交換レンズレビュー

Sigma 35mm F1.2 DG II|Art

「II型」としての進化が随所に F1.2での撮影を堪能できる大口径レンズ

「Sigma 35mm F1.2 DG II|Art」は、世界初のミラーレス専用35mm F1.2レンズ「SIGMA 35mm F1.2 DG DN|Art」の後継モデルにあたる。この6年間で培われた設計技術の進化が随所に盛り込まれた大口径広角レンズだ。

今回はソニーEマウント用を試用した。他にLマウント用も用意されている。

サイズ感・重量

外形寸法は約Φ81.0×113.4mmで、質量は約745g(ソニーEマウント用)。前モデルから一回り以上の小型・軽量化に成功しており、この6年間の進化が、サイズダウンの要因になったといえるだろう。

実際に本レンズを装着して試写してみると、サイズ感的には35mm F1.4クラスのレンズと変わらない印象を受ける。このサイズでF1.2を実現している点に、まずは存在意義を強く感じた。

操作性

リング類は「Art」クラスの単焦点レンズらしく、カメラ側から順に「絞りリング」「フォーカスリング」が配置されている。いずれも適度なトルク感があり、操作時のレスポンスは極めて良好だ。

鏡筒左側には、AFとMFを切り換える「フォーカスモード切換えスイッチ」と、任意の機能を割り当てられる「AFLボタン」が配置されている。単焦点レンズでありながら、しっかりとAFLボタンを搭載している点は、上位ラインらしい充実した操作性を感じさせる。

その下には、「絞りリングクリックスイッチ」が備えられている。絞りリングのクリック感をON/OFFで切り替えるためのもので、静止画撮影では段階的に操作できるON、動画撮影では滑らかに回せるOFFと、撮影スタイルに応じて選択できる。

そして、鏡筒右側には「絞りリングロックスイッチ」を搭載。絞りリングを「A」ポジション(絞りオート)で固定したいとき、あるいは誤って「A」ポジションに入らないようにしたいときに便利な機能だ。

解像性能

解像性能の確認のため、あえて開放F1.2で遠方の建物を撮影した。最新設計のレンズらしく、開放から見事な解像力を発揮しており、特に中央部のシャープネスとコントラストの高さは際立っている。

α7R V/Sigma 35mm F1.2 DG II|Art/35mm/絞り優先AE(1/8,000秒、F1.2、−0.3EV)/ISO 100
中央付近を拡大

一方で、周辺部ではわずかに解像感が甘くなる傾向が見られるものの、その落ち込み方は緩やかだ。そのため、実用上の問題はほとんどないだろう。また、大口径レンズで発生しがちな色収差がほぼ認められない点が、光学設計の完成度の高さを物語っている。

もちろん、絞り込むことで周辺のわずかな像の甘さは急速に改善される。下の作例はF5.6まで絞り込んだものだが、周辺部の画質向上はもちろん、中央付近の描写もいっそう引き締まり、全体にクリアで精密な印象を受ける。シグマらしい切れ込むようなシャープネスを存分に味わえるレンズであることを実感した。

α7R V/Sigma 35mm F1.2 DG II|Art/35mm/絞り優先AE(1/250秒、F5.6、−1.3EV)/ISO 100

近接撮影性能

最短撮影距離は28cmで、そのときの最大撮影倍率は約0.19倍となる。一見するとそれほど寄れないレンズにも思えるが、35mmの単焦点レンズ、しかも開放F1.2という大口径であることを考えれば妥当なスペックといえる。人物の手元やテーブル上の小物をアップで撮影するには十分な近接性能だ。

最短撮影距離でも描写の破綻は見られず、軸上色収差の発生もほとんど確認できなかった。SLDガラスや高屈折率の異常分散ガラスを採用した最新の光学設計が、この安定した描写を支えているのだろう。

α7R V/Sigma 35mm F1.2 DG II|Art/35mm/絞り優先AE(1/200秒、F2.8、+1.3EV)/ISO 400

作例

開放F1.2ならではの大きなボケは、やはり本レンズの魅力の1つ。シャープなピント面と柔らかなボケ味の対比が美しく、立体感のある描写を楽しめる。2線ボケの発生もよく抑えられており、背景との分離も自然で滑らかだ。また、AF駆動にはシグマ独自のリニアモーターHLAを2基搭載しており、ピント合わせは非常に俊敏かつ正確である。

α7R V/Sigma 35mm F1.2 DG II|Art/35mm/絞り優先AE(1/200秒、F1.2、+1.0EV)/ISO 400

やや絞り込んで撮影すれば、画面全体の安定感はいっそう増す。絞り値を変えながら、自分の表現に最も合った描写を探していく過程もまた、本レンズの楽しみの1つと言えるだろう。幅広い絞り値を自在に操れるのは、大口径レンズならではの醍醐味といえる。前モデルよりもコンパクトになったことで取り回しが向上し、こうした撮影スタイルをより気軽に実践できるようになった。

α7R V/Sigma 35mm F1.2 DG II|Art/35mm/絞り優先AE(1/8秒、F5.6、−0.7EV)/ISO 400

日が暮れて周囲がかなり暗くなってからの撮影となったが、こうしたシーンこそ大口径レンズの真価が発揮される場面だ。画面全体の画質を整えるため、絞り値はF2を選んだが、それでもISO 400でシャッター速度1/80秒という、余裕のある設定で撮影できた。準標準とされることもある35mmの画角は、人物と街の情景を自然に同居させやすく、大口径と35mmという組み合わせが、想像以上に創作意欲を掻き立ててくれることを感じた。

α7R V/Sigma 35mm F1.2 DG II|Art/35mm/絞り優先AE(1/80秒、F2.0、+0.3EV)/ISO 400

35mmという自然な画角は、室内でも気負わず使える頼もしさがある。それに加えて、このレンズなら、薄暗い部屋の中でも自然光をうまく取り込んで、雰囲気のある1枚にできる。日常のちょっとした出来事を撮るのはもちろん、テーブルフォトやペットの何気ない仕草まで、ふとした瞬間をやさしく切りとってくれるだろう。

α7R V/Sigma 35mm F1.2 DG II|Art/35mm/絞り優先AE(1/500秒、F2.0、−0.3EV)/ISO 800

まとめ

初代「SIGMA 35mm F1.2 DG DN|Art」から6年、その間の進化が随所に感じられるレンズだ。前モデルから大幅な小型・軽量化を果たしながら、描写性能もさらに高まっている。シグマの設計思想の成熟を如実に示す1本といえるだろう。

実際に撮影してみると、操作性や取り回しの良さが際立っており、撮影意図に対する応答性の高さを実感する。ミラーレスカメラの進化に歩調を合わせながら、シグマがその技術力を確実にアップデートしていることに強く印象づけられた。

こうした完成度の高さは、ミラーレスカメラを自社開発するメーカーならではの強みでもある。純正レンズとの比較はさておき、単体として見れば、極めて完成度の高いフルサイズ対応の大口径単焦点レンズであるといってよいだろう。

モデル:透子

曽根原昇

(そねはら のぼる)信州大学大学院修了後に映像制作会社を経てフォトグラファーとして独立。2010年に関東に活動の場を移し雑誌・情報誌などの撮影を中心にカメラ誌等で執筆もしている。写真展に「イスタンブルの壁のなか」(オリンパスギャラリー)など。