交換レンズレビュー
Vario-Sonnar T* 24-70mm F2.8 ZA SSM II
コーティングの性能向上を実感 AFもストレス無し
Reported by 曽根原昇(2015/11/17 09:00)
6月に発売されたソニーのAマウントレンズVario-Sonnar T* 24-70mm F2.8 ZA SSM II(SAL2470Z2)は、2008年2月に発売された「Vario-Sonnar T* 24-70mm F2.8 ZA SSM」(SAL2470Z)の後継モデルにあたる。開放F2.8通しで焦点距離24mmから70mmという、いわゆる大口径標準ズームであり、同社の「α99」などが搭載する35mmフルサイズセンサーに対応する。
前モデルからの主なリニューアルポイントは、「大幅に向上したAF速度と精度」「T*(ティースター)コーティングの特性向上」「防塵防滴への配慮」の3点。
これらの変更点は、同じく6月26日に発売された「Vario-Sonnar T* 16-35mm F2.8 ZA SSM II」(SAL1635Z2)が、その前モデルにあたる「Vario Sonnar T* 16-35mm F2.8 ZA SSM」(SAL1635Z)に加えられた変更点とまったく同じである。
ソニーとしては、Aマウントレンズのうちでも基幹的な存在といえるこれら2本のレンズに、最新技術のコーティング性能とAF性能、そして新たに防塵防滴性を与えるというマイナーチェンジを適用することで、進化するボディ性能(今後、新型ボディが登場するかもしれないという期待も含め)とのマッチングを図っているようにみえる。
デザインと操作性
新レンズの長さは111mm、最大径は83mm、質量は974g、フィルター径は77mm。前モデルの長さは111mm、最大径は83mm、質量は955g、フィルター径は77mmなので、外形寸法は変わらず、質量だけがほんのわずかに増えている。
他社製でスペックの近い現行レンズとしては、キヤノンの「EF24-70mm F2.8L II USM」の長さが113mm、最大径88.5mm、質量805g、フィルター径82mm。ニコンの「AF-S NIKKOR 24-70mm f/2.8E ED VR」の長さが154.5mm、最大径88mm、質量1,070g、フィルター径82mm。
本レンズはキヤノンに比べると大きさはほぼ同レベルながらわずかに重く、ニコンに比べると一回り小さく軽い。ニコンはレンズ本体に光学式手ブレ補正機構(VR)を内蔵しているので単純に比較はできないが、少なくとも他社製高性能標準ズームと比べて特段に大きく重いレンズでないことは理解できるだろう。性能重視で大きく重いといわれる「ツァイス」の名を冠した高性能レンズとしては、実用面も考慮された妥当な大きさ・重さに抑えられていることがわかる。
防塵防滴に配慮した設計になったことは、前モデルになかった本レンズの特長。同社の「α99」や「α77 II」といった上位モデルのボディとの組み合わせなら、ボディ、レンズともに防塵防滴ということになり、屋外の厳しい環境下で安心感が増した。
ただ、防塵防滴のためにシーリングが施されたためか、前モデルよりズーミング時の操作はいくぶん重めに感じられる。これはVario-Sonnar T* 16-35mm F2.8 ZA SSM IIでも同じことがいえ、筆者個人としては重めの操作感を好ましく思えるのであるが、この重さを“信頼性”ととらえるか否かはユーザーの感性によるところもあるだろう。
AF性能は確かにストレスなく速く、精度の安定性が増したことを実感できる。本レンズで採用されたレンズ処理LSI(マイコン)の高速化は、今後登場する望遠系のAマウントレンズにも継続して採用されていくことが期待できるので、こうした進化は歓迎したい。
また、コントラストAFを主体としたミラーレス機のEマウント・FEマウントの同社製カメラ、さらには像面位相差AFでトランスルーセントミラー・テクノロジーに頼らずAマウントレンズに対応したα7R IIに対しても、AF性能の速度や精度といった性能が向上しているとのことで、こちらも大いに歓迎したい。
遠景の描写は?
レンズ構成は非球面レンズ2枚、EDレンズ2枚を含む13群17枚となっているが、これは前モデルと同じであり、発表されているレンズ構成図を見ても新旧モデルの間に目立った違いは見られない。基本的なレンズ構成の違いはないものの、もとより高性能な描写性能をもつレンズなので、大きな光学設計の変更は必要がなかったと捉えるのが自然だと思う。
広角端の焦点距離は24mmと、いまどきの標準ズームとして一般的な画角だ。画面中央では絞り開放から十分な解像感とコントラストがあり、絞り込むほどにさらに画質は向上、F8で最高となり、その後F16まで絞っても画質の低下はほとんど見られない。
画面周辺では、さすがに絞り開放において若干の解像感の弱さが見られるが、それも画面の四隅に限られたことであり、大口径ズームの広角端としては十分に高性能といってよいレベルの描写性能が維持されている。四隅での解像感の甘さはF5.6に絞り込むことでほぼ解消され、F8以上で画面全体の均質性が安定する。
望遠端の焦点距離は70mmと、こちらもいまどきの大口径標準ズームとして一般的な画角である。望遠端は画面の中央、周辺とも安定した高い解像感とコントラストを示し、絞り開放からF値の変化による画質の差がないという、非常に優れた光学性能を見せてくれた。
遠景描写では大変良好な実写結果が得られ、さすがAマウントレンズを代表する標準ズームであると感心するばかり。これなら、前モデルから基本的な光学設計を引き継いでいることにも納得するしかないというものだ。
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ボケ味は?
最短撮影距離はズーム全域で0.34mで一定となっており、これは同クラスの標準ズームと比べても立派な数値だ。この優れた近接撮影能力を生かせば、望遠端70mmではもちろんのこと、広角端24mmでも、絞りを開き被写体に近づいて撮影すれば非常に大きなボケを楽しむことができる。
ボケ味は広角端・望遠端ともに素直で美しく、ピントの合った被写体を邪魔するようなクセはほとんど見られない。広角端は24mmという広い画角ということもあって、被写体から数メートル離れると大きなボケを期待することはできなくなるが、望遠端は70mmの中望遠なので、ある程度絞っても相応に大きなボケを期待できる。ポートレートなどでは、絞り値に応じた適度なボケで被写体を演出することができるだろう。
逆光耐性は?
前モデルの「Vario-Sonnar T* 24-70mm F2.8 ZA SSM」では、特に広角側の逆光時に、時として大きくゴースト・フレアが発生することがあり、素晴らしい描写性能のレンズであるだけに、唯一この点が残念に思えるものだった。
今回のリニューアルではT*コーティングの特性向上が図られているとのことなので、逆光耐性がどれほど高くなったかを確認するために、太陽が画面内にある場合と、画面からぎりぎりに外した場合で試写を試みてみた。
結果、太陽が画面内にある場合において、対角上に緑色のゴーストがやや大きく発生することもあったが、これも「太陽の位置によっては」という極限られた条件でのことであり、ほとんどの場合はゴーストの発生はほとんど見られなかった。コントラストを低下させるような目立ったフレアはいずれの条件でもわずかしか発生せず、また、画面外に太陽がある場合、ゴースト・フレアとも発生は皆無であった。
新しいコーティングの効果は顕著であり、格段に逆光耐性が向上したことで、本レンズの描写性能に対する評価はさらに高くなったといえる。
作品
焦点距離30mmでススキ群落を撮影。いずれの焦点距離でも画面の隅々まで解像感の高い安定した描写を楽しむことができる。
最短撮影距離はズーム全域で0.34mと高性能標準ズームとして立派な仕様。望遠側で近づいて撮影すると、大きく美しいボケで被写体を演出することができる。ピントの合った部分は絞り開放付近でも解像感が高くキリっと浮き上がる。
使用頻度の高い焦点距離50mm付近での撮影。ツアイスらしいクリアでヌケのよい描写で、日向でまどろむ猫の表情を克明に映し出してくれた。
階調の再現性も優れており、金属や植物の質感を気持ちよく立体的に描き出してくれる。35mmフルサイズ対応の大柄なレンズではあるが、スナップ撮影などにも積極的に使いたくなる。
半逆光での撮影であるが、持ち前の高い描写性能はいっさい乱れることなく、安心して使うことができる。コーティングの特性向上は、地味な進化ながら着実に本レンズの評価を高めていることを実感できた。
まとめ
今回、フルモデルチェンジのような大幅な変更はないが、ベースとなった前モデルの描写性能がもともと高く定評があったので、今回のリニューアルは設計技術の進化に合わせた、良心的な措置であると考えることもできる。
逆光耐性の向上は前モデルの少ない弱点を克服するものであり、AF性能の向上は新しいAマウントボディとの性能差を埋めるとともに、同社製のミラーレス機での使用感をも高めてくれる。防塵防滴への配慮は使用環境を広げてくれるので、いうに及ばず歓迎できることだ。
前モデルのユーザーが慌てて買い替える必要はないと思うが、新たにソニー製の大口径標準ズームを手に入れたいと考えているなら、目下、最高の選択であることに間違いはないといえる。