交換レンズ実写ギャラリー
smc PENTAX-DA 50mm F1.8
Reported by 大高隆(2013/7/8 00:00)
「smc PENTAX-DA 50mm F1.8」は2012年の夏に発売されたKマウントの純正レンズだ。焦点距離50mmは35mm判換算でおよそ76.5mmの中望遠レンズにあたる。とりたてて目立つところのないスペックだが、多くの「50mm F1.8」が35mmフルサイズ用標準レンズとして設計されたものであるのに対し、このレンズはあくまでもAPS-C用大口径中望遠レンズとして設計されている。そこがまず注目すべき点だ。
光学系は5群6枚の変形ダブルガウスで、特に非球面レンズなどは使っていない。ボケ味に大きく影響する非点収差の状況を重視した設計とアナウンスされており、7枚羽根の円形絞りの採用などとあわせ、手頃な大口径単焦点レンズとして魅力的な1本と言える。
フィルター径は52mmとやや大きいが、おそらくレンズシリーズ内での統一を意図した設定だろう。キットズームとして定番の「DA 18-55mm」も同じく52mm径で、エフェクトフィルターなどを共用できる。前玉には汚れを軽減するSPコーティングを採用する。
撮影距離目盛をはじめとする指標が省略されたシンプルなデザインの鏡筒は、お家芸のカラーモデル用標準レンズである「smc PENTAX-DA 35mm F2.4 AL」に準じ、塗装効果の高いプラスチック素材を外装に採用する。ただし、未だこの50mm F1.8にカラーモデルが設定されたことはなく、同仕様の広角レンズもないので、シリーズとして未完成の感は否めない。レンズマウントまでプラスチック製なのは残念だが、重量は122gと素晴らしく軽い。光学系はもちろんガラスレンズだ。
このレンズのフォーカシングは全体繰出し式だが、外から見える鏡筒が鞘のような構造をとり、それに収められた内鏡筒が前後に移動するという一風変わった機構になっている。英文のプレスリリースによれば、この二重構造は内鏡筒の光学系を保護する意図もあるようだ。移動は外鏡筒内で完結するので、最短撮影距離まで繰出しても外形寸法に変化はない。
AFはボディ内モーター方式で、駆動音は高めだが耳障りというほどではない。クイックシフトフォーカス機構は省略されており、AFとMFの移行にはボディ側のAFスイッチを切り換えなければならない。
一般にAFレンズはフォーカスリングのわずかな回転でピントが大きく移動するものが多い。例えばDA 18-55mmの場合、無限遠からマクロ域を含めた最短距離までの回転角は約90度だ。しかしこのDA 50mm F1.8は例外的に、無限遠から最短撮影距離までの回転角が約180度と、MF専用レンズに匹敵するスローな設定になっており、微妙なピントの調節がやりやすい。フォーカスリングの幅も充分に広くとられ、そのタッチも存外にしっとりしたもので、AFよりもむしろMFで撮影するほうが好ましく感じられた。
実写の結果を見ると、非点収差に起因するグルグルボケや、口径食による周辺光量の低下とボケ玉の欠けなど、大口径レンズの開放描写を汚しがちな欠陥はよく補正されており、ボケの性格は素直なものだ。多めに残された球面収差により、開放絞りではフワリとした柔らかいにじみの中に精細な芯のある描写を示す。F2.8まで絞ればコントラストが上がり、甘さは消え、F5.6からF8辺りが最高のシャープネスを発揮する。遠景の性能に際立ったところはないが、近接撮影時のシャープさは素晴らしく、マクロレンズのような高倍率は望めないものの、最短距離付近まで寄って軽く絞った時の切れ込みのよさと立体感のあるボケが印象に残った。
「DA Limited」シリーズの対極にあるようなこのレンズは、高級感などとは無縁だが光学性能は高い。オーソドックスな光学設計から生まれる描写はよく言えばクラシック。語弊を怖れずにいうならオールドレンズに近い性格をもっている。その上でDAレンズとして、AFターゲットの移動やマルチモードAE/分割測光など、最新のKシリーズデジタル一眼レフのすべての機能に対応しており、「味のあるレンズを使いたいけど便利さは手放したくない」という、ちょっとわがままな思いをも、かなえてくれる1本だ。
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- 縦位置で撮影した写真のみ、無劣化での回転処理を施しています。