キヤノンEOS Kiss X4【第3回】

シグマの超広角ズームをゲットした

Reported by 北村智史


シグマ8-16mm F4.5-5.6 DC HSMを装着したEOS Kiss X4。グリップ付けるとけっこうバランスもいい。難点は、やっぱり重さである

 今回ゲットしたのはシグマの「8-16mm F4.5-5.6 DC HSM」。今年のPMAのニュースを目にして以来、手ぐすねを引いて待ち構えていた超広角ズームレンズである。なにしろ、広角端の焦点距離が8mm。魚眼でもないのにひと桁。それだけで広角好きには笑いが止まらないスペックだ。X4に装着しての35mmフィルムカメラ換算焦点距離は12.8〜25.6mm相当。Exif情報では13-26mmになったりする。

 お値段は税込みで9万9,015円。けして安価ではない。でも、このレンズがもしキヤノン純正だったら? ひょっとするとFLD(の代わりに蛍石レンズ4枚使ったLレンズになるわけで、想像するだけで怖い。なので、10万円を切ってくれたシグマさんは、やっぱり庶民の味方なのでありますね。

 さて、化粧箱から取り出した8-16mmの外観はめいっぱいの寸胴である。マウント部近くから金属製の花形フードが固定された先端部にいたるまで、ほとんど太さは同じ。公称値(シグマ用の数字である)では75×105.7mm(最大径×全長)、重さは555gとなっている。それなりに大きいし、ずっしり感もある。

 が、手もとに残っているデータによると、同じシグマの「21-35mm F3.5-4.2 ZEN」(1990年ごろの発売)が87.5×104.5mm、重さ545g。大きさも重さも似たようなもので、画角から考えれば小型軽量といっていいぐらいである。まあ、20年も前の、しかもフォーマットだって違うレンズと比べてもしかたはないですけど。

 カブセ式のキャップ(例によって、普通のスナップ式キャップとアダプターリングを組み合わせたもの)を外すと、見事にこんもりと突き出した前玉があらわれる。いわゆる出目金仕様で、フィルターは装着できない。その代わり、カメラバッグへの収納性がすこぶるいいのが強み。純正の「EF-S 10-22mm F3.5-4.5 USM」などのレンズフードの口径の大きさをご存じの方なら、カメラバッグにすんなり収まってくれる超広角ズームレンズのありがたみはご理解いただけるだろう。

 EOS Kiss X4単体との組み合わせでは、ちょっとばかりノーズヘビー感はあるが、バランスが悪くて困るというほどではない。バッテリーグリップBG-E8付きなら安定感もあってばっちりである。ただし、バッテリー×2本入りで約1.4kgと、エントリークラスらしからぬ重さになってくれるのは難点。持ち上げるのに、つい「よいしょっ」と口に出してしまう。まあ、個人的にはかっこいい組み合わせだと思っているし、苦になるほど重いわけでもない。


もっこりな前玉がいかにもって感じである。超広角好きにはたまらないレンズだ

 ファインダー内は別世界といっていい。ニコンD700用に12-24mm F4.5-5.6 EX DG Aspherical HSMを使っているので、筆者的にはそれほど新鮮みはなかったりするが(初めて見たときの12-24mmのファインダー像はとても衝撃的だった)、超広角の画角を見慣れていない人には異次元空間に近いかもしれない。

 なにしろ、対角線画角は114.5度もある(これはセンサーサイズが小さめなシグマ用の数字で、EOS Kiss X4だともう少し広い)。水平画角は軽く100度を超えている。四角い部屋の隅で横位置でカメラを構えると、壁が4面とも画面に入ることになる。普通の人の感覚だと、どんな見え方をするかをイメージできないのではないかと思う。パースペクティブやデフォルメ効果も尋常ではないので、感覚がこんがらがってしまいかねないのだ。

 あと、MFはまず間違いなく不可能。どうしてもきちっとピントを合わせたいときはライブビュー+拡大表示でやるのがいい。焦点距離が短いだけにブレにくいので、10倍拡大状態でも手持ちで十分ピント合わせができる。そういうとき以外はおとなしくAFまかせにしてしまったほうが気が楽だ。

 で、肝心の写りはというと、筆者的にはもうエクセレントである。MTFのデータを見たかぎりでは、コントラスト、解像力ともに優秀で、広角端の画質はより画角の狭い10-20mm F3.5 EX DC HSMを上まわっている。特に四隅の落ち込みが少ないのが素晴らしい。実写でも四隅までちゃんと解像していてうれしくなってくる。フレアやゴーストもよく抑えられているし、周辺光量の低下もファインダーで見ているよりかなり小さい。

 ちょっと残念だったのが広角端の歪曲収差。10-20mm F4-5.6や12-24mmは、歪曲収差の補正をかなり頑張っているレンズなのだが、この8-16mmはタル型の歪曲がちょっと多め。とはいっても、超広角ズームとしては良好なレベルだし、ジンガサ型のような見苦しさもない。我慢できる範囲だと思う。

 どうしても気になる場合は、Photoshop CS5に頼ればいい。公開されたばかりのACR(Adobe Camera Raw)6.1には、「レンズ補正」が組み込まれていて、現像時に歪曲収差や倍率色収差、周辺光量の補正が簡単にできてしまうのだが、レンズの設計データをアドビに提供しているシグマだけあって、8-16mmのデータもすでに登録済み(まだカタログに載ってないレンズのプロファイルもあったりする。もうすぐなのかな)。仕事早すぎ、って感じである。


  • 作例のサムネイルをクリックすると、リサイズなし・補正なしの撮影画像を別ウィンドウで表示します。
広角端の8mm(35mm判換算で12mm相当)。これだけ見てるとそんなに画角の広さは感じないかもしれない
EOS Kiss X4 / 8-16mm F4.5-5.6 DC HSM / 5,184×3,456 / 1/200秒 / F4.5 / +0.7EV / ISO200 / WB:オート / 8mm
同じ場所から18mmで撮ったカット。手持ちなので多少ズレているが、画角の違いはおわかりいただけると思う
EOS Kiss X4 / EF-S 18-55mm F3.5-5.6 IS / 5,184×3,456 / 1/125秒 / F5.6 / 0EV / ISO200 / WB:オート / 18mm
画面左上に太陽を入れた状態。右下の緑色のゴーストはちょっと気になるけど、全体的にはかなり抑えられているほうだ
EOS Kiss X4 / 8-16mm F4.5-5.6 DC HSM / 5,184×3,456 / 1/200秒 / F11 / -0.3EV / ISO100 / WB:オート / 8mm
壁が4面写っているせいでへんてこな感じに見えるが、実は正方形の部屋である。画角があまりにも広いので空間感覚があやしくなってしまう
EOS Kiss X4 / 8-16mm F4.5-5.6 DC HSM / 5,184×3,456 / 1/30秒 / F8 / +0.7EV / ISO1000 / WB:オート / 8mm
8mmの画角があまりにも強烈なもので、11mm(それでも18mm相当ぐらい)だと普通の広角にしか感じなくなってしまう
EOS Kiss X4 / 8-16mm F4.5-5.6 DC HSM / 5,184×3,456 / 1/30秒 / F8 / +0.7EV / ISO1600 / WB:オート / 11mm
11mmぐらいだと歪曲収差がかなり少なくなるので建物とかを撮るには使いやすい。せっかくの8mmなのにねって思いますけど
EOS Kiss X4 / 8-16mm F4.5-5.6 DC HSM / 5,184×3,456 / 1/30秒 / F8 / 0EV / ISO160 / WB:オート / 11mm
四隅はさすがにアマい感じがしなくもないが、それ以外は不満なしのシャープさ。1,800万画素なのを考えれば素晴らしい性能だと思う
EOS Kiss X4 / 8-16mm F4.5-5.6 DC HSM / 5,184×3,456 / 1/30秒 / F8 / 0EV / ISO100 / WB:オート / 12mm
EOS Kiss X4のファインダーだとピントの山はほとんどつかめない。なので、近接撮影時はライブビューの拡大表示を使う。手持ちでも案外いける
EOS Kiss X4 / 8-16mm F4.5-5.6 DC HSM / 5,184×3,456 / 1/30秒 / F8 / 0EV / ISO160 / WB:オート / 8mm
最短撮影距離は0.24m。スペック的にはかなり寄れるが、なにぶんにも8mmである。まあ、これ以上寄ってもレンズの影が写るだけだけど
EOS Kiss X4 / 8-16mm F4.5-5.6 DC HSM / 5,184×3,456 / 1/30秒 / F8 / +0.7EV / ISO320 / WB:オート / 8mm
ちょっと暗いから感度アップしちゃおう、みたいな感じで気軽に高感度で撮れるのはEOS Kiss X4のすごいところ。室内撮影にはすごく強い
EOS Kiss X4 / 8-16mm F4.5-5.6 DC HSM / 5,184×3,456 / 1/20秒 / F8 / -0.3EV / ISO1600 / WB:オート / 10mm
純正レンズに比べると、ちょっと黄色みが強い。RAWだと現像時に調整できるけど、JPEGメインの人だと気になるかもしれない
EOS Kiss X4 / 8-16mm F4.5-5.6 DC HSM / 5,184×3,456 / 1/200秒 / F8 / -0.7EV / ISO100 / WB:オート / 8mm
Photoshop CS5のレンズ補正を使った例。「レンズ補正」ありで現像すると、歪曲収差、倍率色収差、周辺光量低下を自動で補正してくれる。まだ、対応レンズは少ないけど
※共通設定:EOS Kiss X4 / 8-16mm F4.5-5.6 DC HSM / 3,456×5,184 / 1/160秒 / F8 / -0.3EV / ISO100 / WB:オート / 8mm
「レンズ補正」なしで現像「レンズ補正」ありで現像




北村智史
北村智史(きたむら さとし)1962年、滋賀県生まれ。国立某大学中退後、上京。某カメラ量販店に勤めるもバブル崩壊でリストラ。道端で途方に暮れているところを某カメラ誌の編集長に拾われ、編集業と並行してメカ記事等の執筆に携わる。1997年からはライター専業。2011年、東京の夏の暑さに負けて涼しい地方に移住。地味に再開したブログはこちら

2010/6/14 00:00