交換レンズレビュー

SIGMA 28-105mm F2.8 DG DN|Art

テレ端105mmなのにズーム全域F2.8を実現した大口径標準ズームレンズ

「SIGMA 28-105mm F2.8 DG DN|Art」は、35mmフルサイズミラーレスカメラ対応の標準ズームレンズ。ソニーEマウント用とLマウント用が用意されています。

大きな特徴は、28-105mmの広いズーム域をもちながら、ズーム全域F2.8の大口径を実現しているところ。それでいて、想像するよりも軽量に仕上がっています。

1kg未満に収められた軽快性

最大径×長さはφ87.8×159.9mmで、質量が990g。ワイド端28mmスタートとはいえどもテレ端105mm、かつズーム全域F2.8ということで、標準ズームレンズとしてはそれなりの重量級ではあります。感覚的には全域F4の望遠ズームレンズと同程度のサイズ感といったところですが、スペックを考えれば、むしろここまで良く小型・軽量に仕上げたと感心します。

似たようなスペックのレンズとしては、キヤノンの「RF24-105mm F2.8 L IS USM Z」がありますが、そちらはワイド端が24mm。最大径×長さはφ88.5×199mmで、質量が約1,330g。ワイド端を4mm分控えるだけで、ずいぶん全長が抑えられたうえに軽くなっていることが分かります。

ズーム操作によって全長が長くなるのですが、問題となるようなバランスの崩れなどを感じることは、ほとんどありませんでした。

標準ズームレンズとして最高峰の操作性

リング類としてはレンズ先端から順に、「フォーカスリング」「ズームリング」「絞りリング」という並び。「絞りリング」の搭載は、近頃のシグマの高性能レンズではお馴染みの仕様となっています。好みに合わせて、さまざまな機能を割り当てることのできる「AFLボタン」を2カ所設けていることも、高性能レンズらしさの現れと言えるでしょう。

スイッチ類は、用途に合わせて鏡筒の各所に多く備えられています。なかでも分かりやすいのが「フォーカスリング」のすぐ後ろで、鏡筒左側にある「フォーカスモード切換えスイッチ」。

そして、やや分かりにくいのですが、「フォーカスモード切換えスイッチ」の下方に「ズームロックスイッチ」があります。ワイド端でズームをロックすることで、携行時に不用意なズームの垂れ下がりを防ぐことができます。

「絞りリング」の左側に寄り添うように備えられているのは「絞りリングクリックスイッチ」。動画撮影などで絞りリングのクリックを無効にしたいときに使います。

「絞りリングクリックスイッチ」の反対、鏡筒右側には「絞りリングロックスイッチ」もあります。絞りリングの「A」ポジション(絞りオート)でリングをロックしたいとき、また、絞り値を「A」ポジションに入らないようにしたいときに使います。

「LH878-07」という花型のレンズフードが付属します。ロックスイッチを備えた立派な造りのレンズフードです。

テレ端を延ばしながらも優れた解像性能

テレ端105mmながらズーム全域でF2.8を実現した本レンズ。最大の特徴ともいえる、絞り開放F2.8での解像性能を確認してみました。

まずは、ワイド端28mmで撮影したのが以下の画像になります。

28mm F2.8
ソニー α7R V/SIGMA 28-105mm F2.8 DG DN|Art/28mm/絞り優先AE(1/2,000秒、F2.8、+0.3EV)/ISO 100
中央
周辺

ワイド端の焦点距離を控えめにしたこともあってか、絞り開放から画面全体で非常に高い解像感があることが分かります。切れ込むようなシャープネスと明瞭なコントラストからは、シグマのレンズらしさが良く現れているようにも見えます。わずかに周辺光量の低下が見られますが、それほど気になるレベルでもないので、むしろ作画の味付けとして活かしてみたくなります。

次に、テレ端105mmで撮影したのが以下の画像になります。

105mm F2.8
ソニー α7R V/SIGMA 28-105mm F2.8 DG DN|Art/105mm/絞り優先AE(1/5,000秒、F2.8、±0.0EV)/ISO 400
中央
周辺

画面全体でシグマらしい鮮鋭な解像が得られているのはワイド端と同様。ごく四隅で少しだけ解像感が甘くなりますが、ワイド端で見られた周辺光量の低下はほぼ見られません。テレ端を105mmとしながらF2.8通しを実現した意欲的な本レンズですが、描写性能は開放絞り値から安心して使える高画質を達成しています。

最大撮影倍率約0.32倍のテレマクロ

最短撮影距離はズーム全域で40cm、これも本レンズの特長のひとつになっています。

ただ、ズーム全域で最短撮影距離が40cmと言うことは、ワイド端28mmでは下の画像の通り、正直言ってそれほど寄って撮るのは得意でありません。まあ、寄れないなら寄れないなりに構図を工夫するのが広角を使う上での楽しさでありますが。

ソニー α7R V/SIGMA 28-105mm F2.8 DG DN|Art/28mm/絞り優先AE(1/640秒、F2.8、+1.0EV)/ISO 400

ところが、これがテレ端105mmになると、ズーム全域で最短撮影距離が40cmであることが、逆に大きなメリットとなります。

ソニー α7R V/SIGMA 28-105mm F2.8 DG DN|Art/105mm/絞り優先AE(1/800秒、F2.8、+1.0EV)/ISO 400

テレ端105mmでの最短撮影倍率は約0.32倍で、実際に撮影してみると、被写体を大きく写しながら背景を大きくぼかせる、テレマクロ的な効果があると実感できます。中望遠マクロレンズと同等の焦点距離105mmであることが、ここにきて大きな意味を打ち出しているように思えました。

作例

やはり、テレ端105mmでF2.8の明るさというところが、本レンズの大きな醍醐味であろうと思います。標準ズームで一般的な70mmとは明らかに異なる本格的な圧縮効果で、モデルを端正に撮ることができました。焦点距離105mmで大口径となると、被写界深度の浅さによる大きなボケの効果も格別なもので、印象的な写真を撮ることができます。

ソニー α7R V/SIGMA 28-105mm F2.8 DG DN|Art/105mm/絞り優先AE(1/400秒、F2.8、+0.3EV)/ISO 400

焦点距離85mm付近での撮影です。季節を外れたガクアジサイの花が印象的に写るようにと、画角と露出の決定に注意を払いました。ちょっとアンダーめで撮ると、シグマらしい鋭利なシャープ感とコントラストの高さが際立つように感じてなりません。ポートレートだけでなく、日常の気づきを印象的に写すのにも特異に効果を見せてくれるズームレンズだなと感じました。

ソニー α7R V/SIGMA 28-105mm F2.8 DG DN|Art/84.6mm/絞り優先AE(1/100秒、F4.0、−1.0EV)/ISO 160

焦点距離50mm付近での撮影です。標準画角とされる焦点距離50mmは見たままの自然な印象を表現するのに最適だといわれます。ポートレートでもリアル感を出すためによく使われる画角ですが、本レンズの標準画角域の描写は、実にリアルに生々しさを演出するのに最適だと感じました。ワイド端やテレ端だけでなく、中間域でも優れた描写性能を見せてくれる標準ズームレンズだと深く感じたものです。

ソニー α7R V/SIGMA 28-105mm F2.8 DG DN|Art/48.9mm/絞り優先AE(1/250秒、F2.8、+1.0EV)/ISO 400

スナップ撮影では多用されるところの焦点距離35mm付近での撮影。ネコジャラシ(エノコログサ)の群生を撮ったものですが、何気ない日常を何気なく綺麗に撮りたいと思うなら、きっと本レンズの描写性能は万全なものだと思います。ピント面はシャープで際立ち、大口径レンズならではの大きなボケ味はそれらを際立たせてくれます。

ソニー α7R V/SIGMA 28-105mm F2.8 DG DN|Art/34.7mm/絞り優先AE(1/60秒、F2.8、+0.7EV)/ISO 100

フォーカス駆動系には高速で高精度、かつ優れた静粛性のリニアモーターが採用されているため、動画撮影にも打って付け。もちろん静止画撮影においても、ストレスのない正確なピント合わせを実感できることと思います。本レンズに対するシグマの本気度を感じ取れるというものでしょう。

ソニー α7R V/SIGMA 28-105mm F2.8 DG DN|Art/41.6mm/絞り優先AE(1/50秒、F2.8、±0.0EV)/ISO 125

まとめ

テレ端を105mmとした標準ズームレンズはズーム全域F4であるのが一般的ですが、そこを1段分明るいF2.8通しの大口径にしたのが本レンズです。ワイド端は28mmからのスタートになりますが、そのおかげもあって質量は1kg未満に収まっているのですから、普段からの使いやすさがあるというものです。

描写性能も優秀で、試写してみた限りでは、同社の「24-70mm F2.8」クラスに引けを取ることのない高性能だと感じました。シグマらしい鮮烈な画質が維持されているうえに、105mmのテレ端で大きなボケ味を楽しむことができます。

豪華といえるほどの豊富なボタンやスイッチ類は、あらゆる撮影条件に対応するためのものでしょう。充実の機能と高いビルドクオリティで、日常使いはもちろん、厳しい条件におけるプロユースでも高い満足感が得られる本格的なレンズです。

曽根原昇

(そねはら のぼる)信州大学大学院修了後に映像制作会社を経てフォトグラファーとして独立。2010年に関東に活動の場を移し雑誌・情報誌などの撮影を中心にカメラ誌等で執筆もしている。写真展に「イスタンブルの壁のなか」(オリンパスギャラリー)など。