交換レンズレビュー
AF-S DX NIKKOR 16-80mm f/2.8-4E ED VR
DXレンズ初のナノクリスタルコートの実力は
Reported by 大浦タケシ(2015/9/10 08:00)
DXニッコールとして初めてとなるナノクリスタルコートを採用した交換レンズである。“ナノクリ”のスゴさについてはいうまでもないだろう。ニコンの半導体製造装置で培った技術を応用する強力な光反射防止コーティングとして、多くのニッコールユーザーが厚い信頼を寄せる。DXレンズへの搭載は漸くという感がないでもないが、今後、他のDXレンズにも波及していくことだろう。
同じくDXニッコールとしては初採用のフッ素コート(レンズ最前面と最後面)、さらに明るい開放値も本レンズの特筆すべきところ。特にフッ素コートに関しては、レンズに汚れが付着しても軽く拭くだけで良いので、メンテナンスの手間がかからない。レンズ構成は13群17枚。うち非球面レンズ3枚、EDレンズ4枚と贅沢な仕上がりなのも本レンズの注目点だ。
デザインと操作性
レンズ鏡筒のデザインは、他のナノクリスタルコートの施されたAF-Sニッコールレンズと同じである。鏡筒先端に金色の帯を巻き、さらに同コーティングが施された交換レンズであることを示す金色のロゴが誇らしげに輝く。撮影距離目盛り用の窓も備えており、キット用とする廉価な標準ズームなどとは格の違いを見せつける。
シェイプは、いわゆる“太マッチョ”。これまでのDXフォーマット標準ズームにくらべると鏡筒が太いため、全長が短く感じられる。ちなみに外寸は80mm×85.5mm、フィルター径は72mmとしている。質量は480gとレンズの明るさを考えると軽量に仕上がり、今回の撮影で使用したD7200との組み合わせでは、ホールディングしたときの重量的なバランスも上々だ。
シャッタースピードに換算して4段分の補正効果を持つ手ブレ補正機構の搭載と、高速連続撮影でも安定した露出制御を行う電磁絞り機構の搭載も本レンズのトピック。特に後者はDXレンズとしては初めてとなるもので、D7200などでの高速連写では大いに期待できそうである。なお一部の古いニコンデジタル一眼レフでは、この電磁絞り機構により本レンズの使用ができないので注意が必要。詳しくは同社Webサイトで確認して欲しい。
付属するレンズフードの形状も注目といえるだろう。鏡筒のサイズには似合わないほど大きく、さらに正面から見た開口部の形状は四角形とし、どちらかといえば無骨な印象である。その深さから遮光効果は高そうだが、カメラバッグにこのフードを逆さに取り付けた本レンズを収納するときなど、これまでの同等クラスのレンズ以上にスペースを必要とする。レンズフードはロック機構が備わり、確実に鏡筒へ固定できる。
遠景の描写は?
ワイド端16mmの場合、絞りF4までは画面周辺部のキレが甘く感じられるものの、絞りF5.6になると解消されはじめ、絞りF8では画面全域で良好な描写となる。色のにじみについてはよく補正されているほうだ。周辺減光の発生についても絞りF4までは見受けられるものの、絞りF5.6でほぼ解消される。
一方テレ端80mmでは、絞りF4まで画面周辺部は緩い描写だが、絞りF5.6まで絞り込むと不足を感じないものに。コントラストは開放絞りから良好だ。
周辺減光については、開放から1段ほど絞るとほとんど気にならないレベルとなる。ワイド端も含め描写のピークは、多くのレンズがそうであるように本レンズも絞りF8からF11あたりと考えてよい。
- 作例のサムネイルをクリックすると、リサイズなし・補正なしの撮影画像をダウンロード後、800×600ピクセル前後の縮小画像を表示します。その後、クリックした箇所をピクセル等倍で表示します。
- 縦位置で撮影した写真のみ、無劣化での回転処理を施しています。
ボケ味は?
ボケ味は概ね素直。後ボケに関しては、気になるようなクセなど作例を見るかぎり感じられない。前ボケについても、テレ端の開放絞りでやや粗く感じられるものの、それ以外は気になるようなことはないだろう。
DXフォーマット用の標準ズームで、明るさも単焦点レンズにくらべれば暗いため、大きなボケ味は期待できないものの、それでも合焦面直後からのボケは滑らかにデフォーカスへと変化していく。ボケ味に関しては概ね不足を感じるようなことはないだろう。
逆光耐性は?
作例に限っていえば、ワイド端およびテレ端とも画面のなかに太陽がある場合、小さいながらもゴーストおよびフレアの発生が見受けられる。特にワイド端ではゴーストが発生しやすいようだ。とはいえ、この程度に抑えているのは、やはりナノクリスタルコートのお陰なのかも。他のコーティングではさらに強く発生するように思われる。
画面の外に太陽がある条件では、ワイド端およびテレ端とも極端に目立つようなフレアおよびゴーストの発生は見受けられず、よく押さえ込んでいるといってよい。
作品集
いわゆる標準域での撮影。F5.6まで絞っているが、ピントを合わせた屋根の瓦1枚1枚をシャープに再現している。画面周辺部の描写も不足を感じさせないものだ。
35mmフルサイズに換算して36mm相当の画角で撮影。コントラスト、シャープネスとも良好だ。色のにじみなどもなく、文句の付けどころのない描写といえるだろう。
テレ端80mm、開放F4での描写。35mmフルサイズ判換算で120mm相当の画角だ。ピントの合った部分の解像感は高く、開放絞りながらキリッと締まったヌケのよい描写である。
焦点距離はワイド端16mm。絞りはF8としている。露出を切り詰めることで、被写体の質感を強調したが、そのような表現にも応えてくれるレンズである。
このレンズの描写のピークである絞りF8で撮影。遠くの被写体も鮮明に描写する。D7200で撮影しているが、ローパスレス2,400万画素の解像度でも隙を見せることはない。
絞りは開放のF3.5とする。合焦面のキレは高く、ヌケも上々だ。前ボケは柔らかさにやや欠けるものの、暴れることなどなく上々の結果と述べてよいだろう。
画角は35mmフルサイズ判換算で66mm相当、開放F3.5で撮影を行っている。レンズの明るさから大きなボケは期待できないが、それでも被写体にぐっと寄るとボケを積極的に表現に活かした描写が存分に楽しめる。
エッジのキレのよさとコントラストの高さはこのレンズの持ち味だ。さらに遮光効果の高いレンズフードのお陰で、ヌケのよい描写が得られ、DXフォーマット機の常用レンズに相応しい1本である
まとめ
従来からのDXユーザーにも、これからDX機の所有を考えているユーザーにも、強くおすすめできるレンズである。特にこれまでの標準ズームの描写では満足できなかったユーザーは、その購入に迷いは必要ない。DXフォーマット用の標準ズームとしては高価な部類に入るレンズであるが、パフォーマンスを考えると十分納得できるものといえる。
DXフォーマットのハイエンド機D300Sがディスコンとなり、さらにFXフォーマット機が比較的安く手に入るようになったことで、DXフォーマット機はやや影が薄くなりつつあるが、それでもまだ根強いファンは少なくない。そのようなユーザーにとって、本レンズの登場は心強いかぎりである。