモアレや偽色を気にする向きもあるかと思い、実際にそれらが発生したカットを2つお見せしよう。1つは黒猫をアップで撮影したもので、毛並みにピントが合った部分や鼻先に偽色が現れている。もう1つはモアレの例で、規則正しいリブパターンの外壁を持つ建物を撮影した写真に、軽微なモアレが発生している。

 ただ、これらはデジタルカメラ全般でモアレが発生しやすい被写体の典型であり、特にローパスレスだから生じた問題とは言い難い。2日間で1,500ショットほど撮影した中から、モアレや偽色が現れているものを捜そうとしたが、この2カット以外にはついに見つけることができなかった。おそらく、普通に使っているぶんには、これらの問題を意識する必要はまずないだろう。

  • 作例のサムネイルをクリックすると、リサイズなし・補正なしの撮影画像をダウンロード後、800×600ピクセル前後の縮小画像を表示します。その後、クリックした箇所をピクセル等倍で表示します。
  • 縦位置で撮影した写真のみ、無劣化での回転処理を施しています。
鼻先を等倍で見ると、本来黒であるべきぷちぷちが赤や緑に発色していることがわかると思う。PENTAX K-5 IIs / DA 18-135mm F3.5-5.6 ED AL [IF] DC WR / 約10.4MB / 3,264×4,928 / 1/125秒 / F11 / -1.3EV / ISO400 / 絞り優先AE / WB:太陽光 / 115mm
等倍で見るとごく薄いものだけれども、虹色の縞が外壁全面に生じているのがわかるはず。PENTAX K-5 IIs / DA 18-135mm F3.5-5.6 ED AL [IF] DC WR / 約10.3MB / 4,928×3,264 / 1/400秒 / F6.3 / +0.3EV / ISO400 / 絞り優先AE / WB:太陽光 / 24mm

 新しい撮像素子によりシャープな像を結ぶため、AFモジュールにも手が入れられた。K-5用を発展継承したこの新モジュールは「SAFOX X」(サフォックス・テン)と呼ばれる。

 改良点としては、まず、モジュール内部のリレー光学系に回折レンズを取り入れ、色収差を打ち消した。従来の光学系では光源の波長分布が偏ったキャンドルライトや舞台照明などの下で、収差に起因する測距誤差を生じていたが、回折レンズを屈折レンズと組合せて使うことにより、全ての測距点において、この問題を大幅に改善している。

 動体や飛びモノに対するAF性能を「DA★60-250mm F4 ED [IF] SDM」でテストした。AFモジュールの改良をうけ、K-30とどちらが動体撮影に強いのかという興味も自ずと沸いてくるところだが、短期間のテストながら、K-30に比べ少しAFの食いつきが落ちるかという印象はある。ただし、被写体が近距離でランダムに動く鳥なので、K-30のテストより今回の方がはるかに条件は厳しい。多少割り引いた上で作例を見て、それぞれに判断して頂ければと思う。

PENTAX K-5 IIs / DA★60-250mm F4 ED [IF] SDM / 約7.5MB / 4,928×3,264 / 1/2000秒 / F4 / 0EV / ISO160 / シャッター&絞り優先 / WB:日陰 / 250mm
PENTAX K-5 IIs / DA★60-250mm F4 ED [IF] SDM / 約8.7MB / 4,928×3,264 / 1/2000秒 / F7 / 0EV / ISO500 / シャッター&絞り優先 / WB:日陰 / 250mm

 リレーレンズ系の改良により暗所のAFレスポンスも大幅に改善し、-3EVという低照度でのAFが達成された。-3EVと言えばISO1600でF1.4・1秒が適正露出となる暗さで、ほとんど真っ暗闇に近い。装着レンズにもよるが、例えばF4のズームレンズでも、普通に経験する程度の暗さでAFが迷うことはない。この改良は11点のうち中央付近の9点が対応し、多くのユーザーが最もはっきり先代との違いを体感できるのはここだろう。

ローパスレス撮像素子のもたらす高い鮮鋭性は、走行中の新幹線のリベットや車体の刻印のみならず、車内の様子まではっきりと写し出す。PENTAX K-5 IIs / DA★60-250mm F4 ED [IF] SDM / 約10.2MB / 4,928×3,264 / 1/100秒 / F4 / 0EV / ISO640 / シャッター&絞り優先 / WB:日陰 / 250mm
日没後30分ほど経ち、足下もほとんど見えない暗さの中、さすがに少しコマ速度は落ちるが正確なピントで連写できる。PENTAX K-5 IIs / DA★60-250mm F4 ED [IF] SDM / 約9MB / 4,928×3,264 / 1/60秒 / F4 / -0.3EV / ISO4000 / シャッター&絞り優先 / WB:日陰 / 250mm

 そして、中央の測距点では、従来F5.6に留まっていた開放F値への対応がF2.8にまで向上した。これによって大口径ズームレンズや単焦点レンズの開放絞りでのAF精度が向上し、信頼性が増したとされる。この点についてもいずれ検証したい。

 さて、一般的な背面液晶モニターは日中屋外の撮影では視認性が悪化し、撮影画像の確認が難しくなる。この原因は液晶本体とカバーパネル間のエアギャップ(空間)での多重反射によって起こる。そこで、カバーパネルをアクリルから平面性のよい硬質ガラスへ変更し、液晶パネルに密着させた上で、残った隙間に透明な樹脂を充填して反射を軽減したのが、このエアギャップレス液晶だ。

新型液晶パネルは、実際に目にすると「オッ」と思うほど真っ黒に見える。それほど反射が少ない。
こちらが先代K-5に採用されていた一般的なパネル。反射が多く、明るいところではかなり見づらい。

 説明を聞いただけでは?? となるような改良だけれども、実際に屋外で撮影すると、その見やすさはすぐに納得できる。ペンタックスは発売にあたり「フィールドカメラ」というキャッチフレーズをK-5 IIとK-5 IIsに与えているが、このパネルの採用もそのコンセプトの1つの具体例だろう。

 以上が改良点としてあげることができるポイントだ。他にもベースとなったK-5から継承した美点、あるいは欠点もいずれお伝えしたいと思うが、今はまず実写をご覧にいれよう。

河川管理事務所の通信塔。フロアのメッシュパネルの再現にローパスレスらしさは現れているかと思う。PENTAX K-5 IIs / DA 18-135mm F3.5-5.6 ED AL [IF] DC WR / 約9.5MB / 3,264×4,928 / 1/1000秒 / F9 / -0.3EV / ISO400 / 絞り優先AE / WB:太陽光 / 53mm
少しカラーフリンジらしきものが見えるが、レンズの解像力はさすがに高い。PENTAX K-5 IIs / DA★60-250mm F4 ED [IF] SDM / 約9.9MB / 3,264×4,928 / 1/500秒 / F5.6 / 0EV / ISO100 / シャッター&絞り優先 / WB:日陰 / 250mm
PENTAX K-5 IIs / DA★60-250mm F4 ED [IF] SDM / 約11.3MB / 4,928×3,264 / 1/80秒 / F10 / -0.7EV / ISO320 / シャッター&絞り優先 / WB:太陽光 / 60mm
夕もやのかかる川越しの遠景でコントラストは下がっているが、ビルの企業ロゴの写りにローパスレスらしさを感じた。PENTAX K-5 IIs / DA★60-250mm F4 ED [IF] SDM / 約7.6MB / 4,928×3,264 / 1/1600秒 / F5.6 / 0EV / ISO800 / 絞り優先AE / WB:太陽光 / 108mm
シャドウになっている鴨の羽の質感再現もさることながら、JPEG撮影にも関わらず、反射する水面のトーンや風が作る極細かい波が飛んでいないことに注目したい。PENTAX K-5 IIs / DA★60-250mm F4 ED [IF] SDM / 約4.4MB / 4,928×3,264 / 1/100秒 / F5.6 / 0EV / ISO100 / シャッター&絞り優先 / WB:曇天 / 250mm
鳩を狙っている最中に百舌の声が聞こえたので、その声の方向をレンズで覗き、見つけて撮ったショット。少し前ピンで、感度ももう少し下げればよかった。PENTAX K-5 IIs / DA★60-250mm F4 ED [IF] SDM / 約9.8MB / 4,928×3,264 / 1/2000秒 / F5.6 / 0EV / ISO1250 / シャッター&絞り優先 / WB:日陰 / 250mm
歪曲/倍率色収差補正ON。収差補正をかけるとリサンプリングされるためローパスレスらしさが薄れる。その辺りの話は追って細かく。PENTAX K-5 IIs / DA 18-135mm F3.5-5.6 ED AL [IF] DC WR / 約10.8MB / 4,928×3,264 / 1/400秒 / F10 / +0.7EV / ISO320 / シャッター&絞り優先 / WB:太陽光 / 60mm
歪曲/倍率色収差補正ON。PENTAX K-5 IIs / DA 18-135mm F3.5-5.6 ED AL [IF] DC WR / 約11MB / 4,928×3,264 / 1/500秒 / F8 / +0.7EV / ISO1000 / シャッター&絞り優先 / WB:太陽光 / 40mm
歪曲/倍率色収差補正ON。PENTAX K-5 IIs / DA 18-135mm F3.5-5.6 ED AL [IF] DC WR / 約11.8MB / 4,928×3,264 / 1/80秒 / F4.5 / +0.7EV / ISO125 / シャッター&絞り優先 / WB:オート / 36mm
PENTAX K-5 IIs / DA 18-135mm F3.5-5.6 ED AL [IF] DC WR / 約10.9MB / 4,928×3,264 / 1/160秒 / F8 / 0EV / ISO400 / 絞り優先AE / WB:オート / 78mm
PENTAX K-5 IIs / DA 18-135mm F3.5-5.6 ED AL [IF] DC WR / 約11.1MB / 4,928×3,264 / 1/250秒 / F11 / -1EV / ISO400 / 絞り優先AE / WB:オート / 48mm
PENTAX K-5 IIs / DA 18-135mm F3.5-5.6 ED AL [IF] DC WR / 約9MB / 4,928×3,264 / 1/8秒 / F5.6 / -1.3EV / ISO2500 / シャッター&絞り優先 / WB:太陽光 / 18mm
さすがにISO8000はノイジーだが、トーンが崩れていないのは評価できる。歪曲/倍率色収差補正ON。PENTAX K-5 IIs / DA 18-135mm F3.5-5.6 ED AL [IF] DC WR / 約9.7MB / 3,264×4,928 / 1/30秒 / F8 / -1EV / ISO8000 / シャッター&絞り優先 / WB:太陽光 / 68mm
歪曲/倍率色収差補正ON。PENTAX K-5 IIs / DA 18-135mm F3.5-5.6 ED AL [IF] DC WR / 約8.9MB / 3,264×4,928 / 1/8秒 / F6.3 / -1EV / ISO1600 / シャッター&絞り優先 / WB:太陽光 / 24mm

 筆者は30年以上ペンタックスを使い続けており、デジタルになってからも「ist*D」以来、2ダイヤルの機種はすべて購入し、実際の仕事に使って来た。その経験をふまえて、新しい素子により向上した画質やAF性能だけではなく、ベースとなったK-5系のボディそのもののカタログスペックに現れにくい美点なども、少しづつ紹介していきます。どうぞよろしく。

大高隆

1964年東京生まれ。美大をでた後、メディアアート/サブカル系から、果ては堅い背広のおじさんまで広くカバーする職業写真屋となる。最近は、1000年存続した村の力の源を研究する「千年村」運動に随行写真家として加わり、動画などもこなす。日本生活学会、日本荒れ地学会正会員

http://dannnao.net/